パーティー会場の喧騒から逃れ、静かな廊下へと出たときだった。清四郎の足音が、不意に悠理の背後で止まる。
「……さっき、話しかけてきた男は誰です?」
低く抑えられた声には、隠しきれない苛立ちが混じっていた。
振り返ろうとした悠理の肩を、清四郎の大きな手が強引に壁際へと追い詰める。

逃げ場を失い、背中を壁に押し付けられた悠理の瞳が、驚きで見開かれた。
「清四郎……?」
「答えなさい。ずいぶんと楽しそうに笑いかけていましたね……。」
廊下の暖かな照明の下、清四郎の端正な顔が悠理との距離をゼロにまで縮める。
彼が纏うのは、冷徹な理性を揺るがすような、熱を孕んだ独占欲だ。
悠理が言葉を探すよりも早く、清四郎は彼女の唇を塞いだ。

それは、愛おしさと同時に「自分だけのものだ」と刻みつけるような、強引で濃厚な接吻だった。
たちまち息は乱れ、悠理は力なく清四郎の胸元を掴む。
ふと唇が離れると、清四郎は逃がさないと言わんばかりに、壁に手を添えて悠理を囲い込んだ。
逃げ場のない緊張感。
それでも二人を支配する空気は甘く、刺激的なものだった。
「ほかの男に媚を売るんじゃない……おまえはそんな安い女じゃないだろう?」
吐息がかかる距離で、清四郎は冷たく、それでいて嫉妬に震える瞳で悠理を射抜いた。
「媚びてなんか……」
言い訳するより早く、唇は塞がれる。

(あ〜あ……さっきの男、こいつのことばっか聞いてきてたんだけどなぁ…。ま、いっか。だまっとこ……。)
明らかな嫉妬に狂う清四郎ほど、悠理にとって嬉しいものはない。
清四郎の唇から解放された悠理は、乱れた呼吸を整えることもできぬまま、目の前の男の瞳をまっすぐに見つめ返した。
先ほどまでの、洗練されたパーティーでの装いが嘘のように、今の彼はただ一人の「男」として、悠理を支配しようとしている。
甘くて苦い、独占欲の檻。
「………おまえ……あたいが浮気したら、どーすんだよ?」
震える声で爆弾発言をしてしまった悠理に、清四郎は目を見開いたあと、苦笑するように口角を歪めた。その瞳には、仮定でも許されないといった怒りが垣間見える。
「浮気?お前が誰かに体を赦す姿なんて、想像するだけで吐き気がする!」
清四郎は美しい恋人の顎を指先で掬い上げ、刺し殺さんばかりの視線で射抜いた。
彼の手が悠理のネックレスのあたりをそっとなぞる。その指先の震えに、彼がどれほどこの状況に焦燥を感じているのかが痛いほど伝わってきた。
「わかっているんでしょう?僕の性格が厄介であることを……。おまえを一生手に入れるためなら……何でもすることを。だから……」
悠理の喉がごくりと鳴る。
「いい子だから……大人しくしててくれ。」
それは決定的な宣告だった。
張り詰めた空気感が廊下の静寂を重くする。
壁にぴたりと張り付いた悠理は、逃げることが許されない状況下で、くすりと笑みをこぼした。
そしていつもの勝ち気な瞳で、清四郎を見つめる。
「悪くないな……嫉妬されんのも。いっつもあたいばっかだからさ……。」
悠理のその言葉に、清四郎の表情が激しく揺らぐ。
過去の何かを思い付いたのだろう。
彼は深く息を吐くと、再び、今度は誠実さと優しさに塗れた唇で、彼女へと想いを刻みつけた。
「………僕が愛してるのはおまえだけだ。」
「……ふん………知ってるよ。」
先程までの勢いが削がれた男を、悠理は両腕で抱き寄せる。
互いの愛を疑うことはない。
けれどたまにはこうして、胸の中の想いを吐き出すのも悪くないな……と、小悪魔な彼女はほくそ笑んだ。