上海の熱気と喧騒が遠のく、高層ホテルのバルコニー。
上海の象徴である東方明珠電視塔が、宝石を散りばめたような夜景の中でひときわ眩い光を放っている。
悠理の体調がようやく万全に戻り、二人は上海の美食を心ゆくまで堪能したばかりだった。舌の上でとろけるような小籠包の肉汁、香り高い上海蟹の濃厚な旨味――。
美食を尽くした余韻が、今も二人の間に穏やかな幸福感として漂っている。
清四郎は夜風にさらされた悠理の肩を抱き寄せた。
突然の発熱というハプニングは、今日の盛大な食べ歩きで帳消しとなったはずだ。
「身体、辛くないですか?」
清四郎がそう言って悠理の瞳を覗き込むと、彼女は少しだけ照れくさそうに笑った。
その表情はあまりにも可憐。
数々の料理にがっついていた彼女からは想像もできず、清四郎は抑えきれない愛おしさを募らせる。
彼はゆっくりと手を伸ばし、悠理の頬に触れる。
その肌の熱さは、発熱によるものではなく、確かな熱情によるものだった。
やがて……二人の距離がゼロになる。

夜景を背に重なり合う唇。
美食の甘美な余韻さえも、二人のキスにかき消されていく。
そしてそのキスの深さは、二人の間に芽生えた絆の深さを物語っていた。
糸を引き……名残惜しげに唇が離れたあと、清四郎は悠理の額に自身の額を預け、沁み入るような声で呟いた。
「……これが、幸せというものですか。」
その言葉には、長年叶わぬ恋に身を焦がしてきた男の、心からの思いが滲み出している。
悠理を手に入れたこと……そしてこれから先、彼女の隣に堂々と立てる現実が、清四郎の胸を温かく包みこんだ。
悠理は清四郎の胸に顔を埋め、その温もりを確かめるよう強く抱き返す。
言葉は要らなかった。
二人が呼吸を合わせるたびに、上海の煌めく夜景が祝福の光となって、彼らを優しく包み込んでいた。
「あたいも……幸せだよ。おまえが側にいてくれて……」
彼女の素朴な答えに、清四郎はふっと安堵の笑みを浮かべる。
ほんのりと冷たい夜風が二人をすり抜けるも、彼らは寒さなど感じない。
夜はまだ始まったばかり。
互いの熱に浮かされるばかり。