満開の桜の下───
清四郎が悠理の髪を撫でたあの日。
それは、ただの友人関係が終わった特別な瞬間だった。
あれから二ヶ月。季節は流れ、桜は青々とした葉桜へと変わっていた。
ある土曜日の午後、二人は街の小さなカフェにいた。
「なぁ?何見てんの?」
悠理がクスクスと笑う。
視線の先には、アイスコーヒーを一口も飲まず、彼女を見つめる清四郎がいた。彼は端正な顔立ちに柔らかな微笑みを浮かべている。
「そりゃ見るでしょう?おまえは恋人なんですから……。」
彼はさも当然かのように笑い、テーブルの上に置かれた彼女の手をそっと握った。
彼女の頭を撫でた時のような一方的な守護ではなく、対等な関係を確かめるような強い握り方だった。
二人の間にある空気は確実に変化している。
より深く、温かく、親密なものへと変わっていた。
「……改めて言葉にすると、照れますがね。」
らしからぬ素直な台詞に、今度は悠理が清四郎の大きな手に重ねた。

「あたいとおまえがこんな関係になるのって……ほんと不思議だよな。でも……」
「でも?」
「なんか……ずっと前から、清四郎のこと、好きだったんだな……って思うんだ。」
そう言って悠理はまた、あの日のように無邪気に、でも少しだけ大人びた表情で幸せそうに笑った。
「その意見、僕も賛同しますよ。きっと…ずっと前から、僕もおまえに惚れてた。」
内緒話をするように近付いた清四郎は、悠理の鼻先にそっとキスを落とす。
「大好きです……悠理。」
「あ……あたいも……好き……」
消え入るような告白の後、ゆっくり目を閉じれば、黒髪の恋人はそれはそれは優しい口付けを与えてくれた。
窓から射し込む初夏の陽射しは、重なる二人を優しく、慈しむように照らし続ける。
恋が愛に変わるまで…ずっと、いつまでも。