Mojito Night~可憐の一押しから始まる自覚~

~fervor~(R)

好きな相手と両想いになる確率は、恐らく小数点以下だろう。
とはいえ、限られた世界で知り合った男女に、互いを意識するきっかけさえ芽生えればどうとでも転ぶ────なんてのもよくある話。

“きっかけ”───
全ては些細なきっかけによって生まれるのだ。

僕は可憐の言うとおり、恋など出来ない人間だと思っていた。
理性をかき乱される無様な自分が許せないのだから当然だ。

だが本当は、頭の片隅でその小さなきっかけを待っていたのかもしれない。
恋に落ちるという、まるで媚薬に冒されたような経験は今までしたことがなかった。
他の誰もが知る事を、自分だけ知らないのは癪に障る。
プライドの高さに自覚はあった。

あれは高校三年の終わり。
秋の連休を使い、南米を六人で旅していたときのことだ。
悠理がトラブルに巻き込まれる、なんてことはもはや日常茶飯事で、その時も別段驚くこともなく─────
たとえテロリストが持つ怪しげなボストンバッグが悠理の物と入れ替わったとしても………冷静に対処する自信はあった。

しかし────

その中には武器の他に麻薬が入っていて、恐らくはテロリスト達の資金源の一つだと思われた。
マフィアが裏で取引に応じている。
商品を無くしては元も子もないのだろう。
彼らは躍起になって追いかけてきた。

闘争心に火がついた悠理の暴挙を押さえ込みながら、相手との交渉を始めるも、非情なテロリスト達は皆殺しが鉄則らしく、六人全員にあっさり銃を突きつけた。
魅録が咄嗟にその内の1人からマシンガンを奪い取る。が、圧倒的に武器が足りない。
何せ相手は、戦いの強者が10人以上。
逃げおおせるはずもなかった。

そんな混乱の中で、悠理はおもむろに彼らのバッグから麻薬を取り出すと、フンと鼻息荒く袋を引きちぎる。
そして、まるで粉雪のようなそれを辺り一面にばらまいた。

男達の逆鱗に触れるのも当然。
むしろ発狂寸前である。
しかしそこに隙が生まれたのも確かだった。

おかげで可憐達は森の中へと逃げ込み、僕と魅録、そして悠理は海の方へと駆けだした。
猪突猛進なのは今更のこと。
前方不注意の看板を背負い、崖の下へ真っ逆様───となるところ、僕は彼女を咄嗟に抱き留めた。

「前を見ろ!」

「ひぃっ!!」

生い茂る草木の向こうは30メートルもある断崖絶壁の岩場。
景色は素晴らしいが、落ちたら確実にあの世へと直行出来るだろう。

しかし確実に腰に巻いたと思った腕は、何故か悠理の胸元をがっちり掴んでいた。
細くて肉付きも悪いくせに、恐ろしく柔らかなそれ。
身体に触れたことなど幾度と無くあるというのに、その時感じた胸の感触はどう見繕っても女性特有のモノで…………動揺した僕はそこで思ってもいなかった言葉を投げつけてしまった。

────発育途中の少年のようですな。

照れ隠しだったと、今は解る。
悠理に女を感じてしまった気まずさと罪悪感がそうさせたのだ。

「なにをーー!?」

いつもの悠理ならそう反撃してきただろう。
即座に一発殴られることを覚悟した。
しかしその時の彼女は地面に着地した後、戸惑うような、哀しみに沈んだような目で僕を見つめてきた。

「…………うるさいやい。」

“どうせ…………”と言う呟きは追いかけてきたテロリストたちの怒声でかき消され、僕たちもまた別ルートを探し、逃げ惑うほか無かった。

彼女の耳が赤い。
心なしか首元も。

悠理がさっきの言葉に傷ついたような顔をしていると分かり、僕はどう取り繕えばいいか悩んだ。
とはいえ切羽詰まった状況の中、今はただひたすら逃げるしかない。
力尽きたら、そこが最期だ。

その後、奇跡的にも無事テロリスト達から逃げ切った三人。
当然、息も絶え絶えで、合流した美童達もまた傷つきボロボロの状態だった。
社会の敵である彼らが軍隊に拘束されたのはその直後のこと。
いつぞやのように感謝状を貰い、クタクタの身体で迎えに来た剣菱のジェット機に乗る。
当然のことだが、もう二度と訪れたくない国の一つとなった。

 

帰国した後、悠理はいつも通り接して来た為、僕としても謝るタイミングを逃したといえる。
あの極限状態の中、彼女に触れた感触だけがいつまでも手のひらに残り、それが何とも言えぬ欲情を煽った。

性欲のコントロールには自信があったはずなのに───ふとした時、悠理の赤い顔と胸の柔らかさが思い出され、自然とスラックスを持ち上げる。
思春期の少年ならさもありなんだが、僕は既にその手の経験は一通り済ましている。
一夜限りの女を抱けば済む話なのに、何故かそれが出来ない。
不思議と罪悪感が過ぎるのだ。

胸をもやもやさせるその想いに蓋をしようと躍起になったが、結局は突きつけられる現実に頭を掻き毟る。
封印していたはずの悠理への思慕が湧き水のようにこみ上げ、心を埋め尽くし、留める手だては見つからない。

「……………いや、無理だ。」

悠理は決して僕を男と意識しないだろう。
魅録と違い、いくら甘えてこられても、心から好かれているなんて自惚れちゃいない。

“打算と馴れ合い”
恋などとはほど遠い関係。
僕たちにはそれが似合いだと思い込んでいた。


大学部は高等部と違い、外部生が多く存在する。
聖プレジデント学園は学費が高いため、当然それなりの家柄でないと通わせることは出来ない。
同じ学部にいる東英静香はそんな家柄の一人娘。
あからさま視線を送られるようになったきっかけは恐らく、彼女の祖母が菊正宗病院に入院したことによるものだろう。

あの手の女性にロックオンされることには慣れていた。
大学部に進んでからというもの、母の手で処分されている多くの見合い話も知っている。
家柄、容姿、頭脳────
自分で言うのも何だが、僕は種馬にちょうどいい男なのだ。

「悠理には全力で拒否されましたがね。」

苦い思い出に自嘲する。

あの頃は何か確かな物を手に入れたい時期だった。
『可能性に目が眩むんだぜ』と言った魅録の言葉は正しい。
僕とて友情を壊すつもりはなかったし、悠理とならいつでも修復出来るはずだと高を括っていたのだ。
それは甘えの一種。
彼女だけには、そんな甘えた自分が顔を出す。

調子に乗った僕への制裁は厳しいものだったが、実力不足を自覚するきっかけとなり、それはそれで助かったのも事実。
再び穏やかな学園生活を送れるようになり、悠理との関係も自然と修復された。

……………手に入れたかったのは、果たして剣菱だったのか?

曖昧な思いには蓋をする。
友人として側にいる事を選んだから、それは余計な感情でしかなかった。

僕と悠理の道は───交わらない。
たとえ僕がどれほど望んでも、彼女が拒否し続けるであろうから現実にはなりえない。

恋なんかしなくとも、年頃になれば結婚すればいいだけの話。
おかげ様で選ばれるスペックは充分に持ち合わせている。

そんな割り切った思考の裏で、本当は気付いていたのだ。
“剣菱悠理”ほどの女は、この世のどこを探しても存在しないということを。
彼女ほど僕の心を揺さぶる女は皆無だろうことを、僕は知っていたのだ。




「清四郎?」

物思いに耽っていた僕を、彼女の美しい目が覗き込む。
両想いとなった夜から一週間が経った。
二人でやってきたのはレインボーブリッジが見える横浜のホテル。
デートの延長線上に予約した僕を、悠理は恥ずかしそうに受け入れてくれた。

「風呂、広かったよ。入ってこれば?」

「そうさせてもらいます。」

言いながらも湯上がりの彼女を抱き寄せる。
夜景が素晴らしい窓の側で、バスローブ姿の悠理をこの手にしっかりと。

「わわっ!何すんだ!」

「確認しているんですよ。僕のものになる女性をこの手で…………」

照れて顔を赤くする悠理は、どこをとっても女だ。
可愛くて、いつの間にかこんなにも可愛くて───もう絶対に手放したりはしない。

「好きだ───悠理。………………好きだ。」

「せぇしろ……………」

濡れた髪がまとわりつく首に口付けを落とし、ボディソープの下にある彼女の香りを吸い込む。
甘く芳しい………悠理の香りを。

たっぷりと味わった後、ゆっくり解放すれば、悠理の肩が微かに震えていた。
初な反応に心が躍るも、やはり少し熱を冷ましてからでないと危険すぎるだろう。
無茶苦茶に抱き潰してしまう可能性は高かった。

風呂を済ませベッドルームに戻ると、悠理はシーツの上に腰掛け、テレビを観ながらすっかりくつろいでいた。
───と思ったのは一瞬のこと。
彼女が抱える緊張は直ぐに解った。

何せ映っていた番組は政治討論。
普段絶対にチョイスしないだろう小難しい番組だ。
そんな可愛らしい緊張を解すのも男の役目だと解ってはいるが、僕自身、欲に囚われた状態であるからして───

「悠理…………」

そう呼びかけ、リモコンでテレビを消す。
途端にビクンと跳ねるその身体を両腕に閉じこめると、「優しくするから……」と自分でも聞いたことのない甘い声で、ベッドに押し倒した。

「あ…………あの……………あたい………」

ギュッとバスローブの前を握ったまま、不安な目で見上げてくる悠理。
半乾きの髪をゆっくり梳くと、涙目になりがら顔を逸らした。

「どうした?………怖いのか?」

愚問だ。
怖いに決まっている。
男を知らぬ身体が最後の抵抗を見せてもおかしくはないのだから。

「ちがっ…………!…………ううん、怖い、かも。」

「僕のことが?」

悠理は軽く首を振った。

「……………だってあたい…………胸ないし、男みたいだもん………」

ようやくあの時の暴言を謝罪する機会が訪れた。
意外なほど繊細な彼女の心。それを傷つけた罪を償わなくてはならない。

「悠理、違うんです。」

「…………え?」

「あの時、僕は心にもない言葉を吐きましたが、本当は…………その…………照れていたんです。」

「照れる?清四郎が?」

「ええ。おまえを抱きかかえた時、胸に触れてしまって………それがあまりにも柔らかくて、衝撃で。その……………ようするに………あんな場所で欲情してしまったんですよ!」

己の拙さを暴露するのはやはり恥ずかしい。
だが傷を癒す方法はこれしかないと思っていた。

「……………あたいの身体に、欲情した?」

「ええ。もっと暴露すると───あの時の感触を思い出しながら、何度も自分を慰めました。」

「慰める?どいうこと?」

男の生態に無知な彼女へそっと告げれば、悠理の顔は一瞬で熟れたトマトのように赤くなった。

「お、おまえ………んなことしてたのか!?」

「男なら当然です。…………それも好きな女の胸ですから最高のおかずになりますよ。」

「!!!」

赤裸々な暴露に飽和状態の頭を優しく撫で、「悠理だけです。」と告げれば、彼女は恥ずかしそうに頷いた。
そのふっくらと美味しそうな唇に、もはや抗える理性は欠片も残ってはいない。
髪から頬へ滑らせた指をそっとあてがい、キスを請う。
黙って目を閉じる、なんて手順を教えたつもりは無いのに、いつの間にか彼女は自然にそうして見せた。

合意の下、触れた唇は熱っぽく、何度も食むように啄めば、ゆっくりと緊張がほぐれてゆく素直な身体。

過去、こんなにも丁寧にキスをしたことはなかった。
キスなど通過儀礼のようなものとすら思っていた。

しかし今は違う。
皮膚、粘膜、吐息と唾液。
それら全てを味わい、彼女の官能に結びつけたくて仕方なかった。

唇を押しつけ、探るように角度を変え、悠理の心を押し開いてゆく。
更に深く口付けようと、首の後ろに腕を差し込み顔を引き寄せると、彼女の瞼が持ち上がり、とろんとした光を湛える瞳が露わとなった。

「どう?気持ちいい?」

「………ん。」

「僕もすごく…………いい。」

自分でも驚くほど素直な台詞。
悠理の身体が腕の中にあると考えただけで、心が幸せに満たされる。

「少し深いキスをしますよ?」

「え?」

そう言って綻んだ場所へすかさず舌を忍ばせると、悠理は驚いたように目を瞠った。
歯列を割り、彼女の舌を探り出す。
怯えたように縮まるそれを優しく撫でるように触れ、更に唾液を絡ませ、吐息を混ぜ合わせると、いよいよ力が抜けてきたらしく、強張った身体が僕の腕の中でくたりと預けられた。

隙間なく重なった場所から、淫らに濡れた音が跳ねる。
徐々に自分のペースへと引き込み、擦り合わせながら、悠理の感じる部分を舐め尽くす。

口の中全てが性感帯なのか、びくびくと反応する手足。
その姿に安堵しながらも、彼女がコンプレックスに思う胸元へ一気に手を差し込み、的確に蕾を捉えた。

「んっぅ!!!」

声無き声で呻く。
が、キスを継続させたまま、愛しい胸の感触を確かめる。

ああ、柔らかい。
小さくも可憐な先っぽが固く尖っていて、彼女が感じていると解った。
身体の奥底に熱が生まれているのが見て取れる。

コリコリと摘まめば、ビクビクと跳ねる。
感度の良い胸に感動しながらも、口の中への愛撫が止められない。
とうとう唾液が溢れ出て、それを全て吸い取れば、必死な様子で首を振ろうとする悠理。

仕方なく一旦離れるも、決して終わったわけではなく────
荒い呼吸で泣きそうな彼女に、より大きな愛しさを感じてしまい、再び唇を奪った。

「…………っ!っぅん!」

ねっとりと絡まる舌の感触は熱く、興奮が持ち上がる。
キスだけでこんなにも感じさせてくれる存在はこの世で彼女だけだ。
噛みつくように貪り、悠理の全てを変えてしまいたくなる。

本能で生きる彼女が僕を選んだのだ。
当然、自尊心が刺激され、それは欲望に直結した。

「悠理…………」

ヒクヒクと痙攣する身体を強く抱きしめ、甘く囁く。
真っ赤な顔は酸欠によるものか、はたまた照れているのか。

唇だけでは伝えられない想いを、いよいよこの身体に刻み込んでいこうと思う。

彼女のバスローブを肩から滑り落とすと、薄い光に照らされた美しいフォルムが目に飛び込んできた。
あの日の感触通り、柔らかく形の良い胸。
きめ細かな白肌に薄紅色の突起が勃ち上がっている。
小さくてもその触り心地は極上で、手のひらに収めた乳房をやわやわと揉みしだく。

「ち、ちっちゃいだろ?」

「いいえ………綺麗ですよ。」

「………嘘つけ。」

「本当に………綺麗で、可愛らしい胸だ。」

片腕に上半身を抱いたまま、愛撫し始める。
彼女の重みを感じながら、鼓動を聞きながら、触れていると、心の底から幸せな気分になるからだ。

「清四郎も………ドキドキしてる。」

当然のことを告げるその口を優しく塞ぎつつ、胸全体を手で覆い、快感を引き出して行く。

「ん………っ!」

「ほら 、こんなにも固くなってきた。」

コリコリと指先で引っ掻けば、可憐な乳首はピンと張りを持つ。

この女はどうしてここまで美しいのだろう。
普段の言動、行動からは予想も出来ないほど、見事な肢体だ。
反応も素晴らしい。

「あ………っん!」

「可愛い声ですね。もっと聞かせて下さいよ。」

「へ、変な声だろ!?」

「何をおっしゃるやら。………こんな色っぽい声を出せるなんて………反則です。」

本当に反則だ。
悠理がこんなにも女だなんて、誰も教えてはくれなかった。

増幅する愛しさは愛撫する手に表れ、胸をしつこいほど揉みほぐし、僕の興奮を彼女に伝えた。
勃起したモノが───そこはかとなく痛い。

「せぇしろ……………あそこ、なんか濡れてる。」

腰にまとわりついたバスローブの下を目線で示す悠理は、本当に何も知らないというのか。
僕がゆっくりと手を伸ばせば、慌ててそれを制止する。
しかし強引に割り開き、白い下着の上から確かめると、確かにしっとりと濡れた感触が指へと伝わってきた。
改めて感度の良さが解り、内心ほくそ笑む。

「…………気持ちよかったみたいですね。心配しなくていい。これが普通の反応です。」

「………う、うん。」

コットンの手触りはまだまだ子供のような感覚を与えるが、僕の手が止まることはない。
布の上からじわじわと探り、小さな快感の芽を見出だすと、悠理は「ひゃぁっ!!」と叫び、背中を思い切り反らした。
刺激が強すぎたのだろう。
目をパチパチさせ、僕を見上げてくる。

「ここ、女性なら誰でも好きなところなんですよ。」

「そ、そか………」

羞恥に染まる頬が可愛くて、どんどん反応が見たくなる男心。
まだ固い芽を優しく、優しく撫で続けると、啜り泣くようなか弱い喘ぎ声が洩れ始めた。

甘酸っぱい女の香りが鼻孔へと忍び込む。
徐々に花開こうとする身体が汗ばみ、僕の腕にすがりついてくる。

「あっ…………あっ……………やだ、せぇしろ………!」

快感に身悶え、弾けるようにのたうつ身体。
初めての絶頂を味わうその瞬間を、しっかりとこの目に焼きつけたい。

「ゆうりっ………」

強く抱きしめたまま擦る速度を上げれば、華奢な腰が上下に激しく揺れ、苦しみと共に溜まっていた熱が放たれた。

「やぁ……ぁ………っっ!!」

自分では制御できない感覚が、彼女の身体を支配する。
濡れて重くなった布が秘所に張り付き、ぷっくりと膨れた芽が見て取れた。

痙攣する悠理を腕に閉じこめ、汗に濡れた額へ口付けると、膨らみきった愛情が大波のように押し寄せて来る。

可愛くて仕方ない────

半分にまで落ちた瞼から見える薄茶色の瞳は戸惑いに揺れ、呼吸はひどく荒い。
腕を撫で、初めて達した女を飽かずに見つめていると、照れた悠理は「見んな」と小さくぼやいた。

どうすればいいのだろう。
心を踏み留まらせる術を忘れてしまった。
ただただ、悠理が愛おしくて、羽交い締めにしてしまいたい衝動がこみ上げる。

言葉など要らない。
全身で想いを伝えたい。

脱力した恋人をシーツに横たえ、僕もようやく裸体を晒した。

いやに喉が渇くな。
緊張しているのか?

サイドテーブルから小さな箱を取ると、悠理はゆっくりとそちらを向く。

「……………すんのか?」

「……………ええ。」

ここまで来てストップと言われたら、さすがに凹むんだが───

「さ、さっきみたいなの………ちょっと怖い。」

「え、ああ………それは…………気を付けます。」

何をどう気を付けるというのか。
隙あらば快楽の坩堝に堕としてやりたいと願っているくせに、一体どの口が言うんだか。

「でも!」

「はい?」

「……………キス、すごく気持ちいいから、あれは………その…………して…………欲しい。」

カーン!
高らかと鳴り響くゴング。

嘘だろう?
“あの”悠理がそんな台詞を吐くだなんて!
とてもじゃないが───信じられない。

どうする? 清四郎!
張り詰めてきたこの我慢が、今にも決壊しそうじゃないか。
優しく、丁寧に、根気強く解そうと思っていたのに………それはもはや不可能に近い。
いや完全に不可能だ。

僕はドクドクする胸を押さえ、悠理に覆い被さった。
逃げ場をなくすよう、両手は顔の横に。

彼女を覆うはただ一枚の布(パンツ)。
その向こうに広がっているのは無限の宇宙。

不安と期待の入り交じった瞳が、桃色の唇が、誘うように濡れている。

ああ……………もう何もかも、取り繕うことなど出来やしない。
余裕なんてものはその辺の犬にでも食わせてしまえばいい。

濡れた下着をあっさり取り去り、眩しいほど均整の取れた身体を舐めるように見つめると、彼女の細く長い腕がどこへ落ち着いたらいいのか彷徨い始めた。

始まりはやはりキスから。
悠理が求める濃厚な交わりを、何度も繰り返す。

二人きりの夜。
二人にとって新しい扉が開く夜。

僕たちはこうして、二度と離れられない関係に堕ちていった。