Happy Daily Lifeシリーズ第四弾はRで。
「あ…………このタイピン。」
“奥さま”なんてちっとも柄じゃないけど、結婚して半年。
ようやくその呼び名にも慣れてきたように思う。
“お嬢様”から“奥様”へ━━━━
どこに行っても、清四郎の妻として振る舞わなきゃならない現実。
“剣菱悠理”はここに存在するのに。
個性をまるっきり無視されたみたいで、ちょっぴり淋しく感じたりもするんだ。
溜息の数はいつもより少し増えていた。
イエローダイアモンドが埋め込まれた猫型のタイピンは、先月南米を旅した時、土産として買った物。
“清四郎と猫”
…………ちょっと似合わないかもだけど、いい土産にはなったと思う。
「ありがとう。大事に使わせてもらいますよ。」
あいつはあたいが手渡す物なら、道端の石ころだって喜ぶだろう。
“清四郎の愛”は昔に比べても格段に膨らんでいる。
「………ま、あたいもそーだけどさ。」
プレゼントを喜んだその日の夜。
高めのワインと美味しい生ハムを口にしながら、ゆっくりと二人きりの時間を過ごした。
何かと忙しい奴だから、こういう機会はすごく貴重。
ほろ酔い加減で清四郎の腕に包まれていると、気分が乗ってきたのか、大きな手が胸を這い回る。
馴染んだ動き━━━でもって時々意地悪でもある。
ちっちゃな胸をあらゆる方法で感じさせる手が、その後、爛れた欲情を連れてくるのは当然だった。
「悠理……………眠いですか?」
いつもなら気にもかけないくせに、よっぽど嬉しかったのか、お伺いを立てる。
「…………眠くなんかないよ。」
素直に誘いを受け入れようとグラスを置き振り返れば、優しく微笑んだ清四郎の目にはっきり、熱い火が灯った。
「今夜はたっぷり御礼をしないと、ね。」
そう言ってソファに押し倒された後、部屋着をすっぽり脱がされる。
後は寝るだけってつもりだったから、ブラジャーもしてなかった。
あれよあれよと裸になって………清四郎が選んだシャンパンゴールドのパンティは空を舞い、床にふわりと落ちた。
「ここで?」
「ええ。夫思いな可愛い奥様を存分に満足させてあげますよ。」
塞がれた唇は直ぐに熱を持ち、やらしい舌の侵入を呆気なく許してしまう。
清四郎はキスが巧い。
付き合い始めた頃からずっと。
気にすればするだけモヤッとするし、今はこいつを独り占めしているのはあたいだけだから、過去のことは不問にしようと思う。
…………たぶん。
━━━にしても腰がムズムズするキスだ。
お腹の底からどろっとしたモノが溢れてしまう。
「濡れて、きましたね。」
いつの間にか長い指がそこを擽っていた。
わざとらしく音を立ててかき混ぜられて、頭が痺れる。
清四郎に開かれた身体は単純だ。
体だけじゃない、心も同じように。
「………ワインの所為だじょ?」
恥ずかしくて酔ったことにしてしまいたかった……がそんなの通用しない。
「違うでしょう?これは………この滑りは間違いなく僕の所為だ。」
全部知り尽くした二本の指が、中で暴れ出す。
器用でやらしい指。
この指で与えられる愛撫は、言い訳も照れ隠しも奪ってしまう。
「ん!んっっぅ!!」
「声………我慢しなくていいから。」
少しでも気を抜けば、叫んでしまいそうなほど気持ちがいい。
クチュクチュと恥ずかしい音が辺りに響き始めると、清四郎の呼吸も荒々しさを増す。
興奮している。
それが嬉しい。
「ね…………あたいも、触るよ………」
無言で肯くくらいだから、きっと期待していたに決まってる。
ジッパーを下ろし、中からゆっくり優しく取り出したモノは、まるで火に焼べられていた棒のように熱くて硬かった。
手のひらでそっと擦り上げただけで、それはずっしり重くなる。
滑らかで、ほんの少し括れがあるだけのくせに、おかしくなるくらい気持ちよくしてくれる物体。
“他のモノ”は見たことないけど、きっと清四郎のは特別なんだと思う。
互いの大事なところを触り合いながら、食べるようなキスを重ねていると、どんどんやらしい気分になってくる。
もどかしくて、ちっとも落ち着かない。
「んっ………ふ……ぁ………せ、しろ………」
上も下もドロドロになっちゃって、
それでも決定的なものが足りなくて━━━━
強請るよう腰をくねらすと、清四郎は勝手知ったる顔であたいの弱点を軽く摘まんできた。
「やぁ…………っ!」
「もう硬くなってますよ……………ほら。」
「そん………な!………ぁあん、弄るなよぉ………」
「よく言う…………好きなくせに。これなら何本でも入りそうだな………」
言うや否や、三本目の指が窮屈そうに押し入ってきて、息が詰まった。
「や!それ……じゃない………」
「おや、コレじゃない?じゃあ………何が欲しいんです?」
ドSな顔で覗き込んでくる厄介な夫。
尋ねながらも掻き回され、水音が響きわたる。
奥まで届くんじゃないかってくらい……清四郎の指は長かった。
「お………おまえの……挿れてよ………我慢出来ないから……ぁ!」
「でもまだ口でしてませんからねぇ……。あまり急ぐと、悠理の繊細な此処が切れてしまうでしょう?」
歪んだ口元が喜んでいるとわかる。
清四郎のイジワル。
いっつもこうなんだから。
「いい!いいから………は、やくぅ………!」
「避妊具はあり?なし?」
バラバラに動く指が、次々と弱いところを攻めてくる。
避妊なんて…………よっぽどな日以外してないじゃないか。
わざとらしく聞くあたり、焦らしたくてしょうがないんだろうけど。
「無しで…………そのままの清四郎のがいい!」
フッ……
当然のように笑った後ソファに押し倒されて、ようやく三本の指は立ち去った。
濡れまくった指を清四郎の口が綺麗にする。
何度見ても恥ずかしすぎる光景。
早く、早く━━━
目と身体で急かしてるのに━━━
ほんと、ひどい男だ。
「では………いきますよ。」
言葉こそ丁寧でいつもの清四郎みたいだけど、直立したソレの大きさはいつも以上に凄かった。
ああ、やっぱ裂けちゃうかも………
「んっ!んっ!!………っ!」
詰まる息がうまく吐き出せない。
熱くておっきくて、こんなんほとんど凶器だってわかってる。
でも欲しくて………一秒でも早く欲しくて。
涙が出るほど突き上げてくれるのを待っている。
ゆっくり侵入しながら覆い被さってきた清四郎の舌が、優しく耳を舐める。
耳朶の輪郭をなぞるように這う、やらしい舌。
ぞわぞわとした気持ちよさに力が抜けて、その瞬間を見計らったように一番奥深くまで貫かれる。
「ああ……っぁぁ!」
気持ちよすぎて声が抑えらんない。
頭の中で火花が散ってるみたいだ。
どうしよう。
今、動かれたら、すぐイっちゃいそう。
そう思って清四郎を見上げると、奴自身も余裕がないのか眉間にしわを寄せていた。
「…………せぇしろ?」
「まずい…………このまま中に出したくて仕方ない。」
確かに久しぶりのエッチだった。
二週間ほど忙しくて、出張も多くて、なかなかタイミングが合わなかったから。
━━━━危険日ってやつじゃないけど、100%安全でもないよな。子供は二年後って決めてるし・・・
「我慢出来なくなったら………か、かけていいから。どこでも………」
こっちだってもう我慢出来ないんだ。
自分でもわかるくらい中がうねってる。
「…………言いましたね。」
両脚を高く抱えられ、よりぴったりと密着してくる熱い腰。
逞しい肩に乗せられた自分の脚をぼんやり眺めていると、清四郎は「一晩中、啼く覚悟をしなさい。」と優しく教えてくれた。
「はぁ………気持ちよかったなぁ…………」
「何がです?」
クローゼットルームの小さなソファに腰を下ろし、呆けていた妻。
帰宅したばかりの夫が背中越しに声をかけると、悠理はまるで漫画のように飛び上がった。
「せ、せ、清四郎!おかえり!!」
怒号ともとれる挨拶に、思わず眉をしかめる夫。
しかし観察眼に秀でた男は、妻の手に猫型のタイピンがあることをあっさり見留めた。
「…………な、なんだよ?」
焦り、たじろぐ悠理の顔は真っ赤に染まっている。
その笑えるほど単純な反応。
昔も今も変わらない彼女らしさ。
そう、あれは一ヶ月ほど前の話だ。
海外土産として貰った猫型のタイピンは意外だった。
いつものように食べ物ではない。
清四郎が普段身に着ける物の中から選んだ、悠理の妻心が胸を疼かせた。
ごく自然に手渡されたその贈り物が、夫婦になった実感を与えてくれたのだ。
「そのタイピン、今日使おうと思ってたんですが、つい忘れてしまって………」
「あ、そなんだ。椅子の上にあったから…………その、気になって………」
ぎこちない返答をしながらも悠理の顔から赤みは消えず、さっきまで思い出していた清四郎との濃厚な夜が、足の付け根に違和感を感じさせる。
(……………うぅ、あたい濡れてんじゃん。下着びしょびしょだー!)
「じゃ、これ………」
居たたまれなくなり、早々に退散しようとタイピンを持つ手を差し出したその時━━━━夫の腕が悠理の体ごと引き寄せる。
悠理すら敵わぬ強力な力で絡みつき、逃げ道を断つ。
「やらしい奥さんですね………何を思い出していたんですか?」
耳に忍び込む低い声。
待った無しの色気で囁かれた悠理は、またしても下着が重くなる感覚を覚えた。
「エッチな匂いが漂ってますよ。」
そう言えば夫は鼻が利いた!
悠理はあまりの恥ずかしさに涙目で応える。
もはや言葉にならない。
「こらこら、泣かなくてもいいでしょう?妻として最高の出迎え方なんだから。」
恐る恐る見上げると、心底嬉しそうな清四郎の笑顔が飛び込んできた。
そして涙を吸い取るように瞼へキスを、その後、頬、鼻、唇へと降りてくる。
「僕も…………これを見る度に思い出しますよ。あの夜の悠理を。」
秘めた情熱をうまく隠しながら、清四郎はネクタイを外した。
それはもう、この先の行動を示す一つの鍵。
「………清四郎………」
「ん?」
だから悠理も素直に開かれた扉に向かう。
「ソファじゃなく………ベッドがいい。」
「了解。」
まだまだ新婚な二人のラブライフは、こうして過ぎていくのであった。