もうこれ以上、この気持ちを胸にしまっておくことはできない。
悠理は悟っていた。
中庭の噴水前。
夕暮れの陽光を浴びて、悠理は清四郎の前に立っていた。その頬は夕焼けの赤よりも深く、燃えるように染まっている。
彼女はいつもの気の強さを振り絞るようにして、清四郎の学ランの襟に震える指先をかけた。
「清四郎……」
彼女の声は、自分でも驚くほど小さく、掠れていた。
清四郎は平常運転の冷静さで、しかし少し驚いたような眼差しで、彼女を見つめ返している。
その無言ながら、うるさいほどの視線が、悠理の心臓をさらに激しく鼓動させていくのだが……。
中庭の石畳には、色づいた紅葉が散り敷かれ、風が吹くたびに舞い上がっている。
その紅葉が、まるで二人の関係を物語っているかのようだ。
悠理は、清四郎の瞳に映る自分の姿を見つめながら意を決した。
「あたい……清四郎のことが……」
そこまで言ったとき、彼女の手元にあった一枚の紅葉が、清四郎の制服の袖口にひらりと落ちた。
まるで、彼女の想いを受け止めたかのように。
「すっ……好きだ。………清四郎が好きなんだっ!!!」
一枚の葉に後押しされた悠理は、一気に言葉を吐き出した。
そしてその言葉は、噴水の水音にかき消されることなく、静寂の中に響き渡った。
(中庭の陰からは、皆がハラハラしながら、その様子を見守っている)

悠理は、清四郎の反応を恐れて、顔を上げることができない。彼女の心臓は、まるで壊れてしまったかのように、激しく鳴り響いていた。
清四郎はその奇跡の瞬間、表情を崩さなかった。
悠理の細い指が彼の学ランの襟元に触れている。わずかな動揺が襟元を通じて、悠理の指先に伝わる。
彼は悠理の頭頂部をまっすぐに見つめ、噴水の水音が心地よいリズムを刻む間、沈黙を守った。
真っ赤な顔をした涙目の彼女は、ひたすらその沈黙の重さに耐えている。
周囲の視線を背中に感じながらも、清四郎の世界には今、悠理しか存在していないかのように、ようやくゆっくりと口を開いた。
「悠理……」
そう彼女を呼ぶ声は低く、そして温かかった。彼は、悠理の手を払いのけることはせず、逆に、彼女の手をそっと自分の手で包み込んだ。
袖には、先ほど舞い落ちた紅葉が、鮮やかなアクセントとして留まっている。
「ずっと、その言葉を待っていたと言ったら……信じますか?」
清四郎は、いつもの凛々しい表情を少しだけ緩め、柔らかな笑みを浮かべた。
恐る恐る顔を上げた悠理がその表情を見た瞬間、張り詰めていた緊張はふっと溶け出し、込み上げる熱い感情が、再び頬を赤く染め上げる。
清四郎は一歩、悠理との距離を詰めた。
周囲の観客たちが息を呑むのが聞こえた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。
「僕も………おまえ以上に思い続けていた。」
清四郎の手の温もりが、悠理に真っ直ぐに伝わってくる。
優しく確かな想い。
緊張感に満ちた中庭の空気は、二人の間に芽生えた愛の光に塗り替えられていく。
風が吹き抜け、木々がさざめく。
悠理は、これまでの長い葛藤が、嘘のように晴れ渡るのを感じながら、清四郎の瞳に映る自分を見つめ返した。
「じ、じゃあ……両想いってことか?」
「ええ……きっとね。」
自然と湧き上がる歓声と拍手。
二人の新しい季節は、今ここから静かに、そして力強く始まろうとしていた。