冷めない熱のために…

シャワーの温かな湯気と心に満ちる充足感。

​清四郎はシャワーを止め、備え付けの大きなタオルで濡れた髪を無造作に拭った。

鏡に映る自分の顔は、先ほどまでの熱っぽさが嘘のように穏やかで、けれど視線には隠しきれない甘い余韻が宿っている。

​彼は腰にバスタオルを巻いたまま、水滴を滴らせながらベッドルームへと歩を進めた。

 

​部屋の照明は控えめに落とされ、間接照明の柔らかな光が、ベッドの上で小さく丸まった悠理の寝顔を優しく照らしている。

足音を殺し、その傍らに歩み寄り、清四郎は滑らかな動作で膝をついた。

 

​「……本当に、よく眠るな。」

 

​吐息のような独り言がこぼれる。

あれほど激しく求め合い、声を上げていたのが信じられないほど、悠理の寝息は穏やかだ。ふいに、清四郎は彼女の乱れた前髪に指先を這わせた。

 

​その瞬間、悠理が小さく身じろぎをし、清四郎の手を無意識に探るようにして自分の頬へと引き寄せた。

 

​「……ん、……清四郎……?」

 

​寝ぼけ眼でとろりと開かれた瞳が、清四郎の姿を捉える。

彼女はまだ夢の中と現実の境目にいるのか、どこか心許なげに彼の指先を握りしめた。

​「悪い……起こすつもりはなかったんですが。」

​「……いいよ……別に……」

覚醒したわけではないのだろう。​悠理は清四郎の腕にすがりつくように、ずるずるとシーツの上を這い寄ってくる。

清四郎は笑みをこぼし、逃げ場を失った彼女をそのまま抱き寄せた。濡れた髪からぽたり……落ちた雫が、悠理の鎖骨を伝う。

​「まだ夜中だ。寝てていいですよ。」

​清四郎は彼女の額にそっと唇を寄せ、耳元で甘く囁いた。悠理は安心しきったように彼の胸に顔を埋め、再び深い眠りへと落ちていく。

​明日の朝、彼女がどんな顔で目覚めるのか。清四郎は悠理の温もりを感じながら、しばらくはその鼓動の音を子守唄代わりに、静かに夜を溶かしていった。

 

柔らかな朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気を優しく色づけていく。

​清四郎は先に目を覚まし、窓辺からベッドへと視線を戻した。

そして未だシーツにくるまり、微睡みの中にいる悠理の寝顔を見つめる。彼はそっとベッドの縁に腰掛け、彼女の頬を指先で優しくなぞった。

​「……おはよう、悠理。」

​低い、けれどどこまでも甘い声に、悠理がゆっくりと瞼を持ち上げる。

焦点が合わないまま清四郎を見上げ、それから大きなあくびをした。

 

​「ふぁ……あ。……ん?……朝?」

 

​「よく眠れましたか?」

​清四郎は愉快そうに目を細め、彼女の乱れた髪を整えてやる。悠理は彼の指の感触に満足そうに目を閉じ、それから急に何かを思い出したように、彼の腕にしがみついてきた。

​「清四郎……昨日の……あれ……夢じゃないよな!?」

必死の形相に、思わず失笑してしまう。

​「夢なわけないでしょう……。」

​清四郎は彼女の鼻先に自分の鼻をこすりつけ、クスクスと笑う。あれだけ濃く、深く繋がったのに夢にされては話にならない。

​「……昨晩の続き、朝からもう一度、味わわせてくれるんですか?」

​「え……!?あ、朝だぞ!?」

目を丸くする悠理はすっかり覚醒したようだ。

​「ああ、だからこそ昨日の余韻のまま、今日という一日を始めたいんですよ。」

 

​恋した少女は少しだけ赤らんだ顔で「……仕方ないなぁ」と呟きながら、彼の首に腕を回して引き寄せた。

清四郎は彼女のその素直な行動を愛おしそうに受け止め、朝の光の中で再び彼女の唇を優しく重ねる。

 

 

​静かなホテルの一室。

二人の穏やかで甘い一日の始まり。

恋する二人の熱気をはらんだ空気は、より濃密に部屋の中を漂い始めた。