the eternal caress(R)

その夜、悠理は怒っていた。
いつもはぴったり寄り添って眠る夫を、隣の書斎へと追い出すほどに。

理由は、帰宅した清四郎のワイシャツに鮮やかなまでに付いたキスマーク。
一つではない。
色違いで二つもだ。
接待で訪れたクラブのホステスに付けられたと言い訳していたが、それほど近い距離を許したことにこそ、怒りがこみ上げる。

「浮気者!」

ピシャッと言い放ち、追い出したのは二時間前。
悠理は独り、布団の中でぐずっていた。

「せぇしろのバカ!どうせベタベタくっつかれても、振りほどかなかったくせに。むっつりスケベだもんな、あいつは!」

想像するだけで胸がムカムカしてくる。
あの逞しい胸板に、赤いマニキュアで整えられた指先が這い回り、同じ色の唇が押し当てられる。

そんな想像に吐き気がした。
あまりの怒りで━━━━

やだ!
あたいしか触っちゃ駄目な男だぞ!
今は幼馴染みの野梨子ですら触れて欲しくないんだ!
あいつの身体は、あたいだけのもんなんだから!!

ギュッとパジャマの胸元を掴み、悠理は息苦しさに耐えようとした。

果たしてこの怒りは誰に対してのものなのか?

清四郎?
それともクラブの女たち?

コントロール不可能な憤りに、唸るように呻く。
嫉妬が胸を焦がしていく。
焼けつくような激しさと共に、心の狭さまでもが露呈するようだ。

「せぇしろーのバカぁ!なんで他の奴に触らせるんだよ!」

「・・・・仕方ないでしょう?罰ゲームだったんですから。」

布団の上から降ってきた声に、悠理は慌てて首を出した。
まるで亀のような妻を見た清四郎は思わず笑ってしまう。

「おやおや。これまた可愛い生き物ですね。」

「せぇしろ・・・」

涙目の悠理を引きずり出し、そのまますっぽりと腕に閉じ込める。

「正直に言いましょう。あれは罰ゲームだったんです。ちなみに、あの口紅の跡は、高寿(たかす)専務と大窪(おおくぼ)部長ですよ。」

「へ!?おまえ、さっきホステスって・・・」

「男の、それもいい年をしたおじさんのキスマークを付けて帰っただなんて、恥ずかしくて言えますか!」

ゲームに負けた清四郎が、悪ノリした二人の酔っぱらいに、悪戯で付けられたものだったらしい。
夫の下らないプライドを知り、悠理の肩が大きく落ちた。

「んなもん、正直に言えよぉ。」

「男の沽券に関わります。」

「あたいは、すごーーく嫌な気分だったんだぞ?」

「それについては謝りましょう。」

悠理の濡れた頬に何度もキスを落とした後、清四郎は情けなく眉を下げた。

「誤解させて悪かった。」

「・・・・うん。許す。」

「ホステスには触れさせてませんから。」

「信じるよ。」

嫉妬深い妻の機嫌がなおったことで、清四郎はほっと胸を撫で下ろす。
今日は昼間から、悶えるほど悠理を抱きたかったのだ。
それなのに寝室から追い出されてしまい、寒々とした書斎で二時間も悩んだ挙げ句、天秤はやはり妻との夜に傾いた。

「悠理、愛してもいいですか?」

「う、うん。」

優しい声と共に唇が重ねられ、そこから清四郎の愛情が忍び込む。
先程までの胸の痛みがじんわりと和らぎ、そこへ暖かい風が吹き込んでくるようだ。

「悠理、僕を好き?」

甘えたような問いかけに、照れた悠理はこくんと頷くと、代わりにたっぷりのキスで答えとする。
清四郎は嬉しそうに微笑み、悠理の首筋を鼻先と舌でなぞり始めた。

「ああ、良い香りだ。」

くすぐったさに肩を竦めるが、丁寧な愛撫は更に下へと延びて行く。
鎖骨を擽られながらパイル地のパジャマのボタンを一つ一つ器用に外されると、きめ細かい滑らかな肌が夫の視界へ徐々に晒されてゆく。

交際期間丸二年、結婚一年を経ても、悠理はこの瞬間、どうしても緊張が走る。
清四郎の瞳が、欲望にギラリと光るからだ。
男としての清四郎はとても野性的で、普段の理性ある姿からはほど遠い。
自分が補食される立場だと肌で感じる悠理は、無意識に怯えてしまう。
しかし清四郎もそんな怯えに気付いているのだろう。
直ぐに穏やかな表情へと変化させた。

悠理はパジャマの下にブラジャーを着けない。
開かれたそこには、小さな胸が柔らかく震えるように存在した。
清四郎は静かに喉を鳴らすと、悠理の腕からゆっくりとパジャマを抜き去り、自らもまたルームウェアを素早く脱いだ。
悠理の頭を枕に横たえると、その美しさにうっとりと見惚れる。

「おまえの泣いた後の笑顔がとても好きです。」

鼻の頭と頬を赤らめた幼な顔が、清四郎の保護欲を膨らませる。

「毎回、泣かされるのなんてヤダじょ?」

おどけたように言えば、

「悠理は泣き虫ですからね。すぐに涙を溢すでしょう?でも単純な性格だから笑顔を見せるのも早い。そこが堪らなく好きなんです。愛しくて、無茶苦茶可愛がりたくなる。」

と、心からの言葉を与えてくれる。
悠理は更に顔を赤らめたが、ふと何かを思い付いたように強張らせた。

「でも・・・あたい、おまえに浮気されたら二度と笑えないと思う。」

「そんなことはしません。誓ってしませんから、安心しなさい。」

嫌な想像をしたのだろう。
眉根が下がった悠理に、清四郎は慌ててキスをする。
愛してると囁きながら。

「おまえだけなんです。僕の大切な女は。」

「ん、もっと言って………」

甘え始めた妻の望む通り、たくさんの愛を伝え始める清四郎。

「悠理だけだ。僕の宝物は・・・」

「誰よりも美しいおまえに、目も心も奪われたままですよ?」

それがたとえ慰めるための言葉だとしても、悠理はいつもそれにすがりつく。
男にも女にもモテる夫の心を計る為、何度でも請うてしまうのだ。

「せぇしろぉ、ね、早く、抱いて?」

「ええ、もう少し味わってからね。」

清四郎の厚い舌が、悠理の胸先を小刻みに震わせる。
可憐なほど小さな突起はまるで野苺のようで、清四郎は唇を使いたっぷり吸い付くと、甘噛みしながら喘ぎ声を引き出し始めた。

「あっ、あ……ん、いい!」

乳首への愛撫に素直な反応を示しながら、もう片方の胸を突き出すように反らす。

「こっちも、してぇ。」

「はいはい、順番ですよ。」

交互に愛撫を与えていると、悠理の腰がむずむずと動き出した。

━━━もう、濡れ始めたな。

ほくそ笑んだ清四郎は掌で脇腹を撫で、焦らすように感度を高めていく。

「んっあぁ……!」

臍の周りを指で何度も擦られると、悠理はとぷりと蜜を溢れさせた。

「っ……んっ!濡れちゃったからパンツ、脱がせて?」

清四郎は言われた通りパジャマを下着ごと脱がし、濡れた部分を確かめるように見つめる。

「も、もう!そんなの見なくていいってば!」

「とろとろですよ。ほら、こんなにも。相変わらず感じやすいですねぇ。」

わざとらしく見せられ、悠理は慌てて顔を背けるが、その間に清四郎が下着のクロッチ部分をペロリと舐めていることはもう嫌と云うほど知っている。

「・・・さて、そろそろ本体の方を楽しませてもらいましょうか。」

小さなクッションを悠理の腰に当て、長くしなやかな脚を両肩にかける。
太ももの内側をぞろりと舐めた後、秘所へと口元を持っていく手順もいつも通り。

「すごく濡れてますよ。ああ、シーツに染みが出来てしまうな。」

そう薄く笑いながら、悠理の膣口をぴったりと塞ぎ、ジュルルとはしたない音を響かせる。
悠理はビクビクと腰を震わせながら、しかしその快感には逆らえないでいた。

 

「あ、あぁ! あっ…ダメッ…ああっ…ん!」

素直に喘げば喘ぐほど、激しさを増す愛撫。
清四郎の巧みな舌使いは快感の全てを掘り起こすようで、悠理は腰を浮かせると大胆にも秘所をぐいっと押し付けた。

「も……っとぉ!」

それに応えるかのように、清四郎は流れ出た汁を全て吸い上げ、唇で外側の襞を挟んで引っ張り、しゃぶり尽くすかのように動かす。
そうかと思えば口を大きく開け、秘部をぱっくりとくわえ込み、口の中で器用な舌を縦横無尽に動かし、じっくりと舐め回すのだ。
しかし肝心な快感のツボには触れられていない。
もどかしさに堪え切れず、悠理は叫んだ。

「せぇしろ!あ、あ、そこ、もっと、上!」

「上?どこ?」

意地悪く尋ねてくる男に、余裕のない悠理はすかさず答える。

「クリ●リスだってばぁ!舐めて、お願い!」

「舐めるだけじゃ物足りないでしょう?ほら、どうしてほしい?」

「吸って!いっぱい吸ってぇ!」

羞恥よりも快楽に身を落とした妻の要望を、清四郎はきちんと叶えてやる。
最初は薄い皮の上から優しく丁寧に舐め上げ、徐々に剥き出しにしてゆく。
そして、ぷっくり膨らんだそこへフッと息を吹き掛けた後、躊躇うことなく吸い付いた。
小さく柔らかだった突起は、口の中で堅くしこり始め、清四郎の舌に翻弄されながらビクビクとひくつく。
甘く歯を立てれば、痙攣するかのように身体がバウンドし、悠理の汗ばんだ手がシーツを握りしめた。

「ああぁぁっ!!!」

絶頂に目が眩む。
チカチカとする瞼は、謎の幾何学模様を浮かべる。
ハフハフと息を荒げる妻を、清四郎は満足そうに眺め、再び悠理の秘所に唇を這わせた。

彼の愛撫はひたすら長く、絶望を感じるほど執拗だ。
繋がるまでの間、悠理は何度も絶頂を迎え、いつも身体が思うように動かなくなる。
そんな夫のねちっこさは、以前から充分解ってはいたが、結婚してからというもの更に拍車がかかったように思えた。

『夫婦になったんです。手加減はしませんよ?』

そんな恐ろしい台詞を聞いたのは、かれこれ一年前のこと。
最初の頃は、本番で何度も気絶させられていたが、最近は前戯ですら気を失うことがある。
それほどまでに清四郎の性欲は旺盛で強かった。

しかしここに来て、悠理もそんな夫に付き合うことを心のどこかで楽しく感じ始めていた。
身体と心を開放すれば、天国に行った気分になれる。
清四郎が連れていってくれる、素晴らしき世界。
それに味を占めれば、他の男のセックスなど興味も湧かない。

━━━けれど、清四郎は?
もしかして、ほんとは物足りない?

「せぇしろう。」

「ん?」

顔を上げ、唇をペロリと舐めた清四郎は、小首を傾げつつ悠理の様子を窺った。

「おまえ、満たされてる?あたいで。」

「は?」

「ほんとはもっとエロい女がいいんじゃないの?」

自分でも何を言ってるんだ、と恥ずかしくなるが、悠理は勇気をもって尋ねた。

「悠理・・・」

清四郎は身を起こすと、悠理の腰からクッションを抜いた。

「もっとやらしくなってくれるんですか?僕のために。」

「す、少しくらいなら要望を聞いてやってもいいぞ?」

「素晴らしい心掛けですな。まあ、確かにおまえは今まで、受け身が多かったですしね。」

ふむ、と納得したように頷くと、悠理の横にごろんと仰向けになる。

━━━何してるんだろう?

悠理は、『騎乗位はあまり得意じゃないのにな。』と過去の経験を思い出し、少し落ち込んだが、夫が次に放った台詞は予想外の内容だった。

「僕の顔に跨がって下さい。」

「へ??」

清四郎の頭に敷かれた枕はいつものポジションよりも随分低く、その意味をようやく理解した悠理は目を瞠った。
理解したにはしたが━━━

清四郎に跨がる??それって・・・

カアッと頭に血が上り、あわあわしている妻の手を、清四郎は急かすように引っ張る。

「ほら、早く。」

「ま、跨がるだけ?」

「跨がった後、腰を落とすんですよ。僕の口がおまえのイイところに当たるように。」

気がおかしくなるような要望。
しかし、自分が言い出しっぺなのだから、と悠理は覚悟を決めた。
逞しい首元をそっと跨ぎ、視線を落とせば、嬉しそうな清四郎の目とぶつかる。

━━━ へ、変態ぃ。

緊張に脚は震えるが、徐々に膝をずらし、清四郎の高く綺麗な鼻と形良い唇の上に照準を合わせ、自らの性器を晒した。

受け身であった時と違い、なんと破廉恥な行為なのだろう。

清四郎の黒く光る瞳が、しっとりと濡れた秘部を食い入るように見つめている。

━━━うえ~ん、恥ずかしいよぉ!!

「ほら、腰を下げて。」

そう言って、長い舌を伸ばした夫は、すごく興奮しているようだ。
そろりと背後を振り返れば、下着越しの性器が腹にぴったりとくっつくほど反り返っている。

本当はもう欲しいのにな・・・・

しかし清四郎が満足するまで、この戯れは終わらない。

悠理は羞恥と共に、ゆっくりと腰を下ろした。

ぬるりと舌先が触れる。
恥毛が自然と鼻先を擦ることだろう。

「もっと、落として。」

せっつくように言われ、とうとう清四郎の顔にペタンと腰を下ろしてしまった。

「こ、これじゃ、呼吸が出来ない。」

呻きと共に腰を叩かれ、悠理は慌てて膝を起こす。

「悠理、僕の鼻に擦りつけるようにしてみなさい。」

「え!?」

━━━清四郎の鼻に擦りつける!?あそこを?

「や、やだ!はずかしっ!」

「今更ですよ。ほら、僕を使って、自分の気持ち良さだけを追い求めればいい。」

そう促され、涙が出そうなほどの羞恥を押し殺した悠理は言われた通り、そろりそろりと腰を動かし始めた。
強制的に与えられる快感ではなく、自らの感覚で導き出す、ピリリと痺れる甘い刺激。
もどかしさが入り混じった蕩けるようなその刺激に、悠理はあっという間に夢中になった。

「すごいな・・・こんなにも溢れて・・・・」

清四郎の舌は滴り落ちてくる愛液を旨そうに啜る。
空いた両手で悠理の尻を撫で回しながら、感動したように呟いて・・・。

尖った鼻先でじわじわと快感が広がっていく最中、自慰などしたことがない悠理は、とうとう自らの胸を触り始めた。
もちろん自分でも驚くほど大胆な行為だ。
だが今は、清四郎の顔の上で、最後まで達してみたいと感じていた。
その願望がゆるやかだったグラインドに速さを加えていく。

━━━ああ・・・・もう、止まんないよぉ・・!

ジュルジュルと啜る音が鼓膜を震わせ、淫らな気分を高めてくれる。
目を瞑ったまま、清四郎の顔を自分の愛液で濡らしていると思えば、それだけで軽くイッてしまいそうになる。

「あ・・・あ・・・あ・・・せいしろ・・・、も、おかしくなっちゃう・・・・・・・・」

執拗に絡みついていた舌が、熟れた胎内へずぶりと忍び込む。
そのままの状態でズズッと大きな音を立て啜られた直後、悠理の腰が大きくバウンドし、そして呆気なく崩れ落ちてしまった。

腰から下に力が入らない。
クラクラと眩暈がする中、それでも悠理は清四郎の顔から離れようと脚を上げた。
恐る恐る視線を投げれば、夫の整った顔はしとどに濡れている。
それをルームウェアで拭きながら、嬉しそうににこにこと笑っているのだ。

「ご、ごめん。」

「何を謝るんです?感じてくれたんでしょう?」

「・・・・・ん。」

もうこれ以上は無いだろうと思うほどの恥ずかしさに、悠理は膝を抱え、小さく転がった。

「僕もすごく興奮しましたよ。」

しかし、清四郎は転がったばかりの悠理の両手を開き、それぞれの手首を押さえ込む。

「ああ・・真っ赤になって可愛い。恥ずかしかったですか?」

「あんなの・・・恥ずかしいに決まってるじゃん。」

「でも、気持ちよかった、でしょ?」

キスしながら自らの膝で悠理の脚を押し広げると、外した片手で腰を持ち上げ、先走りを垂らした男根をグンと突き入れる。

「あああ・・・!!」

その待ちわびた挿入に、悠理はひときわ大きく啼いた。

「今夜は、すぐにでもイッてしまいそうですよ。想像以上にぬるぬるしている。」

「あ・・・・も、早く・・・動いてぇ?」

「ええ、僕も我慢出来ません。」

最初からの激しい抽送に悠理は涙を流しつつ、呆気なく絶頂を迎えてしまう。

「あ、も、もう・・・・駄目ぇ・・・」

「ああ・・・・よく締まる・・・・悠理・・・・・!」

「せいしろぉ・・・・、やぁ・・・!!!」

思考までもがぐちゃぐちゃに掻き回され、蕩けた下半身からは全ての力が奪われる。
しかし、清四郎の動きは未だ止まらず、悠理の身体を揺さぶるように貫き続けた。

「・・・・悠理・・・・ゆうり・・・・・中に出しますよ?」

力なく頷いた悠理を抱き締める清四郎。
嵐のような快感に身を任せ、奥深くへと想いの全てを解き放つと、強烈な快感が身体中に迸った。


悠理は気絶するように眠りについた。
新しいパジャマに着替えた後、清四郎は頬に残った涙を優しく吸い取る。

━━━愛してますよ。

心は大いなる満足感に支配されていた。

悠理が少しずつでも歩み寄ってくれるのなら、これから先の夫婦関係はきっと円満だろう。
愛の営みはまだまだ奥が深いということを、きっちりと教えてやらなくては・・・・。

清四郎の淫らな欲望は、果てのない広がりを見せ始めていた。