gratify my desire(R)

その日、悠歌が泥だらけの姿で帰宅した時、剣菱邸の古株メイド達は皆思った。
『ああ・・・デジャブだわ』と。

悠理の心配通り日々お転婆ぶりを発揮する悠歌は、幼稚舎でも評判の悪ガキ『伊能剣吾(いのうけんご)』と毎日のようにやり合っている。
いつもは口喧嘩だったのだが、今日はとうとう暴力に訴えたらしい。
お互い殴り合った末、泥団子合戦へと発展したのだ。
結果、引き分け・・とのこと。
名輪が迎えに行った時、彼もまたデジャブを感じたという。

「ママ!今度こそ勝ってくるからね。」

「ああ、はいはい。でもこの事はパパに内緒だぞ?」

「うん!ないしょ。」

近々呼び出されるであろうと覚悟しつつも、悠理は娘を怒る気にはなれない。
むしろ良くやったと褒めてやりたいくらいだが・・昨今、なかなかそれも難しいのだ。
相手の「伊能家」は江戸時代から続く名家。
元は由緒ある武家の血筋だったらしいが、今は不動産業で羽振りを利かせている。
一人息子を溺愛するあまり何かにつけて口出しをする母親が、始終目を光らせていて正直やりにくい。
父親は比較的出来た人間で、『逞しく育て!』と毎日のように叱咤しているらしいが・・・。
実は参観の時、悠理は父親と二度ほど顔を合わせていた。
血筋を感じさせる凜々しい男で、体躯も逞しい。
それを耳にした清四郎が不機嫌になったのは言うまでもないが・・・。

よほど疲れたのだろう。
悠歌は天使のような顔ですっかり寝入ってしまった。
悠理は起こさないよう抱きかかえ、子供部屋へと連れて行く。
百合子の趣味がこれでもかと詰まったその空間は、いつ来てもげんなりする上、落ち着かないのだが、
当の本人はいたく気に入っているようで・・・百合子が溺愛するのも無理はなかった。



「さ、風呂でも入るかな。」

寝室に戻った悠理は携帯電話を手に取り、そこに何の連絡もない事に気落ちしつつもバスルームへと向かう。
清四郎の忙しさはいつもの事。
そう、いつもの事なのだが・・・。

熱めのシャワーに打たれていると、ふと自分の身体が思いの外冷えていたことに気付く。
温度設定を上げたとて、上肌ばかりが温まっていく。
清四郎に包まれていると、身体だけでなく、心の芯まで熱くなるというのに・・・。

この二ヶ月間、清四郎は自宅で眠っていない。
ようやく軌道に乗ってきた新事業で多忙を極めている為、ホテルや出張先を渡り歩きながらの生活なのだ。
たまに帰って来ても挨拶程度のキスだけで、あっさりと出て行く。
その颯爽とした後ろ姿を呼び止めたい気持ちが、何度こみ上げたことか。

「・・・あたいのこと、欲しくないのかよ。」

そんなぼやきが湯気と共に混じり合い消えていくが、結局は寂しくて仕方ない。
だって、清四郎に触れられない身体は冷え切っている。
至る所が冷たく・・・そして固くなっているような気がした。

悠理はバスルームの鍵がかけられていることを確認し、一呼吸置くと、ゆっくりした動作で自分の胸に触れた。
強めのシャワーに打たれることで簡単に勃ち上がる薄紅色の突起。
熱いお湯に晒され、心地良さすら感じる。
そこを指先で捏ね、軽く引っ張ると、小さな痛みと快感が同時に湧き起こる。
思い出されるは夫の指遣い。
絶妙な強さで触れられると甘い疼きが全身を襲い、脚の付け根に微弱な電流が流れるのだ。

「あ・・ああ・・・せいしろぉ・・」

そんなささやかな快感だけでは物足りず、悠理はとうとう禁断の場所へと掌を滑らせた。
ぬる、とした感触は既に濡れている証拠。
夫を求めている証拠だ。

「・・あ・・・せいしろ・・そこ、触ってぇ・・」

『ここですか?』

清四郎の声を脳内で再現させながら、悠理は夢中で指を這わせた。
秘裂はお湯と共に滑りが良くなっている。
指を二本に増やし薄い肉を弄れば、小さな刺激がじわりじわりと広がり始めた。

『ほら、ここでしょう?気持ちいいところは・・・?』

「うん・・そこ・・・あ、もっと・・」

『ああ、この可愛らしい粒ですね。すっかり膨れて・・やらしいな、悠理は。』

「や・・だ・・・・あ、言わないで・・。」

『僕のモノが欲しいですか?それとも指だけでいい?』

「良くない!・・ねえ・・せいしろ・・欲しいよぉ・・・」

興奮し、零れ出た熱い涙はシャワーで流され、その代わりにどんどんと溢れ出す愛液。
くちゅくちゅ
シャワーに負けないほどの湿った音を立てながら、悠理の指はとうとう熱を持ったそこへと侵入していく。

「あ・・・あ・・・・・・入っちゃう・・・」

ろくな抵抗もない。
迎え入れるように肉が蠢き、悠理は思い切り中へと突き入れた。

「はっ・・・あ・・・せいしろ・・・」

ぐちゃぐちゃと掻き混ぜながら、清四郎のシンボルを思い出す。
滅多なことでは萎えない力強さと逞しさを持つソレは、快感を探すように捏ね回す。
ひどく淫らな動きで・・・。

『ほら・・もっと腰を振りなさい。』

夫の言葉責めを思い出すと、悠理の脳が柔らかく蕩け始めた。

『僕を絞るように、もっと、もっと。どうです?気持ちいいでしょう?』

「あ・・ああ・・きもち・・いい・・せいしろ・・・!」

『良いですよ・・たっぷりイけばいい。』

イク・・・あ・・もうイッちゃう・・!!

瞼に光の帯が点滅し始め、躊躇うことなくその世界へダイブしようとした、その時・・・・・

ガチャ・・

一瞬にして目が醒める音が耳に飛び込んでくる。
新鮮な空気が肌をかすめ、さきほどまでの熱が一気に霧散した。
恐る恐る振り返れば・・・・そこには帰ってくるはずのない夫の姿。
それも裸体だ。

「何をしてるんです?長湯にもほどがありますよ。」

「・・・・・・。」

悠理は唖然としたまま、何も答えることが出来ない。
指は未だ膣の中にあるのだ。
悲しい事に二本も・・・。

何故?という脳内の疑問に答えるのは、先読みが得意な清四郎。

「風呂の鍵は外からも開く仕組みになってるんです。そうでないとのぼせた時困るでしょう?」

そう言って悠理の横でシャワーヘッドの下に立つと、おもむろにかけ湯を始める。
疲れているのだろう。
心なしか、目元が昏い。
そんな夫を横目に、気付かれないよう指を抜いた悠理は、清四郎からそっと三歩離れた。
しかしそんな稚拙な誤魔化などこの男には通用しない。
あっという間に腰をさらわれ、そのまま空に浮かされると、湯の入った大きな浴槽へドボンと放り込まれた。
その後、清四郎自身も浴槽へ足を踏み入れる。

 

「わっ・・・!なにすんだ!」

「そっちこそ何してたんです?」

「な・・何って・・・・」

「毎晩、あんなことしていたんですか?」

全て知られているというのに悠理は目を泳がせ、「何のこと?」と惚ける。
清四郎は愚かな妻の頭をしっかりと両手で掴み、鋭い視線のまま覗き込んだ。

「僕の名を呼びながら、指を咥えこんでいたでしょう?あんなこと、教えた覚えはありませんけどね。」

「うっ・・!」

逃げられない。
となると開き直るしかない。
短絡的思考の持ち主はそう決断した。

「し、仕方ないだろ!おまえが二ヶ月もあたいをほっておくのが悪いんだ!!浮気されても文句言えないぞ!」

直後、清四郎が纏う空気が不穏な物へと変化する。
悠理は冷や汗と共に、自分の失言を振り返った。

『あ・・やべ・・・』

「ほぉ・・・・」

低い声は地の底から響くようで、瞬間的に身体が強張る。

「で・・・?誰と浮気するつもりなんです?」

「う、浮気??いや・・しない、しない!言葉のあやだ!」

「ああ、そういえば・・・おまえは伊能氏の事を気に入っていましたね。もしかして僕が留守の間、逢い引きでもしましたか?」

「伊能!?なんであいつが出てくるんだ!」

真っ裸で憤慨しても迫力にかけるが、悠理は目を見開いて否定した。
大きく首を振りながら。

「浮気なんかしてないってば!」

「こんなやらしい身体を持て余していたんでしょう?到底、信用なりませんね。」

夫の目に本気の怒りを感じ、思わず泣きそうなる。

違うのに・・・。
清四郎の事しか求めてないのに・・・
なんでわかんないんだよぉ・・・

悠理はもどかしい気持ちのまま涙を浮かべ、仁王立ちした清四郎の腰に縋り付いた。
そして、躊躇うことなくソコへと唇を寄せる。
そう・・・夫の大切な場所へと。

言葉など無意味だ。
求める気持ちは身体で表現するに限る。
悠理はまだ勃ちきっていないシンボルを手に取り、そっと羽のようなキスをした。
そしてチロリと舌を絡め、仕込まれてきた以上の技を使い、心を込めた愛撫を始める。

愛しさが伝わるように。
どれだけ求めていたかを理解させるために。

根元から丁寧に舌を這わせていると、次第に硬さを増していく肉茎。
それが嬉しくて堪らない。
舌先でなぞり、先端をチュウ・・と吸った後、口全体で覆い、喉の奥まで亀頭を咥えこむ。

「ゆうり・・・・ああ・・」

清四郎の声に色が混じる。
感じくれていると解れば、ぞくりとした興奮が走り抜け、悠理の腰もふるりと揺れた。
髪をくしゃくしゃと掻き回され、夫の感極まった様子が伝わりなんとも切ない気分になる。

もっともっと口の中で翻弄してやりたい。
深い快感を覚えさせ、自分なしじゃダメだと思い知らせてやりたい。

「ゆうり・・・・ゆうり・・!」

乱暴に動き始める腰。
悠理は口の中ですっかり屹立したソレを、早く身の内に収めたい気分になるが、
まだこの色っぽい声を聞いていたいという欲求にも抗えないでいた。
口をすぼめ、激しく肉茎を扱く口端からは涎がたっぷり溢れ出し、そこには男の先走った欲望も混じっている。
喉を上下させ、入り混じったそれを飲み下す妻の姿を、清四郎は眩しそうに見下ろしていたが、
ふと我に返り、心地よい場所から勢いよく引き抜いた。

「あ・・ん・・・・せいしろ?」

「このまま果てるのは勿体ない。今日は疲れているので一度しか出来ないんですよ。」

「そか、ごめん。」

「僕こそ、悪かった・・・。変な勘ぐりをしてしまって・・。」

「あたい、浮気なんてしないよ?」

「解ってる。おまえは僕を愛しているからな。さっきも・・僕の名を呼んでいたんでしょう?」

「・・・うん。」

恥ずかしそうに頬を染め、俯く妻の可愛さは世界一だ。
夫はそう確信している。
そんな感情昂ぶるまま悠理を乱暴に引っ張り上げた清四郎は、すぐさまタイルの壁に押し当て、背後から片足を持ち上げた。

「きっちり満たしてあげますよ。奥様。」

「あ・・・!」という間もなく、悠理の中に収められた夫の熱棒。
それは想像以上に硬くて、熱くて、内壁を激しく擦りつける。

「あ・・あん・・・・・せいしろぉ・・!」

求めていた以上の快感が脳を蕩けさせ、悠理の喉からは悲鳴のような喘ぎが立て続けに零れ出た。
半ば抱えられたまま、奥深くを目指し律動する腰。
その巧みな抽送に呼吸は乱れ、あっという間に意識が揺らぐ。

欲しかったのはこの熱さ。
欲しかったのはこの逞しさ。

この男だけが冷えきった自分を中から温め、満たしてくれるのだ。

「ゆうり・・悠理・・!!」

求めているのは悠理だけではない。
清四郎もまた二ヶ月の間、辛いひとり寝を繰り返してきた。
帰宅しても簡単なキスで済ませたのは、一度抱いてしまえば離れ難くなるから。
本当は部屋の扉に押しつけて、愛撫などせずそのまま貫き、思う存分欲望を吐き出したかった。
もしくは、悠理の口の中へと溜め込んだ精液を無理矢理放出し、自分の味をしっかりと確認させたかった。

「ああ・・・せいしろ・・・・も、だめ・・・!」

「悠理!!!愛してる!」

溜め込んできた二ヶ月間の想いを、清四郎は余すことなくぶつける。
それは悠理の奥深くまで浸透し、全ての氷を溶かしきってしまった。

ピチャ・・ピチャ・・・

清四郎は珍しく息切れしたまま、浴槽の縁に腰をかけている。
悠理は夫の足の間に座り込み、放出したばかりの性器を綺麗に舐め取っていた。
長年の付き合いだが、こんなこと・・・今までしたことが無い。
でも今は少しでもこの男の名残を口に含みたいと思う。

「・・・済まない。やはり疲れてるんだな。」

「いいんだ・・。でも、舐めさせて?」

「気持ちは良いんですよ。でも・・脱力感がひどい。」

「明日は休めるのか?」

「ええ。無理矢理もぎ取りました。おまえを抱きたくて・・・。なのに帰宅したら・・まさか。」

「ご、ごめん。」

清四郎は悠理の濡れた髪を優しく梳いていく。

「僕のことが欲しかったんでしょう?嬉しいはずなのに・・悔しくて。自分の不甲斐なさが露呈されたみたいで。」

「清四郎・・・」

悠理はそっと立ち上がると、その逞しい身体を抱き寄せた。

「あたい・・清四郎の事を想えばどれだけでも待てる。おまえがあたいのこと抱きたいとさえ思ってくれてるなら、待てるよ?」

「悠理・・・。」

首にかじりつく妻を抱きかかえ、清四郎は浴槽から飛び出した。
バスタオルも必要としないまま、二人はベッドへともつれ込む。

「もっと・・愛してやりますよ。まだまだ足りないでしょう・・?」

「え・・・でも・・」

「僕の口は無能ではありませんからね。知っているはずですよ?」

「あ・・・!」

清四郎はちろりと赤い舌を見せ、妖艶に微笑む。
悠理の胎内が再び、どろり・・・と蠢き始めた。

久々の交歓は深夜遅くまで続き・・・
部屋に朝日が射し込む時間となっても、二人は目覚めることがなかった。

悠歌が久々の父親に甘えることが出来たのは、その日の夜だったという。