archrival side story01

「ママも一緒に遊ぼ~!!」

軽井沢に新しく建てた別荘に、家族揃ってやって来た剣菱一家。
百合子、万作、清四郎、そして悠歌と悠世。
悠理は駆け出す我が子を眩しそうに見つめていた。

今年三才を迎える悠世は元気一杯。
運動神経の良さはもちろん両親譲りだ。
祖父母の異常とも言える愛情を一身に受けながら、スクスクと成長していた。
世界を席巻する大財閥のプリンスともなれば、大概の事は聞き届けられる。
それは決して過言ではなく………。

━━━━三年前

妊娠36週目の頃。
腹痛を訴え、急ぎ菊正宗病院へと運ばれた悠理は、そのまま第二子を出産した。
2100gと早産気味だったものの、命の危険性もなく、保育器に預けられただけ。

しかし母親たる悠理は違った。
産後の出血が止まらず、緊急措置を受けることとなる。
悠歌の時には起こらなかった事態。

青ざめたのは清四郎だ。
仕事先の海外から一瞬で帰国し、病院へと直行した。
人よりも医学の知識が豊富な夫。
だが、愛する妻の有り得ない状況に、その澄ました表情を取り乱し、仕事そっちのけで24時間付き添う。
人になど任せてはいられない。
恐らく本音はそうであったろう。
もちろん稀なケースであるだけに、より一層不安が煽られたのだが。

結果的に、子宮峡部の裂傷と判り、簡単な手術で難を脱した。
悠理は入院を余儀なくされ、その間にも生まれたての子は目に見えて大きくなっていく。
二人が仲良く退院出来たのは二ヶ月後。
しかしこの一件から、清四郎は子作りに対して、慎重になったと言わざるを得ない。



「三人目、欲しくないの?」

別荘での夜。
遊び疲れて早々に寝入った我が子を見つめながら、悠理は尋ねる。
日に日に男らしい面立ちへと成長する悠世。
愛しさが募る。

「………欲しいんですか?」

「ダメ?」

夫婦として13年。
相当に長い時間だ。
胸の内をさらけ出すのは当然のこと。

「………おまえの子供なら、何人でも産むつもりだったんだけどな。」

「おや、嬉しいことを言いますね。でも僕は、今のままで充分幸せですよ。」

優しい言葉は本心から。

微笑む清四郎に誘われるがまま、悠理は子供の側を離れた。
そして扉を静かに閉めると、夫婦だけの寝室へ並んで入る。

都会よりも近く感じる月が青白い光を放ち、真っ白なシーツに二つの影を作る。
雪崩れ込む二人。
清四郎は妻をギュッと抱き締め、愛を囁いた。

「子供はもちろん愛しています。でも僕にとっての一番は悠理だ。」

「清四郎……」

「実のところ、まだ怖いんですよ。……あの日の恐怖が心から去ろうとしない。」

弱音を吐く夫は珍しい。

「おまえって意外と臆病者?」

とからかうように問えば、

「………そうかもしれませんね。」

と正直に項垂れた。
彼の腕に包まれながらも、自分が抱き締めているような感覚に陥る。

たしか三年前、
━━━もう少し先延ばしにしよう。
と告げられたことを、悠理は思い出す。
こればかりは互いの同意がなければどうしようもなくて、渋々それに承諾したのだけれど。

「僕は子作りしたいわけじゃない。おまえを抱きたいだけなんです。」

「………わ、わぁってる。」

「本当に?」

「うん。だって…………あたいも清四郎の全部が欲しいだけだもん。」

そう。
彼から吐き出される全てをこの身に閉じ込めたいだけ。

「悠理………」

熱い吐息が頬にかかる。

「本音を言うと………もう、おまえを僕だけのものにしたい。でも悠世はまだ幼いから……」

「………うん。」

吐息同様、熱っぽい告白。
ゾクゾクと背中を這い上がる期待に、悠理は身を捩った。
こうなれば清四郎の独断場。
彼が醸し出す艶めいた雰囲気に囚われてしまう。

「せぇしろ………夜は……おまえだけのもんだよ?」

「ええ………僕だけの悠理だ。」

馴染みきった唇を重ね、互いの情熱をぶつけ合う行為。
目眩く快感を引き出し、何度も愛を確かめる。

その日、清四郎は悠理の奥深くに沈み込んだまま……満足そうな寝顔で夜明けを迎えた。