穏やかな陽射しが差し込む、ある日曜日の午後。剣菱邸には心地よい空気が流れていた。
清四郎は寝室のソファで、最近気になっていた小説を読み耽っていふ。
その隣で悠理もまた、人気の音楽雑誌をめくっていたが、いつの間にかページから目を離し、夫の横顔を眺めていた。
黒髪の間に時折見える彼の優しい目元。
真剣に本を読む姿に、悠理はふと、結婚を決めた日のことを思い出した。
「清四郎。」
悠理が声をかけると、直ぐに清四郎は顔を上げ、本を閉じた。
「ん?どうした?」
「………なんでもない。ただ、もう三年も経ったんだなって。」
清四郎はふっと笑い、
「そうですね。今、おまえとこうしているだなんて、ほんと驚きですよ。」
……と答えた。
「不思議?」
「ええ。あんなに頑固だったお前が、僕のものになってくれたんですから……。」
悠理は頬を赤らめながら、「今更言うなよ……」と可愛く抗議する。
「あの頃……おまえは身体だけ素直で、いつも僕を求めてたくせに……いざ結婚となればイヤだの一点張りで、ほんと困りましたよ。」
清四郎は大きな手で、当時と変わらぬ柔らかな髪を優しく撫でた。
「だって!!……もし、結婚したら、おまえが剣菱のモノになっちゃって、一緒に遊べなくなるって思ったから……」
記憶を手繰りよせながら悠理は呟く。
剣菱の後継者となれば、当然鬼のような忙しさに埋没し、彼は彼でなくなるだろうと思ったのだ。
悠理にとって、有閑倶楽部のリーダーを失うわけには行かない。
刺激ある日常のために……。
清四郎はそっと悠理の顎を持ち上げ、顔を近付ける。

瞬間、悠理の心臓が早鐘のように打ち始めた。いつになっても、どれだけ経っても、彼に見つめられるとドキドキしてしまう。
清四郎はそんな初々しい妻とゆっくり唇を重ねた。
優しく、温かいキス。
愛しさが溢れ出るキス。
「悠理………」
キスを終えた後、清四郎は悠理の目を見つめ、告白する。
「愛してる……。僕はお前のためなら、何だってしてやる。剣菱を世界一にして、どの国の王族や富豪にも負けない生活を与えてやる。だから……付いてきてくれ。僕と一緒に走ってくれ……」
真剣な眼差しが、
その言葉の重みが
ヒシヒシと伝わり、
感情を揺さぶられた悠理は思わず涙ぐんだ。
「わ、わぁったよ……一緒に……いつまでも走ろう!」
宥めるかのように清四郎を抱きしめる。
正直、世界一などどうでもいい。
ただこうして高みを目指す夫の側にいて、
彼が自分だけを見つめてくれるなら……。
妻はぼそっと囁く。
「ヤバい男と結婚しちゃったかな……」
「ふ……今頃気づいたんですか?」
破顔しながらキスする夫に、悠理は白旗を挙げ、貴重な日曜を彼に捧げる覚悟を決めた。