窓の外に広がる上海のスカイラインが、薄紅色から金色へと染まり始めた。電視塔の尖塔が朝の光を反射し、黄浦江の水面が微かに輝いている。
ホテルの柔らかい羽毛布団の中で、悠理は熱を帯びた頬を清四郎の胸に埋めていた。
昨夜の出来事が、熱に浮かされた頭の中を走馬灯のように巡る。初めての経験は、想像以上に激しく、甘美で、そして消耗するものだった。
彼の大きな腕に包まれ、安らぎを感じながらも、体中の節々が重く痛む。
清四郎は、そんな悠理の様子を察してか、何度も彼女の乱れた髪を優しく撫でていた。
指先が冷たくて気持ちいい。

「熱があるな……。」
低い声が、胸板を通して直接響く。
悠理は微かに頷いた。
昨夜の喘ぎのせいか、声が思うように出ない。
「だるい……」
やっとのことで紡いだ言葉は、掠れて消え入りそうだった。清四郎は、少し眉を寄せたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。
「すみませんね。おまえのことを気遣えず……がむしゃらになってしまって……」
昨夜は彼にとっても特別な夜だった。
永遠の片思いを覚悟してきた清四郎にとって、悠理を手に入れることは人生の大いなる目標。
それを成し遂げることが出来たが故の興奮と歯止めが効かない行為だったと、彼は振り返る。
「次は……もう少し優しくしますよ。」
なんの根拠もない台詞だが、そう告げることで悠理の心を癒せたら……。
清四郎はベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、冷えた水の入ったグラスと、ジャケットの内ポケットから解熱剤を手に取った。
体を起こし、悠理を上半身だけ抱き起こす。
「ほら、飲んで。」
優しく肩を抱いたまま、悠理の手にグラスを渡す。喉を冷たい水が通ると、悠理は少し楽になった気がした。
「今日はゆっくり休めばいい……。腹が減ったらルームサービスでも頼みましょうか。」
清四郎の提案に、悠理は嬉しそうに大きく頷いた。熱はあるが、食欲は減らない。
彼女の原動力のすべてはここにある。
「別に……外で食べ歩きも出来るけど?」
強がる悠理に、清四郎は溜息をついた。だが、その瞳には深い愛情が宿っている。
「本当に?歩けますか?自分で言うのも何だが……かなり無理させてしまったと思いますよ?」
彼はそう言うと、悠理を再び布団に寝かせ、自分もその隣に横たわった。
そして、ようやく手に入れた恋人を、腕の中に閉じ込めるよう抱きしめる。
「あついじょ……」
そう不満を言いながらも、悠理は彼の温もりに甘え、更に密着する。
「でも……側にいてくれるなら……いっか?」
熱に浮かされた頭で、ついつい素直な言葉が口をついて出たのだろう。
清四郎は、少し驚いたような表情を見せたが、直ぐに悠理の熱い額にキスを落とすと、
「………ずっと居ますよ。嫌というほど、ね。」
と告げた。
朝日が差し込む部屋の中で、二人は静かに抱き合い、互いの体温だけを感じている。
熱が冷めるまで、この幸せな時間が続けばいいと心の中で願いながら、ゆっくりまどろみの海へと飛び込んでいった。
上海の街は今日も朝から活気に満ち溢れている。
しかしここだけは、二人だけの甘く穏やかな時間が流れていた。