ローマの月夜に

 

​世界をぐるりと巡る新婚旅行。

最終目的地はイタリア・ローマであった。

昼間はトレヴィの泉でコインを投げ、スペイン広場でジェラートを食べ、観光客溢れる賑やかな地を楽しんだ二人。

しかし、清四郎と悠理にとっての真のハイライトは、夜の帳が降りたコロッセオのバルコニーで待っていた。

​満月の光が、古代ローマ帝国の象徴である巨大な石造りを銀色に照らし出している。

その壮麗な景色を背に、二人はバルコニーの欄干にもたれかかり、昼間の熱気とは懸け離れた静かな時間を過ごしていた。

​清四郎はイギリスで仕立てたスーツにペイズリー柄のネクタイを締め、悠理は鮮やかなピンクのトレンチコート、黒きニットのワンピース、長い脚をピンク色のブーツで包んでいる。

大きなリボンが着いた帽子は、母、百合子からのプレゼント。

​「新婚旅行もいよいよ終盤ですな。」

​「あと2周くらいしたいじょ。だって……楽しすぎるんだもん。」

​悠理がそう言って微笑むと、清四郎は彼女の腰を優しく抱き寄せた。

悠理もそれに応えるように、清四郎の首に腕を回す。

およそ半年をかけた新婚旅行。

紆余曲折の後、二人は結婚を決め、長い旅へ出かけた。

道中ハプニングは多々あれど、息の合った二人のファインプレーにより尽く解決し、たまに合流した仲間四人と盛り上がる日もあった。

───有閑倶楽部は不滅だ!

と笑いながら過ごした夜。

それでも二人きりになると、夫婦の甘ったるい空気が流れるわけで……

二人は額と額が触れ合うほど近づき、視線を絡めた。

​「悠理、僕も楽しかったですよ。これからも手を取り合って、いろんな苦難を乗り越えましょう。……おまえとなら何でも出来る気がする。不思議と昔から、ね。」

片目を瞑った夫へ同意するように目を閉じる悠理。彼女にとって清四郎という存在は、とっくの昔から大きすぎるものだった。

​「あたいも……おまえとならずっと走っていける気がする……。おまえじゃないと駄目だ。」

「悠理……」

二人は夜風に身を任せ、唇を重ねる。

歴史ある風景の中で、永遠の愛を誓い合うかのように。

橋に置かれたランタンの灯りが、二人の熱い抱擁を優しく見守り、​月光を浴びたコロッセオは静かに、そして雄大に輝き続けていた。

グゥゥゥ……

「…………腹減った。カルボナーラ食いたい。」

「やれやれ……ムードもへったくれもありませんな。」

「へへ…!あたいたちらしいじゃん。」

二人はタクシーを呼び留め、街の中へ消えていく。

仲睦まじい二人の未来に、幸多からんことを祈って……満月はその色を濃くしていった。