すべての授業が終わり、学園には軽やかなチャイムが鳴り響く。
しばらくして生徒たちはそれぞれ迎えの車に乗り帰宅の途につくのだが……
部活に勤しむ者、もしくは勉学に勤しむもの達は、チャイムが鳴り止んでも学園に残っていた。
廊下の突き当たり、図書室の少し陰になった場所。
そこで悠理は運動部所属の男子生徒と楽しそうに談笑している。
下級生の彼は陸上部で、最近メキメキとタイムを上げてきた為、悠理が珍しく褒めていたのだ。
骨のあるやつは少ない……との認識のなか、彼は異色だった。
そして……
そんな二人の姿が、偶然、清四郎の目に飛び込んできた。
生徒会室へ向かう途中、男子生徒が冗談を飛ばし、悠理が楽しそうに笑い、彼を小突く姿が。
その光景を見た瞬間、清四郎の胸にはドロリとした黒い感情が渦巻く。
(ずいぶんと楽しそうな顔をしますね…)
元来、独占欲の強い男。
自分のものに対する執着が激しい。
彼女の溌剌とした笑顔は、清四郎だけのものだと思い込んでいた。いや、思いたかった。
嫉妬という名に気付かぬまま、彼の中で理性のタガを外していく。
清四郎が無言のまま、二人の間に割って入ると、二人は会話を止め、驚いた顔で生徒会長を見上げる。
が、彼は何も言わず、彼女の細い腕を強引に掴み、その場から連れ出した。
人気のない階段の踊り場。
清四郎は悠理の身体を壁と自分の身体の間に閉じ込めるようにして追い詰めた。
逃げ場のない、緊迫した空気。
悠理は戸惑いながらも、清四郎のただならぬ気配を察して息を呑む。
「ちょ、ちょっと…… なんだよ?」

彼女の本能が警告音を鳴らし、距離をおこうとするも、問いかけに対して清四郎は答えない。
よくよく見れば、彼の視線は熱を帯び、既に独占欲で塗りつぶされていた。
男として、恋人として、溢れ出す感情を制御することなど彼にはできなかったのだ。
彼は悠理の頬に手を添え、その顔をゆっくりと引き寄せる。
焦燥のなかの優しさ。
悠理は諦めたように静かに目を閉じた。
どうせ逃げられない───
切なくも情熱的な唇の重なり。
彼女の全てを自分のものにしたいという、男の本音がダダ漏れている。

唇を離すと、清四郎は深く息をつきながら、まだ赤く染まった悠理の頬を親指でなぞった。
「僕以外にあんな顔を見せるな……。」
「………あんな顔って?」
キスに蕩けた表情で尋ねる。
「年頃の男が簡単惚れてしまうような……笑顔ですよ……」
再び唇を封じられ、清四郎の腕の中で息を奪われる。
「おまえは……僕だけのものだ………」
独りよがりな、けれど抗いがたいほど甘い独占欲。
悠理は潤んだ瞳で彼を見つめ、小さく頷くと、清四郎はようやく満足そうに目を細め、再び彼女とのキスに没頭していった。
二人の熱を帯びた影はいつまでもその場所に色濃く残り、残された下級生のもとへ悠理が戻ることはとうとうなかった。