夢の中の悠理は、驚くほど儚い。
まっさらな身体を思う存分割り開き、汚れた欲望を幾度となく突き立て、注ぎ込めば、鮮血は花弁の様に舞い、微かな芳香を振り撒く。
ひくり
艶かしく揺れる腰が卑猥で、僕は再びのし掛かってしまう。
顔にかかる柔らかな髪を梳き、
額、瞼、頬、唇、首筋、胸、足━━━
全てに触れるだけの口付けをして、彼女の中へと戻って行く。
身を捩り、逃げようとする腰を両手で掴むと、更なる奥を目指す。
果ての無い飢餓感と喉の渇き。
胎内に吐き出した己の其れは、なんと汚れた存在なのか。
彼女が汚される。
自分の手によって。
涙と鮮血。
それらを目に留めながら、柔らかな皮膚を思うさま凌辱する恍惚。
━━━嗚呼、本当はもっと優しくしてやりたいのに。
そう思う事で、一体どんな免罪符になり得るというのか。
僕は肚の奥深くで昏く嗤う。
悠理の肩を撫で、優しく微笑みながら、冷たい涙を流すその滑らか頬をじっと見つめる。
絶望に満ちた表情。
虚ろな視線。
━━━僕はこんな男なんですよ。悠理。
いっそ彼女に埋もれたまま、小さな砂となってしまっても悔いはないだろう。
けれど、それは無意味な妄想。
だから、こうして確かめるように陵辱する。
━━━夢の中の悠理は僕のもの。
僕だけの人形、そして愛玩動物だ。
「せぇしろぉ・・・・」
彼女は罪深き者の名を密やかに告げる。
「悠理・・・・」
僕は恵まれし子の名を静かに呼んだ。
そこで夢は弾けてしまう。
シャボン玉よりも呆気なく、海の泡のように細かく。
「はぁ・・・・・・」
深い溜息は目覚めた後。
強制的に訪れる目覚めをひたすら憎む。
さすがにこの年だ。
夢精などしないが、それでも欲望の滴りが下着を濡らす。
━━━抱きたい。悠理をこの手で思う存分抱いてみたい。
そんな叶わぬ願望を思い描いて早一年。
僕たちは大学二年生になった。
相変わらずのトラブルメーカー。
この一年の間、彼女が誘拐された事は片手ほど。
それ以外の殺人事件、幽霊事件は両の手では足りないくらいだ。
━━━もしかすると、輪をかけてひどくなってる?
仲間達は胸の内で呟く。
もちろん、全てが彼女の所為ではない。
中には美童や可憐の交友関係が引き金となったり、万作氏絡みの事件も多くあった。
だが悠理は特大ハリケーン。
騒ぎを出来るだけ大きくさせる名人でもある。
僕がこの想いに気付いたのは、大学入学前に起きた誘拐事件がきっかけだ。
悠理は身代金目的の犯人にまんまと拉致されてしまう。
喧嘩は強いがおつむは弱い。
暴れるだけ暴れた上、煙たく思われた彼女は、とうとう怪しげなクスリを打たれてしまう。
犯人達は揃いも揃ってチンピラもどき。
上納金を使い込んでしまい、それを補填するため誘拐を企てた。
元々生きて帰すつもりなかったのだろう。
それでも大人しくなった彼女の美しさに唾を飲んだ彼らは、悪戯心を疼かせる。
悠理の下着姿が僕の携帯へ動画として送られてきた時、それを見た野梨子は即座に失神し、可憐は号泣した。
慌てて隠したその動画。
美童や魅録には決して見せたくない。
彼女の下着姿を見せたくないんだ。
僕は犯人への憤りと共に、じわりとこみ上げる情動を明らかに感じ取っていた。
悠理は元々美しい。
男女問わずその視線を集めてしまう中性的な容姿の持ち主だ。
透き通るような肌。
括れた腰。
普段から、女性らしさを欠いた格好をしている為わからないが、実のところ、誰よりも華奢な身体つきをしている。
無きがごとき胸も水着姿になれば、一目瞭然。
ふんわりとした柔らかい膨らみが見て取れる。
かといって、彼女に性的な意識を持ったことは今まで無かった。
そう、その日までは━━━。
水色の下着に隠された胸。
赤い紐で拘束されながらも、こちらを睨み付ける潤んだ瞳。
思ったよりも肉付きのよい太ももや細い足首が、欲情を促し、胸を高鳴らせる。
動画は五分にわたり撮影されていた。
初めはボソボソと何かを呟く男たちの声。
しかし二分を過ぎる頃、奴等は悠理の身体を薄汚い手で撫で回し始める。
一人、
二人、
いや、撮影者を含め四人は居る。
悠理はあまりの屈辱に顔を真っ赤に染めたまま、しかし呂律の回らぬ口を必死に動かしている。
じっと口元を見つめる。
多少の読心術なら問題ない。
何度か繰り返されるその動きに、僕は愕然とさせられた。
『せぇしろ………見るな』
いつもの彼女なら、さっさと助けろ!と叫ぶだろう。
何してんだ!と激昂するだろう。
しかしその時の悠理はあまりにもか弱く、あくまでも‘女’だった。
携帯をへし折りたくなる衝動を堪え、何か助けるヒントが隠されていないか、目を凝らして見続ける。
拷問だ。
これは…………拷問でしかない。
悠理の肌が、
あの汚れのない肌が、
見も知らぬ男たちに凌辱されて行く。
そして五分の動画が終わる頃、微かに汽笛の音が聞こえた。
━━━━埠頭か!
事件解決の糸口は見つかり、僕は魅録と動き始める。
彼の確かな情報網と、的確な判断能力は、より一層研ぎ済まされていた。
誘拐されてから丸一日。
なんとか悠理を取り戻すことが出来た。
・
・
・
一旦薬を抜くため、うちの病院に預けられた悠理。
仲間達の前では気丈に振る舞っていたが、皆が帰った後、頼り無げに僕の袖を掴んだ。
「せぇしろ、あんがと。」
それは普段、耳にすることのない殊勝な台詞。
見れば、小刻みに震える手。
ああ・・・・こんなにもこみ上げる愛しさを一体どうしろというのだ。
僕はその手をそっと握り、彼女の身体を抱き寄せた。
それは友人としての抱擁。
いや、偽りだ。
明らかに欲望を秘めた男の抱擁だった。
彼女は犯人たちに最後まで汚されることはなく、間一髪で助け出された。
もし、あの時、悠理の下半身から水色の下着が見当たらなかったら━━━━
僕はあの愚者どもを一人残らずあの世行きにしたことだろう。
痕が残った手首。
涙がこみ上げるほど痛々しい。
しかし、その赤くなった部分は、送られてきた忌々しい動画を思い出させる。
縄に縛られながらも、強い光を放つ悠理。
白い肌に赤い束縛。
それはあまりにも美しく、喉が鳴るほど魅惑的な姿であった。
━━━━僕の手で縛り上げたい。
そんな衝動に囚われた瞬間、苦しいほどの動悸に目眩がした。
僕は……………
まさか僕は……………
それは明らかに歪んだ欲望。
彼女を虐げたいと願う、醜い性癖であった。