「こんなのやだっ!外から見えちゃうかもしんないだろ!」
「それが何か?僕はここでおまえを抱くと決めたんです。」
「ばかぁ………ぁあっん………!!」
防音ガラスに押し付けられた悠理の悲鳴は、誰の耳にも届きはしない。
清四郎が選んだ二人の住居は、そういったプライバシー対策が特に重要視されていて、昼夜問わず彼女は啼き叫ぶ事が出来た。新婚三日目の若夫婦。
三年………と期限を決め、二人暮らしを始めた彼らは、まさに発情期の獣と化していた。
理性的なはずの夫が特に。
朝昼晩。
清四郎は悠理を思い通りに扱い、快楽の海へと突き落とす。
達しては咥えさせ、彼女を羞恥に貶めた後、激しく貫く。
その繰り返し。
この三日間の睡眠量は一日分にも満たないだろう。
食事、トイレ、そして風呂以外はベッドの上で過ごしてきた。
もちろんその風呂ですら愛欲の場と化していたが………。
へとへとになりながらも悠理は清四郎の要望を受け入れ続けた。
口でする念入りな奉仕の仕方も三日前に教えられたばかり。
顎がダルいとぼやく悠理をようやく今朝方解放し、三日ぶりの着衣を許したのだが━━━━
しかし……
シャワーを浴び戻ってきた新妻のTシャツ姿に欲情し、あっさりとそれを脱がせてしまう。
自らもまた、その逞しい裸体を惜しげもなく晒し、硬くそそり立つ男根を隠そうともしない。
着たばかりの新しい下着を剥ぎ取られるのも、時間の問題だった。
背後からしっかり掴まれ、窓ガラスに押し付けられた両手。
体格差だけでなく、腕力でも敵わない、と悠理は既に諦めている。
それと共に恐ろしい性欲がぶつけられるのは、愛故の事だと思いたい。
至る場所に残されたキスマークがその証であるかのように。
「ゆうり………」
耳に吹き込まれる吐息が熱い。
興奮しているのだ━━と解り、悠理は夫を迎え入れる覚悟をした。
肩幅に開かれた脚。
誘うような臀部。
そこに擦り付けられる情熱のシンボル。
「濡れてますよ………さっきのシャワーで洗い流してきたんでしょう?」
夫は何故か勝ち誇った笑みを見せながら、秘所を弄ぶ。
悠理とて判らない。
何故自分がこんなにも濡れてしまうのか。
キスもされていない。
まともな愛撫すら。
しかし飼い慣らされた身体は清四郎を求めて勝手に準備を始める。
欲望を隠そうともしない彼に軽く腕を取られただけで、腹の底がじゅんと切なく疼く。
熱っぽく名前を呼ばれるだけで、脳が痺れ、太ももを伝う愛液に悩まされてしまう。
三日前の、もう少し理性的だった自分はどこにも居ない。
欲しくて、欲しくて━━━━
頭がおかしいのかと思うほど、体が言うことを聞かないのだ。
「だ、だって………洗っても洗ってもヌルヌルしちゃうんだもん。」
「ふ……やらしい身体になりましたね。一体、誰のせいですか?」
解りきった質問をするな!と言いたいところだが、悠理は素直に「せぇしろ………」と甘えて見せた。
「そう。僕のせいです。」
背骨の上を官能的な舌で往復した男は、その薄い下着すら歯で引き摺り下ろしてしまう。
床に膝まずき、柔らかい尻を割り、そこへと口を付け、破廉恥な音を立て啜り始める。
「ひっ…………ぁっ!!やぁ~ぁ!」
ジュルジュル
ズズッ
耳を覆いたくなるような音は、いつまで経っても慣れることはない。
力ではなく圧倒的な快感で拘束された悠理は、朝の光を感じながらただ喘ぐ事しか出来なかった。
「あ……ひゃっ……ん……せぇしろぉ!」
生まれたての小鹿のようにふるふると足を震わせ、背後から責める夫を見下ろす。
彼の貪欲な舌が、敏感な花芽と濡れそぼった秘裂をなぞるように行き来し、あろうことか不浄の場所までをも指で擽る。
「やっ、やっ、だめ、そこ、だめ!」
不快なだけでない奇妙な感覚。
それは彼女の羞恥心や背徳感を間違いなく呼び覚ますのだが、身体は一向に言うことを聞かず、ただ清四郎に任せるだけ。
ピチャピチャ
夫の舌が美しく整った割れ目に潜り込み、熱い蜜を舐め啜る。
━━━━も、だめぇ!!
過ぎる快感に痙攣が走り、震えることを押さえられない。
執拗な刺激を与えられ、すっかり固くなってしまった尖りを、彼に甘く噛まれた瞬間、悠理は「ひゃぁ…………んん!!」と悲鳴のような喘ぎを洩らし、そのまま絶頂に崩れ落ちていった。
「ご馳走さま。」
立ち上がり、涼しい顔で口元を拭う夫は、へたりこんだ妻を優しげに見下ろす。
夫を見上げる形となった悠理は、その硬く聳え立つモノへ自然と手を伸ばした。
「せぇしろ………」
快感の余韻を全身に湛えながらも、まるで懇願するかのようにそれを愛撫し始める。
「っはぁ………おっきぃ………」
うっとりと頬擦りする悠理はマタタビを嗅がされた猫。
自分には一生与えられない男の武器を、愛しげに見つめる。
そんな妻を見て、湧き立つような興奮に身を焦がすのも当然のこと。
男はごくりと唾を飲み下した。
三ヶ月という短い交際期間の末、結婚した二人。
大学生の身でありながら、こうした環境を望んだ清四郎の熱は冷めることがない。
互いの家族も干渉してこない、正しく最高の場所。
悠理を思うがまま調教し、理想の女に仕立て上げることも決して夢ではないのだ。
「さぁ、好きにしていいんですよ?」
言い終わる間もなく、悠理はぞろりと舌を這わせ始めた。
浮き出た血管の一本一本を丹念に舐め上げ、括れを擦る。
三日前には散々恥ずかしがり、手で触れることもしなかったのに。
清四郎は妻の変化を目にし、静かに歓喜していた。
「気持ち……いい?」
「この上なく………」
恍惚とした男の瞳が、強い欲情に染まってゆく。
悠理にとってそれは、何よりも自分を昂らせ、羞恥を忘れさせる夫の変貌だ。
濡れた唇を躊躇いなく開くと、ぱっくりと口に含む。
先走りのほろ苦さにも構わず、舌先と上顎で搾り取るような愛撫を施しながら、両手で根元を軽く扱く。
すると、清四郎は切ないほど艶のある声を洩らした。
「………はぁっ………ゆうり……上手だ。」
喉に絡みつく体液。
口淫は一層激しさを増した。
熱い唇の間から留め切れなかった唾液が顎を伝い、舌を絡める湿音と乱れる息使いが混ざり合って耳に共鳴する。
二人が奏でる淫らな旋律。
あまりの痴態と心地よさに音を上げたのは清四郎だった。
「ゆう……り、もう、無理だ。立って!」
床へと散らばる蜜と唾液。
抱えるように立たされた悠理は、再び窓に手をつくよう促され、背後から思いきり貫かれた。
「ひ…っん!!」
強引に片足を持ち上げた清四郎は、容赦ない勢いで律動を繰り返す。
ポタ…………ポタ………
夥しい量の愛液が、二人の足下にある真新しいフローリングに水溜まりを作る。
「おまえの甘い蜜が……匂い立って来ましたよ。」
「ひゃあ…ん!」
耳を甘噛みされながら告げられ、もう片方の手で充血した尖りに刺激を与えられると、たちまちノンストップの絶頂が欲しくなる。
窓の外にある景色などどうでもいい。
誰かに見られる事だって……。
「ぁっ…!あああッ!あ―ッ……それダメッ!おかしくなるよぉ!」
「もう、イきたいんですか?」
「イきたい!!せぇしろ!イカせて!」
「可愛いやつだ。今、たっぷりと奥に出してやりますからね………」
「ん!早くぅ!一緒に………!」
清四郎は汗で濡れたうなじに思いきり吸い付くと、ガンガンと腰を打ち付け、妻を望み通りの絶頂へと導いた。
「ひ……っやぁ!ああぁ………!」
弓なりに反った背中。
引き寄せた細い腰が、快感に艶かしく揺れる。
彼が欲望を放ったのは数瞬後。
床に広がる小さな水溜まりに、白濁がぽつん、と混じった。
・
・
・
悠理はベッドに俯せたまま、清四郎の後戯に身を任せていた。
朝日はすっかり角度を変え、真昼の太陽へと表情を変えている。
「何度見ても綺麗な肩甲骨ですね。腰も細くて、小さなお尻も可愛い。僕にとってすごく理想的な身体ですよ。」
横たわった清四郎の指が人形の足のようにテクテクと背中を辿っていく。
体力の限界を知らぬ夫は正直怖い。
だが、元来負けず嫌いの悠理。
「ギブアップ」など口にはしたくなかった。
「何日、こうしてんの?」
「そうですねぇ。一応ハネムーンですし?一ヶ月くらいなら誰も文句は言わないでしょう。」
「一ヶ月!!!?」
「冗談ですよ。おまえはこれ以上単位を落とせないでしょうから、精々あと5日、といったところですか。」
「5日…………」
「おや?物足りない?」
「んなわけあるか!!」
「そんなに照れなくても。夏休みになればドカンと新婚旅行が待ってますよ。」
二人が選んだ渡航先はブラジルの高級リゾート地。
悠理は目下、アマゾン川をボートで上りたいだけなのだが、清四郎は頑としてホテルのクオリティを求めた。
いくら何でも新婚旅行で原住民と共に過ごす、なんてことはしたくない。
「悠理も楽しみでしょう?」
「う、うん。そりゃ……楽しみだよ。」
「ラテンの国に倣って、思いきり愛し合いましょうね。」
え?これ以上?
という疑問よりも先に、清四郎が背中に覆い被さってくる。
「ま、またすんのぉ?」
「想像したら、興奮してきたんですよ。」
果たして彼の発情期はいつ治まるのか。
蜜月期の終わりも見えぬまま、悠理はまたしても流されるように身体を開いた。
「あたいもたいがい……ダメだよな。」
クスクスと笑い合う幸せな二人。
彼らの新婚生活は、まだまだ始まったばかりである。
ちなみに、部屋の窓全てがミラーガラスであるという事実を、悠理が知るのはもう少し後。