「ん?あれって、もしかしてアキさん?」
人通りこそそれほど多くもないが、男女が密着している光景はどうしても目立つ。
男は黒髪の長身。
よくよく見れば、この間の客ではないか。
「へぇ、なるほどねえ。」
1ブロック先でもはっきりと判別できるほど、彼らは目立つ。
アキさんはうちのホステスの中でもずば抜けて美人だし、何よりもスタイルが良い。
確か、胸はEカップだったか。
大きな目と小顔が羨ましいとぼやく女も多かった。
噂では、馬鹿な男にウン百万単位で借金を背負わされ、挙げ句の果てのトンズラ。
このクラブに来る前は、少し格が落ちるラウンジで働いて居たらしい。
そこのママとうちのママが知り合いで、確か人手が足りないと嘆いていたうちのママが引き抜いたはずだ。
給料が格段に違うわけだから、彼女も二つ返事でOKしたことだろう。
気取ったところのある彼女は敵も多かったが、ママに気に入られている為、大っぴらにトラブルを起こしたことはない。
私はこの店に来た当時、アキさんのヘルプをすることが多くて、彼女の接客をよく見ていたが、自分から同伴に誘うなんて事、一度も目にしたことが無かった。
「拙いんじゃないの?」
うちのママは相当厳しい。
男関係のトラブルでホステスが辞めていくのを、いつも苦々しく見てたから。
不倫、略奪愛、金銭トラブル、ヤクザの情婦。
数え上げたらキリがないだろう。
夜の女は寂しがり屋が多い。
それぞれの事情を抱えているからか、ちょっとした隙に入り込んで来る下心ある男達に、ふと寄りかかりたくなる時がある。
果たして彼女もそうなのだろうか。
だけど、相手は地位も権力もある妻帯者。
あんな風に街のど真ん中で縋り付いてるなんて・・・ほんと、どうかしちゃってる。
確かにあの男は極上品。
私だってちょっとくらい甘い考えを巡らせたけど、すぐに諦めたわよ。
アキさんってば、解んないのかな?
私たちホステスを、それ以上にもそれ以下にも見ないって顔に書いてあるじゃない。
―――ああ、でも仕方ないのかも知れないね。
嵌まってしまったら抜け出せないのが恋の罠。
クールな雰囲気を取っ払い、なりふり構わず彼を追う姿は、見ていて涙ぐましい。
きっと、彼女は不幸だと感じていない。
全身全霊で彼に恋い焦がれているのだから・・・むしろ幸せなのだろう。
’羨ましい’なんて、ほんとは思いたくないけど、やっぱりちょっと羨ましいかも。
―――結局は私も人恋しいのかな。
でも、今はまだそれに足を捕らわれてる暇はないから。
私は今夜もネオンの街を一直線に歩く。
ちょっとお馬鹿な仮面を被り、男達に楽しい夢を見せる。
自分の夢を二の次にして・・・・。