清四郎の部屋にて……
二人とも大学の課題がひと段落した土曜の午後である。
窓から差し込む穏やかな秋の日差しが、ソファに寄り添う二人の髪をそれぞれの色に染め分けていた。
ずっと友人だった二人が、大学入学後しばらくして交際を始めたのは、奇跡とでもいうべき事態だろう。
六人でアフリカ旅行に出かけた際、悠理がハイエナの群れに追い回され、それを清四郎が絶妙に救い出したのが切っ掛けである。
頼り甲斐を感じていたのは大昔からのことだが、悠理は清四郎の凛々しい横顔に惚れてしまったのだ……何故か。
ともあれ、悠理のストレートなラブアタックに清四郎も絆され、今や可愛いペット兼恋人の座に収まったわけだ。
こうして二人きりで過ごす時間はまだ少し新鮮で、どこか気恥ずかしさと甘さが混ざり合っている。
清四郎は暖かそうなセーターを着た悠理を抱きしめ、悠理はすっぽりと清四郎の胸に収まっていた。
「………苦しくないですか?」
清四郎は低い声で尋ねる。
彼の長い両腕は、悠理の肩に優しく回されていて、少しの隙間も感じさせない密着度合いだ。
「ううん、全然。むしろ、この方が落ち着く……」
悠理は目を細めて答えた。

彼女の心臓は、清四郎の側で少しだけ早鐘を打つ。
恋を知った時の激しいものではなく、今は温かい鼓動だ。
悠理は恋人に甘えながら、少しだけ向きを変えて清四郎を見上げた。オレンジ色のタートルネックのせいで、いつもより血色良く見える彼女の頬が、ほんのりと赤らんでいる。
黙っていれば美人と評判のその顔は、今はただ恋する女として可愛らしい。
「それにしても、ずいぶんスキンシップが増えましたね。」
清四郎は意地悪く笑う。
「……うるさい…………んなの当然だろ。」
悠理はそっと顔を背け、恥ずかしそうに呟いた。昔と変わらぬ不器用な態度が愛おしくて、清四郎は口元を緩める。
「あ、そうだ。晩飯、どうする?」
悠理はわざとらしく話題を変えた。
「そうですね……。何が食べたい?」
「じゃあ、ラーメン!帰り道に映画でも観ようよ!」
「了解。映画館の近くで美味そうな店を探しますか。」
スマホを取り出した清四郎は悠理の頬を指先で撫でる。
長い付き合いだが、純粋にデートを楽しんでくれるその姿が、不思議なほど愛おしく感じる。
「さて、二、三軒見繕いましたから行きますか?」
「………ん、もう少しだけ、このままでいて?」
男の広い胸に顔を擦り付け、甘える悠理。
彼らはソファから腰を上げることなくしばらくの間、互いの温もりを感じていた。
友人から恋人へ。
少しずつだが確実に変わっていく二人の関係。窓の外は少しずつ茜色に染まり始め、彼らは温度を上げていく。
やがて清四郎が口を開いた。
「悠理。」
「ん?」
「…………今夜はずっと、こうしていましょう。」
「……ふふ、いいよ。」
重なり合う二人は再び静寂に包まれた。

膨らむ想いが溶け合う、そんな穏やかな土曜の午後だった。