the snowy night

good-bye my homesickness (R)

ロスの夏は暑い。
正直、この地を選んだのは失敗だった。
空気は濁り、治安は悪い。
その上、メキシコからの移民があちこちでドラッグを売りさばき、いつイカれた奴等に銃で撃たれるかと思えば、身の竦む思いがする。

「さすがに日本が恋しくなりますね。」

「へぇ、君でもそんな風に思うんだ?」

同じ経営学部の’天領(てんりょう)’は、今日もヒッピーなスタイルでサンダル姿。
暑いカリフォルニアの地では相応しいのかもしれないが、僕には到底真似出来そうもない。
そこそこのこだわりだってあるのだ。

「君、恋人いるんだろ?向こう側(日本)に。」

「居ませんよ。」

「ウソウソ。んなの通用しないって。俺には解るんだ。」

そう断言する彼は、事ある毎に‘君にはスイートハニーが存在する’と言い放つ。
まったく・・・・どこから来る自信なのだろう。
僕は言葉を濁す。

………確かに大切な仲間達は残してきた。

皆で聖プレジデント学園の大学部へ進学し一年が過ぎた頃、何の相談もなく留学を決めた僕に、一番大きな怒りをぶつけて来たのは、野梨子でなく悠理だった。

「おまえなんか、おまえなんか、大嘘つきだーーーー!」

激昂した彼女は真っ赤な顔で髪を逆立て、そのまま疾風の如く立ち去った。
残った仲間達も一様に冷たい目線を投げかけてきたが、僕の性格を知っている奴等だ。
結局は励まし、背中を叩いてくれる。

「悠理はどうするんだよ。連れてかねーのか?」

訳知り顔で魅録が問う。

「そんな事をすれば、とてもじゃないが勉強に身が入りませんよ。」

「あんなじゃじゃ馬、置いてって後悔すんなよ?」

後悔しないために、僕は言葉を選んだ。

「魅録。僕はきっかり三年で全ての学部課程とマスタークラスをクリアして帰ってきます。それまでの間、悠理の事を任せたい。」

「おいおい、俺を虫除けにするつもりか?」

鋭い勘をもつ彼は僕の思惑などすぐに読み取る。

「信用してるんです。あいつを任せられる男は魅録しか居ない。」

「………で?俺に預けてる間、あんたは悠々と羽を伸ばすってわけか。」

その嫌味は辛辣だった。
しかしそれも承知の上。
僕は彼の胸に拳を押し当て、本音を吐く。

「男として成長したいんだ。だから頼む。あのままの悠理を守ってやって欲しい。」

拳はすぐに払い除けられたが、魅録はこう答えてくれた。

「チッ!相変わらず狡いな、おまえさんは!」

そう、僕は狡い。
狡くて卑怯で・・・・・だけど彼しか頼れる人間は居なかった。

「三年だ。それ以上は知らねぇ。いいな?」

「恩に着ます。」

出立の前日。
悠理から一通のメールが届く。

「清四郎のバーーカ!!二度と帰ってくんな!!」

それがあまりにも彼女らしくて、思わず声に出して笑った。

三年。
僕は彼女を見えない糸で縛り付ける。
魅録だけじゃない。
剣菱夫妻にも強く釘を刺しておいた。
彼女に男をあてがわないで欲しい、と。
必ず僕が悠理を貰い受けるから、と。

だから悠理、おまえはただ自由を感じれば良い。
嫌味で口煩い男から解放され、存分に大学生活を楽しめば良い。
けれど三年後、誓って僕のものにする。
帰国したら直ぐに抱いてやろう。
想いを伝え、逃げる気も失せるほど愛してやる。
その薬指に外せない重石をつけて、今度こそがんじ絡めに縛り付けて・・・。

だからこの三年間はおまえにとって最後の自由だ。
残りの人生全ては僕と共にあるのだから・・・。

そんな傲慢で身勝手とも言える決意を胸に、留学生活は慌ただしく過ぎて行く。

最初の一年はあっという間だった。
長い夏休みも講習会に参加し、単位取得の為、奔走する。
更に、懇意にしている教授の学会にまで、頻繁に付き添った。
3年という制約の中、一日たりとも無駄には出来ない。
ただでさえスマートに卒業することが難しい国なのだ。
僕が通うようなレベルの大学は日本と違いかなりハードで、教授によっては一度の課題で何百ページもの副教材を読まされる。
もちろんレポートの採点も厳しい。
学期末のテスト前に本腰を入れて作成をしなくては、到底間に合うはずがないのだ。
恐ろしいことに、それがなんと複数本あるのだから、寝ている暇すら惜しくなる。
一日が30時間ほどあればいいのに。

体調を崩すことはほとんど無かったが、それでも慣れない食生活とその味にうんざりした。
可憐の作った優しい味のお菓子が恋しくなる。
野梨子の淹れた本格的なお茶が飲みたくなる。
しかし何よりも・・・・悠理の笑顔が見たい。

『これもまたホームシックというやつか・・・・。』

一人でも大丈夫だという自負は脆くも消え去り、思い掛けず、自分の心の弱さと向き合う羽目になった。
彼らが居ないと、どうも心許ない。
背中が薄ら寒く感じる。

『ずいぶんと依存してきたんだな。』

彼ら5人は、僕にとって大きな財産だと思う。
とても愛しい存在だ。
だが、それらを振り切ってでも、早く‘一人前の男’になりたかった。
全てはひとつの理由。
悠理と共に生きるため………。

正直、女性にかまけている暇などない。
本当に時々ではあるが、そういった欲望を発散させることもあった。
が、当然深入りはしない。
全て一度きりの関係で終了させた。

もちろん欲しいのは悠理だけだ。
あの薄くて初(うぶ)な身体の全てが知りたい。
どんな風に啼くのだろう?
どんな風に感じるのだろう?
彼女が持つ強気な美しい瞳は、僕をどんな風に翻弄する?

脳裏に浮かぶ白い身体は、淫らな妄想で何度も汚している。
勉強に身が入らないと困るため、好まぬ自慰も頻度を増やした。

━━━悠理、声が聞きたい。おまえのその声で達したい。
たとえそれが怒声であっても、きっと絶頂を味わえることだろう。

その頃の僕は、それほどまでに悠理不足で悩まされていたのだ。

そして、迎えた冬。
学会の為に訪れたニューヨークで、僕は一人の女を抱いた。
もちろん教授のお伴だったのだが、敢えて別行動をし、定期的に泊まる馴染みのホテルを選んだ。
そこで見かけた日本人の女。
困り果てた様子の女性に手を貸さない訳にもいかず、支配人と話をつけ、特別に部屋を用意させた。
だが、微かに予感していたのだ。
彼女と僕のその後のことを………。

久々に感じる女性特有の柔らかさに興奮を覚え、心底欲しい女には出来ない事を思う存分ぶつけた。
滅多に起こらぬ激しい衝動。
むしろ限界を感じる。
たとえ抱き潰しても、襲い来る飢えからは逃れられない気がした。

━━━ゆうりっ!

頭の中で強く叫ぶ。
もしこれが本当に悠理だったなら、僕は幸せのあまり気絶してしまったかもしれない。
だが実際に気絶したのは女だった。
意識ない姿を見ていると、無性に罪悪感が湧く。
それは彼女に対してではなく、今ここに居ない愛しい人へのもの。
初めての感情だった。
まるで不貞行為をした後の様な、苦い苦い気持ちがこみ上げる。

だからすぐに自室へと戻った。
もちろん彼女とはこれきりだ。
連絡先を残すなんて事も必要なかった。

学会が終わり、ロスへと戻った僕は、再会という名のサプライズに驚かされる。

「やっほーー!来ちゃった。」

望んで、望んで、胸を掻きむしりたくなるほど望んだ女が、アパートの前に一人立っていた。
少し髪が伸びただろうか?
細い首から肩口にふわりと広がる柔らかいそれに、思わず手を伸ばし触れたくなる。

「悠理・・・・どうして・・・」

「なんだよ。すっげー久しぶりなんだぞ?嬉しくないのか?」

「い、いや、あまりにも急でビックリしたんですよ。取り敢えず中へ。」

震える手で鍵を開ける。
僕の部屋はワンルームタイプで、簡易のキッチンが付いた20畳ほどの広さだった。
窓が大きく、ゆったりとしたバスタブが備え付けられていた点が、即決した理由だ。

「へぇ、いい部屋じゃん。明るくって。」

キョロキョロと部屋を見渡しながら薄手のコートを脱ぎ、無造作にソファへと投げる。
そんな変わらぬ行動から‘彼女らしさ’を感じ、懐かしさに胸が疼いた。

「まさか、一人で来たんですか?」

「あ、いや。途中まで兄ちゃんが居たよ。すぐにワシントンへ飛んじゃったけどな。」

「そう、ですか。」

冷蔵庫から滅多に飲まないコーラを出してやると、悠理は嬉しそうに飲み干した。
白い喉をごくごく鳴らしながら・・・。

ああ、駄目だ!
こんなのは拷問以外の何物でもない。
会えなかった分、爛れきった欲望が真っ直ぐに彼女へと向かう。
今すぐ窓際のベッドに押し倒して、思う存分、それこそ気が狂うまで抱きたい。
おまえが足りなかった、と囁きながら。

「清四郎………こ、恋人いんのか?」

そんな質問すら耳を素通りしたほど、僕は自らの欲望を抑え込むことに必死だった。

「━━━━え?」

ようやく脳に到達した時、ソファの上でそろっと上目遣いした悠理が慌てて否定する。

「い、いや、なんでもない。」

気のせいだろうか?
少し頬が赤い。

「居ませんよ。そんな暇ありませんから。」

「あ、そう。そなんだ。」

あからさまにホッとした様子。

『悠理………まさか・・・』

浅ましい期待に首を振り、それを心の中で必死に打ち消す。
彼女の事だ。
思いついたように僕の顔を見に来たに違いない。
きっと観光がてら覗いてみたのだろう。
自分にそう言い聞かせれば、空しさが胸を衝いた。

「僕の心配をしてくれたんですか?」

少しの期待をこめて、そう尋ねる。

「心配って・・・おまえみたいな男、心配するだけ無駄じゃん!」

「おや、そんなこともありませんよ。ホームシックなんかもそこそこ経験しましたから。」

「ホームシック!?おまえが?」

嘘だろ・・と、目を瞬かせながら凝視する。
本当ですよ、と笑えば、何故か彼女も嬉しそうに微笑んだ。

「皆は元気ですか?変わりない?」

「ん。元気元気。可憐はいつも通り男に振り回されてるし、美童は年増に手ぇ出して旦那にばれそうになってた。野梨子は男にメチャクチャモテててすっごく不機嫌だし、魅録は・・・・一応あたいと遊んでくれてる。」

「良かった。トラブルには巻き込まれていませんね?何かあれば彼が居てくれるので大丈夫だと思いますが。」

安心したようにそう言うと、悠理は初めてクシャッと顔を歪めた。

「どうしました?」

「なんで?」

「え?」

「なんで、あたいの側におまえが居ないの?」

「・・・・悠理?」

「なんで、あたいのこと置いてったの?」

質問の意図が分からず、混乱が膨らむ。

「いや、おまえを連れてくるわけにはいかないでしょう?遊びじゃないんですから。」

当然の答えが滑り出たが、悠理の目が真っ直ぐに僕を射抜く。
その強い輝きに心が打ち震えた。

「清四郎は寂しくなかったのかよ?あたいは、あたいは、すごく寂しかった。肌寒くて………どれだけ魅録達と遊んでても寒くて仕方なかった。」

「悠理・・・」

「裏切られたと思ったんだ。おまえ、あたいを捨てたんだって。ほんとはお守りなんかしたくないんだって。」

じわりと集まり始めた涙が、彼女の綺麗な瞳に膜を張る。

「なぁ、そなの?あたいのこともう、めんどくさくなった?」

その瞬間、脳の血管が焼き切れそうなほどの情動が身体を支配する。
そしてそれに抗う気もない僕は、衝動に身を任せ、あっさり野獣へと変化(へんげ)した。

気付けば、悠理はシーツの上で僕を驚いたように見上げ、その大きな目からはホロリ、涙が零れている。

「おまえは本当に馬鹿だ!」

我慢の限界だった。
口付け、なんて可愛いものじゃない。
まるで食い千切るかのようなキスを浴びせ、奇抜な柄をしたシャツを破り裂き、コーデュロイの短パンを乱暴に剥ぎ取った。
ボタンが弾け飛び、床を転がる。
あっという間に、彼女の細い裸体が晒され、僕の喉が渇きでカラカラに張り付いた。

その造形たるや━━━━想像を遥かに超えた美しさだった。

可憐な膨らみは白いシルクに覆われ、細い腰から太股にかけてのラインは見事としか言いようがない。
無駄な肉は一切見当たらず、むしろもう少し太らさせたいとすら感じる。
恋い焦がれた女の身体に眩暈が襲う。

「せぇしろ・・・怖いよ・・・・・」

いつもなら考えられないほど弱々しい悠理。
可愛くて、愛しくて、もう、喰らい尽くすことしか頭に浮かばない。

「おまえを愛してる。」

これがたったひとつの切り札。
タイミングこそ違えど、胸に秘めてきた想いを彼女にぶつけた。

「あ・・・愛?」

「愛してる、愛してる、悠理!!」

自ら箍を外し、悠理を奪う。
その甘美で背徳的な行為は僕の理性をすっかり打ち砕き、朝方まで彼女を離す事が出来なかった。





一晩中。
まさしく一晩中、愛を告げ、愛を与えた。
悠理は時々気を失ったが、それを何度も叩き起こし、尽きぬ欲望をぶつけた。
思いやるなんて事は遥か彼方に吹き飛んでしまい、ただただ彼女を貪り続けたのだ。

甘い痺れが全身を駆け巡る行為。
痛みを快感に変える為、それこそどんな愛撫でもほどこした。
悠理は恥辱に泣き叫んでいたけれど、止められるはずもない。
知る限りの技巧で、僕は彼女を啼かせ続けた。
愛が溢れ過ぎて・・・・それを堰き止める術など、一ミリすら思い浮かばなかった。

横たわる悠理を後ろから抱き締める。
ああ、こんなにもしっくり来るじゃないか。
この世にただひとつの半身。
何故、離れてなど居られたんだろう。
今は不思議で仕方ないと感じる。

「ん………」

なかなか覚醒しない悠理の胸を、優しく揉む。
時計は既に正午を指していた。
そろそろ空腹を訴える頃だが?

「ん・・・んっ・・・・・んあ!?」

「ようやくお目覚めですかな。」

「ひっ!せ、清四郎!」

「なんです?幽霊を見たような声を出して。」

慌てて起き上がった彼女は、胸を晒したまま僕を見下ろす。
戸惑いの色を濃くしたその顔に、思わず苦笑した。

「恋人には優しく、お早うのキスをするもんですよ?」

「こ、こ、恋人!?」

「おや、さすが鳥頭ですな。夕べ、散々伝えましたよね?おまえは僕のものだと。」

「あ、あんなの・・・」

「卑怯だと思いますか?でも飛び込んできたのはおまえだ。」

逃がさない。
その気持ちを伝えるため、彼女の腕を取った。

「愛してる、悠理。」

照れと驚きに目を見開いたまま、それでも何かを覚悟した悠理は僕の胸にそっと寄り添う。

「・・・・・・・あたい、おまえが居ない間、すごく考えたよ?馬鹿だけどさ、一生懸命考えたんだ。」

「どんなことを?」

「清四郎が居なきゃ・・・寂しくて生きてけないって。・・・こんな気持ち、初めて思い知った。」

悠理が僕を恋しいと感じてくれていた事に、思わず涙が零れた。

嬉しい、すごく嬉しい・・・

世の中の全ての歓喜が僕を包み込む。
今までの人生で感じたことのない達成感。
砂漠でオアシスを見つけたかのように、激しかった餓えが満たされていく。
僕の涙をそっと拭った悠理が、見たこともないほど女らしく笑う。

「清四郎・・・・・・好き・・・・・」

そんな甘い告白もまた、聞いたことがないほど愛らしい声で行われ、僕は再び彼女に覆い被さることを止められなかった。

「もう・・・おまえを離したくない。好きだ・・・・悠理・・・・」

不可能だと解っていても、言葉は溢れ出す。

この世でたった一人の愛しい女。
誰よりも大切な僕の伴侶。

「結婚してください。」

たとえ今、彼女に受け入れられなくても、その時の僕はそう告げることを躊躇わなかった。




それから二週間。
結局、僕は彼女を離せないまま。

クリスマスが過ぎても、年が明けても・・・片時も離せない。
強固な理性と自制心には、とても自信があったはずなのに・・・・。
食料の調達で出かける時以外、彼女を部屋の中で裸にしたまま僕は享楽に耽った。
凶暴な野獣はいまだ牙を剥いている。
朝夕関係なく何時間も抱かれ、悠理は赤く腫れた陰部に顔を顰(しか)めた。

「ああ、可哀想に・・・・」

「い・・・痛い・・・痛いってば・・・」

舌を這わし、癒やしを与えようとするが、その行為にすら彼女は身を強張らせる。
柔らかい秘唇を温かい唾液で濡らし、何度も何度も舐め上げていると、ようやく胎内から溢れてくる愛液。

「感じてるんですね・・・・・」

痛みの中に快感を見つけ始めた悠理は、恥ずかしそうに脚を閉じようとした。
しかし、それをしっかり押し開き、僕は愛撫の手を決して止めない。
指を突き入れ、掻き出すように動かせば、ひくひくと震わせた膣口がさらに濡れ始めた。
そこを、飢えた獣が啜り取る。
喉を鳴らし、最後の一滴まで、浅ましい音を立てながら。

「ひっ・・・あ・・・・あ・・・・」

薄いピンク色だったはずの幼き陰唇は、今や紅色に光り、男を知った形へと変化している。
小さく開いたままの穴が、何度も僕を受け入れた証拠だ。

「悠理・・・・いいですか?」

「ま、またすんの?」

「します。おまえが帰国するまで何度でも・・・・」

本当は帰国などさせたくない。
このまま彼女を壊して、僕しか見えなくさせて、この部屋で優しく飼い慣してやりたい。

「・・・・せいしろ。」

「寂しいんです。おまえがまた僕から離れてしまうことが・・・。耐えなきゃならないのに・・・どうしても寂しいんです。」

弱音を吐く姿がよほど珍しいのか・・・・
シーツに手を付き、ゆっくりと起き上がった悠理は、そっと僕の膝に乗り上げ首に腕を回した。

「あたいも・・・寂しい。日本に帰ったらあいつらも居るのに、おまえが居ないって思い出すだけで、心がバラバラになりそうだよ。」

「悠理・・・」

そんな言葉に胸がじんと痛む。

「なあ・・・こうするしか無いのかな?」

不安そうな目で僕を見つめる。

「これが一番近い距離なのかな?」

そう・・・どれだけ身体を繋げても、ひとたび離れれば寂しさが襲う。
どうすればいい?
どうすればこの渇きから脱却できる?

「悠理・・・・僕を安心させてくれ。」

「安心?」

「僕のモノになって欲しい。だから、いつか必ず結婚してくれ。」

一度失敗した苦い記憶を封印し、それでも懇願する事しか出来ない。

「・・・・いいの?ほんとにあたいでいいんだな?」

ようやく前向きな答えが彼女の口から紡がれる。
僕は大きく頷くと、もう何度目かも解らないキスを浴びせつけた。

「おまえしか居ない。後にも先にも、悠理しか・・・僕の心は動かない。」

「なら・・・・・・・・・・・・いいよ。」

「結婚する」と小さく告げた彼女を大きく持ち上げ、すぐに欲望を捻じ入れる。

「ありがとう・・・。」

あれほど傲慢な考えを持っていた自分が、今は達成感にこの身を震わせている。
悠理の心が手に入り、目が眩むような幸せが訪れたのだ。
誰に対して感謝すれば良いのかも解らないが、とにかく嬉しくて仕方なかった。

「悠理・・・ゆうり・・・・」

ゆっくりと揺さぶり、すっかり解れた胎内を味わう。
僕の上で柔らかい身体が官能的に動き、彼女が感じ始めたのを確認すると、より一層激しく貫いた。

「んっ・・・・あ・・・あ・・・・・せいしろっ・・・」

ゾクゾクする。
この身体が僕のモノだということに。
この心が僕に縛られているという現実に。

 

一筋の涎を垂らしながら無防備に開かれた口が、セックスに溺れている証拠。
深く、深く、彼女の奥底で繋がる快感。

これ以上の行為はあり得ない。
他の女では絶対に味わうことの出来ない悦楽だ。

「ねえ・・・・・・すごい・・・汗だよ・・・・せいしろ・・・」

備えつけられたオイルヒーターは見た目以上の効き目はなく、部屋の中は外気よりも少しだけ暖かいくらいなのに、まるで灼熱の太陽に晒されているかのような汗が吹く。

「ああ・・・もっとドロドロになりましょう。互いが溶け合ってしまうまで・・・・もっと・・・」

「そしたら・・・寂しくなんない?」

「ええ、きっと・・・・・」

悠理がほろりと涙を流す。
彼女の心はもう僕に捕らえられ、そして蕩けるような甘い夢を見ていることだろう。
目の前で動く、白く細い喉を噛み切りたいほどの衝動。
そんな野蛮さを抱えている男に気付かぬまま、その身を曝け出しているのだ。

愚かで可愛い悠理。
おまえを掴まえた男がどれほど欲深いか、徐々に知っていけば良い。
『剣菱』に心奪われていた頃の可愛い男では無いことを、存分に思い知れば良い。
その一生をかけて・・・・。

細い腰を強く引き寄せながら、僕はそっとほくそ笑む。
大学が始まる直前まで、こうして彼女を離すことはないだろう。
離れ離れになる時間と距離はあまりにも長い。
だからこそ僕は、悠理の身体に快楽の全てを刻み付け、日本に帰すつもりだ。

そして再び焦がれ、悶えながら、この地を訪れればいい。
その都度、おまえは僕にどんどんと嵌まっていく。
きっと式を挙げる頃には、すこぶる従順な女に変貌を遂げている事だろう。

「・・・・・なに・・・考えてんの?」

野生の勘で悠理の顔が不安げに歪む。

「おまえの事です・・・悠理。・・・ほら・・・もっと感じて。」

淫らな音が立ち籠める。
二人の間で鳴り続けるその旋律は、教会の鐘よりもけたたましく僕の脳内に響き渡った。