「なあ、清四郎。」
おや、今日は随分とご機嫌斜めのようですね。
「どうしました?」
珍しく早めに帰宅した僕は、ネクタイを外しながらそう尋ねる。
「あたいってやっぱ女に見えないのかなぁ?」
「は?」
「女に見えない」・・・と言ったのは、もう随分昔の自分。
しかし今は誰がどう見ても女に見えるはず。
むしろ極上の女だ。
もちろん、そう仕立て上げたのは僕自身であるが・・・。
「何がありました?話しなさい。」
ジャケットをソファにかけ、悠理が腰掛ける場所まで移動する。
テラスへのガラス戸は少しだけ開いていて、さわやかな初夏の風が吹き抜けてくる。
「今日、悠歌と手繋いで歩いてたら、職質に引っかかった。肩叩かれて。」
「は??」
「免許証持ってて良かったよ。すぐに女だって解ったのに、すんげぇ横柄な態度でさ!ほんとむかつく!」
『あいつ多分新人なんだぜ・・・』と言いながらも、不機嫌な表情は拭えていない。
「二人きりで歩いていたんですか?まさか誘拐犯と思われた?」
「だと思うよ。そりゃ、化粧もしてなかったし、Tシャツにジーパン姿だったけどさ。酷くないか?・・・ったく。」
その男の目は節穴か、もしくは思い込みの激しいゲイだろう。
もしかすると、一見好みのタイプだったのかもしれない。
しかし・・・・・今の悠理のどこをどう見たら男に見えるというんだ?
僕は腹が立った。
言いようのない、複雑な怒りがこみ上げる。
「おいで、悠理。」
シャツのボタンを外しながら、彼女の手を取り立ち上がらせる。
欲に塗れたあからさまな視線で妻を見つめられるのは確かに不快だが、
かといって男と間違われるのはもっと不愉快だ。
「せいしろ?」
「二度とそんな誤解を与えないようにしなくては・・・・」
僕は想像してみる。
真新しい制服を着た若い警官を。
こんなにも美しい女を前に、欲情しない男など居ないはずだ。
『やっぱりゲイだな。』
そう確定しながらも、彼女をベッドに押し倒す。
「誰がどう言おうと、おまえは美しい女ですよ。」
「ほんと?」
「ええ。」
嬉しそうに笑う悠理は、夏の終りの太陽のようだ。
しっとりと熱っぽい目で僕を見つめる。
『ほら、こんなにも色気に溢れている。』
腕の中で徐々に溶けていく身体。
以前は見当たらなかった色艶に、思わず苦笑してしまう。
『全く。男の性分ってのは厄介ですな。』
誰にも見せず独占したい。
けれど、本音は世界中に自慢したいと思っている。
せめぎ合う二つの欲求を満たすため、僕は日々彼女を愛し続けるのだ。