月明かりがレースのカーテン越しに寝室を淡く照らす午前二時。
眠りの淵にいた悠理は、寝室のドアが閉まる静かな音で目を覚ました。
ベッドの端が沈み、ブランデーの芳醇で鋭い香りが鼻先をくすぐる。
「ん?……清四郎?」
寝ぼけ眼で名を呼ぶと、暗がりから大きな影が覆いかぶさってきた。
熱を帯びた吐息が、彼女の頬をかすめる。
そこにいたのは、普段の理知的な夫とは別人のような、危うい熱を孕んだ清四郎だった。
緩んだネクタイ、乱れたシャツ。
そして何より、焦燥に駆られた彼。
「…………悠理。」
低く掠れた声に抗う術もなく、悠理は彼を受け入れた。

唇が重なる。
アルコールの香りが混ざり合う、蕩けるようなキス。飢えと苦しみ、そしてどこか深い孤独が入り混じったような、切実なものだった。
やがて荒い息が落ち着くと、清四郎は妻の首筋に枕を預け、長い吐息を吐き出した。
「……すまない。少々、取り乱しましたね。」
「……何があったんだよ?」
悠理が問いかけると、彼は沈黙ののち、小さく苦笑した。
「接待がありましてね……。まあ、剣菱に比べれば小さな相手ですが……。」
「知ってるよ。池田建設の社長たちとだろ?」
「おや?よくご存知で。」
「おまえのスケジュールくらい把握してらい!」
意外に興味を持ってくれているのだな、と清四郎は感心する。
しかし今宵酒の席で交わされた話を思い出せば苦いものが込み上げてくる。
まだまだ新婚の二人をからかう老人たち。
酒癖が悪いといえばそれまでだが、若妻、悠理を酒のアテにして盛り上がり始めたのが癪に障ったのだ。
最初の頃は「アッチのほうはどうだ?」など在り来りのセクハラだったが、次第に「あんな美人なら一度手合わせ願いたい」や「いやいや、あのレベルなら愛人にしたい」「自分好みに育てたい」など、聞き捨てならぬ雑言が飛び交い、清四郎はとうとう我慢の限界を迎え、欅で作られたごつい座卓を真っ二つに叩き割ってしまったのだ。
恋うて、請うて、ようやく手に入れた悠理。
そんな愛しい女を下卑た男たちの肴にされてはたまったものではない。
「手……大丈夫か?」
そっと気遣えば、清四郎は薄く微笑み「僕を誰だと思ってるんです?」と首を振った。
「あたいが側に居たら、間違いなく蹴り飛ばしてたな。」
「居なくてよかった。おまえをあいつらの目に触れさせたくない……」
懇願するように呟くと、再び妻の唇を貪り始める。
たっぷり時間をかけ……酒に酔った男の情熱に溶かされた悠理は、手早く夫のベルトを抜くと、その昂りを優しく撫で始めた。
「酒……入ってる割には、硬いな。」
「こんなやらしいキスをしていて、よく言えますね。」
「いいから………早く………」
性急に服を脱ぎ、裸体を晒す夫。
無駄な肉がないたくましい胸板が、淡い照明に浮かび上がる。
引き締まった腰。
滑らかな肌。
男だてらに漂う色気。
上気した頬を寄せられ、悠理はボソッと告げた。
「あたいは……おまえだけのもんだよ……。」
照れ隠しをキスで誤魔化す新妻を、清四郎は思い切り抱き寄せる。
こんなにもかわいい妻を、下品な男たちの妄想に登場させたくない。
………そう思い立った時、彼の頭の中には悪魔のような思いつきが生まれ始める。
「………清四郎?」
「なんでもありませんよ……さ、続きを楽しみましょう……。」
優しく嫉妬深い夫が、彼らにどのような制裁を加えたかは………
皆さんの想像に任せるとしましょう。