gratification(R)

その日は約三週間ぶりのデートだった。

北海道から帰ったばかりの清四郎が選んだ場所は、都内から少し離れた動物園。
わざわざ車を借りて迎えに来てくれるとのことで、悠理は今か今かと待ちわびていた。
久々のお出掛けデートな上、行き先が動物園ともなれば、自ずとテンションは上がる。
朝食はいつもよりたっぷりめに、そして、朝風呂にはシアバターが入ったレモングローブの入浴剤を投入し、隅々まで丁寧に洗い上げる。
今までならきっと億劫に感じていたそれらの身支度を、悠理は意気揚々と行う。
恋はやはり偉大だ。━━━へへっ!あいつ、綺麗にしてたら何でも買ってくれるからな。

多少の打算をちらつかせながらも、悠理は次にファッションへと意識を移した。

━━━動物園……となると、やっぱ動きやすい格好が良いか。
チノパン?
ショートパンツ?
でもあいつ、基本スケベだからスカート大好きだし、たまに履いてやらないと拗ねるんだよなぁ~。

野梨子あたりが聞けば、顔を真っ赤にして詰るだろう事実を湯船の中で思い浮かべながら、彼女はにまにまと笑う。
そんな妥協を示す悠理にこそ、野梨子は驚愕するだろうが、本人はちっともその変化に気付かない。
そう。
悠理は今や、完璧に恋する乙女なのである。

「よしっ!今日はデニムのミニにしよ!」

滅多に履かない、むしろ何故クローゼットに存在するのか分からないそのアイテムを、風呂上がりの彼女は迷うことなく手に取った。

もしかすると、全ての起因はここから始まったのかもしれない。

清四郎はいつもの如く、15分前には剣菱邸に到着していた。
悠理の支度が手間取ることを想定しながら。
自らも早朝から支度を整え、悠理が選ぶであろうラフな格好に似合うよう、珍しくジーンズを履いた。
夜はカジュアルなスタイルのイタリアンを予約しているし、店の側にあるホテルのスイートも確保している。
久々のお泊まりデート。
動物園とレストランで彼女のテンションを最大限に引き上げた後、思う存分自分の本懐を遂げる。
無論、悠理を朝まで寝かせる予定など、彼の頭には微塵もなかった。 (←鬼畜)

さて、時間は刻一刻と過ぎていく。
食い意地の張った恋人が、デートに持っていく為のおやつに悩み、どんどんと時間が削られていく・・・
それがいつものパターンなのだが、今回、清四郎が悠理の部屋をノックした時、むしろ「待ってました!」といわんばかりの声が耳に届いた為、彼は首を捻ることとなった。

「おはよう、悠理。」

そっと扉を開ければ、そこに立つは見慣れた恋人の、見慣れぬ姿。
しかしいつも通り、弾けんばかりの笑顔で出迎える。

「おっはよ、清四郎!すっごく良い天気だよな。まさにデート日和!日頃の行いが良いあたいのおかげだじょ!?」

健全、かつ上機嫌な台詞。
だが対峙した男の脳内は、まるで絵の具をぶちまけたかの如く、不健全な思考に浸食される。
悠理のすらりと伸びた形良い脚は、煩悩塗れの男を一瞬でノックアウトしてしまった。
ボーダー柄のTシャツは、色気からむしろほど遠いはずなのに、
デニム地のミニスカートから覗く可愛い膝小僧や、生足特有の香り立つ色気が、男の欲望を加速させる。
普段ならば、これほど単純に心も体も反応することはない。
だが今回、久々の逢瀬の為か、自分でも驚くほどの興奮を感じていた。

「さ、行こうぜ!今日は楽しみで早起きしちゃった!」

ふわり、柑橘系の香りが男の鼻を擽った。
堪えきれない欲望に、理性という鍵はそこでパチンと弾ける。
そこからの彼の行動は早かった。
そして・・・・・・
ミニスカートを颯爽と翻した彼女が次に見た景色は、見慣れた天蓋のそれ。
視界がぐるりと一変し、瞬間、僅かな眩暈を錯覚したが、よくよく見れば、鼻息を荒くした清四郎にのしかかられた上、早速スカートの中に手を入れられているではないか。

「こ、こら!何してんだ!」

「いただきます!」

「はぁ~!??」

非難の声など、どこ吹く風。
清四郎はあっという間に悠理のショーツを引き下ろし、嵐のようなキスを与え始めた。

「悠理、可愛い・・・!」

「ふぐっ!!」

反論は封じられ、全ては男の意のままに進んでいく。
馴染んだ掌で全身をくまなく愛撫されると、悠理の意識はもうグダグダに蕩けてしまう。
清四郎に開発されたのだから、それも致し方のないこと。
直ぐにでも快感を手繰り寄せようとする愚かな身体を早々に諦め、恋人の思うままにさせようとした。
折角のデートなのだ。
一時間くらいなら遅れてもいい。
すっきり(?)とした清四郎と、出来るだけ長く動物園を楽しみたい。
珍しくも、そんな考えに至った悠理。
しかしそれは甘かった。




いつもよりも猛々しく感じる雄芯を受け入れてから40分。
清四郎は興奮し過ぎている所為か、なかなか達しようとしない。

「はぁ……はぁ……」

こっちはもう何度絶頂を味わったかわからないというのに………。
男は、それでも苦しそうな表情で額に汗しながら、悠理を攻め立てる。

「一回くらいイケよぉ………!」

立て続けに与えられたエクスタシー。
悠理は朦朧とした意識の中、小さく叫んだ。

「あぁ・・・・悪い。上に乗ってくれ。」

不意に発せられた懇願。
返事をする間もなく体勢を変えられる。
悠理は清四郎に乗り上げた格好となり、再び大きく張り詰めた逞しい杭に、激しく貫かれ始めた。

「ひっぁ………ん!ま、まって!」

そんな制止する声を振り切るかのように、腰は上下に、男らしく動く。
慌てた悠理は、振り落とされまいと清四郎の首にしがみついた。

「あ、あ……っん!やぁっ………!」

男にいつもの余裕は感じられない。
苦々しい表情のまま、無茶苦茶に揺さぶる。
シャツの裾から入れられた手は、下着越しに胸の先端を捉え、コリコリとした感触を味わうように捏ね回している。

「せ、せぇしろ………も、だめぇ。」

限界の声と共にヒクヒクと痙攣する膣内。
何度目かも解らぬ絶頂にクタリと身体を弛緩させた悠理を、しかし清四郎は乱暴に貫き続けた。

「や、やぁ……!清四郎!!!」

「悠理!もっと…………もっと僕の名を呼べ!」

「せぇしろ!せぇしろぉ!!」

首にかじりついたまま、悠理は叫ぶ。
その心地よい叫びが清四郎の興奮をどんどんと増幅させた。
求められる快感が身体に直結し、ようやく腰の奥深くからマグマのような絶頂の予感が上り始めてきた。
だが、より天に近い高みを目指すため、ギリギリまで我慢する。

普段は風のように軽い、ふわふわの髪。
それが興奮の汗で張り付いている姿が艶かしい。
悠理の首筋をカプリと噛みながら、発せられる汗の香りを思う存分吸い込む。
キュウッと締まる胎内。
そんな刺激に今度こそ抗うことなく、清四郎は無事、欲望を吐き出すことに成功した。

ハァ………ハァ…………

互いの呼吸が広い部屋に漂う。
悠理はベッドにうつ伏せになったまま、気怠い身体を動かせずにいた。

「あほぉ…………こんなこと……されたら、腰立たないじゃんかぁ。」

「おまえの体力なら、15分もすれば元通りですよ。」

そう言い放つ清四郎は、乱れた髪を手櫛で整え、すっくと立ち上がった。
さすがに鍛え方が違うのか、足元のふらつきすら感じられない。

「洗面所、お借りしますね。」

「…………うん。」

程なく悠理の元へと戻ってきた清四郎は、濡れタオルで恋人の身体を丁寧に拭く。
最後には足の間に手を伸ばし、汚れた部分を念入りに拭った。

「痛いところはないですか?」

「う、うん。」

「済まない。少し興奮し過ぎました。」

悠理は余韻に震える身体を清四郎にすり寄せる。
これはもう条件反射と言えよう。

「へへ。気持ち良かったじょ?」

「おや、早速回復してきたようですね。さすがですな。」

「だって、早く動物園に行きたいんだもん。」

「はいはい。お詫びに何でも買ってやりましょう。」

「やたっ!!」

子供のように喜び、甘える悠理を、清四郎は大きな掌で愛しさと共に撫でる。

だがこの時、彼自身も気付いていなかったのだ。
未だ身の内に燻る淫らな熱を━━━。
たった一度では発散できない昂りを━━━。

果たして二人が無事、動物園に辿り着くことは出来るのか?
三週間ぶりのデートの行方は?