ピチャ………ピチャ……
「んっ・・・タマ、フク?」
猫が水を飲む音かと思ったそれは、清四郎が股間を啜る淫らな湿音で、悠理は遠退いていた意識を慌てて手繰り寄せた。いつの間にベッドへと運ばれたんだろう。
乾いたシーツの上に脚を大きく開いた状態で、恋人に裸体を晒している。
開かれた脚の間には綺麗に整えられた黒髪が蠢いていて、もどかしいような心地良さがじわじわと這い上がってくる。
神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと視線を下げれば、清四郎のぬるりとした舌が、口にするのも恥ずかしい部分を丁寧になぞり、目が眩むほど淫らな音を立てていた。
「あっ、やぁ・・・!」
その声を合図に動きは止まり、男はゆっくりと顔を上げ、舌舐めずりして見せる。
その顔はまるで飢えた狼のようで、悠理は思わず息を呑んだ。
初めてだった。
このように大胆な愛撫は。
それも意識がない中、手を出してくるなんてこと、今まで一度たりともなかったのに―――。
「せぇしろ、な、なにしてんの?」
「気持ち良くなかったですか?」
そう問われれば、気持ち良いとしか答えようがないけれど、それよりも恥ずかしさが勝る。
素直に首を縦には振れず、悠理は真っ赤な顔を両手で覆った。
「そ、そんなのしなくていいよぉ!」
「僕はこうしたいんですよ。」
そうきっぱりと断言し、再び脚の間に顔を埋めた清四郎は、指先で秘肉を大きく広げると唇全体で大胆に擦り始めた。
「あ・・はぁ・・っ!!」
自分ではどうしようもない衝動が身体中を駆け巡る。
‘止めて’と言いたいのに欲望には抗えず、更なる快感を求めて脚が震え出す。
生暖かい息を秘められた場所で感じ、より一層淫らな音が耳へと飛び込んで来た。
「んっ・・・せぇしろぉ!!」
懇願するような嬌声。
清四郎は小さな粒を捏ねるように舌を絡ませると、チュパッと音を立て吸い付いた。
「ひっ・・!!」
繰り返し、執拗なまでに与えられる初めての刺激に、悠理は頭を振り乱す。
激しさを増す愛撫に身も心も蕩け始め、抵抗する気力はすっかり失われていく。
無論、清四郎の腕がしっかりと悠理の足を押さえ込んでいる為、逃げられるはずもないのだが・・・。
・
・
・
たっぷり30分。
強制的に絶頂を味わい続けた悠理は、朦朧とした意識のまま四肢を投げ出していた。
身を起こした清四郎は、抱え上げた脚にまで愛しそうに舌を這わせる。
「綺麗な脚だ。昔からこの脚には魅せられて来たんですよ。」
膝の裏を擽るように舐められ、反射的にピクリと震える。
「悠理、感じるでしょう?」
喘ぐ声はとおに枯れてしまった。
訴える瞳は涙で潤んでいる。
「ああ、その表情が堪らない。」
清四郎は自らの下着を脱ぎ去ると、昂ったぺニスを軽くしごき始める。
悠理の片足を腕に抱え直し、端から端まで舐め尽くしながら、手の動きに速さを増していく。
そんな様子を、悠理は呆然と見つめていた。
自慰をする清四郎を見るのは、勿論初めてのこと。
赤らんだ首筋、額の汗、そして熱っぽい吐息と視線。
―――男の色気というものはこういうことをいうのか。
そう朧気に感じた途端、胸が急激に熱を持ち始めた。
だが自分はもう人形のようだ。
散々啼かされ、何度も絶頂を味わい、指一本動かせない。
けれど鼓動は、清四郎の痴態を見たくて疼き始める。
「は……ぁ、ゆうり、ゆうり!」
上擦ったような、のぼせたような声が、清四郎の形良い唇から溢れ出す。
悠理を愛しいと告げている、その声。
「い………くっ!」
達する瞬間の清四郎は、全身に鳥肌が立つほど美しかった。
脚に掛かった熱い飛沫。
とろりと流れ落ちる感触に不快さはない。
荒い息を短時間で整えた清四郎は、そんな脚をしばらくの間、うっとりと見つめていた。
「ずっとこうしたかったんです。」
変質的だと理解しているのだろう。
少し照れたような笑みを見せる。
悠理は弛緩していた身体をゆっくりと起こし、濡れた脚にそっと触れた。
半透明の飛沫は白い肌をとろりと滑り落ちる。
「すごい・・・量だな。」
掠れた声で呟けば、清四郎はクスクスと笑い出した。
「お前の身体全てを僕のモノで塗り尽くしたいと言えば、さすがに怒りますか?」
「・・・どんだけ変態なんだよ。」
呆れた様子で詰った悠理だったが、清四郎の変質性は頭のどこかで理解していたような気がする。
そしてそれに嫌悪感を抱かない自分も不思議には思わない。
「どんな僕でも、受け入れてくれるんでしょう?」
「ふん。清四郎が言ったんだろ。・・・・・・あたいだけが離れないって・・・」
「その通りです。だから決して手放しませんよ。」
言いながら、清四郎は悠理に覆い被さると、激しいキスを与え始めた。
「悠理だけなんです。僕自身をさらけ出すことが出来るのは。」
「んっ、わかった……ってば、苦し……っ!」
呼吸も出来ぬ荒々しい口付けに、悠理の思考は再び微睡み始める。
━━━━こんな事言われたら、受け入れるしかないじゃんか。
清四郎の隠れた顔はあといくつあるんだろう?
それを全部知ったとしても、こいつから離れる事は、もう出来ないんだろうな。
膨れ上がった愛情は、いつしか清四郎の全てを包み込めるほどになっていた。
それが何故か誇らしいと感じる。
キスから解放され、覗き込んでくる男の両頬をそっと掴む。
「好きだよ、清四郎。どんなおまえからも絶対に逃げない・・・」
「・・・・言いましたね?」
「うん。」
「愛してます、悠理。」
嬉しそうに微笑んだ清四郎を、悠理は心から愛しいと思った。
・
・
・
「悠理・・・・後ろを向いて。」
腰を回転させられ、清四郎の視線の先に尻を突き出す形となった悠理は、恥ずかしそうにシーツを噛む。
「ああ・・・よく見える。いつ見ても綺麗ですね・・・おまえのここは・・・・」
爪先でカリリと擦るように触れた男は、うっとりとそう呟く。
「こ、こんなかっこ・・・・」
「恥ずかしいんですか?」
「当たり前だろ!」
「もっと恥ずかしい事をしてあげます。たくさん啼いて下さいね。」
言って、清四郎は同じ様に膝をつくと、悠理の薄い臀部を両手で広げ、あろうことかそこへとしゃぶりついた。
「う、うそ・・・やぁ・・・・あ・・・・!!」
あまりのショックに愕然となる悠理。
しかしすぐに鼓膜を震わせ始めたその湿った音に、離したシーツを再び噛んだ。
「んっ・・・!んふっ・・!!」
まるで生き物のような舌が、悠理の全てを曝こうとしている。
文句を零す余裕などなかった。
清四郎の目には秘所だけではなく、不浄の場所すら露となっているのだ。
その恥ずかしさは生まれて初めての経験。
頭は徐々に沸騰していく。
しかし・・・・・
羞恥と快感を同時に与えられることで、きっと夥しいほどの蜜が溢れているのだろう。
清四郎の口からは止め処なく淫らな音が零れている。
「んっあ・・・・ああ・・・・!!」
そのいやらしさに悠理は喘ぐことをやめられない。
気持ちよくて・・・
本当はもっともっとして欲しいと身体が訴えている。
腰が自然とくねり始めた。
浅ましい欲望と共に・・・・・
「悠理・・・・ああ・・・すごく淫らだ。可愛いですよ・・・」
合間にそう囁かれ、清四郎の愛撫に力がこもる。
秘唇は既に舐め尽くしていたが、更に指を加え、今度は胎内(なか)を探り始めた。
愛液と絡まりながら奥へと侵入する二本の指。
ぎゅっと締め付けられるその感触は、いつ確かめても心地良い。
いくら抱いても悠理の中は狭いままだ。
それが嬉しい反面、自身の我慢を強いられることは明確で、挿入する時の覚悟は並大抵のものではない。
快感のスポットはもう知っている。
清四郎の指は確実にそこを捉え、抽送を始めた。
「あ・・・あああ・・・せいしろ・・・だめ、そこ・・・おかしくなるってばぁ・・・!」
「ええ、知っています。ここが良いんですよね。ここを強く擦られるとおまえは欲しくて仕方なくなる・・・」
敢えてそんな風に言われたら、自分がどれだけはしたない女なのかを露呈されているようで・・・・・・
悠理は悔しそうに唇を噛んだ。
それを見透かした男はさらに激しく指を蠢かせ、痴態を引っ張り出そうと躍起になる。
「いいんです・・・・悠理も僕にもっと曝け出して欲しい。僕もおまえの全てが見たいから・・・」
「あ・・・でも・・・・・あたい・・・もういっぱい見せてんじゃんかぁ・・」
「もっとです。どれだけ乱れてもおまえを絶対に嫌いにならないから。ね・・・・いいでしょう?」
清四郎の雄弁な舌が悠理の尻を舐め上げる。
ぞわっとした感触が快感だということを、悠理はもう肌で感じていた。
「いいの・・・ほんとに?・・・・・嫌いになんない?」
「当たり前です。もっと好きになる・・・・」
悠理は首だけでそろり振り向くと、意を決したように告げた。
「・・・・・もう、清四郎ので・・・いっぱい突いて?我慢出来ないよぉ・・・」
その甘いおねだりは、清四郎の理性の箍を呆気なく崩壊させた。
・
・
・
腰を打つ音が響き渡る。
二人は獣を彷彿とさせる格好で繋がっていた。
「あ・・・あ・・・・気持ちいい・・・せいしろぉ・・・・!」
清四郎の鍛えられた腰の動きは、時間をかけた激しい抽送にも衰えを見せない。
汗が飛ぶ。
悠理の美しい背中へ、珠のように・・・・。
「悠理・・・ああ・・・僕もすごくいい。おまえは本当に堪らない身体をしている!」
繋がった部分では、泡立った淫らな蜜が白く溢れていた。
清四郎の逞しくも長い肉茎が根元まで押し込まれ、悠理の中を探る。
「・・・っつ!ん・・・・深いよぉ・・・!」
「ああ・・・ここは初めてだな。こんなにも僕を飲み込んで・・・やらしい女だ・・・・」
「いや・・そんなこと言うな・・・馬鹿ぁ・・・」
腰を震わせ否定するが本音はもちろん違う。
もっと、もっと・・・・清四郎を感じたい。
子宮が押し上げられるような感覚が、先ほどからずっと続いていた。
最初は違和感だったそれも、今はもう快感にしかならない。
徐々に集まっていく絶頂の予感。
悠理はそれを訴えようと、後ろ手に清四郎の手を掴んだ。
「悠理・・・?」
「も・・・・お願い・・・イカせて・・・・?」
「了解です。」
清四郎は腰を引き寄せ、さらに淫らな腰つきで悠理を穿ち始める。
一瞬たりとも休まぬ抽送。
それは獣以上に獣じみた行為だった。
「あ・・・あああ・・・イく・・・イッちゃう・・・・も、駄目ぇ・・・!せいしろ・・・一緒に来て!!」
悠理の懇願は聞き入れられ、胎内の収縮とほぼ同時に、清四郎の精は存分に吐き出された。
絶頂の階段を駆け上がったばかりで力が入らない下肢を、濡れた唇は再びなぞり始める。
「そんなに・・・・あたいの脚が好きなの?」
掠れた声で尋ねると、清四郎はコクリと無言で頷いた。
どこか倒錯的な行為に溺れる男を、今はもう否定出来ない。
悠理もまた、汗に輝く清四郎の胸板に舌を這わせたいという感情が湧き出てきたから・・・・。
しかし脱力した身体はピクリとも動かず、悠理は結局、清四郎の好きにさせることにした。
’このまま眠りにつきたい’・・・と言っても、きっと無駄なんだろうな。
脚の間に見える分身が、悲しいほど反り返っている。
恋人の旺盛な性欲は今に始まった事ではなく・・・・悠理は体力の回復を優先させた。
さっきのような深い絶頂は、体力を根こそぎ奪っていくのだ。
しかし、中毒性のあるあの行為をもう一度与えられるのなら、身を任せても良いのかもしれない。
肌を滑る清四郎の唇は、沈静化していた火種に油を注ぐ。
悠理の奥深くが思い出したかのように疼き始めた。
「せいしろ・・・・」
「ん?」
「もっと・・・・・・感じさせて?」
「ふ、もちろんです。」
互いを曝け出す行為が、再び始まる。