────お仕置き、ですよ。
そう言って手を伸ばしてくる男の目は、愉快そうに細められていた。
それは昨晩、寝る直前に話した他愛もない世間話が発端であった。
大学部も二年目となれば、付き合いは入学当時の倍の広がりを持つ。
社交的な可憐や美童、多くの趣味を持つ清四郎などは、ひときわ複雑な交友関係を結んでおり、日々忙しく過ごしていた。
そんな中、悠理もまたロックやスポーツで気の合う友人達が増え、特にコアな趣味を持つ音楽仲間が多く出来ていた。
清四郎は夜遅くまで遊び歩く恋人を窘めながらも、しかし羽をもぎ取るような行為はせず、大きな懐をもって迎え入れていたのだ。
あくまで表向きは───
だが夕べ、剣菱家の寝室で聞かされた寝物語は、彼の逆鱗に容赦なく触れた。
馴染みのライブハウスでは、悠理が今とことんハマっているバンド“circle death”が、連日熱狂的なライブを行っているという。
メジャーデビューを二ヶ月後に控え、噂は広がり、にわかファンも増える一方だ。
そんな中、思ったら即行動に移す悠理は、楽屋に押しかけ、サインや写真を強引に強請る。
特に、ボーカル『Shin』とのツーショットは携帯電話の画像フォルダにギッシリと詰まっていて、それを再三聞かされていた清四郎もさすがに面白くはなかった。
だがこれも男の度量とばかり黙認する。
もちろん胸の内は暴風雨だ。
・
・
「今日のラストライブはすごかったんだぜ!むちゃくちゃ盛り上がってさ!」
ベッドに入ってからも、興奮冷めやらぬといった様子の恋人を、清四郎はいつものように後ろから抱き締め、相づちを打つ。
シャワーで熱を帯びた身体からは、仄かな薔薇の香りが漂い、それが彼女らしからぬ選択だと分かっていても欲望が擡げる。
齢20を過ぎ、ようやく色気付いてきたらしい。
しっとりと濡れた髪からも高価な薔薇が香り、清四郎の良く利く鼻がヒクヒクと反応した。
「ほら見て。今夜は打ち上げに連れてってもらったんだ!」
自慢げに差し出された携帯から、半ば強制的に見たくもない写真を見せられる。
清四郎はその一枚一枚を、砂を噛む思いで眺めていた。
「Shinって見た目はごついくせに酒はてんで弱くてさ。ジョッキ一杯でフラフラしてやんの!」
そう言って次々と流れる画像の中、とある一枚に清四郎の目が留まる。
そこには、馴れ馴れしくも悠理に凭れ掛かる男の姿が。
紫色の髪は天に向け聳え立ち、よく見れば片耳に五つのピアスが嵌まっている。
美しく整った顔立ちながらロックミュージシャンらしく、アクセサリーはいかつい。
首筋は意味も解らぬ紋様のタトゥで飾られ、悠理の言うとおり見事な体躯を誇っている。
酒のせいか顔色は異様に赤かったが。
ピキッ………
清四郎のこめかみに血管が浮かび上がる。
とてもじゃないが、平常心を保てる写真ではない。
悠理も悠理で、ほんのりと照れているのがわかり、それが一層怒りを助長した。
「ふぁあ~。今日は疲れたよ。せぇしろ、おやすみぃ。」
「…………おやすみ。」
背中に突き刺さる不穏な視線も感じず、悠理はあっという間に眠りへと誘われる。
その様子を苦々しく見つめる清四郎の目はひときわ暗く、鈍い光を放っていた。
・
・
そして次の夜。
清四郎の珍しく早い帰宅に驚かされた悠理は、スーツ姿の彼に腕を取られ、あれよあれよとベッドに転がされた。
「な、なに?」
「お仕置き、ですよ。さぁ、四つん這いになりなさい。」
「げっ!何の!?」
一体何事かと目を丸くするものの、しかし清四郎が本気で不機嫌なことを知り、冷や汗を流す。
────あたい、何かしたっけ?
「わ、理由を言え!」
すると途端に清四郎の表情が強ばる。
溜め息混じりの蔑みは、悠理を不安へと突き落とした。
「僕がいつまでも寛容な恋人だと思っているのなら、大間違いですよ。」
「か、かんよう??」
聞き慣れない表現に目を剥いて反応する。
────『かんよう』ってアレだよな。心が広くて、何か失敗しても許してくれる、ってことだろ?
とてもそうは見えない恋人の堂々たる発言は、お馬鹿な悠理にすら疑問を抱かせた。
「な、なんだよ!おまえの『どこ』がかんようなんだ!!?」
「寛容でしょう?毎夜毎夜、僕以外の男の顔を見に出掛けているのを容認していたんですから。」
「他の男……って、そんな………」
そこでようやく、原因がShinであることに気付く悠理。
彼女も相当な鈍さだ。
「べたべたと触れさせた上、あんな写真を見せるなんて………無神経にもほどがありますよ。よって、然るべきお仕置きが必要かと。」
清四郎は本気だ。
その目がもの語っている。
獲物を定めた肉食獣の光。
長年、彼に対し服従体質だった悠理の身体は即座に反応を見せた。
「………こ、こわいことすんなよ?」
無言で微笑むヤツに敵いっこない。
逃がさないと訴える眼光は昏く光っている。
悠理は抵抗を諦め、言われた通り四つん這いになった。
────多少の痛みなら我慢してみせる。
パジャマ替わりに使っているゆったりめシャツからはカモシカのような足が伸び、清四郎は満足そうに頷く。
伸ばした手はシャツを捲り、愛猫の描かれたまだまだ幼さの残るパンツが露わとなれば、無防備な悠理の出来上がりだ。
長い指が、割れ目に沿って線を描く。
「あ………っん!」
何度も何度も、甘い声を引き出す為に繰り返される行為。
時折、強弱をつけ押し込まれる。
意識せずともしっとり濡れ始める秘裂は、すっかり悠理の形を露わにした。
「やっ………そればっか………」
キスもない。
胸への愛撫も………
清四郎が弄んでいるのはその一点のみ。
プクッと膨らみ始めた肉の芽が下着越しに主張したとしても、それは決して悠理の所為ではないだろう。
彼の指は絶妙な力で擦り続け、布には染みが広がり始める。
「あ………あっ………直接、触ってぇ………」
快楽に弱い悠理が懇願しても、彼はあくまで下着の上から刺激を与え続けた。
汗がにじみ、体温が上がる。
枕を抱きしめる悠理の口端から涎が零れだした。
馴染んだ愛撫に身も心も溶けていく。
「ふぁ………ん………そ、そこダメぇ………」
器用な指先が悠理の感度を確かめるよう滑る。
気持ち良い………………
疼く 胎内は清四郎のモノが欲しくて仕方なかった。
キスも、抱擁も、清四郎の全てが恋しい。
「やだ………もぅ………触ってよぉ………」
「触ってるじゃないですか。ほら、こんなにも。」
「ちがっ………んうっ!!」
ぐっと押し込まれた布が、悠理の穴を埋め、そのまま左右に揺らされる。
異物感に硬直する身体はそれでも清四郎を求め続けた。
「ぁ………あ………」
甘い蜜は止め処なく溢れ、それを吸い取った下着は徐々に重さを増していく。
普通ならば痛いはずの食い込みが、今は淫らな気持ちを湧き立たせ、早く清四郎の指が欲しくて仕方ない。
じゅわっと溢れ出る愛液は、とうとう内股へと流れ始めた。
「そんなに気持ちいいんですか?」
全てを見透かしたような声は悠理を興奮させる。
それが屈辱的な言葉だろうと、清四郎から発せられたものなら全てが快感に結びつくのだ。
「………もちいい。」
蚊の鳴くような声で答えた後も、彼は決して指を離そうとしない。
「もう、びっしょりですよ………やらしいですねぇ。」
摘まむよう弄ばれる小さな芽が、より強い快感を引き出そうともがき始めている。
それを見透しながらも絶妙な力加減で嬲る清四郎は、涼しげな顔でこう言った。
「ほら、懇願しなさい。どうしてほしい?ここを直接弄って欲しいんでしょう?」
「ひっ………ん!」
粟立つ肌を撫で回され、ビクッと跳ねる身体。
濡れた下着を重く感じながら、悠理はコクコクと頷いた。
「お…………お願い………………意地悪しないで………」
最大限の甘さで媚びる。
しかし清四郎は一旦悠理から手を離し、サイドテーブルの引き出しにあった小さな軟膏のような物を取り出した。
首を回し、背後を見つめる悠理は、それが恋人の怪しい研究の産物だと直ぐに解る。
「や!!変なもん使うなよ!」
「言ったでしょう?これはお仕置きなんです。おまえに拒否権はありません。」
ニュルッと出てきた半透明のそれは、清四郎の指で下着の中へと押し込まれる。
ひんやりとした感覚。
それが徐々に熱をもつようになるまで、およそ1分ほどかかった。
清四郎はうっすらと微笑みながら、悠理の変化を見続けている。
強烈な疼きに腰を揺らし、涙を流すその姿を。
もう彼の手は何もしていない。
彼女の秘所は快感を求め、自らの指で慰めるしかないのだ。
一度燃え出した 身体は、どうにもこうにも止まらない。
「あ………ひっあ………助けて………………せぇしろ………!」
四つん這いのまま、ピンク色に染まる下半身をくねらせ、最も敏感な部分を擦る。
クチュ………ヌチャ………
布の中から聞こえる、湿った音は徐々に激しさを増していき、羞恥心すら手繰り寄せることが出来ない。
「も………やだよぉ………苦しいよぉ………」
自慰行為など滅多にしない悠理は、どうしたらここから解放されるのか解らないのだ。
ただひたすら擦り続けることで、掻き毟りたい衝動を散らす。
──────もう、気が狂っちゃいそう
中から溢れる蜜を塗しながら、あられもない痴態を晒す悠理を、清四郎はただただ見つめる。
激しい欲情に駆られ、視界が赤く染まっていく中、彼の屹立は痛いほど勃ち上がっていた。
「挿れて欲しいですか?」
「う…………うん!うん!!」
「なら………自分で広げなさい。そのままの格好で。」
悠理は躊躇わなかった。
速やかに下着から片足だけ抜くと、薄紅色をした蜜壺を大きく割り開き、清四郎を誘った。
「はやく…………入れて…………も、おかしくなっちゃうからぁ!」
清四郎もまた、ファスナーを慌ただしく下ろし、昂ぶりを解放すると、先端から漏れ出た透明な液体を肉茎に塗しつけ、素早く準備を整えた。
ドクドクと脈打つその姿は、もはやモンスターとも感じる。
「今夜は…………容赦しませんよ?」
華奢な腰を掴み、覆い被さるような体勢で一気に貫く。
猛る肉塊。
それは過去にないほど膨張したもので、息を呑む悠理は言葉ごと失った。
「ドロドロですね………溶けてしまいそうだ。」
グチュン!
一旦引き抜かれたそれで、再び音が鳴るほど奥深くを抉られる。
瞼の裏が真っ赤に染まる中での恍惚。
律動は初めから激しく、そして的確に悠理の快感を導き出す。
「ああ!あ、あぁ!!!!!」
太くて硬い肉杭に胎内の隅々までをも嬲られる感覚は、全身を震わせ、喉の奥から悲鳴を迸らせる。
悠理は狂ったように腰をくねらせ、獣の咆哮をあげた。
こんな快感は初めてだ。
そしてたとえこれがお仕置きだとしても、清四郎から与えられる快楽に抗う事は出来ない。
ドクン
脈打つ肉棒が更に太さを増す。
それは彼もまた、この上なく興奮している証。
「気持ちいいか?」
掠れた声が耳へと触れた。
「いい………いい…………もっと、してぇ……」
従順な恋人の尻を鷲掴み、清四郎は更なる抽送で攻め立てる。
愛しい女を悦楽の頂点へと導く為、激しさを増してゆく腰使い。
「悠理………イかせて欲しいんでしょう?」
即座に揺れる頭。
それを満足そうに眺めた後、清四郎は大きく腰を抱え、密着度を上げた。
子宮の入り口近くをグリグリと抉れば、嬌声がひときわ大きくなる。
「あぁ………………気持ち良いよぉ!!イク!イクぅ!!」
痙攣する胎内が肉竿を絞るように締め付ける。
息を詰めた清四郎が吐き出した瞬間、悠理もまた濁流のような絶頂に身を任せた。
・
・
「あんっ…せぇしろ……………………あぁっ……壊れちゃ……………壊れちゃう……………ひぁっ!」
一度で許すような男ではない。
二人は生まれたままの姿で、汗を散らしながら繋がっていた。
先ほどまでの激しさはなく、ただひたすら悠理の奥深くを穿ち続ける。
薬の効き目が切れてもまた同じように塗りたくられ、決して快楽の檻から逃がそうとはしなかった。
悠理はこれほどまでに嫉妬深い恋人を、何故受け入れているのか不思議で仕方ない。
身体がギシギシと軋む中、それでも清四郎の熱き塊を拒絶する事は出来なかった。
「悠理………おまえは僕のものだ………他の男に触れさせるんじゃない。」
「ん、ん………………」
答える間もなく口を塞がれ、唾液が溢れるほどの口付けに溺れる。
抜き差しされる怒張は、どうしてこんなにも衰えないのだろう?
怒りと独占欲に駆られた清四郎に、お仕置きと称し蹂躙される身体はそれでも悦びに満ちていた。
二度目の吐精はさらに奥深くで行われ、ピルを飲んでいなければきっと子を宿しただろうと思えるほど濃厚だった。
汗だくの胸は執拗なほど揉みしだかれ、彼の手に合わせて形を変える。
再び硬くなり始めたそれで中をぐちゃぐちゃに掻き回す音は、悠理の脳内を痺れさせ、思考回路を狂わせていった。
「もっと……………もっといっぱいシテ………………」
「良い子だ…………愛してますよ。」
太い楔で縫い止められた身体は、規則正しいリズムに揺らされる。
「あたいも。ずっと、ずっと………せぇしろだけだよ…………」
愛を交わしながらも激しい肉欲に溺れる二人。
深く繋がった身体は、明け方まで離れる事が無かった。
・
・
その後、悠理の行動が大きく変わったわけではなく────────
いつものようにライブハウスやコンサートに出かけ、“circle death”に情熱を注いでいた。
楽屋も訪れるし、打ち上げにも参加する。
画像フォルダには新しい写真がどんどんと追加されていった。
時々、そう時々ではあるが、悠理はそんな画像をわざとらしく清四郎に見せつけることがある。
彼の嫉妬を煽り、またあの激かった夜を求めているからだ。
快楽に支配され続けた、あの夜を。
「全く。悪い娘ですな。これじゃあ、お仕置きになりませんよ。」
そう言いながらも嬉しそうに組み敷いていく男は、次のアイテムを用意している。
「くふん」
小さなケダモノの大きな欲望。
二人が向かう先はいずこ?