「そろそろだよな?」
「そうですね……あと10日ほどで入院させる予定です。」
「あの子にしてはよく頑張ったわよ。悪阻が軽かったにしろ……色々制限加えられて、ぼやいてたものね。」
「塩分過多なものばかり好むので、大変でしたよ……」
「ま、その点、おまえさんが付きっきりで面倒見てやってたから、乗り越えられたんだよな。」
「そりゃ、僕の子ですから。」

「あんたたちが親になるなんて、何の冗談かしら!まだ25なのに……」
「子は授かりものですからね……。こればかりは……。」
「ふぅん……でもあたし知ってんのよ。」
「………何をです?」
「あんた………結婚前から避妊なんてろくにしてなかったでしょ?ひどい男!よっぽど悠理が欲しかったのね。」
「…………え?まじかよ?」
「してましたよ……学生の頃は……。」
「ふん、どうだか。ま、結局卒業して直ぐに結婚したから、順番通りなんだけどさ。」
「清四郎さんよ……片思い歴が長いと、色々大変だよな。」
「……余計なお世話です。」
「そんなことより、あの子、寂しがってるんじゃない?帰ってあげたら?」
「いいんですよ。僕が居ないとき、きっと好き勝手食べて、鬱憤を晴らしているでしょうから。」
「へぇ……優しい旦那じゃねぇか。」
「たまには、ね。」
「そーいえば、子どもの名前は決めたの?」
「未だですよ。いまだにお義母さんとお義父さんの譲れない戦いが繰り広げられてるんです。」
「あ〜、おじさんたち、命賭けてるからなぁ……。」
「麦子や、クリスティーヌを提示されたら、断固として参戦します。」
「あのねぇ、名前くらいあんたたちがつけなさいよ。」
「あの二人に逆らえる人間はこの世にいません。」
「「たしかに……」」
「まあ、何はともあれ、乾杯しようか。」
「ふふ……あの子が入院したら、淋しくなるんじゃないの?」
「もちろん、僕も泊まり込みですが?」
「「過保護過ぎ!!!」」
その頃の剣菱邸───
「あいつ、おっそいなぁ……。父親の自覚あんのかぁ?」
普段は許されないポテトチップスをはじめ、雑多なスナック菓子を手にぼやく悠理。
口うるさい夫を待ち焦がれている自分に驚きを感じるも、食べる手は止まらない。
「むかつくから先に寝ちゃおっかな〜。」
魅録と可憐に誘われて……と知っていても、胸の中はもやもや。新妻にベタ惚れな夫が、このように遅くまで家を空けることは滅多にないからして……。
「ま、いっか。子供産んだら好きなもん買ってくれる約束だし!ニシシ……」
それは確かに清四郎が宣言した言葉。望めば何でも手に入るはずの悠理は、敢えて夫からのプレゼントを強請った。
スマートフォンの履歴には、子どもの玩具から奇天烈な帽子まで。ワクワクしながら蓄積してゆく。
「でもやっぱ……アフリカ旅行だよなぁ……」
映像で流れる大自然を目に、悠理は脳内で象に跨る自分を思い浮かべた。
それはきっと近い現実。
中から腹をポコポコ叩く我が子に「大丈夫だって……お前も連れてってやるから。」と優しく微笑みかける悠理だった。
