SEX IN THE CAR

もぉ!!
こんなことしてたら、イルカショーに間に合わないじゃん!

そこは決して寛げる空間ではない。
どちらかといえば不自由で、座っている場所すら満足出来ない。
しかしそんな密室とも言える車内で、悠理は嬌声をあげながら、快楽に身を投じていた。

水族館の駐車場は、約600台が収容出来る広さ。
出来るだけ端っこに車を停めた意味が、今ようやく理解できた。

久々のドライブデート。
二人は魅録が新しく買ったバンを拝借し、出来立てほやほやの水族館へ意気揚々とやって来たわけだが……………、早速車から降りようとした恋人を清四郎の腕はガシッと抱き留める。
白イルカに思いを馳せていた悠理は嫌な予感に怯えながらも、そろり、振り向いた。

「な、なに?」

「今日は………ミニスカート、なんですね。」

「え?」

彼の言う通り、悠理は珍しくミニスカートを履いていた。
ガーリィなニットセーターと共に。

『デートならそれなりの格好をしませんと。』

お節介なメイド連中にそそのかされ渋々身に着けたはいいが、その作用までもは誰一人教えてくれなかった。

「萌えます。」

「もえる?」

「このままでは冷静に魚など見れません。」

「は?」

いったい彼らにどんな奇跡が起きたのか━━

半年前、清四郎は悠理への恋心を唐突に自覚した。

‘もしかすると、自分はずっと昔からこの猿のことが好きだったのか’

そう気付いた彼は、あまりのショックからその優秀すぎる脳がオーバーヒートを起こし、挙げ句、一週間丸々寝込んでしまった。
高熱まで出して。
悠理としては、失礼極まりない話である。

しかし、ようやく地獄の淵から這い上がって来た時、彼はまるで別人の如く悠理愛に目覚めていて、その深度はおよそ地球の裏側にまで達する。

あまりにも変わってしまったリーダーの姿に、その現実を受け入れられない仲間たち。
全員が慌ててカウンセリングを受けるほど、彼の変化は劇的なものだった。

恋した男━━いや、清四郎は無敵なのだろう。
瞬きする間もなく悠理を捕獲した。
傍観者に徹すると決めた四人は、これまたパンク状態の悠理を気の毒そうに見送る。
まるで人身御供のようだが、邪魔したが最後、こちらの命が危険なためやむ終えない。

多忙なはずの清四郎はしかし、暇さえあれば悠理を呼び出し、又は家まで駆けつけ、彼女を食らい尽くすことに夢中になった。

元々は自制心の塊のような男。
だが今は、血に飢えた狼そのものだ。
ここ数ヵ月間、 彼女の美しい肌から鬱血の痕が消えたことは一日たりともない。
ノースリーブの服達はすっかりタンスの引き出しで眠っている。
暫くの間、出番は訪れないはずだ。



「な、な、なに考えてんだ!?」

後部座席のリクライニングシートを適度に倒した清四郎は、か弱き?兎を引きずり込むなり、たちまち激しいキスで攻撃した。
後頭部を支える手に、燃えるような熱を感じる。
しかしそれよりも彼の唇は熱く、巧みな舌使いで戸惑う悠理を翻弄し始めた。

「んっ……ふっ……ぁっ………やっぁ」

容赦のない、しかし官能を引きずり出すようなキス。
逃げ出す気力を根こそぎ奪うつもりなのだろう。
薄く塗ったはずのリップは、彼の舌ですっかり舐めとられてしまった。

絡み合い、啜り合う度、湿った音が車内に広がる。
口の中全てが彼の滑らかな舌で犯され、頭が朦朧とし始めた頃、清四郎はほんの少し唇を離して囁いた。

「悠理………運転中、僕がどんなに襲いたかったかわかりますか?」

「んなもん………わかるかよぉ。」

子兎の悠理には未だ男の事情は理解しがたい。

「こんな膝上の短いスカートを履いて………、男を挑発するつもりにしか見えませんよ。」

「はぁ!!?」

叫びも空しく、伸ばされた彼の手が瞬く間に下着へと到達する。

清四郎と体を結ぶ………いや、犯されるようになってから、悠理のランジェリーボックスは華やかさを増した。
無論、彼女の意思ではない。
周りの気遣い(余計なお世話)に加え、百合子が取り寄せたフランス製の高級ブランドがぎっしりと並ぶそのラインナップは、年頃のメイド達も感嘆の声をあげるほど。

しかし、百歩譲ってヒラヒラのレースならともかく、情けないほど透け透けの生地はいかがなものか?

あまりにもアダルトな下着の数々に、悠理は堪らず閉口した。

器用な手により、繊細なデザインのパンティに施された頼りない紐はパラリと解かる。
反対側の脚に引っ掛かっただけの高価な布。
細い足の間………その隙だらけの場所を、清四郎の指は辿り始める。

「…………この間は、ここを弄り過ぎて、気絶しちゃいましたよね。」

「あ………!や、やぁ、そこダメだってば!あたい……おかしくなっちゃうから!」

つい最近、立て続けに肉芽ばかりを責められ、そのあまりの快感から悠理は初めて気を失った。
彼の舌と指で高められたボルテージが炸裂し、身震いがするほど強烈な快楽だった。

「わかってます。イルカショーまでには解放してやりますよ。」

そんな約束など意味を持たない。
どれほど変化しようとも、清四郎の根幹はドSである。
騙し討ちは日常茶飯事。
しかしあまりごねると機嫌を損ねてしまい、そのままエンドレスに突入する危険性がある為、悠理は渋々身を預けた。
長年の習慣とは恐ろしい。

唇だけでもたっぷり10分。
その後、たくしあげられたセーターの下で、鎖骨、胸、脇腹、臍、全てが舐め尽くされ、肌が震えるほど敏感になった悠理。
意識をとろんとさせていると、軽く抱き上げられ、清四郎は入れ替わりにシートへと座った。

「さぁ、乗って。」

「……………う、上に?」

「正常位だと、おまえを離せなくなってしまいますから。」

━━━よく言うよ。

上でも下でも、彼が本気になれば逃げることなど不可能である。

スモークの貼られた薄暗い車内。
それでも変な動きをすれば、他の客の目に留まる可能性はあり、悠理は思わず息をひそめた。

清四郎は自然な流れでスラックスから凶器を取り出す。
それは血管が浮き出た少々グロテスクなもので、しかしピンと張った肌の質感は悠理も好ましく思っていた。
その逞しさは彼の鍛えられた身体に比例するかのよう。

「でかっ。」

「興奮していますからね。カーセックスは初めてですし。」

「………………他の女とも?」

「おや………ヤキモチですか?」

片眉を上げ涼しげに尋ねられると、不快感にも似た苛立ちがこみ上げる。

━━━━ヤキモチ?

このギリギリと音を立てる感情が、そんな可愛いものであるはずがない。
もっとどろどろとした何かだ。

悠理もまた、彼の想いにシンクロし、たった数ヵ月でずっぽり嵌まりこんでいた。
元々意識していた相手に「好きだ」と言われ、押し倒されたのだ。
悶えるような喜びは隠せない。

「ふん!!おまえはスケベだから、何しててもおかしくないよな!」

とはいえ、そう簡単に素直になれないのも彼女の性格。
清四郎の局部を捻りあげる。

「………っツ!!痛いじゃないですか!」

「あたいとエッチしてるんだろ!他の女のことなんか思い出したら、ちょん切ってやる!」

「思い出すわけないだろう!」

清四郎は悠理を抱き寄せ、そのままスカートをたくしあげた。

「こんなに惚れていただなんて………自分でも気付かなかった。もうおまえしか……見えない。」

そんな情熱的な告白をしながらも、長くやらしい指が泥濘を探り始める。

「…………んっ、ほん、と?」

「ええ。けして離しませんからね。覚悟しなさい。」

二本の指に翻弄され、クチュクチュと淫らな音が溢れ始めたとき、悠理は目の前にある清四郎のおでこにそっとキスをした。

「…………一生、大事にしてくれよ?」

「悠理!」

ずぶりと沈めたその大きさに、喉まで感じる圧迫感。
いつもより硬く反り返った肉棒が、悠理の胎内を焼き付くす勢いで動き出す。
それに合わせ、彼女の腰もまた激しく揺れ始め、車がわずかに振動するも、そんなことは意に介さない。

 

「あっあっ………せぇしろ……硬いよぉ………」

「硬い方が好きだろう?ほらもっとよがらせてやる。」

乱れた息遣いと肉のぶつかる音。
どちらも二人の興奮を瞬く間に高めてゆく。
熱に浮かされた顔で喘ぎ続ける悠理を清四郎は嬉しそうに、時折苦しそうに見つめる。
いっそ壊してしまいたいという衝動から滲み出るもどかしさ。

可愛くて、可愛くて、あまりにも可愛くて。
自分でもこんな人間だったのかと驚く毎日。

「悠理、悠理!好きだ。」

理性をかなぐり捨て、本能に付き従い腰を打ち付ける。
跳ねる身体を二本の腕で繋ぎ止め、奥深くまで味わっていると、悠理が快楽の涙を溢し始めた。

「ん………ふぅ、あっん………くぅん、ぁ、きもち、いいよぉ。」

子犬のような泣き声を響かせ、清四郎を見下ろす。
その可愛い泣き顔に成す術はない。
激流となった欲情が、出口を求めて荒れ狂う。

「はっ……くっ………ゆうり……もう………」

「あん!待って!……あたい……あたいもイくから………」

互いの呼吸音は今や切羽詰った短さに。
清四郎はその短さに合わせ、ラストスパートをかけるよう、がむしゃらに腰を突き上げた。

「……いく…………イっちゃう!!!」

「………っく!!」

内側から痺れ出すさざ波のような快感。
何度も打ち寄せ、全身を侵食して行く。
仰け反った悠理は恍惚と目を閉じ、深く息を吐いた。

清四郎もまた、極めた瞬間のキツイ締め付けに息を呑んで小さく呻く。
細い身体を抱き締め、息が整うまで、セーター越しの仄かな膨らみに顔を凭れ続けた。

「………ティッシュ。」

「はい。」

五分後。
余韻から解き放たれた二人は、いそいそと身支度をする。
悠理の愛液に濡れたスラックスは、うっすらと染みを作ったものの、恐らくはジャケットで隠せるくらいの範囲だろう。

それよりも………

「………もう!どんだけ出すんだよ!バカ!」

受け止めきれなかった白濁が、彼女の中からトロトロと流れ落ちる。
絶え間なく拭き取るが、なかなか終わりを見せない。

「掻き出してやりましょうか。」

何故か嬉しそうな男の、そのやらしい笑顔に惑わされる悠理ではない。

「い、いい!一人でする!」

「それはそれで………堪りませんねぇ。」

「!!!」

ニヤニヤ

妄想が駆け足で走り始めたのだろう。
だらしなく頬を緩ませた清四郎に、「あたい、こいつのどこが好きなんだろ……」と珍しく悩んでしまう悠理であった。

その後。
イルカショーに何とか間に合った二人。
しかし悠理は下着の不快感に気もそぞろな様子。

━━━━もう、ミニスカートなんか絶対に履かないぞ!!

そんな誓いを立てる恋人を、清四郎はイルカそっちのけで、満足そうに眺めていた。