剣菱家に作られた道場では、鋭い衣擦れの音と、バタンと畳を叩く激しい音が響いた。
清四郎は落ち着いた表情のまま、悠理の動きを封じる。
武道の達人でもある男は、微塵も動揺することなく、まるでじゃれつく子猫をあやすかのように、悠理を完璧な体勢で抑え込んでいる。
一方、下になった悠理は顔を真っ赤に染め上げ、悔しさと恥ずかしさで瞳を潤ませていた。

「くそぉ……! この馬鹿力っ!」
悠理は清四郎の道着を掴む拳に力を込めるが、圧倒的な実力差の前に、その抵抗は虚しく空を切る。
誰よりもヤツの強さを知っているはずなのに、どうしても「一度は勝ってみたい」という思いが止まらず、今回も無謀な挑発をしてしまったが、今は後悔すら感じている。
清四郎は、苦悶の表情を浮かべる悠理をじっと見下ろした。その瞳には、呆れと優しさが入り混じっている。
「あのねぇ……何度やっても同じだと言ったでしょう?小手先の技で僕を崩そうとしても無駄ですよ。」
低い声で諭す清四郎の余裕が、悠理の自尊心をさらに刺激する。
「うるさいっ! まだ、終わってないだろ?」
負けず嫌いな性格は災いのもと。
悔しさで歯を食いしばりながら、必死に脱出しようと身体を捻る。
しかし、清四郎の抑え込みは岩のように揺るぎない。
「おまえに負けるわけにはいかないんですよ……。夫となった身としては、ね。」
「な、なんだよ……それぇ……!」
涙目で反論しようとするも……清四郎の唇は悠理の耳元へ寄せられ……
「僕を負かしたいなら……夜だけにしなさいね。」
「!!!!」
またしても力及ばず───
若妻の無謀な挑戦はこうして幕を閉じるのであった。