★R表現あり
指に絡む柔らかな髪は、繊細すぎるほど細かった。
何度も触れてきたはずなのに、今初めて知ったように思う。
シミ一つない肌と無駄な肉がつかない体は、神に恵まれている証拠。
あれほどのカロリーを摂取しているくせに、感心するほど華奢な手足だった。
涙を蓄え、僕の欲望を一身に受け止める健気な恋人はいつもの悠理ではない気がする。
汗と涙が入り交じった頬は赤く、貫いた時、桜色の唇を必死に噛みしめていた。
愛おしいと感じながらも、雄の野蛮な欲望が高まってゆく。
彼女の奥に留まったまま朝を迎えたいと思うほど、柔らかな肉の中は心地よかった。
長い手足が蔦のように絡みつき、もどかしい快感を散らそうと必死になる。
初めてだから奥はキツいかと思いきや、適度な柔らかさと弾力性に富んだ身体は、僕の全てをのみこんでくれた。
これほどまでに気持ちが良いとは━━━━
しかし浸っている余裕はない。
途切れ途切れの甘い嬌声が脳を痺れさせ、ともすれば直ぐにでも達してしまいそうになる。
体の我慢が利かないなんて、初めてのことだ。
好きだ、と何回呟いただろうか。
言い慣れない甘い台詞すらスラスラと吐き出した。
膨れ上がる気持ちをどれだけ伝えても足りない気がしたから。
その都度、彼女は複雑に喜んだ顔を見せ、僕を刺激してくれた。
「せぇ……しろぉ………」
さざ波のように震える声に誘われ、唇を重ねる。
結婚という鎖を、こんなにもワクワクさせてくれる相手は他にはいない。
打算の欠片もなく、こちらを値踏みするなんてこと、考えもしない女。
心が羽を持ち、自由に羽ばたける。
最高の気分を味合わせてくれる。
激しさを増す律動に蕩け出す顔。
美しさと淫蕩さが入り混ざり、悠理がやはり女であることを知らしめる。
「あぁ……っっ……!」
強請るような甘い嬌声が部屋中に反響すると、それは興奮剤の役割を果たした。
腰が痺れ、どんどんと熱くなる。
どれほど声を我慢しようとしても、洩れだしてしまうのだろう。
それほどまでに悠理を激しく犯していた。
腰が止まらない。
快感と征服欲が折り重なるよう襲ってくる。
達したい。
だがまだ味わいたい。
究極の限界を迎えた上で全てを解き放ちたい。
悠理の甘い吐息を、肌を、粘膜を全て知り尽くした上で存分に吐き出したい。
「もう少し、我慢してくれ。」
細すぎる腰をしっかり抱きながら、己の分身が彼女の中でどう動いているか想像する。
医学的な知識が無くとも、男なら誰だって知っているその形。
当然ながら僕は隅々まで知っている。
先端に感じる最奥を捏ね回す快感はこの上ない高揚を与え、更なる欲を掻き立てる。
全てを食らい尽くしたいと願うほどの野蛮さで、鍛えた腰を振りたくり、悠理の泣き顔を目に焼き付けた。
「んんんんっ………やぁぁ………っ!」
盛りのついた犬でももう少しマシだろう。
初めての女に対する仕打ちとは到底思えない。
愛しいと感じながらもサディスティックな部分が顔を覗かせ、この顔をずっと眺めていたいと願う。
壊して、慈しんで、また壊す。
己の中に沈んでいた野性がこんなにも醜く、扱いにくいものとは思わなかった。
汗ばんだ小さな胸はフルフルと揺れ、初めてのセックスの激しさに鼓動が速い。
散々吸い尽くした愛咬の跡が痛々しいほどに赤く染まっている。
このまま抱き潰してしまえばどうなるのだろう。
邪欲に身を任せ、悠理の意識すら奪ってしまえば………
頭を過る不埒な考えに、より一層興奮度は高まり、いよいよ限界も近付いてきた。
涙の滲む眦を舌で舐めとり、まるで罪を購うかのように「愛してる」と繰り返す。
堰を切る想い。
と同時に吐き出される抑圧された欲望。
「ああ……ぁぁっ………あーー!」
彼女の、浸食され汚される身を嘆くような長い悲鳴に、胸が鷲掴みにされた。
小刻みに震える己の肉体が、悠理の奥深くで爆ぜるように歓喜する。
ようやく僕のものになったという確たる証拠が知らされると、次に訪れたのは爽やかな達成感。
流し込んだ白い液体が全ての細胞に染み渡ることを願いながら、汗ばんだ額に口付ける。
「悠理………好きだ。」
この先、他の誰にも触れさせたりはしない。
もちろん、あの野心家で不作法な男には一瞬の隙すら与えるつもりはない。
朧気に瞼を開いた悠理の目はウサギのように赤く、僕の顔を見た瞬間、恥ずかしそうに横を向いてしまった。
「あたいも…………」
精一杯の可愛らしい答えに、愚かな分身がまたしても猛り出しそうになる。
息が整うのを待ち顔を覗き込めば、そっと見上げる輝く瞳に魅せられ、改めて美しい女だと感じた。
元来人一倍タフな躯の持ち主だが、傷ついたのは確か。
僕としても罪悪感を感じてしまう。
「よく我慢しましたね。」
「…………激しすぎだろ、この……スケベ。」
こんなのはまだ序の口、と教えてやればよかったのだろうか?
軽い痙攣が残る肌を撫でながら、ゆっくり熱を冷ましてゆく。
照れ隠しにソッポを向いた横顔が、この上なく可愛かった。
愛しさが次々湧いてくるのは、相手が悠理だから?
他の者には一切感じない感情の渦に、僕はただひたすら酔いしれた。
初めて過ごした濃密な夜。
結局大人しく眠れるはずもなく━━━
頃合いを見計らうと、再び欲望赴くまま貪ってしまった。
喘ぐ声が枯れ、互いの汗の滑りすら刺激になり始めた頃、ようやく鎮火。
大いびきをかきながら横たわる恋人の、恥じらいない姿を横目に、僕は心地よい眠りにつくことが出来た。
━━━━━本当に幸せな夜だった。
その男は悠理を諦めていない。
そう知ったのは、結ばれてから僅か十日後のこと。
剣菱主催のパーティでまたしても男、“大利根 貢”は彼女にモーションをかけてきた。
だがもちろん、強引に唇を奪った犯人を悠理は許したりしない。
睨みつけ、激しく威嚇する。
しかし相手はなかなかの手練れで、何の反省も見せないまま不敵な笑みを湛え、距離を縮めていった。
僕はその時、豊作氏と数人の起業家を交え語り合っていて、全く気付かなかったのだ。
招待客として呼んだ記憶もないその男が悠理に接近していることを。
三百人もの客が歓談する中、男は悠理に焦点を定めていた。
そして彼女が夢中になっている料理やワインを把握し、そこへ小さな仕掛けを施したのだ。
恐らくは軽い睡眠薬。
もしくは精神安定剤。
威嚇していたはずの悠理が、あえなく男の手に落ちたこと、僕は気付かなかった。
気付いたのは、パーティに遅れてやってきた美童だ。
「あれ……………もしかしてやっぱ悠理だったのかな?え、じゃあヤバい……かも。」
男物のコートを羽織った悠理らしき人物が、小脇に抱えられるようにして黒いベンツに乗り込んでいたと聞いた時、自分でもぞっとするほどの怒りが立ちこめた。
男の目的は明らかだ。
僕は直ぐに魅録へ協力を乞い、権力を使い警察を動かす。
悠理に再び触れたこと、きっちり後悔させねばなるまい。
握りしめた拳は今まで感じたことがないほど冷たく、無意識に爪が食い込み血を流していた。