Sweet night surrounds me.(R)

「や………ぁあっ………!」

滑る指はいつも熱くて、抉じ開ける強引さが悠理の胸を震わす。

外は嵐━━━
しかし風の唸り声すら聞こえない濃厚な夜。
昼間、学園きっての天才として名高い男は、速やかに野獣へと変わる。
ひっそりと落とされた照明の下、男と女は絡み合い、一つの影を作っていた。

菊正宗邸の夜は基本、物静かで、しかし外は荒れ狂っているのだろう。
時折、ガタンと何かがぶつかる様な音がした。
木々の擦れ合うざわめきも、風の哭く声も、二人の耳には届かない。
互いの呼吸だけを耳元に感じながら、更けていく夜を悦ぶ。

「今日はどこまで進みましょうか。」

外科医の指は美しい。
と、誰かは言ったけれど、彼は医者でもないのに美しく長い指をしている。
それでいてどことなく男っぽい。

「せぇしろぅ………」

そんな艶かしさを帯びた声が男の性欲を煽るとは、彼女はまだ知らないのだろう。
嬲る手に更なる熱が籠り始める。

「上だけ?それとも下も?」

未だ最後の一線を越えていない二人。
かといって無垢な関係でもない。
清四郎に身体の全てを委ねている悠理は、焦らされながらも隠れた性感帯をゆっくりと開発されていた。

「………どっちも。」

恥ずかしさを押し殺しながら要求すると、清四郎は嬉しそうに笑う。
首に流れる汗を舌で舐め取る姿に、彼のボルテージが上がってきたことを悠理は知った。

「欲張りですねぇ。まぁ、それがおまえの良いところです。」

小さな胸をさわさわと触れられ、じんわりとした震えが腰を襲う。
尖った先端をわざと外しながらの愛撫。
悠理の挙動を真剣な眼差しで見つめる清四郎の喉仏が上下に動き、ごくりと鳴る。

「悠理……どこに触れてほしい?」

「~~~~んなこと言うのぉ?」

「言えば、もっと良くしてあげますよ?」

今でも気持ち良さは広がりつつある。
その先の更なる快感には、たしかに覚悟が必要だ。

「…………ち、乳首触って?」

「どんな風に?」

「………指で……」

震える唇からの懇願を、清四郎は不敵な笑みで受け取った。
悠理の羞恥は何よりの好物。
完熟したトマトの様な頬へカプリ、唇で噛みつくと、真っ赤なシャツの中で勃ち上がった蕾をゆっくり捏ね始める。

「あっ………んっ!!」

「気持ちいいでしょう?もう少し強くても感じますよね?」

爪先を尖らせながら、絶妙な力加減でコリコリと触れる。
優しさと淫らさを兼ね合わせたその愛撫は、まだ快感に慣れきっていない悠理を存分に乱れさせた。

「や、やぁ~!も、………むりぃ!」

「無理じゃないでしょう?ほら、気持ち良すぎて腰が揺れてますよ?」

指摘された通り、悠理の腰は清四郎の大切な部分を擦るように揺れていた。
弾力を持つそれが、びくんびくんと震えている。

「せ、せぇしろ、………触っていい?」

責め立てる手を少しでも和らげて欲しいと企み、彼女は懇願する。
もちろんそんな思惑を見抜けぬ清四郎ではないのだが・・・・・。

「良いですよ。」

刺激の中心部から離された手にホッとすると同時、ずらした腰の隙間に手を差し込んでスラックスを撫で上げる悠理。
清四郎の吐息が一気に熱っぽくなる。

「これ……気持ちいいの?」

「当然です。」

「どんくらい?」

「…………直ぐにでもおまえの中に入りたいほど………気持ち良い。」

彼は擦る手を上から掴み、強制的な力を加えていく。
まるで自慰に耽っているかのようなうっとりとした表情を見せながらも、唾液をたっぷりと絡め悠理の耳を食み、わざとらしい音を立て舐め廻す男の舌。

ピチャ……ピチャ…

「や………んっ!」

突如として湧き上がる快感は鳥肌を誘う。
胸を打ち鳴らす心音がバクバクとこだまし、悠理の身体がびくんと跳ねた。

まるで熱砂の中に居るようだ、と彼女は思う。

清四郎の熱い吐息が耳の奥にまで届き、柔らかい耳朶はしつこいほどしゃぶられる。
身体ごと燃えるような情熱が、
一向に止むことの無い淫らな湿音が、
自分の中に居る別の誰かを引きずり出そうとしているようで・・・・・
悠理はぎゅっと瞼を閉じると、気を確かに持とうとした。

「無駄ですよ……おまえのここはほら、すっかり悦んでいるでしょう?」

いつの間に脱がされたのか、下半身からは下着が見当たらない。
代わりに覆い被さっているのは、彼の大きな掌。
蜜を掻き出すよう溝をなぞり、上下に優しく動いていた。

「たっぷり濡れていますね。どんどん感度が良くなって………嬉しい限りです。」

もう片方の手で乳首をキュッと摘ままれ、忘れていた刺激に涙する。
繊細な爪先で濡れた秘唇を引っ掻くよう刺激されると、意図せぬ愛液がこぷりと溢れ落ちる。

悠理はもう、全てを放棄し、身を投げ出したい気分になった。
僅かにあった恐れも、見事消え去っている。

「も………入れて?せぇしろと一つになりたい。」

誘い文句を教えたつもりはない。
だが、悠理の口からはっきりと告げられた言葉に清四郎の我慢が堰を切った。

「僕もなりたい。悠理と溶け合って、頭がおかしくなるほど腰を振りたい。」

「ん…いい。も、あたいもこれ以上我慢出来ないから………。」

「悠理……大好きです。」

清四郎はふわり抱き上げ、ベッドへと運んだ。
横たえるとき、彼女を欲しがって眠れなかった幾夜の記憶を思い出す。

本当はすぐにでも繋がりたかった。
けれど悠理の覚悟が決まるまで我慢した。
少しずつ、ほんの少しずつ、にじり寄るような快感を覚えさせ、自然な形で身体を開かせたかった。

そんな忍耐が約一ヶ月。
流石に限界を迎えようとしている。

「せぇしろ……身体、見せて?」

素っ気ないほど真っ白なシーツに横たわる悠理を見て、違和感を感じる。
普段はここに居ないはずの存在。
だからこそなのか、セミダブルのシンプルなベッドがやけに艶めかしく見える。

清四郎は衣服を脱いだ。
現れたは逞しい身体。
長年、鍛錬を積み重ね、鋼のような筋肉を纏った、悠理が焦がれて止まない身体だ。

伸ばした手を彼女はそっと滑らせる。

「固いな……。すごく鍛えてる。」

「いつでもおまえを守るためにね。」

「あたいも強いじょ?」

「いえ、僕の方が強い………ほら、こうすればおまえは逃げられないでしょう?」

覆い被さった男は思いの外重かった。
しかし悠理はびくともしないそれに腕を回す。

「うん………今日は逃がさないで?」

そんな色っぽい言葉に、理性と自制心の塊だったはずの男が陥落する。

………もうダメだ。きっと無茶苦茶にしてしまう。

最後の砦はあっという間に崩れ去り、下着ごと床に投げ捨てられた。
互いに生まれたままの姿で肌を擦り合わせる。
どちらともつかぬ熱が全身へと広がり、そして先ほどまでの快感を呼び起こそうとする。

「せいしろ………熱い………」

「悠理もあったかいですよ。」

キスは濃厚に。
二人は淫らな湿音に酔いながら、互いの粘膜を余すことなく味わう。

「ああ……美味しい。おまえの唾液はどうしてこんなに甘いんだ?」

「あたいもそう思う。おまえのキス、大好き。」

再び絡め合わせた舌が、更なる欲情を誘う。

━━━━早く、早く、次へと進みたい。

そんな急く思いが悠理から途切れぬ愛液を零し始めた。

清四郎は重なり合いながらも太腿の付け根を撫で、甘い香りが漂うそこを優しく解し、長い指を出し入れする。
一本、そして二本……。
膨張したソレの代わりに、丹念に抽送させ、少しでも苦痛から遠ざけようとした。

「………いい、もう、せいしろ………良いから、早く………」

焦らされることに限界を見せる悠理。
願いを叶える前、清四郎は男としての嗜みを自らに施す。

「それ?」

「ああ、ゴムですよ。」

まさか知らぬはずはないだろう。
彼女も年頃の女。
性教育もきっちり受けてきているはずだ。

「コンドームです。」

「あ……それがそうなんだ。」

装着された薄い素材を悠理はちらりと見遣る。

「すごく窮屈そう……」

「ま、多少はね。しかしこれもエチケットですから。」

脚を限界にまで広げ、にじり寄った清四郎の顔は、何かを覚悟したように厳しい表情だった。

「悠理。」

「なに?」

「この先一生、僕だけがおまえのこんな姿を見ることが出来ると思って良いですね?」

「え?」

「誰にも見せないで下さい。一生です。」

「それって……」

疑問を口にする前に、彼は答えを告げる。

「いつか……一緒になりましょう。僕はおまえしか考えられないから……」

「せぇしろ………」

その覚悟に頷く間もなく、悠理は身体を引き裂かれるような痛みに呻いた。

「ふ……ぁん……いた…………」

「まだです。もう少し……」

清四郎の顔も苦痛を感じているかのように歪む。
重なった腰がずるずると距離を詰めていき、その都度悠理の口からは振り絞る声が漏れ出していく。

「ゆうり……ああ、すごく……おまえはすごく……心地良い。」

そんな陶酔した言葉に悠理は思わず目を見開くが、その瞬間ズンと奥深くまで貫かれ、思考が一瞬にして散らばってしまった。

「う……はぁ……」

恋人の逞しい肩に必死で齧り付く。
爪と立て、唇を押し当てながら、苦痛から逃れようとする悠理。
そうした状態のまま、清四郎はゆっくりと抜き差しを始め、彼女の分泌液を促す。
ずるりと抜けそうになった肉棒を、纏わり付いた愛液が名残惜しそうに引き留める。

「濡れてますよ。……ほら、こんなにも……」

グチュグチュ……

卑猥な音を立てながら、清四郎はわざとらしく腰をゆっくりと回し続けた。

「あ……あぁ……そ、そんなこと……やだぁ……」

快感が掘り起こされる感覚に彼女は戸惑う。

━━━初めてだというのに、どうしてこんなにも気持ちよく感じてしまうんだろう。

それは清四郎が巧く解してきたからに他ならないが、悠理は自分の身体がとても淫乱に出来ていることを知り、驚愕した。

「あ、あたい、おかしい……も、こんなにも気持ち良いなんて、おかしいよ!」

「おかしいわけじゃない。悠理が僕を愛しているからこそ、ここまで感じているんです。僕だってすごく良いんだ。脳が溶けてしまいそうなくらい……気持ち良い。」

まくし立てるように告げた男は、更に激しく胎内を掻き回す。

━━━全ての快感を彼女に植え付けたい。

その思いを実現するために……………。

 

二度目の迸りを胎内で感じた悠理は、ぐったりとしながらも、馴染んできた感覚に身を任せていた。
互いに汗だくで、けれど何故か心地良い感触へと変化している。

ぬるぬると溶け合う肌と肌。
激しい動きに乱れ落ちた清四郎の前髪。

それがいつになくセクシーに感じて、悠理の胸はどくんと波打った。

「悠理…………苦しくないですか?」

避妊具を付け替え再び挿入してきた男は、熱い息を吐き出しながらそう尋ねる。

「……苦しくはないけど………そ、そこが痺れて……なんか変……。」

「ここ?」

繋がったまま、確かめるように触れられた円らな真珠。
ぷっくりと膨らんだそれを、清四郎は指の腹で優しく捏ね始める。

「………ひ、ひゃぁ!!ま、まって………あぁ………!」

「気持ちいいでしょう?………狂いたくなるくらい。」

熱っぽく告げられる残酷な言葉に、悠理は首を左右に大きく振りながら涙を振り撒く。
強すぎる刺激をどうやって散らそうかと、躍起になってはみても、清四郎の責め方は酷く攻撃的で…………
根元にまで強く押し付けるよう、小刻みに指を震わせ始める。

「ひっぃ………!いやぁーーーー!」

未だ絶頂には慣れない。
潮を吹き、軽く痙攣する中、今度は無茶苦茶に突き上げられ、バラバラになりそうな体がすがるように清四郎を求める。

「ぁ……………せぇしろぉ……も……らめぇ」

切ない呼び声は快感の余韻。
清四郎は強靭な腰使いで力強い律動を送り込みながら、酸素を取り込もうと必死になる唇を強引に塞いだ。

「ん………んっ…………んっふ………!」

喉の奥へと強制的に流し込まれる唾液。
絡み付く舌が口腔内の隅々までを舐め回して行く。

火花が散る瞼の裏で、悠理は自分がどんどんと作り替えられている気分に陥った。
酸欠になった身体はただひたすら快感に押しやられてしまい、抗うことは不可能だ。

苦痛ではない明らかな淫楽。
清四郎に叩き込まれた忘我の陶酔。

━━━━初めてなのに。こんな気持ち良くさせられたら、あたい……!

「せぇしろぉ…………もっと………もっと、あたいを壊して!」

心の奥底に燻っていた本音を、悠理はとうとう吐き出した。
羞恥よりも快楽を求める浅ましい自分を、もう止められはしない。

清四郎の腰に足を絡ませ、更に奥へと引き擦り込もうとする貪欲さ。
そんな恋人の痴態は、男のリミッターを易々と外してしまう。

「狂ってしまえ!ゆうり…………!」

打ち付ける激しさはさっきの比ではない。
体が浮くほどの抽送に為す術のない悠理は、目を開けることも出来ず、必死で清四郎の肩にしがみついた。
どろどろに溶け出す意識に、苦しみに似た快感が覆い被さる。
爪を立て、揺さぶられるがまま切ない矯声を上げ続ける悠理をうねるような快楽が容赦なく攻めてくる。

「ああっ・・・そこ・・・いっ、あっああっ!来る、来ちゃう!!」

━━━━ 一体自分の身に何が起こっているというのだろう。

脊髄が甘く痺れ出す中、悠理は今までにない浮遊感を全身で味わった。
まるで無重力の底知れぬ沼に沈み込んで行くような、それでいて………煌めく光へと導かれるような、何とも例えようのない幸福感が広がる。

━━━気持ち………イイ…………

「くっ……ぅ………!」

彼女が起こす無意識の蠢動は、耐えに耐えていた三度目の射精を促し…………二人はようやく悦楽の終焉を迎えたのだった。

◇◇◇◇

全てをさらけ出した後は何となく気恥ずかしいもので………
それでも悠理は照れ隠しのように、清四郎の頬へと軽いキスを落とす。
二人は鼓動を重ね合いながら、息を整えていた。

「はぁ~。頭の中が真っ白になりましたよ。気を失いそうになるくらい………良かった。」

初めての感覚を感動と共に呟けば、悠理の軽い頭が彼の喉元をゴリゴリと擦る。

「━━━━━恥ずかしいんですか?」

無言のまま頷く幼い行為。
耳朶まで真っ赤に染まった様子に、清四郎の手はふわふわの髪を優しく梳き始める。

二人で迎える初めての夜が、こんなにも激しいものになるなんて…………清四郎だって予測していなかった。
もう少し優しく、仄かな甘さ漂う想い出にしてやるつもりだったのに。

「やはりおまえは想定外です。」

「………………どゆこと?」

上目遣いで窺う悠理へ、彼は率直な意見を述べる。

「想像していた以上に色気があった。それと、おまえは明らかに肉欲に溺れる性質です。だいたい何ですか、あの蠢き方は。とても初めての女とは思えませんよ。」

褒められているのか、はたまた貶されているのか。
不安げな表情を浮かべる恋人は、真意を探ろうと清四郎を見つめ続ける。

「きっとこの先、僕はおまえの全てに溺れてしまうんだろうな。」

それは僅かな悔しさを感じさせる台詞だったが、悠理は嬉しくて仕方なかった。

自分達はすごく相性がいい。
たとえ些細な喧嘩をしても、こうして体当たりでぶつかれば、きっと上手く仲直り出来るに違いない。
溺れるのならとことん溺れれば良いんだ。
二人一緒なら、どんな広い世界へでも飛び出していけるんだから。

「せいしろ、大好き。もっと溺れていいよ?」

「身が持ちませんな。」

「二人で鍛えればいいじゃん?」

「…………確かに。では早速、トレーニングを開始しますか。」

「あ、うそ!今日はもう駄目だってば。身体がくがくなんだもん。」

「煽っておいてそれはないでしょう?」

嵐はいつしか遠くへと移動し、闇の中に二人のあま~い夜だけがぽっかりと浮かぶ。
こうして最後まで結ばれた二人は、この先も欲望に忠実な行為を繰り広げていくのだが……………

彼らは知らなかった。

無人だと思いこんでいた屋敷に、嵐の為、早々に帰宅した姉、和子が存在したことを━━━━。



二週間後の吉日。
和子の進言(責任云々)により、両家の間で正式に結納が交わされる。
高校生の二人はれっきとした既成事実と共に、華やかなる雛壇へと再び座ることになったのである。