「僕の部屋で、いい?」
「………うん。」
彼の部屋はレモンイエローの壁紙で、どこかスペインを思わせる内装だった。
調度品は統一された白。
ベッドカバーやクッションはブルー。
どれもこれも国内では見かけない奇抜なデザインばかりだ。
「喉、渇いてない?」
渇いてるけど───
今は悠丞君以外、何も欲しくない。
首を横に振れば、ダブルベッドに腰掛けた彼は深く長く深呼吸をした。
緊張、するよね。
私だって同じよ。
何も言わなくても気持ちは伝わるから、と側に座り、頭を肩へともたれかけさせる。
本当は心臓が飛び出しそうなほど興奮していて、私の膝だって少しくらい震えていたかもしれない。
「椿ちゃん………」
意を決したようにシーツへと押し倒された時、彼の匂いが鼻を通り抜け、それが無性にくすぐったかった。
生まれた時からのお付き合い。
幼い頃は一緒にお風呂に浸かり、互いの裸すら知っている仲なのだ。
運命を感じたのはもう随分昔のこと。
いつしか悠丞君以外、男として見れなくなっていた。
「下手だと………思うけど、精一杯優しくするから。」
いつもより低いトーンでそう告げられ、別の男の子と対峙しているように感じる。
大きなステップを昇ろうとしている私たち。
これが間違ったことだなんて思わない。
水着なんて頼りない布は、紐を解けばそれまでなのに、悠丞君の指はこの上なく慎重に運ばれた。
背中に回った手は温かく、夜風に冷えた身体を和らげてくれる。
「電気、このままでいい?」
天井のダウンライトはそこまでの明るさはなかったけれど、それでもお互いの裸を隅々まで捉えることが出来、さすがに恥ずかしく感じる。
なので、「暗くして」と言いたかったのだが、暗くすれば悠丞君の顔が見れないと解り、結局は「いい」と答えてしまった。
嬉しそうな顔で頬を擦り寄せてくる彼に、またもや胸がときめく。
「椿ちゃん………好きだよ。」
「私も。」
・
・
それは夢のような時間。
痛み、驚き、そして感動。
全てが何度も繰り返され、私の胸を熱く満たした。
息が整わない彼の腰を抱き締めると、シャワーを浴びた後のような汗が張り付いている。
始終、気にかけてくれていた身体への負担。
「大丈夫よ。」
「ほんとに?」
熱っぽい吐息で口を覆われ、真実を探るようなキスをしてくる。
一つになるとは、こんなにも心揺さぶられる行為だったのか。
私は初めて知った。
一瞬、母様たちの顔が浮かんだけれど、それは愛を確かめ合う二人を想像してのこと。
二人が愛し合ったように、私たちもまた、恋よりも深い想いが、泉のように湧き出てきた気がする。
永遠であればいい。
この想いと感動が、果てしなく続けばいい。
悠丞君に伝えると、彼も涙ぐみながら大きく頷いた。
深夜。
私はそっと自分の部屋に戻り、痛みを感じる下腹部を優しく撫でる。
この痛みが消える頃、私たちは日本に戻っているはずだ。
また制服を着て、日常を二人で過ごす。
────こんなチャンス、滅多にないでしょうね。
いくら仲が良くても、二人きりで旅行はさせてくれないだろうし、母様が知れば卒倒しかねない事実だから。
ベランダから見える夜空の月は、もう随分と高くへ上がってしまった。
────早く、大人になりたいな。
来年、私たちは高校生になる。
父様たちが多くの冒険をした年頃に。
留学すれば何かが変わるかしら?
それとも、試練が与えられる?
結ばれた甘い夜なのに、何故かざわめく胸の内。
月は答えてくれない。
この島には神が宿ると、誰かが言っていたけれど────
刻み込まれたはずの温もりを頼りに、私はギュッと両腕を抱え、夜風から身を守ろうとした。
彼が側に居ないだけで───こんなにも淋しい。