possessive feeling(R)
「せいしろ・・・」
「どうしました?さすがに疲れたんですか?」
「ううん・・・ちっとも疲れてないよ?」
青い月は空高くでその冷えた顔を雲の合間から覗かせている。
二人はパーティ会場であるホテルのスイートルームに居た。
もう一室は剣菱万作夫妻が泊まることとなっていたが、疲れ知らずの夫婦である為、未だ一部の招待客とどんちゃん騒ぎを楽しんでいる。
清四郎はそれに付き合い最後まで残るつもりだったが、悠理が強引に腕を引き、部屋へと引っ張ってきたのだ。
丁寧にタイを抜いた後、ゆっくりとシャツを脱がせていく悠理。
清四郎は何も聞かず、恋人の好きなようにさせていた。
徐々に露になる男の胸板を、悠理はうっそりと見つめる。
すっかり馴染んだ肌。
知らない所など一つもない。
この身体は全て自分のもの。
これから先、一生自分だけのものなのだ。
悠理はさほど長くもない爪を清四郎の乳首に立て、カリと引っ掻く。
その刺激に小さく呻いた男を更に追い立てるように、今度は指先で強く捻る。
「い、痛いですよ!」
「そう?あたいの胸の方がずっと痛いけど?」
「・・・・・・・・・どういう事です?」
「しらばっくれて・・・・。あたいはおまえが思ってるほど馬鹿じゃない!」
苦痛に顔を歪ませる恋人を、今度は歯で刺激する。
健康的で白い歯が、色の濃い部分を咥え、徐々に力を加えていく。
「あ・・・あ・・・悠理・・・痛い・・・・!!!」
「・・・・ふぁまんひほ(我慢しろ)。」
清四郎は痛みに呻きながらも悠理から離れられない。
彼女の言葉の意味を探りつつ、半ば諦めたように身を預けていた。
しかし、とうとう耐えられないほどの痛みになり無理矢理身体を背けると、うっすらと血が滲んだそこを掌で押さえ、悠理を睨むように見つめる。
相手はまるで獣のような光をその目に宿していた。
「食いちぎるつもりか!?」
「・・・・してもいいなら、そうするけど?」
「何が言いたいのか、はっきり言え。」
男の苦しげな表情に、悠理はふっと肩の力を抜く。
「あの女・・・・。おまえ、あの女と何かあっただろ?」
「・・・・・・・・・。」
「抱いたのか?」
「・・・・・・もう随分昔のことです。」
「へぇ。」
「今日まで・・・思い出しもしなかった。」
そんな言葉に悠理は、再び清四郎の胸板に手を這わせながら、血が流れるそこをぺろりと舐める。
「・・・っつ!!」
「あたいと付き合う前のこと?だけどおまえ、あたいをずっと愛してたって言ったよね?」
「・・・・・・仕方ないでしょう?僕だって男で生理現象くらいあります。」
「せいしろちゃんは随分と我慢の出来ない男なんだな。一人ですれば良かったじゃん。」
「・・・・・・・・・・・。」
ここまで攻撃的な悠理は久々に目にする。
戸惑った清四郎は、悔しそうに言葉を吐き出した。
「悪かった・・・と思ってます。」
「何が?」
「我慢出来なかった事が・・・・」
しかし悠理は追及を止めない。
「何回やったの?」
「・・・・・一晩だけです。」
「違う!何回やったんだ!?あの女で何回イッたんだって聞いてるんだ!」
鋭い怒声が肌を震わせる。
清四郎が言葉に詰まり、たじろいでいると、血が止まりかけているそこへ、悠理は再び噛みついた。
「っっつ・・・痛い・・・・!」
繊細な部分だというのに、無遠慮な攻撃。
悠理は鉄の味が口いっぱいに広がっても止めようとしなかった。
それを清四郎は奥歯を噛み締めながら、ひたすら耐える。
「・・・・許さない。今日、あの女に身体を触れさせたよな?」
「あれ・・・・は・・・・」
「あの女がおまえに気があるってわかってただろ?それなのに腕を貸したよな?」
「・・・・・・・。」
「あたいと二人きりにして、暴露されるって思わなかったのかよ?」
「彼女は・・・そこまで馬鹿じゃ無い・・・。それに僕は牽制したつもりだ。」
「ああ、人前でのキスのこと?あれってそういう意味だったんだ?」
舌先で恋人の血を味わいながら、悠理は自分がどんどん攻撃的になっていくと感じていた。
「清四郎・・・・・・・・どんな理由があってもあの女と会うな。見かけるだけじゃなく、噂話を聞いたりした時点で、あたいはあの女を剣菱から追い出す。」
「・・・・・・・・はい。」
「絶対だぞ?」
「・・・・・・約束します。」
ようやく傷ついた部分から顔を離し、妖艶に笑う。
ペロリ、血を舐める扇情的な姿。
そんな彼女に清四郎の心臓はどくどくと脈打っている。
痺れるような胸の痛みは股間へと直結し、悠理をすっかり求め始めていた。
「悠理・・・・あの・・・・」
「ん・・・・ちょっと待って。」
そう言ってするりと裸になった悠理は、手慣れた様子でベルトを外し、下着ごとスラックスを下ろす。
現れたは、しなやかさすら感じさせる男の象徴。
聳え立つ力強い肉塊。
「ふふ・・・・すごい。先走りもだらだらじゃん。もしかして興奮した?」
「ああ・・・僕にもちょっとM気があるようですね。」
「鞭で叩いて欲しいなら言って?いくらでもやってやるから。」
「・・・・それはさすがに。」
クスクスと笑いながら、悠理は先端を舌でなぞる。
血と混じり合ったそれを、たっぷりの唾液で飲み下しながら、清四郎をどんどんと高めていく。
「・・・・くっ・・・・いつもよりも・・・感じる・・・」
恋人の率直な言葉を耳にし、更に執拗な口淫をほどこす。
茂みの根元に溜まった唾液がその証拠。
じゅぷじゅぷ・・・・淫らな音が絶えず部屋の中に響く。
「ゆう・・・り・・・・早く入れさせてくれ。」
「ふぁ~め(だーめ)・・・・」
悠理は男の懇願をあっさりと拒否し、さらに口を窄め、精を促す。
「あ・・・あ・・・悠理・・・ダメだ・・・・出てしまう。」
「んふ(うん)・・・。」
揺らめく逞しい腰を腕で押さえつけながら、喉奥を使い上下させると、清四郎が堪らないとばかりに悠理の頭を掻き毟った。
「の・・・飲んでくれるのか?」
「んふ(うん。)」
滅多にしないそれを、今日の悠理は積極的に受け入れようとする。
それはあの女への嫉妬と憎しみ、何よりも強い独占欲の現れであった。
「あ・・・あ・・・・くっ・・・・・出る・・・!」
叩きつけられるように飛び出した精を、余すことなく飲み込んでいく。
決して好き好んでしているわけではない。
ただこの男が自分の所有物であると確認したかっただけ。
たとえたった一度の情事であろうとも、あの女の痕跡を一つ残らず消したかった。
口の中に存在するは、男の急所。
愛しさすらこみ上げるソレを悠理の口は離そうとしない。
最後の一滴まで啜り取るように飲み込み、名残惜しげに解放すれば、清四郎が驚いた顔で見下ろしていた。
「・・・・・悠理。」
「何?」
「ごめん・・・・僕は、それほどまでに傷つけたのか?」
「・・・・傷ついたなんて思いたくない。だけど、おまえはあたいだけのもんだろ?それを確かめたかっただけ。」
「本当に・・・・済まなかった・・・・。」
清四郎は膝をつく悠理を抱きかかえ、ベッドに横たわらせる。
「今夜はおまえを優しく抱きたい。」
「・・・・・・ん。」
「いつも無茶させてますからね。」
「まあな。」
「僕を愛してる?」
「あ、愛してるよ?せいしろは?」
「愛・・・なんて言葉じゃ足りないほど、おまえに狂ってる。」
「狂ってる?」
「ええ・・・狂ってますよ。それを抑え込む事がどれほど辛いか・・・・。おまえを手に入れられたら飢えもおさまると思っていたんですけどね。」
そう自嘲しながら、悠理の身体を割り開くように指を滑らせる。
「おまえのこの温かな身体に取り込まれたら、さぞ気持ちいいだろうな。」
「変なこと言うなよ。」
「ね?狂ってるでしょう?」
笑う清四郎は確かにちょっと不気味だが、何となく気持ちを理解出来た為、悠理はそっと瞼を下ろした。
「約束通り結婚するんだ。それでいいだろ?」
「ええ・・・・良いですよ。僕の大切な奥様。」
覆い被さる恋人は、既に屹立したものをぶら下げていた。
太腿にそれがさわりと触れ、悠理はパチリと目を開く。
「おまえぇ・・・その絶倫ぶり、ちょっと異常だぞ!?やっぱ、見張っとかなきゃ!」
そう叫べば、清四郎もいつもの余裕めいた笑みで応える。
「悠理を想えば・・・・いくらでも出来ます。おまえのこの髪を、瞼を、綺麗な瞳を想像しただけで・・・腰が痺れるほどぞくぞくする。」
「せいしろ・・・」
求められる強さを感じるその言葉。
悠理は清四郎の首に腕を回し、ようやく甘えた仕草を見せた。
「・・・・・・あんま嫉妬させんな。あたいはおまえの為にずっと可愛く居たいんだ。」
「悠理・・・・」
感激した清四郎は前言撤回とばかりにむしゃぶりつく。
それでも優しさとやらを意識したのか、蕩けるような声で悠理を包み込んだ。
「悠理・・・可愛い、おまえは世界で一番可愛い!僕の・・・・僕だけの・・・・・」
しかし言葉は続かない。
溢れ出る感情のままに女の唇を塞いだから・・・。
馴染んだ舌を絡め合わせ、互いの唾液を交換する。
唇が蠢く度、身体の芯から熱い雫が滲み出てくる。
それは悠理とて同じ。
重ねただけの性器を擦り合いながら、二人は求める気持ちをどんどんと昂ぶらせていった。
「せぇ・・・しろ・・・」
息を切らせながら悠理が瞼を開く。
清四郎はその目をぺろりと舐めた。
「ゆうり・・・・」
男の怒張が悠理の中に沈み込み、互いが一番近くなる瞬間を二人で味わう。
「ああ・・・・いい・・・・ずっと・・・永遠にこうしていたいな。」
「・・・・ん。」
悠理を抱きしめながら、清四郎はゆらゆらと身体を動かし始めた。
「ん・・・ん・・・・・あ・・・・・・・・せ、せいしろ・・・・」
それはいつになく静かなセックスで、内側からねっとりとした蜜が滲んでしまう。
「すごく濡れてきた・・・・解るでしょう?」
「・・・・な、なんでぇ?」
「おまえのイイところを擦り続けてるからですよ。ほら・・・ここなんか、特に・・・」
清四郎が穿つポイントは痺れるような快感を呼び起こす。
弾ける様な強さはなくても、それは悠理の身体を徐々に溶かしはじめた。
「あ・・・はぁ・・・あ・・・すご・・・・出ちゃう・・・・あれ、来ちゃうよぉ・・・・」
「ええ・・・出して良いですよ。おまえの潮で僕を濡らしてください。」
「あ、あたい・・・量、多いもん!ここ・・・・ホテルなのに・・・」
「気にしなくていい・・・・ほら、もっと感じて・・・」
意識に反して、どんどんと染み出る愛液。
それと共に、むずむずとした感覚が全身を覆い尽くす様に包み込む。
「ああ・・・出てきましたね・・・んっ・・・・・もう少しいけそうだな。」
「やぁ・・・やだぁ・・・・・」
落ち着いた抽送の中、悠理から出る夥しいほどの水分は、清四郎の下腹部をしとどに濡らし始める。
何度経験してもお漏らしのような気がして、悠理は恥ずかしさに大きく首を振った。
「まったく・・・・今更そんな恥ずかしがらなくても・・・」
「だ、だって・・・・・シーツ、びちゃびちゃじゃん・・・」
ぷくっと頬を膨らませ、顔を背ける。
そんな可愛い姿に興奮した清四郎は、一気に奥まで貫いた。
と同時に悠理の胸をべろりと舐め上げ、子宮口の近くで軽く揺さぶる。
「ひぅ・・・・!!」
「今度はこっちで、感じてもらいましょうか。」
そこは彼女が確実に気絶するスポット。
それを予感した悠理の足が小刻みに震えだす。
「あ・・・・あ・・・・・それ・・・・」
「気を失うのが怖い?大丈夫・・・・いつものようにしがみ付いていなさい。」
一度放出した後の清四郎の行為はいつも激しい。
強靱な腰使いは悠理を責め立てるだけ責め立てて、簡単に絶頂へと誘う。
「あ・・・あ・・・・・!せいしろ・・・・!」
「ゆうり・・・・・・・・ああ、よく締まる。感じてるんですね?」
「も・・・も、おかしくなるよぉ・・・」
ぐりぐりと腰を押し付け、抉るような刺激を与える。
その強烈な快感は、悠理の感じやすい身体を呆気なく陥落させた。
「ひぁ・・・!!!だめぇ・・・・!!」
高音の嬌声は広い部屋の隅々にまで響き渡り、それを聞いた清四郎はいつものように満足げに笑う。
熱を持った胎内があからさまにひくつき、だらしなく広げられた手足が快楽の度合いを示していた。
悠理の意識は微睡んだまま。
しかし気を失うほどではないらしい。
薄らと開いた瞼で清四郎を見つめる。
「あ・・・・せいしろぉ・・・・・こんなの・・・・他の女にもしたのぉ?」
「・・・・・・・しません。していませんよ。」
男は優しい嘘を吐く。
「おまえだけです・・・」
快感の涙を唇で掬い、清四郎は再び悠理の中を探り始めた。
「悠理・・・・・愛してる。僕の全てで愛してる。」
そんな言葉と共に子宮を揺さぶられ、再び感じ始める呆気ない身体。
快楽に溺れ始めた悠理は、ただそこで漂うほか無い。
この男は自分だけのモノ。
髪の毛一本たりとも・・・自分のものだ。
想いの強さは清四郎に決して負けてはいない。
だから・・・・・・
『あたいを手に入れた事、後悔すんなよ、清四郎。』
悠理はいまだ燻る嫉妬の炎を優しく宥めながら、逞しい男の腕にそっとかぶりついた。