薬の効果(R)

すっかり肌を露わにした少女は、いまだ夢現状態であった。
先程から湿った音が耳を掠めている。
ついで、味わったことのない心地よさも。
人肌の温もりが身体の至る所を駆け巡り、時折訪れる甘い痛みに腰が浮いてしまう。

一体、これは何なんだろう?

目を開けようとするも、沈み込んだ意識はなかなか浮上しない。
胸の………そう、まさぐられる乳房の辺りから感じる刺激的なむず痒さ。

ジュルル………

聞いたことのない淫音が、耳を浸食していく。

夢なら夢でいい。
こんな気持ちのよい状態から覚めるのは勿体ない。

悠理は熱い瞼を伏せながら、そう思った。

そんな友人の姿に、清四郎の暴走は止まらない。
恋人でも想い人でもない相手を、自分の欲望のままひん剥き、至る場所を触る行為。
最低だと判っていた。
でも止まれない。
感じたことのない胸の鼓動は高まるばかりだ。

「悠理……」

覚醒を促すつもりではなく、清四郎はただそう呟いた。
今、彼女が目を醒ませばどんな修羅場が待ち受けているかなど、容易に想像出来る。
この先…………“友人”を語ることなど到底不可能だ。

しかし清四郎の指は膨らみの先端をとらえ、コリコリと扱いている。
もう片方は唇で食み、舌先で優しく転がしている。

明らかな愛撫。
男の欲望を露わにして。

苦しげに、それでも官能に浸り始めた悠理の表情を時折眺めながら、清四郎の手はとうとうスカートの中へと忍び込んだ。
タイツ越しの脚の付け根を撫で、少し盛り上がったそこを優しく解すように触れると、

「んっっ………!」

愛らしい声が洩れる。

恐らくは誰にも触れられたことのない禁断の場所。
しかしそこはタイツ越しでも判るほど湿っていた。

あの未完成な薬は一体どういう効果をもたらすのか。
潜在能力の増加だけではない?
もしや媚薬的な働きもあったのだろうか?
こんな痴態を晒すほど、敏感な身体に作り替えられてしまった目の前の悠理に、どうしてもその可能性が拭えない。

苦しげに眉間を顰め、それでも荒い息を吐く姿は快感を追い求める女そのものだ。
清四郎は一旦胸から口を離すと顔を近付け、いつもは雑な言葉が吐き出される唇へおもむろに自分のものを重ねた。

柔らかい────

刹那の感動にうち震える。
熱を帯び、しっとりとした粘膜までをもしゃぶりつくしたくなる。
そして思うがままに舌を吸い上げ、絡ませ、その甘い唾液すら味わいたいと願う衝動。
脊髄反射的に清四郎の舌は悠理の唇を割り開いていた。

こんな執拗なキスは滅多にしない。
いや、彼にとってキス自体好ましいものではなかった。
行きずりの女に対してもそこまでの衝動は働かないし、何より濃い香りの口紅が苦手だったのだ。

それなのに今は夢中である。
上顎を強く擦り、舌の根元から吸い上げるように絡み合わせる。
相手の呼吸すら止めてしまうかのような口付けを、清四郎は躊躇うことなく行った。

「………んっ………やっ………!」

苦しさに顔を振ろうとするも、首の後ろをがっちりと抱き寄せ、更なる官能へと引きずり込む。
清四郎自身、これらの興奮が彼女の口の中に残った薬が要因か、はたまた振り撒かれるフェロモンがそうなのか、解らずにいた。
ただただ本能が猛り狂うだけ。

通常ではない膨らみの先端を摘まみながら、淫らなキスを繰り返していると、悠理の脚がむずむずと動き始めた。
そしてより一層、香りが濃厚になる。

─────くそ、どうなってるんだ。このままだと僕はこいつを…………滅茶苦茶にしてしまう!

自制心など遙か彼方へ消え去っていた。呼び戻そうとしても無駄だとわかっている。
それほどまでに清四郎の鼓動はけたたましく鳴り響き、腰から下は完全なる臨戦態勢に突入していた。
痛いほど制服が持ち上がり、感じたことがないくらいの興奮を覚えている。

この悠理は………いつもの悠理じゃない!

そう判っていてもダメなものはダメなのだ。
磁石のように密着する躯が、その先へ進もうと躍起になっている。

「悠理…………悠理………」

呼吸の合間、自分の口から意図せぬほど甘い声が洩れ出す。
まるで恋人への語らいのような、密度の高い低音。

「ん………せ……しろ?」

覚醒したわけではない。
ただ聞き慣れた声に反応しただけ。
その証拠にまだ深く沈み込んだままの意識が、悠理を脱力させたままにしている。

清四郎はもはや我慢しなかった。
唇を吸い上げながら、己の分身を解放させ、財布に忍ばせたコンドームを取り出す。

ああ………駄目だ。
こんなことで悠理を傷つけてはならない!

脳内で必死に叫びながらも、彼の手は着々と先へ進み、悠理のスカートを捲り、靴ごとタイツを脱がせた。
白く細い足が二本、目の前に現れる。
別に今日初めて見たわけではない。
水着姿も知っている。
パンツの柄すら、見知っているのだ。
それなのにどうしてこんなにも動悸が高鳴るのか。

形の良い膝小僧にそっと触れ、さらに奥へ奥へと手を伸ばす。
先程も確かめた布が、より湿り気を帯び重量を増し、肌に張り付いていた。

はぁ はぁ

まるで獲物を前にした獣にでもなったかのよう。息が荒くなる。
額の汗を片手で拭い、それでも目線は悠理のスカートの中だ。

こんな想定はしていなかった。
ただ週末に読もうとしていた忘れ物(本)を取りに来ただけ。
まさか悠理が薬を飲み、倒れているなんて、誰が思う?
ましてや、こんな……………

頭が朦朧とする。
全ては悠理から漂うフェロモンの所為だと思いたい。
口付けの唾液で得た薬の所為だと────

しかし、我ながらえげつないブツ(薬)を作ったものだ。

清四郎は、欲望と僅かに残った理性の狭間で奥歯を噛みしめた。
それでもギンギンに屹立する愚息が、その先を急かしてくる。

意識のない彼女を犯すつもりはない。
ただひたすら愛撫し、この熱を悠理の身体で放出したかった。

もぞもぞと交差するように揺れ動く脚。
濡れた下着は彼女の恥毛と形をしっかり浮かび上がらせていた。

全身から溢れ出すフェロモンが正気を奪う。
目頭を熱くしたまま避妊具を付け終えた清四郎は、悠理の腰を抱きかかえると、閉じた脚の間にそっとソレを挟み込んだ。
本当なら仮初めに膨らんだ胸の谷間にでも押しつけたかったが、そこはぐっと我慢した。
そんなことをすれば、彼女の胸を生暖かい液体で汚したくなってしまう。
それを浴びた姿を想像し、またしても興奮に震える清四郎のシンボル。
もはやいつもの自分ではない。
欲に囚われた哀れな一匹の雄。
こんなにもいきり立つとは………何とも情けない話だ。

悠理の乱れた制服が、自分の行いの異常さを示している。
それでも頭に宿る欲望に逆らえない。
ゆっくり腰を揺すり、すべすべの肌質に恍惚と目を細める。
片手で胸を鷲掴み、赤く尖った先端を指で転がす感触はもはやクセになるものだった。

「んんっ………ぁあ……っ」

感じる声が密室に響く。
意識がないとは思えない喘ぎ。
この際、完全に目が覚めてもいいと思うほど、悠理の身体は快感にむせび泣いていた。
甘いフェロモンの香りがどんどん強くなる。
脳まで冒されたかのように自制出来ない。
窮屈と思うほど猛りきった肉茎が白い肌の間を行き来する様は、今まで見たどんなものよりやらしかった。

「………っふ……」

擬似セックスなんて趣味じゃない。 だが悠理を奪い尽くす権利など、自分は持ち合わせていないのだ。
こんなイレギュラーな事態に何の言い逃れも出来ないけれど、せめて最後の砦だけは守ってやりたかった。

速まる腰の動きが恍惚を連れてくる。
薄い肉付きの太股だがその柔らかさは充分に女性らしいもので、清四郎は悠理が女であることを改めて認識し、興奮した。

「悠理っ………!」

タイトに締め付けた脚の間で清四郎の精が迸る。
薄いゴムの中に溜まる白濁は想像よりも多く、じっとりと重みを感じさせた。

息を荒くしたまま、手慣れた感じで事後処理をするも、まだ性器は芯を持った状態を保っている。

「嘘だろう……」

ごくっ。
唾を飲み込み、清四郎は頭を抱えた。
これ以上は拙い。
これ以上このフェロモンに当てられたら、何をしでかすか自分でも解らない。

慌てた男は、剥き出しになった悠理の胸を隠すよう下着をつけ、制服の前を閉じようとした。

「ひゃ……んっ………♡」

それが悪かったのかどうかは定かじゃない。
ただ清四郎の指が胸の先端に触れ、その時、彼女が可愛くも甘い声を響かせたのは確かだった。

「は……………せぇしろ………もっとぉ………」

夢現状態のくせに、悠理は確かに清四郎の名を呼んだ。
そして懇願したのだ。

“もっと“─────と。

微かな理性は遙か遠く、宇宙空間にまで飛んでいく。
慌ただしく自らの制服を脱ぎ去り、完全に勃ちきった股間を握りしめる。
清四郎の目は血走っていた。
おそらく─────

踏みとどまることは出来ない。
またしても濃厚な口付けを与え、胸を遠慮なく揉みしだく。
スカートの中へ、
下着の中へ、
手を差し入れ、濡れた部分を優しく、時に激しく愛撫した。

快感に溺れさせ、先程の台詞をもう一度聞きたい。

清四郎は文字通り必死だった。
湿気たパンツを脱がせた後、今度は脚の間に頭を突っ込み、友人の秘壺を味わいまくる。
剥き出しの突起も、ピンク色をした襞の合間も、丁寧にやらしく舐り尽くす。

悠理の腰が浮き、左右に振り始めても、熱のこもった舌は逃がすまいと動きを速める。

「あっ、あっ、あ……………」

ドクドクと流れ出す愛液は思ったよりずっと甘く、美味しいものだった。
舌を差し入れ、中の柔らかさを確かめる。
この狭い空間に果たして己の凶器が入るのか?
不安と興奮が、よりいっそう愛撫を執拗にさせた。

クチュ………グチュ………

ねっとりとした淫靡な音に、耳がやられる。
悠理が覚醒したとて、もう止まることはないだろう。
宥め賺してでも自分の欲望を満たしたい。
そんな我欲だけが先行する。

最後の一つ。
コンドームの袋を手にし、清四郎は口で噛み切った。
情けないことに手が震えている。
この先、犯してしまう犯罪に身体が怯えているのだ。

「悠理………すまない。」

精一杯の謝罪を告げ、蕩けきった華奢な腰を抱き抱える。
その時だった。
悠理の目がうっすら開き、今まさに犯そうとしている男を捉えたのは。

「…………せぇ……しろ?」

「……っ!!」

甘ったるい声で優しく呼びかけられ、潤んだ瞳には自分の顔が映っている。
乱れた前髪をそのままに、血走った目をした男の顔が。
思わず顔を隠したくなったが、それよりも悠理の反応が気になり、そのまま見つめ合い続けていると、悠理がホッとしたように吐息を漏らした。

「良かった………来てくれたんだ……」

朧気ながらも事態を認識した上の台詞。
その無垢な微笑みに清四郎はとうとう我に返った。
重すぎる罪悪感を背中に背負いながら。

「………ごめ、あたい……薬飲んじゃって………」

「解って、います………」

「……なんか急に熱くなって……苦しくって………」

そう言いながら胸の辺りに手をやった悠理は、そこにあるべきはずの布が無いことにようやく気付いた。

「え………あれ?」

「悠理……僕は……」

「なぁ、清四郎……あたいの胸……なんかでっかくないか?」

言い訳を口にしようとした清四郎だったが、悠理は取り払われたブラジャーよりも不自然な胸の大きさに驚いたようだ。
清四郎の目に晒されていることすら忘れ、自らの乳房を持ち上げ、その重みを何度も確かめる。

「わわっ!!なんだこりゃ!どいうこと??」

パニック状態を招くのは当然と言えるだろう。

「…………薬の効果ですよ。おまえが望んだかどうかは知りませんが。」

さすがに直視するのは……と思い、そっと視線を外した清四郎だが、舌には味が、手には柔らかな感触がしっかりと残っているわけで─────
さっきまでの高ぶりは治まってきたものの、それでも制服の外に飛び出した愚直な息子は程良い硬さを保っていた。

悠理には状況が把握出来ていない。
それに薬の副作用か、呼吸はまだ荒いままだ。

「あたい………頭が良くなるかも………って………」

「でしょうね。」

短慮な友人の企みを解らぬ清四郎ではないが、さすがにこんな状況下に置かれるとは思っても見なかっただろう。

火照った頬と潤んだ目が愛おしく感じる。
清四郎は無意識のまま悠理の頬に手を伸ばし、優しく包み込んでいた。

「悠理………」

「なに?」

「おまえは底なしの馬鹿で、考え無しで、救いようのない人間かもしれないが………」

「…………ケンカ売ってんの?」

「僕は…………僕は………」

顔を近付け、触れるか触れないかの距離で告白する。

「おまえが欲しくて仕方ない。」

「………へ??」

「謝罪も非難も後から引き受けます!」

 

沈静化したように思えた清四郎の暴走は、結局その日、留まることはなかった。

人並みに膨らんだ胸を散々弄ばれ、その快感に否が応でも目覚めさせられてしまった悠理。
初体験にしてはかなり刺激的なものとなったが、清四郎の熱気にやられ、結局最後は自分から求めるほどハマってしまった。

しかし理想的な膨らみの胸は、翌夕方には元通り。
本気で落ち込む悠理に、
「大丈夫。薬なんかなくても僕がきっちり大きくしてやります。」
とホクホク顔で答える清四郎は、その日から初めて出来た恋人を、ほぼ毎日のように自宅へ連れ帰るようになった。

悠理の胸が成長したかどうかは、皆様の想像にお任せするとして、果たしてこの二人、うまくいくのだろうか。

一抹の不安が残ったままである。