「よくも………こんな子供じみた悪戯をしましたね。」
「は、鼻が利くくせに………半分も食べるおまえが悪いんじゃんか!」
「ほぅ……言いたいことはそれだけですか?」
「ひぃっ………!ごめんなさい~!!」
結婚してまだ一年。
しかし付き合いだけは長い二人。
妻、悠理は夫、清四郎の恐ろしさを、イヤというほど知っている。
有言実行
初志貫徹
迅速果断
怒りを内に秘めた様相で、彼の掌は悠理の両手首を一纏めに掴んだ。
「ご、ごめんって言ったじょ?」
「謝って済むのなら、警察も法律も、裁判所すら必要ありませんよ。さぁ、お仕置きの時間です。」
掴まれた手首はあっさりシーツに押し付けられ、悠理は目を回しながらも清四郎を見つめた。
恐れと共に。
「い、痛いのやだ。」
「お仕置きと言ったでしょう?」
もう片方の器用な手が、サイドテーブルの引き出しを探る。
現れたのは赤くて細い縄。
三メートルほどあるだろうか。
彼は驚くほど手際良く、悠理の手首を括り上げてしまった。
「こ、こんなもん、いつの間に!?」
悠理は目を剥く。
「ふふ。いつかは縛ってみたいと思っていましたから。」
「ど、どんだけサドなんだーー!」
「煩く騒ぐと、亀甲縛りにしてしまいますよ?」
それが一体どんな緊縛なのか。
無知な悠理には分からなかったが、どうせこの男のこと。
恐ろしい思いをさせられるに決まっている。
そう察した悠理は、一瞬で口を貝のように噤んだ。
「そう………大人しくしていれば、気持ち良くしてあげます。」
コクコクと頷く妻は既に涙目。
そんなにも怯えるくらいなら、最初から悪戯などしなければいいのに。
清四郎は飽きれると同時に笑いがこみ上げた。
縛られた手から延びた紐は、天蓋の支柱にくくりつけられ、悠理のなめらかな両腋は無防備なまでに晒される。
ピンク色のチャイナ服。
そんな薄い布など、何の意味も成さないと分かったのは僅か数秒後。
易々と引き千切られたそれは、まるで木の葉のようにひらり、床へと落ちて行く。
━━━結構気に入ってたのにな。
悠理はしょぼんと項垂れた。
しかし夫は見た目以上に興奮しているのだろう。
辛子による刺激の余韻。
赤らんだ目は、ギラギラと炎のように燃え滾っていた。
今回、‘子供じみた悪戯’をしてしまった悠理だが、それには理由がある。
ここ三週間ほど、仕事の都合で休みが無かった清四郎。
デートはもちろんのこと、夕食すら二人で摂っていない。
今日こそは一緒に映画館へ出向き、最新のカンフー作品を観ようとワクワクしていたのに、ふと見れば朝からソファで転た寝をしている。
━━━疲れてんだな。
そんな労る心も一瞬こみ上げたが、元来我儘な性格。
そう簡単には治らない。
どうしても一緒に出かけたくなった悠理は、妻らしく可愛げのあるキスで起こそうとした。
が、寝惚けていたのか邪険に振り払われ、それが彼女の虫の居所を悪くしてしまったのだ。
━━━こうなったら梃子でも目を覚まさせてやる!
意地になった悠理。
直ぐ様、お抱えシェフに頼み、手作りの特製肉まんを作って貰う。
もちろん、彼は乗り気で無い。
何せ、手製の辛子は相当な辛さ。
一瞬、何を食べているのか分からないレベルだ。 (んなもん作んな)
それを具材として包み込み蒸し上げた肉まんは、見た目に至ってはごくごく普通。
まずバレることはないだろう。
良心の呵責を感じながらも、渋々悠理へと手渡すシェフ。
そして誰もが味見していないそれを、清四郎はまんまと半分も食べてしまったのだ。
気づいた時にはおおいに噎せ、涙を垂らし、嘔吐いていた。
慌てて水を飲むが、その恐ろしいまでの効果は遅れてやってくる。
鼻の奥が痺れるように痛む。
真横で爆笑する悠理を目にし、必ず復讐をすると心に決めたのはむしろ当然のことだった。
一糸纏わぬ姿で悠理は拘束されている。
手が駄目なら自慢の足で抵抗すれば良いだけ………なのだが、さすがに罪悪感があるからか、彼女は大人しく脚を擦り合わせていた。
「せ、せぇしろ、ごめんね?」
「いいえ、許しません。おまえは僕に相手をして欲しかったんでしょう?大丈夫。今からたっぷりとしてあげますよ。」
「それは映画………」
という間もなく彼はサイドテーブルにある食べかけの特製肉まんを手にした。
━━━━まさか!無理矢理!?
辛いものは大の得意だが、さすがにケタが違う。
悠理は怯えた様子で首を振る。
「ふ…………そんなにも怖がらなくていい。」
目に滲みるほどの強力な辛子を人差し指で掬った清四郎は、恐怖に震える可憐な両胸の突起へと躊躇い無く塗しつけた。
悠理は一瞬で顔を引きつらせる。
「ひぃっ!!」
何をされているのだろう・・・。
見たこともない色に染まる乳首を、清四郎は更に親指を加え、コヨリを作るよう捏ねながら、ピンと勃たせる。
ズクン……
異変は暫くして訪れた。
「あ、あ、やだ・・・ヒリヒリする!」
「でしょうねぇ。」
「ふ、拭いてよ!」
「お仕置きですから………暫くはこのままです。」
清四郎は身を離すと、ようやく自らも服を脱ぎ出した。
その余裕ある行動に、悠理は散々悪態を吐くが、もちろんこれも仕置きの内。
徐々に熱を孕み始めたそれがぷっくりと膨れ、ピンク色の輪がジリジリと痛むように痺れる。
「ひっ………ひどいよ!せぇしろ!」
「おまえがその台詞を言いますか。」
すっかり裸体を晒した夫は、性器を軽く扱きながら再び近づいてくる。
その狂暴すぎる大きさと形。
普段ならば喉を鳴らして喜ぶ悠理だが・・・・
「も、もぉ、痛ぃーー!なんとかしてよーー!」
本気の涙を溢しながら身体を捩る。
感じたことのない刺激は眩暈がするほど強烈なもので、悠理は背中を弓なりに反らせて懇願した。
「どうしてほしい?」
清四郎は悠理に覆い被さったまま、にっこり笑う。
一見余裕めいた表情に見えるが、下半身はしっかりと本性を示していた。
「ど、どうって・・・取って?」
「どんな風に?」
「そ、それは・・・」
ティッシュで拭き取ったとしてもこの刺激からは簡単に逃がれられないだろう。
それほどまでに身体の奥深くへと浸透し始めているのだ。
清四郎は形良い爪で乳首を弾く。
「ああ!!!」
あまりの刺激に悠理は息を詰まらせ、涙を流した。
細かい汗が吹きあげる。
清四郎がそれを舐め取る。
さぞ旨そうに…………。
悠理から溢れ出すものは全て、彼の舌で拭われていく。
「ほら、悠理。どうしてほしい?」
意地悪な質問。
しかし悠理は小さく震える唇を開くと、夫が望むであろう言葉を告げた。
「せぇしろの舌で舐めて?」
「こんな状態なのに?」
「だ、だってぇ………」
ふるふると小さな胸を揺らし、哀願する悠理。
涙に濡れた真っ赤な目で見つめられると、彼の嗜虐心が徐々に和らいでいく。
「全く。━━━━僕は甘いな。」
清四郎はサイドテーブルからグラスを引き寄せ、氷を口に含むと、これ以上無く勃起した乳首を柔らかく食んだ。
「あぁ………!!!!」
冷たさと生暖かさが交互に訪れ、悠理の口から歓喜の声が飛び出す。
もっと、もっと。
せがむよう胸を突き出し、拘束されていない脚で夫の太ももを忙しなく擦り始めた。
清四郎はその誘いの意味を感じとると、片方の手で秘所を探り出す。
じっとりと濡れたそこは、たっぷりの汗と共に、熱く熱く、男を迎え入れようとしていた。
「あぁ……すごいですね。良い反応だ。」
清四郎は一旦口を離し、舌先で氷を転がす。
平たくも薄い胸の上で、それはあっという間に溶けて行った。
悲痛なまでの喘ぎ声がようやく沈静化し、それでも肩で息をする悠理は口の端から唾液を見せる。
呆然とした表情。
脚の隙間を濡らす、夥しい量の愛液。
清四郎は手首を縛る赤い紐を解き、目を虚ろにさせたままの妻へと優しく口付けた。
「お仕置きはおしまいです。あとは………そう、優しくしてあげますよ。」
静かに、密やかに、告げられる宣誓。
悠理はこんな目に遭ってなお、夫のモノを強く求めた。
・・・・
「あ…………はぁ……ん!」
いつもよりも念入りな愛撫で解される身体。
濡れた舌に乳首を舐め転がされ、指先で捏ね回される淫靡な快感。
さっきまでの強い刺激は遠退いたけれど、また違ったそれに身を委ねてしまう。
火照りを帯びた体が、清四郎を求めて啜り泣く。
しかし焦らすような手は、ゆっくりと体の側面を撫でながら、肌を粟立てることに従事している。
「せぇしろ………お願い。も、欲しいよぉ。」
悠理はわざと媚を含ませた。
「もう?いつもより早いですよ?」
そう。
彼の言う通り、清四郎の愛撫は執拗なほど長い。
上半身だけで一時間以上焦らされることも、ざらにあった。
しかし今日は無理。
到底我慢できない。
欲しくて欲しくて身悶えるほど、身体の芯が疼いているのだ。
「意地悪しないで………。おかしくなっちゃう。」
「おかしく?」
清四郎の舌が興味深げに唇を舐めた。
「まだまだですよ。おかしくなるのはこれからです。」
彼は両手を膝に宛がうと、悠理の脚を大きく開かせる。
そのまま軽く押し上げてやれば、窓から射す光に照らされた秘部は、甘い蜜を湛え、十分すぎるほど潤っていた。
身を伏せ、柔らかな舌でしっとりと濡れそぼる秘唇をそっと割り開いていく。
確かにそれは、待ち望んでいた愛撫。
だが悠理は更に太いものを身の内におさめたいと夫を請い求めた。
「なら言葉にして言って?」
「え?」
「ほら言わないといつまでもこのままですよ?」
冷静さを失わない清四郎を睨んでは見たが、そんなことよりも男芯が欲しくて堪らない。
羞恥を押し殺した悠理は目を瞑り、とうとう恥ずかしい懇願を口にした。
と同時に清四郎は悠理を一気に貫く。
最初から子宮口を目指し、身体を押し上げた。
あまりの衝撃に、悠理の声無き声が空気を震わす。
清四郎もまたそんな妻を見つめながら、躊躇うこと無く全ての欲望を胎内へと放った。
ひくひくと痙攣する膣道。
衰えることのない性器。
いまや潤滑油となった精を、腰を軽く回すことで満遍なく塗りたくってゆく。
「あ…………ふっ…………」
衝撃から目を見開いたままの悠理を抱き締め、擦る動きを徐々に早くしていく清四郎。
「ふあ……っ、あっ、あぁん……っ、ああっ、ああっ……」
抑えられない声をそのままに、悠理は涙と唾液を溢したまま、夫の逞しい双肩に縋った。
二度目の射精は僅か五分後━━━
そして再び始まる悦楽を積極的に味わう。
体位を変え、後ろから与えられる快感は、悠理を完全に支配した。
「ほら、もっと喘いで………」
「 あぁっ、ああっ、あぁんっ! あっ、あぁああぁ……っ!せぇしろーーー!イッちゃう!あっ!!」
細い腰を両手で掴み、激しく肌を打ち付ける夫は、妻の絶頂を見届けてから三度目の欲望を放つ。
繋がった場所は白く泡立っている。
それに満足した清四郎はゆっくり分身を取り出すと、丸みを帯びた滑らかな肌に己の名残りを何度も擦りつけた。
とろり、零れ落ちる白濁。
ぐったり崩れ落ちた悠理の内腿を、優しく伝う艶かしい光景。
清四郎もまた、大量に摂取したことで、身体の奥から高い熱を発していた。
終われない。
終わりたくない。
果てのない欲望が身を焦がす。
間も空けず、滴る胎内へと戻っていったのは当然だったのかもしれない。
・
・
・
気付けば随分と時間が経っていた。
外は夕方。
スクリーン代わりの白いカーテンにオレンジ色の光が拡散する。
悠理は息も絶え絶えの様子で仰向けに転がっていた。
清四郎はそんな一糸纏わぬ裸体に指を這わせ、後戯を施す。
しかしまだ、炎は消え去ろうとしない。
「そんなに寂しかったんですか?あんな悪戯さえしなければ午後からでも映画に行けたでしょうに。」
「・・・・・・うん。」
「僕としては有意義な休日になりましたけどね。たまにはこんなセックスも悪くない。」
「・・・・・・・うん。」
「けれど、次、こんな悪戯をしたら……間違いなく亀甲縛りですからね。」
「・・・・・・・・うん?」
覚醒を促すため、呆けた悠理に再び覆い被さり、キスを始める清四郎。
条件反射で舌を絡めてしまう悠理は、何度も捏ね回され、いつもよりも敏感となった赤い実を胸板に擦りつける。
「おや……悠理もまだ足りないようですな。」
「ん……………………シテ?」
「…………やれやれ。こんな調子だと今度は何を食べさせられることやら。」
そう言ってはみるが、妻をお仕置きすることに極度の興奮を覚える夫は、もちろん高揚感と期待に満たされている。
『さて亀甲縛りのおさらいをしておきましょうかね。』
そんな欲に塗れた夫婦の影で、問題の肉まんを作ったシェフだけは、一日中自分の「首」の心配をし、憂いを帯びていたという。