有閑倶楽部の面々が飛び込むトラブルは、どれも一筋縄ではいかない。
幽霊
殺人
詐欺
香港マフィアに強盗
警察顔負けの活躍で、六人は無理難題を乗り越えてきた。いつだって無鉄砲に駆け出す悠理を、清四郎は背後から抑え、的確な機転で道を切り拓いてきたのだ。
「清四郎!どーすんだよ!ここから!」
「おまえが暴走しなければ、もっとスマートに解決できるんですがね……。」
そんな軽口さえ、二人にとっては呼吸のような日常。
けれど、その「日常」の輪郭が、ある嵐の夜を境にわずかに歪んだ。事件の深追いをした悠理が苦戦を強いられた夜のことだ。
六本木のクラブで──
清四郎は黙って悠理の傷の手当てをしていた。窓の外では雷鳴が轟き、室内には少しかび臭さが漂っている。

いつもなら「痛い!」と喚き、騒ぐはずの悠理が、じっと唇を噛んで黙り込む。
その沈黙は自分に落ち度があるとわかっていたからだ。
魅録とともに「悠理、行くな!!」と清四郎は叫んだが 時すでに遅し。
猛ダッシュで追いかけた悠理はチンピラ達に囲まれ、抜き差しならない状態に陥った。
奴らは喧嘩慣れしていた。
悠理はもちろん善戦したが、相手の一人が有段者であり、体格もよかった。
容赦なく羽交い締めにされ、地面に押し倒される。
下卑た笑いと、男たちの欲望。
薄手のストッキングは破れ、押し付けられた体は細かい傷を負った。
魅録と清四郎が到着した時、悠理が男の腕にその丈夫な歯で噛みついた瞬間だった。
ギラついた男に殴られそうになったところ、一瞬早く清四郎が男を蹴り飛ばす。
いくら有段者でも、場数を踏んできた彼らには敵わない。
二人の参戦により、事態は決着を迎え、傷ついた悠理は清四郎の背中に背負われ、近くにある顔見知りのクラブへと運ばれたのだった。
ふと顔を上げた清四郎の視線が、悠理の濡れた瞳と真っ向からぶつかる。いつもは頼もしい参謀であり、自分を諭す冷徹な保護者。
それなのに、今近くで見つめるその瞳には、隠しきれないほどの慈しみと、微かな熱が宿っていた。
清四郎もまた、普段は泥を跳ね返すほどに猛々しい悠理の、ふいに見せた弱さと自分に向ける無防備な表情に、喉の奥が熱くなるのを感じていた。
悪漢に組み敷かれた状態など、今まで何度となく見てきた。それなのに……あの時は頭に血が上り、手加減することを忘れてしまったのだ。鍛錬を積んできた者としては恥じるべき行為。
主犯格の男は全治半年と聞く。
もちろん後悔などしていないが……。
「いつも……無茶をするなと言っているでしょう。」
清四郎の手が、悠理の頬にわずかに触れる。

うっすらと、しかしその温度は単なる友人の範疇を越えていた。
言葉にしてしまえば壊れてしまう。
けれどもう、「ただの仲間」という言葉では、この空気の重さを説明できない。
悠理はそっと目を伏せ、清四郎の手に自分のものを重ねた。
友人という枠から、秘密を抱えた二人へ。
恋というにはあまりに微妙だったが、しかし確かな境界線を、二人は今まさに越えようとしていた。