悪夢を見るうさぎ

 

毎夜現れる一匹の白兎。

「やれやれ。そんなに僕と居たいんですか?」

「………うん。」

「怖い夢を見るから?」

「知ってるだろ?正夢になったこともあるし……それに……」

「”僕“に関する夢だから?」

コクリ、頷く白兎。

どうやら彼女の夢の中では、清四郎が大変なことになっているらしい。

「だからといって、一緒に眠らなくても……」

夢の内容はけして口に出さないが、白兎……もとい悠理は清四郎と共寝することを望んだ。

「いいから!さ!寝るぞ!」

ウサギのパジャマを着た悠理が、清四郎と眠るようになって三日目。

この状況にも慣れてきたのか、二人とも熟睡出来るまでに至っている。

最初は悠理のイビキで寝不足だった清四郎だが、今や寝言くらいでは目も覚めない。

しかし───

いくら友人とはいえ、男女が一つのベッドで眠るというのは、いささか問題があるのでは?

だが、仲間たちは「いいじゃない。悠理の面倒はあんたが見ることになってるでしょ。」と邪推することなく、無関心に見守っていた。

「やれやれ。いつまで続くやら……」

ダブルベッドとはいえ、二人が寝るには少し手狭。

特に悠理は自宅の豪華な特注ベッドで眠る習慣があるのだから、窮屈さを感じているはず。

それなら自分が剣菱家で泊まれば良いのではと、一瞬考えた清四郎であったが、彼女の母親が手薬煉を引いて待っている気がして、自身の考えを取り消した。

ま、どちらにせよ、自分たちが間違いを犯すはずもない。

そう思い、彼女の気が済むまで付き合おうと覚悟を決めたのだが………

 

 

三日目の夜。

「ダメだっっ!!!」

寝言にしては大きな声。

さすがに目覚めた清四郎は、隣で眠っているはずの悠理が半泣きでこちらを見つめていることに気が付いた。

「どうした?」

起き上がり、彼女の肩を抱き寄せる。

小刻みに震える細い肩に憐れすら感じ、清四郎は話を聞こうと身構えた。

グスッグスッと鼻を啜る悠理は、ようやく重たい口を開く。

「おまえが………他の女に………」

「他の女?」

「………っ……他の女にあんなことやこんなことをしてる夢を見るんだい!!見たくもないのに!!」

「…………は?」

どうやら夢の中の清四郎は、毎晩違う女とベッドインし、大人の関係……所謂セックスをしているらしい。

それもかなりの生々しさで。

「そ、それは………何というか……僕らしくない夢ですな。」

「………ほんとか?」

「……ええ。そりゃあ……美人に言い寄られたら悪くない気もしますが……そんな深い関係になったことはありませんし……」

「じゃ……おまえ、童貞ってこと?」

「……………そんな暴露必要ですかね?」

「ひ、必要だから聞いてんだろ!?」

 

───何故?

清四郎にとって、悠理がここまで過剰反応する意味がわからなかった。

確かに、友人のそんな夢を見ることは好ましくないだろう。

だが果たして美童ならどうだった?

魅録なら………

「一つ質問ですが……」

「なに?」

涙目で見つめてくるうさぎ……もとい悠理は可愛かった……思いのほか。

「僕が他の女を抱いているのが嫌なんですか?それとも、僕のそんな姿を見るのが嫌なんですか?」

確信を得るための質問。

一瞬キョトンとした悠理は、徐々に顔を赤らめ……うつむき加減に呟いた。

「…………わかんないけど……おまえが……このベッドで、知らない女と……いちゃついてるのは……ヤダ………」

「なるほど……。それでおまえは正夢になるかもしれないと思ったから、僕と一緒に寝ようと?」

「……………うん。」

明らかなる嫉妬。

そう確信を得た清四郎は、さてどうしたものかと頭を捻る。

女らしくも可愛い嫉妬に、果たして本人は気づいているのか。

根底にあるその感情に………。

そしてその恋情を自分は受け取る覚悟があるのか?

「あたい……おまえが他の女とキスしてるのヤダ。せ、セックスもヤダし……その後、優しく抱き寄せたりしてるのもヤダよ……」

うぇ〜んと泣き出す彼女が、あまりにも可哀想で……清四郎は悠理をぎゅぅと抱きしめた。

恋愛と気付いていないお馬鹿な女が愛しいとすら感じる。

「大丈夫。………そんなことはしませんよ。」

───覚悟の決め時か。

うさぎを捕獲したのなら、最後まで面倒をみるしかない。どうせならたっぷり旨味を味わいたい。

パジャマのファスナーを下ろしながら、にっこり微笑んだ清四郎は、

「もうそんな夢を見ないよう……僕がちゃんと助けてやりましょう。」

と告げ、可愛く震えるうさぎを思う存分平らげた。

もちろん、ハッピーエンドである。