━━━━━フレンチは想像以上に旨かった。
まぁるい月に照らされた海。
長い桟橋の先に浮かぶレストラン。
多くのキャンドルに照らされたそこは、一組限定という贅沢さ。
六人は非日常的な景色を味わいながら、珠玉の皿々に舌鼓をうつ。
「ワインも美味しいわぁ。」
「本当ですわね。とても口当たりが良くて、一皿一皿にぴったりとマッチングしていますわ。」
上品に、そしてしっかりとテイスティングしながら口に含んでいる五人に対して、自他とも認める酒豪、悠理は次々と手当たり次第にボトルを空けていた。
四本目を飲み終えたところで、隣に座る清四郎によってフレッシュジュースへとチェンジされる。
「あ!なんでぇ!?」
「明日は朝から水上スキーを楽しむんでしょう?この辺にしておきなさい。」
「え~!!?」
「僕は別に良いんですよ?けれど無人島に行きたいと喚いていたのは誰でしたかな?」
「くっ………わぁったよ!こうなりゃ食ってやる。そこの兄ちゃん!ロブスター追加!」
相変わらずの光景。
しかしこれでこそ悠理である。
見た目は極上、中身は野生。
皆は揃って心の中で笑うのだ。
正体を知らないまま、彼女に声をかける男達の愚行を。
悠理はここ最近、めっきり大人っぽく、そして女っぽさを増した。
街を歩いていると、ナンパだけにとどまらず、芸能界のスカウトマンまでもが声をかけてくる。
貰った名刺の数はそろそろ二桁に到達しそうなほど。
元々整った顔立ちをしている上、無駄なくらい自信に満ち溢れている。
可憐とも野梨子ともちがう、圧倒的な個性。
恋人である清四郎の気が揉まれるのも無理はない。
彼は悠理とは違い、少々複雑な人間である。
綺麗で女らしくしとやかに成長してほしいと願う反面、いつまでも子供っぽく、男を惑わせない存在で居て欲しいとも思う。
悠理は悠理らしくあればそれだけで充分魅力的だというのに、頭の片隅では自分色に染まり自分だけに従順な、子犬のような存在であれ、と願ってしまう。
先程のように、隣に男を座らせる行為は、正直腹立たしい。
彼女の甘い体臭を嗅ぎ、美しい身体や口元を見て、きっと舌舐めずりしていたであろうあの男を、本当は八つ裂きにしたかった。
それほど憎らしかったのだ。
無論、そんな無様な事は口に出せないし、出来るはずもない。
ディナーを終えた後、清四郎はうまく隠していたはずの沸々とした怒りを抱えたまま、二人の部屋へと戻り、乱暴なほど強く悠理を壁際に押しつけた。
「いてっ!」
そこは大きな姿見が掛けられてある寝室へのアプローチ。
人二人がギリギリすれ違えるほどの狭い通路で、悠理は磔(はりつけ)られたかのような格好で鏡を見つめていた。
大きな背中を見せる清四郎は慌ただしくジャケットを脱ぎ去り、白いシャツとスラックスだけの姿となる。
悠理の細い身体のほとんどが彼の陰にすっぽり覆われていた。
「なぁ?これってヤキモチ?」
ワインの力もあってか、危機感は薄れている。
悠理はへらへらと緩んだ口元を見せながら、清四郎に尋ねた。
「どちらかと言えば、お仕置きですが?」
「可愛くないぞ~?ヤキモチ妬いたって素直に言えよぉ。」
ぶすくれた表情で唇を尖らせる恋人の顎を、清四郎はその大きな手で強く掴んだ。
「ならば言ってやりましょう。どこの馬の骨とも解らない男を隣に座らせるな!自分がどんな風に見られているのか、もう理解してもいい年頃だろう!?」
━━━━━ひっく!
酒に酔った薄茶色の目が一瞬大きく開かれ、再びとろんと落ちる。
「ごめぇん。でもさぁ……あたい、そんな風に怒ってるせぇしろがすきぃ。あたいのこと、好きだ~って想ってる証拠だもんねぇ。普段おまえって白けた面してるからさぁ。くふふ」
なんとも小悪魔的な発言。
酔っぱらった悠理には怖いものがないらしい。
一瞬唖然とさせられた清四郎だったが、とうとう苛立ちをぶつけるかのような荒々しいキスを与えた。
重なり合った唇からワインの芳香が漂い始めると、濡れた粘膜をとことん味わうため、後頭部を強く引き寄せる。
「んっ・・・・・!ふっは・・」
呼吸すらを奪うかのような激しいキスに、悠理の意識は瞬く間に遠退く。
「お望み通り、嫉妬丸出しでセックスしてやりますよ!」
身に着けていた頼りない服は無惨なほど引き裂かれ、透けるような白い皮膚がひんやりとした空気に晒される。
残るは薄いショーツだけ。
「あ………ん、もう、せっかく可愛いスカート履いてたのにぃ!」
チューブトップの下にはどれほど目を凝らしてもブラジャーの存在が見当たらず、清四郎は本気で目眩を覚えた。
「ノーブラで男の隣に居たのか………」
「ん~??あたいの胸ちっちゃいからさ、要らないじゃん?ふふ……」
機嫌良く酔い続ける女の自虐的なジョーク。
それを聞き、更に機嫌を悪くする男。
清四郎は無防備に晒された小さな二つの膨らみを鷲掴みにすると、尖った先端を口に含み、今までしたことがないほど強く吸い上げた。
「っ………いたぁ!」
身を捩る悠理を見て一旦唇を離し、再びその責め苦を与える。
徐々に赤く、硬くなっていく果実を、これでもかと刺激し、とうとう懇願の涙を流させた。
「ふっ…………やぁ!痛い!!ごめんってばぁ~!!」
「一体何に謝っているんです?」
「せ、せぇしろぉ以外の男を……近寄らせたことぉ!」
「ならば誓いなさい。おまえのこの身体は誰のものですか?」
「せぇしろ。」
「二度と隙を見せませんね?」
「うん、見せないよぉ………あっ…………んっ!!」
再び塞がれた唇。
そこからたっぷりの唾液を流し込まれ、磔られていた悠理の腰が壁伝いにどんどん下りてゆく。
「悠理、口を開けろ。」
乱暴な口調に目を瞬かせていると、清四郎は音を立てながらバックルを外した。
慌ただしく解放された猛々しいぺニスが悠理の頬を軽く打つ。
「すごっ、おっき……」
「こんなものですよ。」
「ううん、いつもよりおっきいよ?へへ!美味しそう。」
「なら、きちんと奉仕しなさい。」
悠理はうっとりとした瞳のまま、グロテスクな男の分身をそっと掴んだ。
紅色の舌を根元からゆっくり這わせ、その美しい形をなぞってゆく。
清四郎の腰がピクピクと震えることで心地よさを感じているのだと解れば、更に熱のこもった愛撫を施し、愛しいとばかりに頬擦りをする。
「ほら、休まない。」
「はぁい。」
急かすように腰を突き出し強請る男には、見た目ほどの余裕はないのだろう。
全てが口に含まれた途端、悠理の頭を乱暴に掻き抱き、激しい律動を始めた。
丁寧に教え込まれた悠理とて、その苦しさに歯を立ててしまうが、清四郎は動きを止めることなく、むしろどんどんと加速してゆく。
「ゆ……うり!………あ、ぁ、飲め…………飲んでくれ……………!」
口を性器に見立てたその行為。
悠理は涙を溢しながらもそれに抗わず、男が達するまで耐え抜いた。
ドクッ…ドクッ…
喉の奥に吐き出された夥しい量の精液を、味わうよう、ゆっくりと飲み下す。
舌を絡めながら口をすぼめると、清四郎から甘く長い吐息が洩れ聞こえた。
少しずつ硬さを失っていく性器を、名残惜しそうに解放した悠理は、深く呼吸し涙を拭うと、そのまま上目遣いに男の様子を窺った。
清四郎は上気した頬で息を荒くさせながら、見下ろしている。
熱っぽく細められた目が更なる興奮の証。
悠理の心臓はそれに呼応するかのように波打ち、体内に取り込まれた熱い迸りがまるで媚薬のように全身を侵食していった。
「せぇしろ……」
「…………ゆうり」
引き付けられる身体と身体。
清四郎に抱えられた悠理はようやくベッドへと運ばれ、柔らかなシーツに身を沈める。
ワインの酔いはすっかり覚めていた。
しかし次に酩酊したのは清四郎自身。
嫉妬する男が可愛くて、たとえどれほど乱暴な扱いを受けても、それこそが想いの強さなのだと信じられる。
普段涼しい顔をしている男の明らかな本音。
悠理はそれを引き出したいが為、時折小悪魔になるのだ。
匙加減を間違えれば大変なことになるが、このくらいのレベルならむしろ大歓迎である。
大きく開かれた両脚に裸になった清四郎が忍び込み、たっぷりと濡れた互いの性器を緩く擦り合わせながら徐々に突き進んでいく。
綺麗に浮き出た胸筋が、男らしさを感じる腰つきが、悠理をとことん翻弄し、悲鳴のような矯声をあげさせる。
清四郎は激しく穿ち続けた。
求めているのは懇願だ。
自分に服従してくる女の顔が見たい。
「悠理、ほらここは?」
「あっ!んっ………良い………」
「もっと声を聞かせて?」
「はぁ……ん!せぇしろ、や、やらしぃ~」
がっつりと掴まれた腰。
快楽から逃れることを許さない力強さに、悠理は歓喜の悲鳴で応える。
「やらしいのはおまえだ。何です?この中は。………絡み付いて、僕を搾り取ろうと必死じゃないですか。」
「あ……やぁ………ん!言わないで!」
「あぁ、また溢れさせましたね。ん?これは潮かな?」
清四郎が擦り上げたスポットが悠理の気を狂わせる。
「ああ~~~~~!そこ、そこダメぇ!ダメなの!あ、また出ちゃう!」
とうとうシーツに大きな染みが出来る。
ひんやりとしたそこから少し移動した後、清四郎は悠理を抱えるよう、体勢を変えた。
互いに向き合ったまま、悠理は下からの激しい突き上げに声を張り上げる。
そんな声すら飲み込もうと、男はまるでセックスを思わせるかのような淫らなキスを、執拗に繰り返した。
「は……あぁ………う………ふっ」
息継ぎをしている合間も律動は止まらない。
硬くそそり立ったペニスは蜜壺を余すところなく擦り上げ、卑猥な音を響かせる。
「ん………んぁ………ああ………く………くるし………」
「ほら、もっと喘げ。まだまだ気持ち良くなりたいんでしょう?」
意地悪な台詞は悠理の胎内から、更なる蜜を引き出す。
彼女は自分にマゾ性があることを、そこはかとなく認識していた。
「あ………せぇしろ………もっとぉ………」
くちゅくちゅと泡立ち始めたソコがきゅうっと締まりを見せる。
それは絶頂を求め始めた合図。
清四郎は嬉しそうに、しかしどことなく意地悪な笑みを浮かべると、一気に悠理を持ち上げ、引き抜いた。
「あ………!!やぁ…やだ………抜かないで!?」
「欲しいんでしょう?」
「ほ………欲しい………」
「なら、きちんと言いなさい。どこに何が欲しくて、どうして欲しいかを………」
どんな言葉を求められているかは、鈍感な悠理とてさすがに分かる。
きっと想像以上に淫らで、恥ずかしい言葉を言わせようとしているのだ。
「あ………」
それでも躊躇っていると、清四郎はひくついた先端で悠理の花芽を少しだけ擦って見せた。
「ひっ………!」
「敏感ですねえ。………興奮している所為で心なしか膨れている。」
それは男から漏れ出すものか、はたまた悠理から溢れかえったものなのか。
清四郎は透明な粘液をクリトリスにゆっくりと塗し始めた。
脇に手を入れ、持ち上げられたままの不安定な体勢。
腰を下ろせばすぐにでも心待ちにしているモノが手に入り、その充足感を味わえるのだ。
身体が震えるほどの期待に、悠理は敢え無く撃沈した。
「………せいしろのペニスを………あたいに挿れて………掻き回して………イかせてくださ………ぃ」
「悠理のどこ?」
「い………意地悪ぅ…!」
「ほら、どこです。どんな風になっているんです?おまえのそこは………」
「ぬ、濡れてる………いっぱい。涎を垂らして清四郎が欲しいって言ってる。清四郎だけが欲しいって……」
「ふ………!」
彼女が言い終わる前に清四郎は悠理を再び引き寄せた。
奥の奥にまで届いた男の欲望。
それを絡め取るように悠理がわななく。
「ひぁあぁ……っ…!!!」
「そう………おまえは僕だけを求めていれば良いんだ。他の男に色目を使ったりしてみろ!抱き殺してやる!」
いつも以上の嫉妬心。
狂気を秘めた本音。
身体をバラバラにされるような激しさの中、悠理は恍惚とした幸せを感じていた。
「あ………せいしろ!だめ………も、イッちゃう……!!!」
「ああ…悠理…ゆうり………!」
これ以上無いほど強い力で腰を引きよせられ、全てが砂嵐に浚われたような感覚が広がる。
清四郎は奥へと熱いマグマを吐き出した。
その全てを受け取りながら、大きく痙攣し、息を詰めた悠理。
汗に濡れた全身を清四郎の胸板に預け………そしてとうとう意識を失ってしまった。
ぴくっ………
自らの脚が震えたことで悠理は目覚める。
朧気ながらも視線を彷徨わせると、清四郎が濡れたタオルで自分を拭き上げていた。
丁寧に、優しく、先ほどの激しさとは無縁の行為。
横たえられた悠理はいまだ快感の名残を感じ、細かく震えている。
「………喉が渇きませんか?」
「………ん。」
受け取ろうと手を伸ばした先のグラスは、一旦清四郎の口に触れ、唇越しに水が流しこまれる。
冷たく冷やされたそれは、熱のこもった体内をゆっくりと和らげていった。
「興奮しました………すごく、良かった。」
そんな率直過ぎる感想に恥ずかしさを感じ、悠理はプイと顔を背けた。
「………あんなこと、二度と言わないぞ?」
「おまえが二度と嫉妬させないのなら、その機会は訪れないでしょうな。」
「わ、わぁってる!もう、しないってば………あんな…どうでもいい男と………飲んだりしない。」
あわてて振り返ると、清四郎の瞳は優しく細められ、愛しさ全開で抱き寄せてくる。
「………それが賢明だ。」
逞しい腕の中で、悠理はホッと安堵した。
いつもの抱擁といつもの清四郎。
たまには嫉妬もいいけれど、あまりに度を越せば命を縮める。
━━━━━抱き殺されてもいいかなってくらい、愛しちゃってるけどな。
悠理は気付かれないよう、ほくそ笑む。
清四郎だけがこんな自分を引き出す。
清四郎だけがどんな自分でも愛してくれる。
彼の愛に浸りきった女は、えも言われぬ幸福感に酔いながら、静かに瞼を落とした。