gratification(R)

エンジン音が低く響く。
清四郎が借りてきた車はツーシーターのドイツ車で、悠理は広々とした助手席の足元におやつが詰め込まれたリュックを置くと、早速飲み物をドリンクホルダーに差し込んだ。
左ハンドルも何のその。
清四郎は滑らかな運転で首都高を走る。「ホワイトライオンが子供を産んだようですね。きっとまだ小さい。」

「やったぁ!ライオン大好き!くふふ、すっごく可愛いんだろうなぁ~。」

清四郎は彼女のこんなところが好ましいと思う。
感動を素直に表現出来る事は一つの才能だ。
喜怒哀楽全て関して、悠理は躊躇いを見せない。
お互いすでに二十歳を超えているが、時が経つに連れ、二人のそういった差がどんどんと開いていくようで、清四郎は思わず苦笑した。
彼女とは違い、更なる建前を身に着けようとする自分。
鉄壁のポーカーフェイスは彼の第一の顔となりつつあった。

しかし悠理は変わらない。
変わらないでいてほしいと願うのは、大人へのステップと共に失われる、‘何か’にしがみつこうとしているせいだろうか?

昔から彼女の純粋さを貴重に思ってはきたが、それが愛だと気付くまで随分と時間がかかった。
今でこそ、二人の大切なプレリュードだったのだ、と言い聞かせる事も出来るのだが…………。

しかし彼は、過去の愚かな自分を情けなく思ってしまう。
もっと早く愛に気づき、それを素直に伝えていたのなら、二人は今頃、どれほど甘い生活を送っていただろう。

清四郎の脳内では常に薔薇色の新婚生活が思い描かれており、それを実現させる為、日々自分を鍛え直していた。
無論、体だけでなく精神面でも成長し、いつまでも悠理から頼られる存在で居るために……。

「せぇしろ、バナナ食う?」

「・・・・いえ、結構。」

「そ?んじゃあたいだけ食~おうっと。」

いそいそとリュックを漁り、取り出した黄色の果実は丸々一房あった。
きっと厨房からくすねてきたのだろう。
辺りに南国の甘い香りが漂う。
悠理は手早く皮を剥くと、早速パクリと食いついた。
そんな彼女を横目で見つめていた清四郎は、微笑ましく感じると共に、何故か卑猥な情景を思い浮かべてしまう。

大きさ、太さ、共にちょうどいいサイズのバナナ。←?

ピンク色の柔らかそうな唇が規則的に動く様子は、成長途中(笑)である男の下半身を甘い痺れで柔らかく包み込んだ。

━━━━くっ、まずい。

二本目を剥き始めた悠理の口元からは、むぎゅむぎゅと租借する音が聞こえる。

━━━嗚呼、僕のモノもその温かい口の中に収めて、優しく食んでほしい。

熱のこもった息を吐きながら、すっかり芯を硬くし始めた欲深きソレを、清四郎は片手でそっと抑え、素早くナビへと視線を移動させた。

━━━━確か、次のインター付近にはラブホテルが乱立していたはず。

チラと様子を窺うが、悠理に気づかれた様子はない。

━━━━問題はどう説き伏せるか、だな。

清四郎の優秀すぎる頭脳は明らかにその回転速度を上昇させた。



「……………んっ、ひぅ……も、だめぇ。」

「ここが気持ちいいんでしょう?」

数多くのラブホテルから比較的新しい建物を選んだ男は、車を滑り込ませた途端、悠理に罵倒された。
当然である。

「動物園は!?なんでホテルなんかに入るんだよ!」

「おまえを抱きたくなったからに決まっているでしょう!」

「ばーたれ!さっきあんなにもしたじゃんか!何考えてんだ!」

正確に言えば、清四郎は一回しか達していない。
悠理はその事を失念したまま詰った。

「おかげで一時間はロスしてるんだぞ!もうとっくに開園してる時間なのに!」

「檻の中の動物たちは逃げませんよ?それにホワイトライオンの赤ちゃんがお披露目されるのは午後からです。」

ああ言えばこう言う口達者な男に引き摺られ、悠理はなしくずし的に部屋へと連れ込まれてしまった。

そこはシティホテルと何ら大差ない落ち着いた空間。
ダブルマット形式のベッドは、腰かけた瞬間その寝心地の良さを予感出来る。

「せいしろ………おまえ、変だよ。いつもなら絶対に予定が優先だろ?」

「確かに今日の僕は少しおかしいのかもしれません。それもこれも全部お前のせいですよ。」

「はあ?」

「こんな短いスカートを履かれたら、男は誘われている気がするんです。それも素足ときた。」

何となく責任転嫁されたように感じるが、普段滅多に表情を崩さない男が、うっとりと焦がれるように見つめてくれば、悠理とてその甘い雰囲気に飲み込まれてしまう。

━━━どうしようもないな。振り回すのはお互い様だ。

そう大人ぶって諦めつつも、動物園が気にかかり、胡散臭い男に尋ねた。

「なぁ?ちゃんと行くつもりなんだろーな。」

「━━━━━もちろん。」

妙な間があったような気がする。
しかしそれを確かめる間もなく、捩じ伏せるようなキスを浴びせられ、悠理の思考は次第に遠退いていった。
やはり清四郎の勝ちである。


背後から抱えられたまま、男の武骨な手が悠理の体をまさぐる。
胸と秘所を同時に攻められれば、声を抑えることで僅かな意地を示そうとしていた女も、呆気なく綻びを見せてしまう。

「ほら、もっと大きく喘いで。ここはそういったホテルですから、たとえ隣に聞かれても大丈夫ですよ。」

「そ……んなぁ、あ……ん………やだぁ!」

円らな尖りをクリクリと刺激されると悲鳴にも似た喘ぎが溢れ出る。
しとどに濡れた泥濘から洩れ出す淫靡な旋律は、背中にぴったりとくっついた男のシンボルを、より一層逞しく膨張させる。

「あぁ………悠理、おまえのその声だけで吐き出せそうだ。」

腰に触れてくる強烈な硬さのソレは、女である悠理にとって不思議で仕方のない物体だ。

果たして一般的な男たちはこんなにも早く復活するものなのだろうか?

他の男を知らない悠理はそんな疑問を抱きながらも、清四郎の切なげな声に振り回されてしまう。
尻の割れ目で何度も擦られると、興奮の証が濡れた感触を残し始めた。

「ここに出していいか?」

「え?」

慌てて振り向こうとしたが、清四郎の腕ががっちりと体をホールドしていたため、思うように首を曲げられない。

「この可愛いお尻に出してもいい?」

甘えたような懇願は、清四郎の台詞とは到底思えなかった。
何と答えよう━━━悠理が迷っている最中も、男は細い腰を引き寄せ、激しく擦り立てている。

「そ、そんなことすんなよぉ~、バカァ!ヘンタイ~!」

羞恥と混乱に耐えきれず、悠理は声を荒らげ激しく詰る。
しかし動きを止めようとしない清四郎の、まるで火を纏っているかのような熱棒が、悠理の肌をチリチリと焦がしていく。

はぁはぁ…………

耳元に届く呼吸が乱れ始め、目を強く瞑った悠理はその瞬間を覚悟した。
彼の達するタイミングは完璧に解っているつもりだ。

「くっ………ゆう…り!!」

そんな清四郎の叫びに、胸の奥が沁みるように温かくなる。
薄い肉に受けた、熱い迸り。
それを更に塗り拡げるような動きをされて、悠理は真っ赤な顔で首を振った。

「……気持ち………良かった…………」

恍惚とした声と共に、清四郎は悠理を解放する。
糸を引く白濁が、まるで己の執着のようで、彼は思わず笑ってしまう。

悠理は身を縮め、横にこてんと倒れる。
濡れた尻をどうにかしてくれという合図だ。

「はいはい。」

手頃な位置に用意されたティッシュを二枚引き抜き、男は名残惜しそうに拭き上げる。
しかし脚の間から滴る透明の雫には一切触れず、その淫らな光景をまじまじと見つめた。

「さぁ、次は悠理の番ですよ?」

「まだ………やんのぉ?」

くったりと振り返る彼女は、やはり不思議で仕方ないのだ。
視界には、すでに勃起しつつある肉棒。

━━━━どんだけ精力旺盛なんだよ!?むしろ病気じゃねぇの?

今さらながらの疑問には誰も答えてくれない。
清四郎が片手で擦り始めたソレは、真っ直ぐ天井を向き、悠理に照準を定めている。

「これが終わったら、ホワイトライオンが待っていますから。」

「━━━━うん。」

悠理は清四郎を受け入れた。
激しい律動が身体の芯を溶かし始め、あられもない喘ぎが喉の奥から迸る。
強い快感はほどなくやって来て、脳内でハレーションを起こし、悠理は気付けば清四郎の逞しい腰に足を絡み付け、自らも激しく動いていた。

「せぇしろーー!あ………んっ!好きぃ!!好きぃ!!」

頂点に達する瞬間の告白が、男の吐精を促す。

「悠理っ!出すぞ!」

「あ………んっ~!」

波打つように吐き出された熱い迸りを子宮口近くで感じる。
何度も腰を打ちつけた清四郎は、最後の一滴まで女の奥底に擦り付けた。
その淫らな腰使いが、再び堪えきれない快感を引き出し、悠理はまたもや軽い絶頂に見舞われる。

「も………ぅ、やらし………ぃ」

「悠理の胎内なかもすごくやらしいですよ。今もヒクヒクと僕を締め付けてます。あ………すごいな、また出来そうだ。」

「う………いゃ………ぁん!またおっきくなんの!?」

「もう一回だけ………」

そう懇願し、悠理の身体を揺すり始めた清四郎。
たちまち膨張した肉棒は、自ら吐き出した精で滑らかな動きを見せる。
涙目で睨んでいた悠理も結局は快楽に抗えず、か細い声をあげ始めた。
粘り気のある体液が、二人の身体を限界まで近付ける。

共に真っ白な世界へと意識を沈めた時、空に輝く太陽はすっかり真上にまで到達していた。
精も根も尽き果てた二人が目を覚ましたのはそれから二時間後。
悠理が動物園に辿り着いた時、ホワイトライオンの赤ちゃんはその仕事を終え、飼育員の手によって控えの小屋へと隔離されていた。

「うわ~~ん!!!せいしろぉのバカぁ・・・!!!」

決して馬鹿ではない男も、この時ばかりは反論出来ずにいた。

「ほ、ほら、あそこにカバの赤ちゃんが・・・」

「可愛くないもん!!」

「な、なら・・・・オランウータンはどうです?」

「ちっとも可愛くないやい!!」

そんな二人の姿を、遠足に来ていた幼稚園児達が曇りなき眼で見つめている。
彼らは幼いなりにも悟ったのだろう。
男女関係の難しさを………。

三週間ぶりのデートはこうして幕を閉じた。
悠理がその後、ミニスカートを履くことは一度も無かったという。