場所は聖プレジデント学園。
誰もいない校舎の3年A組には、満月の光が青白く差し込み、机や椅子が長い影を落としていた。
この部屋には今、二人の生徒しかいない。
文武両道、眉目秀麗と名高い伝説の生徒会長、そして暴れ馬こと剣菱家の令嬢である。
「あと、少しですね。」
「………そだな。」
卒業までおよそ二ヶ月を切った。
生徒会への引き継ぎも終わり、有閑倶楽部の面々は卒業後の春休み旅行に向け、気持ちが昂ぶっているところなのだが………
四年間過ごした学び舎にアンニュイな気持ちになっているのは、意外にも悠理だった。
「さみしいですか?」
「………うーん、寂しいっていうか、なんか変な感じ。大学に進んでもおまえらと一緒なのにな。」
美童だけは半年ほどスウェーデンに帰国する予定だが、あとの5人は仲良く大学部へ進学することとなっている。
変わらぬメンバーで、また刺激的な日常を過ごせるはず。
悠理はそう確信しているのだが……
「でも、やっぱ、ここ(高等部)がいいな。」
「ふむ。四年も居たから?」
「そ、そーいうわけじゃないけど………なんか、大学って……おまえとの距離が遠くなりそうで……やだなぁってさ。」
ボソリ呟いた彼女の言葉に、清四郎は驚き、瞠目した。
二人はまだ互いの想いに気づいたばかり。
友情と恋情の境界線に立っているような状態である。
特に悠理は花より団子、恋より鯉こくが好きな女のため、清四郎は彼女をどう開花させようか、頭を悩ませていたのだ。
どんな学問よりも難題……そう思っていた。
「驚きましたね……」
「ん?なにが?」
「意外にも、僕はわりと好かれてるんですか……。」
「は?なんだよ、それ。好かれてないと思ってたのか?」
素直といえば素直。
猪突猛進な性格は、時々清四郎を驚かせる。
「そりゃそう思いますよ。恋愛なんて興味すらなかったんでしょう?まだ気持ちが追いついていないのかと……」
「あのなぁ〜」
深い溜息を吐く悠理。
「……んなわけないだろ。だいたい付き合うって決めた時から、おまえとのキスだって、セックスだって、ちゃんと考えてらぁ!」
男前な性格にはもはや脱帽である。
鼻息荒く宣言した悠理に、清四郎は苦笑しながらも白旗を上げた。
「………なら、僕は我慢も、様子見する必要もないってことですね?」
「当然だろ?あたいたちはカップルなんだから。とっとと色んな階段上って、可憐を驚かせてやるんだい!」
鼻を擦り、へへっと笑う悠理は可愛かった。
度胸のある女と知ってはいたが、ここにまできて痛感させられるとは……。
感情を揺さぶられた清四郎は、彼女の背中に腕を回す。
「おまえのそんなところが………堪らなく好きです。大好きですよ。」
「お、おぅ……」

二人の唇は自然と重なり、そのままゆっくりと溶け合った。
初めてのキスは思い出深い学び舎で……。
そして彼らは卒業していく。
新たなる扉を開けるために───
光り輝く人生を共に歩むために───