目の前の向日葵に

夜の熱気と、祭りの喧騒が少しだけ遠くに感じる木陰。提灯の穏やかな光が、二人のシルエットをぼんやりと浮かび上がらせている。

恋人同士の時間。

そこが何処であれ関係なく流れるもの。

​清四郎は、悠理の浴衣姿から目が離せない。

向日葵柄が、持ち前の明るさと上気した頬にぴったりだったから。

友人時代には感じることの無かった情動が、たちまち込み上げてくる。

あまりにも可愛くて、強引に木陰へ連れ込んだはいいが……欲望が暴走しそうでいよいよ困った状況である。

「悠理………こちらへ……」

​清四郎の低い声に、悠理の心臓が跳ね上がった。見たことのない視線を投げかけられ、その上肩をそっと引き寄せられたのだ。

恋愛知能の(も)低い彼女にとって、なかなかの刺激的経験である。

熱を帯びた瞳で自分を見つめてくるその事実に、内心ドキドキ。

盛大に照れながらも逃げるという選択肢は生まれない。見たことのない優しさを与えてくる清四郎に、ただひたすらついて行くだけ。

彼の手が背中に優しく添えられ、互いの距離がゼロになった時、​悠理は震えるまつ毛を伏せ、清四郎が近づいてくるのを受け容れた。

その瞬間───

音は消え、

光を感じず、

風すらその存在を消す。

ただ唇の温度だけが、悠理の粘膜から全身へと伝わり、じんわり優しい興奮に包まれる。

二人だけの優しい静寂。

​清四郎が名残り惜しく唇を離すと、悠理の細い指が彼の襟元を摘み、潤んだ瞳で男を見上げた。

小さく息を呑む。

とてもじゃないが、この可愛さには抗えない。

再び重なり合う唇は、とことん甘く、不器用なほどの愛おしさが詰まっていた。

悠理が控えめにその大きな背中へ手を回すと、清四郎は深く強く、彼女を抱きしめる。

言葉は必要なかった。

少なくとも今は────

こうして浴衣越しに伝わる互いの興奮は、夏の夜に相応しく、湿度を帯び、高まっていく。

遠くで花火の音が鳴る。

しかしとうとうその大輪の花を見ることはなかった。