次の日───
悠理は大きな決意を胸に、菊正宗家の扉を叩いた。
自分の気持ちを何十回も反芻し、ようやくこの勇気が出てきたのだ。
清四郎の想いを確かめる。
“恋愛したい”と告げた彼の気持ちを………
悠理にとって恋愛の定義なんてものはわからない。
分かろうとしたこともなかった。
少なくとも、清四郎と一緒にいる時間は楽しいし、誰よりも頼りになる男だと信じている。
元々の相性は良い方ではないが、交際を始めてからというもの、彼は少々変わったような気がした。
紳士的で優しく、異性として扱ってくれる。
スマートなエスコート。
デートの最中、背中がむず痒くなる時もあって、悠理は何度も戸惑った。
言わずもがな、清四郎はいい男だった。
美童のように気障ではないけれど、的確な気遣いと優しさを与えてくれる。
そんな居心地の良さは、悠理をも少しずつ変化させていったのかもしれない。
慣れない視線に潜む、彼の熱。
いつしかその目で、自分だけを見つめてほしいと思った。
見守られているような温かさに心が凪ぐ。
他の誰かに視線を向けられるのは腹立たしく、それが野梨子や可憐であってもモヤモヤとしてしまう。
もしこの独占的な気持ちが『恋』だというのなら、間違いなく悠理は清四郎に恋している。
それが解ったからこそ、確かめなくてはならないのだ。
手を繋いだり、
肩にもたれかかったり、
キスをしたり。
そんな一般的なプロセスを思いつかなかったのは、彼の側で安らぎを感じ、すべてが楽しく思えたから。
映画を観た後も、
旅をした後も、
食事の最中も、
悠理は何度でも清四郎との時間を分かち合いたいと願った。
それは驚くほど不思議な変化だった。
清四郎の気持ちと自分の想い。
果たして釣り合っているのだろうか?
海が満ちるように不安が押し寄せる。
「…………好きで居てくんなきゃ、ヤダなぁ。」
ポソリ、扉を叩く前に呟いた本音は、悠理の胸に黒いシミを落とした。
付き合っているはずなのに、こんなにもあやふやで、こんなにも切ない。
それを払拭するにはやはり清四郎の言葉が必要だった。
彼の口から聞かなくては何も始まらない。
それがたとえ望んだ言葉じゃなくても────
「悠理?どうしました?」
普段よりずっとリラックスした格好で、清四郎は玄関先に現れた。
ほんのり崩れた髪型に一瞬ドキッとさせられるが、別に初めて見たわけではない。
ただいつもと違うだけ。
悠理は深く深呼吸をし、口火を切った。
「あの………ちょっといいか?」
「どうぞ。」
促された先は清四郎の部屋でなく、20畳近くあるリビングだった。
グレーのファブリックソファと大型テレビ、そして空気清浄機が静かに稼働している。
「女達は皆出払っていて、気の利いたものは出せませんが………アイスコーヒーでいいですか?」
「うん。シロップ二つ付けて。」
清四郎が台所に引っ込んだ後、そういえばこの部屋は初めてだ、と思い至る。
いつもは清四郎の部屋か、奥の座敷。
スパルタに勉強させられた記憶がよみがえり、つい苦い気持ちになる。
あの時の孫悟空の輪は何処に行ったのだろう。
もちろん二度と味わいたくないアイテムだが。
コの字型のソファは座り心地が良く、つい深くまで腰掛けてしまう。
家族団欒で楽しむ時、清四郎の定位置は何処なんだろ?───なんてどうでもよいことを考えていると、グラスを乗せたトレーを手に彼は戻ってきた。
「今日は蒸しますね。」
「うん。」
「冷蔵庫に冷えたゼリーがありました。食べるでしょ?」
「あ、もちろん!」
手際よくガラステーブルに並べられたルビー色のスイーツ。
悠理の分は最初から二個、皿に盛りつけられていた。
「いっただきまーす!」
ほぼ二口で完食し、ズズッとコーヒーを啜る。
食べ物を前にすると、素の自分に戻ってしまうから厄介だ。
チラリ、真向かいに座る清四郎を窺えば、「………相変わらずの勢いですな。」と呆れ顔。
悠理は思わず赤面した。
「で、用件は?……………まさかデートの約束でもしていましたか?」
「ううん。違う。今日は聞きたいことがあって………来たんだ。」
いつもの勢いで尋ねられない。
そんな弱気は自分らしくないなとつくづく思った。
「ふむ………にしても、これから来るときは連絡下さいね。僕もそれなりに忙しい人間なので。」
突き放したような言葉だがその表情は優しく、素直に「そだな。」と頷く。
ローテーブルを挟む距離では話しにくい為、悠理はわざわざ立ち上がり、清四郎の隣に座った。
「あの………さ。」
「ええ。」
余程話しにくいことなのか、と清四郎は身構える。
強ばった表情の恋人が置かれたクッションを弄り始め、次にどんな言葉を発するのか、にわかに不安になってきていた。
人の心理を読むのは得意だが、悠理だけは時として突拍子もない事を言い出すので、気が抜けない。
清四郎は注意深く、その不安げな顔を見つめた。
「……………………あたいのこと、どーおもってんの?」
「……………は?」
やはり突拍子もない質問だった。
だがまだまだ常識の範囲内。
そっと安堵のため息を吐く。
別れ話だとしたらこうも落ち着いては居られないだろう。
清四郎は一瞬にして湧き上がった焦燥を宥める為、何度か首を振った。
その裏で冷や汗を拭う。
どーやら本気で不安がっているらしい。
頬を赤らめる悠理はとても可愛らしく、しかし目は泳いでいた。
よほど聞きにくい質問だったのだろう、と推測し、普段の行いからは考えられないほど女っぽいその姿が、彼の萌えポイントを刺激する。
今、家には二人きり。
自室へ通さなかった理由は………
もちろん、一つだ。
「それはどういう意味で?人間としてですか?それとも恋人として?」
「こ、恋人に決まってんだろ!」
「…………ふむ。」
揺れる不安と期待。
見上げるその瞳は、初めて見る類いのもので、それはもちろん悠理の中で何かが成長している証だった。
清四郎は侮っていたのだ。
こんな質問に辿り着かないほど、悠理の恋愛偏差値は低いと思っていたし、実際交際を始めてからも、お互い気持ちを確かめ合うことはなかった。
ただ一つの真実さえあれば、関係は成立するだろうと信じていたし、悠理のことなど片手でコントロール出来る自信もあった。
しかしここに来て、それが間違いであったと気づく。
「………おまえ、なんも言ってくんないし。………そりゃあたいだって普通の女じゃないって解ってるからさ。無理やり言わせる、なんて強引なこと出来ないけど………やっぱ知りたいじゃん?」
「僕の気持ちを───知りたいんですか?」
コクン
頷いた悠理はいつもより小さく感じる。
よくよく見れば頬も赤く、長い睫毛と薄茶色の瞳がまるで誘うように瞬いていた。
整った顔立ち。
黙っていれば人形さながらの造りだ。
紅潮した肌がむしろ不自然と感じるほどに。
─────きれいな顔をしているな。
改めて実感した清四郎は静かに唾を飲み込んだ。
こみ上げてくる情動を必死で抑えようとするも、悠理から目が離せない。
今すぐにでも腕の中に閉じこめたくて仕方なかった。
理性を保つため、敢えて家族が過ごすリビングへと通したが、どうやらそれも徒労に終わりそうだ。
膝の上で握った拳がじんわりと汗ばむ。
自制心に多くの鍵をかけ、悠理の気持ちが整うまで大人しく待とうと決意していたのに───それは驚くほど脆かった。
少なからずショックを受けた清四郎は悠理の顎に指を添えた。
衝動的ともとれる行動。
ビクッ
彼女の初々しい反応は男の支配欲を煽る。
今、踏み出そうとしている一歩は…………清四郎自身覚悟していなかったものだ。
「僕の気持ちは言葉なんかじゃ伝わりませんよ。だいたい悠理はどうなんです?」
「え?」
「僕に恋心を抱いてますか?」
改めて尋ねられると恥ずかしいもので………悠理は真っ赤になりながらも、精一杯首を縦に振った。
「……………す、好き…………だと思っ…………んっ!!!!」
最後まで言い切れなかったのは、清四郎が抱き締めてきたから。
そして恐ろしいスピードでソファに転がされる。
天井を見上げ、言葉を失っていると、覆い被さってくる清四郎の目がいつもの冷静さを欠いていた。
赤いシグナルが鳴る。
「ち、ちょっ…………」
「気持ちなんて………初めから一つだ。」
清四郎の体は見た目よりも重く、そしてその熱は高かった。
悠理を閉じこめるだけの力もある。
近づいてくる端正な顔。
目を閉じる事も出来ないまま、頬をなぞる唇。
しっとりとした感触を不思議に感じながら、悠理は身を固くしていた。
こんなことはもちろん初めての経験で、何をどうしていいか分からない。
「悠理…………」
耳の側で囁かれた自分の名は、まるで別の音のように甘かった。
「好きだ………。」
瞬間、脳が痺れる。
求めていた回答を得て、喜びが胸いっぱいに湧き上がってくる。
シンプルな一言に、想像していた以上の情熱を感じ取り、全身がじわじわと発汗していく。
それと共に安心感が広がり、思わず涙がこみ上げた。
「清四郎………ほんと?」
「当たり前でしょう?」と目で合図する彼がいつになくチャーミングだ。
そんな仕草に見とれていると、清四郎の指が悠理のシャツの中へと忍び込んでゆく。
侵入を許した覚えはないが、しかしそれがこの男の常だった。
悠理の思いなど、きっと百も承知のはず。
流されるようにすべてを受け入れてしまう。
「ま………待て……………あっ……」
「僕を好きなんでしょう?それに………」
更なる重みを感じながら、清四郎の囁きを耳で受け止める。
「僕の気持ちを知りたいなら…………このまま身を任せて…………」
甘い呪文に捕らわれ、悠理は更に身を固くした。
こんなことを、あの中学生たちは経験してきたというのか。
それは当然の疑問だったのかもしれないが、別の意味で奮い立つ勇気を悠理に与えてくれた。
「し、しちゃうの?」
「ええ。…………ここじゃ嫌ですか?」
「イヤじゃ…………ないけど…………」
「熱が冷めないうちに、悠理と繋がりたいんですよ。」
清四郎の手によってめくり上げられたシャツの下は、薄いキャミソールとブラジャーだけ。
肌を滑る手のひらは温かく、そしてこの上なく優しかった。
「悠理………」
何度も繰り返される呼びかけとキス。
清四郎がこんなにも優しく接してくることは、未だかつて無かった。
脱がされた服や下着がソファの背もたれにかけられ、次に彼自身がトレーナーを脱ぐ。
引き締まった体から溢れる男の色気は、熱に浮かされた悠理をダイレクトに刺激した。
「すごい………筋肉。」
「今更………なにを…………」
思わず伸ばした指先が肌に触れると同時、清四郎は悠理の下半身を大きな掌で包むようにした。
「あっ!!」
「好きなだけ触っていなさい。僕も遠慮しません。」
「そ、そこ…………やっ!!」
泣きそうになりながら首を振り、慌てて手を離すも、清四郎は止めようとしない。
むしろマッサージの如く、何度も揉みほぐしながら中心が潤むのを待った。
「あっ………んっ…………!」
「柔らかいですね…………どうです?感じてきましたか?」
中指が割れ目をなぞる。
ヒクヒクと緊張する襞を暴くかのように、骨の角を使い、敏感な芽を擦りあげた。
「ん……ぁっ!!!そこ、やだっ…………!」
もう片方の手が悠理の小さな丘の突起を捏ね始める。
どこを触れられても、未知の感覚が広がり、もはや筋肉に見惚れている余裕はない。
「かわいいオッパイですな。………それに成長の余地もありそうだ。」
コンプレックスを抱える悠理にとって、それは嬉しい言葉だ。
が、喜んでいる暇はなく、覆い被さってきた清四郎が唇を湿らせ胸を吸い上げた時、全身を駆け抜けた電流は、悠理の意図と関係無く愛液を迸らせた。
「あぁっ!!」
「ふ…………感度もいい。ま、想像していた通りですけどね。」
コロコロと転がすように、口の中全てで乳首を弄ぶ男。
まぶされた唾液は糸を引き、彼はそれを吸い取るように何度も蕾に口付けた。
「こ、こんなの………はぁ………恥ずかしいよぉ!」
「羞恥は何よりのスパイスです。もっと恥ずかしがって構いませんよ。」
突如大きく広げられた脚の間を、清四郎の目が貫くように見つめる。
うっすらと生えただけの茶色い恥毛は、彼女の幼稚な精神に見合っている気がした。
「や………や、見るなっ!!」
精一杯脚を閉じようとしても、清四郎の力には敵わない。
柔軟な体を割り開き、まじまじと見つめ続ける。
「…………綺麗に閉じてますね。」
その無垢な美しさは、清四郎にとって初めて目にするものだった。
こみ上げる興奮を抑えきれず、悠理の腰を軽々持ち上げ、自身の顔の前に近付ける。
「ひっ………な、なにすんだ!?」
「味わうんですよ。たっぷりと………」
────味わう??
悠理は気が遠くなりそうだった。
それでも体はコントロールを奪われたように、意志のままには動かない。
────清四郎はこんな経験、あるのだろうか?
もやっとした考えは、しかしすぐに吹き飛んだ。
清四郎の巧みな舌遣いが全ての反抗を封じ込め、ただ快感に喘ぐ人形のように作り替えてしまう。
蕩ける感覚は一度覚えたら病みつきになるものだ。
無意識に腰を蠢かせ、男の舌に翻弄されまくる体は、気付けばびっしょりと汗を振りまいていた。
気持ちよさと恥ずかしさが天秤を揺らす。
「…………辛いかもしれませんが…………ちゃんとイキ方を教えてあげますね。」
ただ舐(ねぶ)られていたはずの小さな芽が、今度は強弱をつけて吸い込まれる。
わざとらしい音を立て、何度も何度も。
悠理はあまりの快感に言葉を失い、チカチカと瞬く視界を前に身悶え続けた。
「んんんんんんっ!!!!」
気が狂うほど辛かった。
それと同じくらい気持ちよかった。
自分ではどうしようもない高波が繰り返し襲ってきて、それが清四郎の匙加減一つで奪われる。
「やっ、や、やぁーーーー!」
悠理の叫び声を聞きながら、清四郎は手を休めることなく、敏感な芽を弄び続けた。
苦痛の向こうに天国があると知っているからこそ、執拗に。
「ひっん………!!!」
緊張状態が最大限まで引き上げられ、その後重力に逆らえず墜ちてゆく腰。
ドロドロに濡れた其処は、息を吹きかけられるだけでも刺激に震えた。
くたりと身を横たえた悠理の息は荒い。
清四郎は濡れた口を手の甲で拭い、放心状態の恋人を見つめた。
普段あれほど快活な体が、今は柳の枝のような色気を感じさせる。
そんな変化に心底喜びを感じる自分を、清四郎は驚きと共に受け入れた。
ゆっくり覆い被さり、とろんと瞼の落ちた顔を眺める。
いつものじゃじゃ馬は鳴りをひそめ、今はもう、清四郎の思うがままに鳴いてくれる。
「悠理………」
唇にそっと触れ、口内へと指を侵入させれば、悠理は素直に吸い付いてきた。
きっと何も考えていない。
ただ自分の身に起きた衝撃に戸惑っているだけだ。
「最後まで…………していいんですね?」
「………ふぁいご(最後)?」
「僕は───おまえが欲しいんです。」
承諾は必要だった。
無理矢理手込めにする趣味はない。
そして悠理の疑問に応えるには、これが一番確実な方法だと信じていた。
指を引き抜き、唾液に濡れたそれをしゃぶる。
替わりに濃厚な口付けを与え、閉じた歯列を割り、奥深くへと舌を差し込んだ。
何も知らない悠理はただただ戸惑うばかり。
息苦しさの所為か、涙目になる姿も愛らしく、清四郎は手加減を忘れ、口の中を犯し続けた。
「んぅ…………ふ、ぁ……………せぇ………んッ!」
濃厚な舌が悠理のものへと絡みつき、吐息も言葉も奪い去る。
脱力していく体はまるで魔力をかけられたように痺れ、それでいて体の奥深くに高温の熱が次々と生まれゆく。
口内を舌で嬲られる心地良さを植え付けられた悠理は、清四郎の背中へおずおずと手を伸ばした。
ここではそうすることが自然だと感じたからだ。
細く柔らかな腕を背に受け、清四郎のキスは更に激しいものへと変化する。
唾液の跳ねる音が部屋中に響き、悠理は恥ずかしくて仕方なかったが、相手はそうでもないらしい。
濃厚な口付けを主張するかのような艶めかしい音を繰り返し、甘美な世界へ引き込もうとしてくる。
身が解れ、悠理はここが他人の家のリビングであることを忘れかけていた。
胸を揉まれ、膝で濡れた秘処を探られる中、どんどん現実から遠ざかっていく気がする。
自分が自分でないような感覚。
清四郎の荒い息遣いと鋭さを孕んだ観察眼に、身の内を全て暴かれるような気がして、悠理は恐怖すら感じた。
「準備しますから………少し待っていてください。」
ようやく解放された口からは言葉を発する事も出来ず、ハァハァと息を荒くするだけ。
清四郎は上半身裸のまま起き上がると、悠理をソファに置いたまま何処かへ立ち去った。
居たたまれない時間を、震える体で過ごす。
暫くして戻ってきたその手には、小さな長細い箱があった。
「………なに、それ?」
「知らないんですか?避妊具です。」
「…………知ってる。」
「でしょうね。」
中から一つ取り出した清四郎は、悠理の目の前で袋を噛み切る。
その生々しい行為に、悠理は現実に引き戻される気がしたが、次に目にした光景は彼女に更なる衝撃を与えた。
男の性器を初めて見たわけではない。
いつぞやは立ちションするブツを直視したこともあった。
しかし今回は違う。
ズボンを引き下ろした清四郎がダークカラーの下着から取り出したそれは───あまり見慣れぬ形で聳え立っていた。
濃い赤茶色の物体。
紛れもない、勃起した性器だ。
「はわわわわわ…………」
腰が抜けて脱力感に襲われていた悠理も、それを目の当たりにした瞬間、逃走本能が働いたらしい。
ソファの上で慌てて身を起こした。
長く張り詰めた武器のような形。
その上から薄いゴムを被せてゆく。
「む、む、む、む、無理…………」
「大丈夫ですよ。…………そこまで怯えなくてもいいでしょう?」
「絶対入んない!」
「ゆっくりしますから………。僕に任せなさい。」
退路を断つように、清四郎は悠理に覆い被さった。
そして泣きそうな頬に何度も口付けを落としながら、悠理の胸を優しく揉みほぐす。
「一つになれば………僕たちはもっと仲良くなれます。」
「な…………かよく?」
「ええ。もうお互いしか見えなくなる。」
両足を開き、膝でにじり寄った清四郎は、もう片方の手で濡れた部分を解し始めた。
熱をもったままの其処は先ほどの唾液と愛液でとろとろになっていたが────念には念を入れる。
「っっ!………やぁ………触んな………!」
「もう少し柔らかくしないと…………痛いのはヤでしょう?」
浅い部分に指を抜き差しするだけで、悠理は見事な反応を見せる。
とても初めてとは思えない乱れっぷり。
清四郎は感度の良さに感心しつつ、ゆっくりと自分のモノで擦り始めた。
「悠理……………力を抜いて………」
「あ…………せぇ……しろ。も、入れんの?」
「少しずつ、ね。」
じりじりと忍び込むその大きさに、悠理は目を瞠った。
それは熱くて硬くて、経験したことのない圧迫感。
タンポンなどとは比べようもない感触だ。
「む、無理…………ぁ、あ、くるし……」
「一度………抜こうか?」
悠理の泣き顔を見つめながら、清四郎は腰を少しだけ引いた。
しかし一度得た挿入感が失われると、何故か物足りなさを感じてしまう。
モジモジと尻を蠢かせ首を振ると、悠理はようやく清四郎の顔を真っ直ぐに見つめた。
男も苦しいのか、眉間にいつもより深い皺が寄っていて、それが気になって仕方ない。
「…………あたい………変?」
「…………は?」
「だって、なんか…………機嫌悪そうだから。」
「………あぁ、それはね。」
清四郎は内緒話をするように悠理の耳元へ唇を近付け、「早くおまえの中で気持ちよくなりたいのを………我慢しているからですよ。」と囁いた。
そのクラクラするほど官能的な声に、悠理は訳も分からず、喉を鳴らす。
清四郎の声にこれほど肌を粟立てたのは、初めてのことだった。
「…………我慢しなくていいから………おまえの好きなようにしろよ。」
精一杯の強がりを見せれば、清四郎は嬉しそうに頬を緩める。
「気持ちは有り難いですが…………おまえが痛がると僕も困るんです。」
「なんで?」
「二回目が………出来ないでしょう?」
「ふぇ?」
そんな暴露を聞いて、胸を震わせる自分はどこかおかしいのかもしれない。
悠理はドキドキしながら、清四郎の高い鼻を摘まんだ。
「…………ば、バカヤロ。一回で充分だい。」
「その言葉………必ず撤回させてやりますからね。」
・
・
・
四苦八苦を繰り返し、ようやく繋がったとき、二人は汗だくだった。
清四郎の気遣いが功を奏したのだろう。
悠理は当然痛みを感じていたが、それは想像したよりは遥かに軽いもので、むしろ心が満たされる感覚の方が勝っていた。
互いの顔を無言で見つめ合い、その充足感に浸る。
清四郎の汗ばんだ背中を悠理の腕が抱き締めた時、彼の中でスイッチが入ったのは間違いなかった。
今までにない、荒っぽい口付けがその証拠。
悠理の口内を長い舌が搔き混ぜるように攫っていくと、柔らかく解れた肉の中を硬く張り詰めた杭が同じように動き始めた。
「んっ……!」
身動いだ身体を清四郎が抱き締める。
「……ちょっと……苦しいかもしれないが、我慢しろ。」
その言葉にいつもの余裕は感じられず、悠理は無言で頷くほかなかった。
徐々に速く、激しくなる律動。
奥深くまで届いていなくとも、未通だった胎内は引き攣るような違和感を感じる。
「あ……そんなに……動いちゃ……ダメ……」
「悠理…………もう少し我慢を。」
清四郎が慰めるよう胸先を啄むと、不意に襲ってきた甘い痺れに悠理の喉から歓喜の声が溢れた。
「あ……ん!ああ!!」
その声を聞き、今度は容赦なく突き入れる。
自分でもコントロール出来ないほど、悠理の身体は彼を溺れさせようとしていた。
ゴム越しだというのに、今すぐにでも吐き出したくなるほど、熱い胎内がうねるように締め付けてくる。
抜き差しする度に溢れる愛液が見事潤滑油となり、えも言われぬ心地よさを生み出した。
こんなにも濡れてくれるとは想像もしておらず、清四郎は嬉しい誤算に興奮を覚えていたのだ。
「悠理……ゆうり……!」
止め処なく涙を流す恋人を慰めるように何度も呼びかけるが、実際はただ単に清四郎の中で愛しさがこみ上げていたに他ならず、’ゆうり’という名を呼ぶ度、愛情が増幅していく感じがした。
「せい……しろ……!」
どろどろに濡れた最奥に亀頭が押し当てられた時、悠理は恐ろしいほどの反応を見せた。
抑えきれない嬌声を洩らしながら、清四郎の背中を必死で掴んでくる。
「……ここ、イイんですか?」
「わ、分かんない!」
「これは?」
コリコリと擦るような動きに、悠理の腰が大きく揺れる。
それは間違いなく、快楽を手にした時の反応だった。
「初めてなのに……まさか、こんなにも感じるとは。」
「だ、ダメなの?」
「いいえ…………最高です。」
そう断言した清四郎は、そこから容赦なく悠理を突き上げ始めた。
ぬるぬるの膣内を掻き分け最奥まで達すると、再び抜き、また挿れる。
「んんっ……!あっ、やっ……!あああ!!」
抽送を繰り返すたび、頭が痺れるように快楽を追い、加減が出来なくなる。
悠理の身体が壊れてもいいと思うほど、清四郎自身、理性を失っていた。
「せ……せぇ……しろ……。あたい……おかしい……あ、ああ、も……何か出ちゃう!」
きゅうっと締めつける胎内が限界を知らせてくる。
清四郎はこの先に起こる何かを覚悟し、それでも律動を続けた。
「だ……め、ダメ……!!!ああっっああっ!!!」
蜜壺から透明な液体が飛び散り、ソファを濡らす。
繋がったままの性器もまたびっしょりと濡れてしまった。
断続的に続くその排泄を、嬉しそうに見つめる清四郎。
初めての経験で、果たしてこんなにも感じることがあるのだろうか。
さほど多くはない過去を思い出しながら、男はそっとほくそ笑む。
どちらにせよ、悠理は素晴らしい感度の持ち主だ。
愛情を知らしめる為の行為だったが、もはやそれだけでは済まないかもしれない。
清四郎は彼女にとことん快楽の世界を教え込みたい気分に陥っていた。
自室に連れ込み、ベッドに縛り付け、ありとあらゆる性技で悠理の心を剥いでいく。
他の誰にも感じた事のない征服欲は、彼自身、恐怖を覚えるほど大きいものだった。
自分ではどうすることも出来ない潮吹きを経験してしまった悠理は、真っ赤な顔で戸惑っている。
まるで粗相をした子供のように、泣きそうな表情。
清四郎は宥めるように口付けを落とし、「いいんですよ。大丈夫。」と繰り返した。
そして掛け時計の針へと視線を流す。
母親達が帰宅するまであと数時間。
どうせならベッドの上で、思う存分乱れさせてやりたい。
「移動しましょうか。」
「……え?」
繋がったままの状態で抱え上げられ、意思とは別に清四郎の胸へと顔を預ける形になってしまう。
ドクンドクン
彼の鼓動もまた速い。
熱い体温が直に伝わってくる。
「こ、こんな格好、ヤダってば!」
「そう?……僕はすごく気持ち良いですけどね。」
片手で全ての衣類を拾い上げた後、清四郎は三階の自室へと向かった。
そこは悠理が何度も来たことのある空間。
小難しい本ばかりが並ぶ部屋を通り抜けると、天窓がある寝室へと辿り着くのだ。
広々としたベッドには紺色のシーツがピシッと張られている。
そこに腰をかけた清四郎は、悠理を抱きかかえたまま、徐に下から突き上げ始めた。
「んぁ…っ!や、やだ……」
悠理が首を振り、懇願しても、清四郎は無言のまま貫き続けた。
彼も既に限界を迎えつつあったのだ。
腰を震わせるほどの熱がこもり、それを吐き出したくてしかたなかった。
「悠理……キスを。」
怖じ気づく彼女の口を割り開き、強引に舌を差し入れる。
絶え間なく動き回る舌が唾液に塗れ、悠理はどんどん脱力感に見舞われていく。
恥ずかしさよりも心地よさが勝り、為すがままに身を預けると、清四郎はより一層、力強い律動で悠理の身体を責め立てた。
そして遂に清四郎の絶頂が身体の中で弾け、彼の苦しげな呼吸が悠理の口に吐き出される。
脈打つ胎内と同じ動きで、清四郎の肉茎はビクビクと震えていた。
普段、少しの隙も見当たらない男が、今は無防備な顔で悠理の肩に顔を埋めている。
それは確実に女の母性を煽る行為だ。
「は………ぁ………せぇしろぉ………」
クタクタの腰は逞しい腕にしっかりと支えられている。
悠理は身じろぐことも出来ず、深い息を吐くように恋人を呼んだ。
「悠理…………悠理…………」
まるで母親を求める子供の如く────清四郎は甘えた声を出した。
荒い息遣いが首筋にかかり、無意識に身震いしてしまう。
間違いなく………清四郎が求めているのは悠理だ。
真摯な気持ちが痛いほど伝わってきて、悠理は涙が出そうになった。
「好き?せいしろ……」
「……まだ分かりませんか?」
「んーん…でも言葉にしてほしい。何回も聞きたいから。」
「悠理が好き過ぎて……片時も離したくない。」
抱き締める腕は息を止めるように力強く、彼の本気を全身で感じる。
「少し待ってください。まだおまえの中を掻き回したいので。」
「え?」
「欲しくて堪らなかったんですよ……本当はずっと前から、ね。」
・
・
・
その後清四郎は、家族が帰ってくるギリギリの時間まで悠理を抱き続けた。
濡れたソファに気付いた家政婦への言い訳はちゃんと用意してあったし、誰一人として二人が愛欲に耽っていたなど想像もしないだろう。
「送りますよ。」
ヘトヘトになった悠理をタクシーに乗せ、そのまま剣菱邸へと向かった清四郎だったが、離れがたい気持ちが膨れあがり、結局は寝室へと上がり込んでしまった。
そして天蓋付きの豪華なベッドで、再び愛を注ぎ込む。
「こ、恋人同士って……皆、こんななのか?」
強制的に押し出された涙も涸れ、悠理は呆然と清四郎を見上げた。
隙を見せれば、すぐにキスを浴びせてくる為、なかなか言葉が紡げないでいたのだ。
「激しさでいえば、まだまだですけどね。ま、それも追々……」
ぞっとする話だったが、悠理は満足していた。
清四郎の愛情を確かめることが出来、あの中学生達の助言に心から感謝する。
そして彼の言った通り、身体を繋げることで清四郎のことをもっともっと好きになってしまった気がするのだ。
こうして互いの気持ちを確実なものとした二人。
一週間後、馴染みのカフェでデートしているところに、あの姦しい中学生達がやってくる。
「わ!あの時のお姉さんだ!」
「うまくいったんだね。」
照れる悠理は小さくVサインをして見せたが、清四郎は何のことやら首を傾げるだけ。
「めちゃくちゃ格好いい彼氏じゃん……こりゃ心配にもなるか~。」
「でもすごくお似合いですよ~。お幸せに~!」
二人は言うだけ言って、嵐のように去って行った。
「何です?彼女達は。」
「ん~、恋愛アドバイザー、かな?」
「ほぅ……見た感じ、中学生に見えましたが。」
「あいつら、あたいなんかより、ずっと先に進んでるんだよ!」
どうやら悠理が変化した理由は彼女達にあるらしい。
清四郎はひとまず感謝しながらも、
「すぐに追い越せるよう、僕が協力してあげますよ。」
と囁いた。
「……バカ」