「ママも一緒に遊ぼ~!!」
軽井沢に新しく建てた別荘に、家族揃ってやって来た剣菱一家。
百合子、万作、清四郎、そして悠歌と悠世。
悠理は駆け出す我が子を眩しそうに見つめていた。
今年三才を迎える悠世は元気一杯。
運動神経の良さはもちろん両親譲りだ。
祖父母の異常とも言える愛情を一身に受けながら、スクスクと成長していた。
世界を席巻する大財閥のプリンスともなれば、大概の事は聞き届けられる。
それは決して過言ではなく………。
━━━━三年前
妊娠36週目の頃。
腹痛を訴え、急ぎ菊正宗病院へと運ばれた悠理は、そのまま第二子を出産した。
2100gと早産気味だったものの、命の危険性もなく、保育器に預けられただけ。
しかし母親たる悠理は違った。
産後の出血が止まらず、緊急措置を受けることとなる。
悠歌の時には起こらなかった事態。
青ざめたのは清四郎だ。
仕事先の海外から一瞬で帰国し、病院へと直行した。
人よりも医学の知識が豊富な夫。
だが、愛する妻の有り得ない状況に、その澄ました表情を取り乱し、仕事そっちのけで24時間付き添う。
人になど任せてはいられない。
恐らく本音はそうであったろう。
もちろん稀なケースであるだけに、より一層不安が煽られたのだが。
結果的に、子宮峡部の裂傷と判り、簡単な手術で難を脱した。
悠理は入院を余儀なくされ、その間にも生まれたての子は目に見えて大きくなっていく。
二人が仲良く退院出来たのは二ヶ月後。
しかしこの一件から、清四郎は子作りに対して、慎重になったと言わざるを得ない。
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「三人目、欲しくないの?」
別荘での夜。
遊び疲れて早々に寝入った我が子を見つめながら、悠理は尋ねる。
日に日に男らしい面立ちへと成長する悠世。
愛しさが募る。
「………欲しいんですか?」
「ダメ?」
夫婦として13年。
相当に長い時間だ。
胸の内をさらけ出すのは当然のこと。
「………おまえの子供なら、何人でも産むつもりだったんだけどな。」
「おや、嬉しいことを言いますね。でも僕は、今のままで充分幸せですよ。」
優しい言葉は本心から。
微笑む清四郎に誘われるがまま、悠理は子供の側を離れた。
そして扉を静かに閉めると、夫婦だけの寝室へ並んで入る。
都会よりも近く感じる月が青白い光を放ち、真っ白なシーツに二つの影を作る。
雪崩れ込む二人。
清四郎は妻をギュッと抱き締め、愛を囁いた。
「子供はもちろん愛しています。でも僕にとっての一番は悠理だ。」
「清四郎……」
「実のところ、まだ怖いんですよ。……あの日の恐怖が心から去ろうとしない。」
弱音を吐く夫は珍しい。
「おまえって意外と臆病者?」
とからかうように問えば、
「………そうかもしれませんね。」
と正直に項垂れた。
彼の腕に包まれながらも、自分が抱き締めているような感覚に陥る。
たしか三年前、
━━━もう少し先延ばしにしよう。
と告げられたことを、悠理は思い出す。
こればかりは互いの同意がなければどうしようもなくて、渋々それに承諾したのだけれど。
「僕は子作りしたいわけじゃない。おまえを抱きたいだけなんです。」
「………わ、わぁってる。」
「本当に?」
「うん。だって…………あたいも清四郎の全部が欲しいだけだもん。」
そう。
彼から吐き出される全てをこの身に閉じ込めたいだけ。
「悠理………」
熱い吐息が頬にかかる。
「本音を言うと………もう、おまえを僕だけのものにしたい。でも悠世はまだ幼いから……」
「………うん。」
吐息同様、熱っぽい告白。
ゾクゾクと背中を這い上がる期待に、悠理は身を捩った。
こうなれば清四郎の独断場。
彼が醸し出す艶めいた雰囲気に囚われてしまう。
「せぇしろ………夜は……おまえだけのもんだよ?」
「ええ………僕だけの悠理だ。」
馴染みきった唇を重ね、互いの情熱をぶつけ合う行為。
目眩く快感を引き出し、何度も愛を確かめる。
その日、清四郎は悠理の奥深くに沈み込んだまま……満足そうな寝顔で夜明けを迎えた。