読み切り作品

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苦い春

それは彼らが仲良くなる少し前のこと── 中学3年生……本来、受験勉強に邁進している時期なのだが、聖プレジデント学園に通う生徒にそんな焦りは見当たらない。ほとんど学生が幼稚舎からのエスカレーターに乗り込み、おそらくは大学部までその箱から...
恋はままならず

恋はままならず〜惑い〜

(発芽から続く) カチカチカチ…… 枕元のクラシカルな時計がやたら五月蝿く聞こえるのも、思考が、とある一方向を向き、神経が研ぎ澄まされているから。 いつもならグルメや旅行、夜遊びのことでシッチャカメッチャカな悠理だが、...
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青い夏の日(後編)

前編 → 中編 悠理は寝室のベランダに立ち、夜空を見上げている。 星の美しさはここからでも充分確認できるが、展望台の方がより鮮明に見えることだろう。 今頃、二人はどんな会話をしているのか。気にならないと言えばウソに...
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横恋慕(1)

「悠理ちゃん!やっぱり来たんだ。」 「あったりまえだろ!DJシオンがわざわざ帰国してんだから!」 馴染みのライブハウスにはいつもより大勢の客が詰め掛けていた。 それもその...
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BAD LOSER

運動会は悠理にとって最大のイベントである。 勉学では劣るものの、運動だけは誰にも負けない自負があるため、その活躍を見せつける最高の場として毎年楽しみにしているのだ。 今回は中学最後の運動会ということもあり、さらに気合が入っていた...
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僕と彼女と夜の街(2)

僕と彼女と夜の街(1) 紫の紫陽花が朝露に光る。 爽やかな青紅葉もまた、小さな葉を陽に透かせば、初夏の香りが風と共に漂ってくる、そんな錯覚をおぼえた。 そろそろ暑くなるだろう。 空の青さがいっそう色を濃く...
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Care

※ちょっと古い作品です 「いてててて…………あいつら不意打ちかよ。ったく。」 巷では名の知れた暴れん坊、剣菱悠理が珍しく足を引きずっている。 まだ幼さの残る膝小僧からは出血すら見られ、それはとても痛々しい光景だ...
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幸せと欲望とたった一つの愛情(R)

ゆっくり目を覚ませば、そこは波の音が聞こえる白い部屋で、 カーテン越しに淡い光が差し込み、遠くでは鳥がさえずっていた。 サイドテーブルに置かれたスマートフォンが数件のメールを知らせている。 タイトルだけ見れば、どれも急いで開く...
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青い夏の日(中)

前編 ────夕日が水平線に沈んでゆく 全員がそれぞれの過ごし方で楽しんだ一日が終わりを迎えようとしていた。 「ガーリックシュリンプ、おかわり!」 悠理の掛け声に別荘のおかかえ料理人が慌ててフライパンを振り出...
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僕と彼女と夜の街

高校入学して間もない頃の設定で ──── 長梅雨による湿った日々にうんざりだったが、心待ちにしていた推理小説の新刊が出たことで幾分か気持ちが浮上した。 80近い年齢で書き続ける作家の執念を感じつつ、ここ数年...