菊正宗清四郎、剣菱悠理。
この二人は誰もが振り返るほど、憧れのカップルだ。
周囲を圧倒する輝きを持つ悠理。そして常に冷静沈着、学業も完璧にこなす清四郎。
高等部から知る学生たちは皆、収まるところに収まったか、と思っていることだろう。
お釈迦様と孫悟空な関係は見ている者たちを和ませ、癒しを与え、時にじれったさを生む。
そんな二人が高等部を卒業し、選んだ道は「恋人」という甘やかな括り。告白は清四郎からだったが、悠理もまた彼を意識し続けてきた為、躊躇いはなかった。
いつものおちゃらけた関係に見える彼女たちも、キャンパスを一歩離れれば、その色を変える。
「……なぁ、清四郎。もう、本なんてどうでもいいだろ?」
いつもは勝ち気で、周囲を振り回すほどのエネルギーを持つ悠理。
彼女は痺れを切らし、清四郎の膝の上で甘えるようにしなだれた。
背伸びをし、彼にキスを強請るその瞳は、外で見せる溌剌とした輝きではなく、清四郎だけを求め、濡れたように熱を帯びている。悠理の「女」としての部分が発揮されているのだ。
強制的に本を置かされた清四郎は、そんな彼女の背中に手を回し、優しく抱きしめる。
普段、粗雑で暴れん坊の悠理が、自分にだけ見せる無防備な顔。こんな姿は彼にとって、何よりも守りたくなる宝物だった。
「わがまま娘め……。」
「ふん!今更だろ?」
清四郎はわざと余裕のある口調で微笑みながら、彼女の髪に軽く触れた。
外では決して見せない、彼自身の「隙」。
「だいたい……二人きりなのに本に夢中って彼氏としてどーなんだ?」
悠理は頬を染め、清四郎の胸元に顔を埋めた。女の我儘なんて厄介と捉えていた清四郎は、悠理のそんな言葉に胸を熱くする。
赤いセーターの柔らかな感触は、清四郎の理性を心地よく溶かしていき、確かに今の時間に読書は必要はないな、と改めて思い至った。
「では、彼氏として何をしたらいいんでしょうか?お姫様。」
クスッと笑いながら、茶目っ気を見せる清四郎に、頬を膨らませていた悠理は鼻を鳴らす。
「決まってんだろ!イチャイチャする!」
「イチャイチャねぇ……。どの辺りまで許してもらえるやら。」
本を更に遠ざけた後、悠理の腰を強引に引き寄せ、顔を近づければ、彼女の頬が更に赤みを増した。
「………あたいの許しなんて、いっつも気にしちゃいないだろ?………おまえの好きな様にするくせに。」
「ふ……たしかに。ではお言葉に甘えて……」
そう言うや否や、彼の唇は的確に悠理のものを捉え、甘く食み始める。
可愛くもお馬鹿な恋人を、ベッドに押し倒すまでの僅かな時間。
悠理の体は、清四郎の広い胸の中で隙間なく抱かれ、やがて情熱的なキスへと変わっていった。
「………明日も講義がありましたな。ま、今夜は手加減してやりましょう。」
「………え、やだ………んなもんしなくていいから……いつも通り、シテ?」
そんな小悪魔的発言に、理性という名の糸は脆くもブチ切れる。
「その台詞、責任とってもらいますよ……」
清四郎は、彼女の瞳の中に自分だけが映っていることを確認するように見つめたあと、再び強く、深く唇を重ねた。

夜は更けていく。
互いが奏でる甘い鼓動の中、二人は時を忘れ、前戯となる口付けを交わし続けた。