「わあ、清四郎!見て見て、あのカバ!」
悠理の弾んだ声が、屋根付きのボートの中に響き渡った。

彼女は立ち上がらんばかりの勢いで、水面から顔を出している大きなカバを指差している。その隣に座る清四郎は、慌てて彼女の肩を抱き寄せた。
「危ないから乗り出さない。」
口では注意しつつも、清四郎の表情は緩みきっている。
日差しがきつい。シャツの袖をまくった彼の逞しい腕は、悠理の体をまるで宝物のように優しく、かつしっかりと支えていた。
「いや、まじででっかいし!テッカテカだし!かっこいいー!」
悠理は清四郎の腕の中で興奮気味に笑った。そんな彼女の明るい様子が、清四郎の心に触れる。
「カバに嫉妬してしまいそうですよ。」
そんなあり得ないセリフを口にした男は、悠理の柔らかな髪に軽くキスをした。
「お、おま……っ!みんなが見てるだろ!」
顔を真っ赤にしながら、隣の家族連れを気にする素振りを見せる。
確かに、後ろの席に座る青年たちは、二人の仲睦まじい様子をニヤニヤと見ていて、おそらくは良からぬ妄想すら抱いていることだろう。
「いいじゃないですか。デートなんですから。」
どこ吹く風で悠理の顔を覗き込み、彼はいたずらっぽく笑った。その表情は昔も今も変わらない。
ボートはゆっくりと進み、今度は向こう岸に大きな象が現れた。象が鼻で水を吹き上げると、人々から歓声が上がる。
「うわぁ!象もすげぇ!!かっこいい!」
悠理は清四郎の腕の中から乗り出し、象を指差した。
清四郎は彼女の手を握りしめ、呟く。
「結婚したら、敷地内で何か飼いますか?」
「……えっ!?いいの?」
「ま、法律に触れない程度の動物なら……」
「じ、じゃあ、チーター!!」
「触れまくってます。それにアケミとサユリを餌にしたいんですか?」
「……うっ!」
屈託なく笑う悠理を未来の夫は優しく見つめる。
あと数カ月後には、この可愛くも愛しい野生児を唯一独占できる男になるわけで……
その満ちたりた想いは果たして彼女に伝わっているのだろうか?と思わざるを得ない。
「クルーズが終わったら、飯にしますか?」
「もっちろん!」
待ってましたとばかりに彼女の瞳は輝きを増す。
ボートは、二人の幸せな笑い声を乗せて、ジャングルの奥へと進んでいった。