Good Supporter(R)

「助っ人?」

「はい!剣菱先輩、お願いします!」

六つの頭を下げてくる弱小クラブは、今年発足したばかりの女子バスケット部。
無論、部員も少なけりゃ実力も低い。
ここは運動部部長として、手助けしてやるのが人情というものだろう。

「先日、隣のT女学園と練習試合を決めたばかりなんです。でもうちの副部長が捻挫しちゃって───」

「OK!引き受けた!」

二つ返事でゴリラさながらに胸を叩く。
そんな頼もしい先輩に、皆は羨望の眼差しを投げかけた。

そう。
練習を始めるまでは────

 

「いっでぇーー!!」

「先輩!大丈夫ですか!?」

スタンドプレーは得意中の得意だが、悠理は基本、協調性に欠けている。
いかんせん集団行動には向いていないのだ。
人のボールを横取りしようと身を乗り出したところ、ものの見事に足を引っかけ、さらに後輩を庇う形ですってんころりん!
無様に腰を強打した。

「馬鹿ですねぇ………」

痛みが広がる中、聞き慣れた声に振り向くと、本当に莫迦にした顔でこちらを見下ろしている男が一人。
今の時期、割と忙しいはずの生徒会長の登場に、周りはキャアと歓声をあげた。
が、悠理だけは仏頂面で対峙する。

「何しに来たんだよ。」

「恋人の勇姿を眺めに。」

「ちぇ。馬鹿にしやがって。」

「まあ………あんなプレイを見せられたら流石に、ねぇ?」

イヤミに加え、部員たちにわざとらしく同意を求める辺り、底意地の悪さが分かるというもの。

───ふん、こいつはこういう奴だよな!

「どれ、見せてみなさい。」と膝を折られても、意地っ張りな悠理は聞き入れなかった。

「あっちいけよ。練習の邪魔!」

邪険な扱いにも清四郎はめげない。

「腰を痛めたんでしょう?悪化したら助っ人の意味すらなくなりますよ。ほら、言うことを聞いて。」

「んなもん、唾塗っときゃ治るってんだ。」

「あのねぇ。一体どうやったら自分の腰に唾を塗れるんです?まあ、僕の舌でいいなら、いくらでも塗ってやれますがね。」

それは不敵な笑みを見せる恋人の、あからさまな攻撃だった。
悠理は真っ赤になって叫ぶ。

「あ、あほぉ!!!こんなとこで何言ってんだ!」

二人のやり取りを、純真さを絵に描いたようなお嬢様達はキョトンと首を傾げ、見つめている。
彼らが恋人同士であることは百も承知しているが、彼女たちの頭では、お花畑で手を繋ぐ、所謂『キャ●ディキャ●ディ』のような想像しか思い浮かばない。
赤ん坊はコウノトリが運んでくるものだと、本気で信じている女子も少なくはなかった。

だが、清四郎と悠理は交際一ヶ月目にして、既にありとあらゆるステージをクリアした関係である。
もはやあと一歩で妊娠、というところまで来ていて、とてもじゃないが公言出来たものではない。

当初、清四郎はノンストップでそれを目指していたが、さすがに卒業までは……と、美童に窘められ、不満たらたら我慢しているのだ。

悠理と恋に落ちてからというもの、深謀遠慮な彼の辞書から、【避妊(具)】という文字は消え去ってしまっている。
一刻も早く法的に結ばれたいという熱い想いが、いつになく大胆奔放な男へと変化させているようで───
そんな清四郎を仲間達は冷めた目で見守っているものの、悠理にとっては人生の一大事。
さすがにこの年で母親にはなりたくない。
今は何とか水際で食い止めてはいるが、決壊するのも時間の問題かもしれなかった。

 

「とにかく、医務室に行きますよ。」

軽く抱き抱えられたときの歓声は、悠理の耳を劈(つんざ)くほどで。
「くそっ!」と吐き捨てながらも身を任せる彼女は、清四郎の逞しい腕にすっぽりと収まった。

「先輩、無理なさらないでくださいね!」

「会長がいらっしゃるもの!大丈夫だわ!」

キラキラと輝く瞳は一体何を期待してのものか。
どうせ白馬の王子様あたりを妄想しているに違いないが、こんな腹黒い王子などおとぎ話に登場しない。
ハッピーエンド………の後、お姫様を待っているのは阿鼻叫喚の毎日だろう。恐らく。

乾いた笑いで体育館を後にした悠理が自分の選択に若干の不安を感じていると、いつの間にやら校舎の端にある保健室の扉を開けていた。

「さぁ、体操着を脱いで。」

ベッドに横たえられ、当然のように促されるも、悠理は激しく首を振る。

「…………やだ。浅田ちゃん(女性医務員)呼んで来いよ。」

「彼女は今、体操部の試合に付き添っていて留守ですよ。それにこれは、僕が得意とする分野です。」

「う。」

ぐうの音も出ない正論。
颯爽と腕まくりした清四郎の顔には自信が漲っていた。
並みの整体師よりも腕の立つ男だ。
もちろん悠理も、それは嫌と言うほど知っている。

「うそつき!スケベな顔して何言ってんだ!」

「失敬な。そんなつもりは…………」

ない、とは言い切れない清四郎。
少し考えた挙げ句、彼は悠理を軽くうつ伏せにさせ、無理矢理体操着を捲り上げる、といった暴挙に出た。

汗はすっかり引いている。
剥き出しの白い肌からは、それでも運動による火照りが仄かに感じられた。

薄い背中と細い腰。
何度見ても見飽きず欲情するのは、やはり悠理という女に参っている証拠だ。

「短パンも少し、下げますよ?」

これは治療だと言い聞かせても、清四郎の胸はざわつき始める。
見慣れているはずの綿パンツが最近カラフルになってきたのは、紛れもない、自分の功績だと信じたかった。

「…………変なこと、すんなよ?」

逃亡に不可能な体制で半裸にされた悠理は、きつい眼光で睨み上げる。

「何なら、唾……つけてやりましょうか?」

「………馬鹿。」

ドキドキ
波打つ心音は清四郎にも伝わっているだろう。
大きな手が腰の真ん中に触れ、ゆっくりと円を描くようにさすり始めると、悠理の身体がピクンと反応してしまう。
それもこれも、夜の記憶が新しいからだ。

「………やっぱ……やらしい触り方するじゃん。」

「おまえが考え過ぎなんですよ。」

「ちがわい。………清四郎がエッチなこと考えてるからだ。」

図星をさされ、苦笑いする清四郎。
そっと揉みほぐされ、それはとても心地良いけれど、先に見え隠れする官能的な何かを求めてしまうのも、全部清四郎の所為だ───と悠理はごちる。

「悠理もエッチだから、期待してしまうんでしょう?」

「………ちがうもん。」

「本当に?下着、濡れちゃってませんか?」

あっと言う間もなかった。
清四郎はその長い指をパンツに忍び込ませ、探るような動きを見せる。
慌てて反転させた身体で逃げようとするも、無駄な足掻き。

「やっ!!」

「おやおや。もうこんなに………どっちがスケベなんでしょうねぇ?」

「そ、それは汗だ!」

「へぇ?汗?今調べて上げますよ。」

滑りを確かめられる指先は、決して彼女を傷つけたりしない。
快感を掘り当てるような仕草で、クチュクチュと音を立て始める。

「汗にしてはねっとりしてますよ?ほら………」

抜かれた指は確かに糸を引いていた。
カッと頬を赤くする悠理に清四郎の意地悪な性格が炸裂する。

「これ………汗ですか?どうなんです?」

「………。」

「舐めて確かめてみましょうか。」

「や、やめろよ!」

「………何故?汗なんでしょう?」

言葉に詰まる恋人は唇を噛みしめ俯く。
意地悪な男の意地悪な追及。
頭が沸騰するほど恥ずかしい。
そして………… か細い声が聞こえたのはその直後だ。

「………汗、じゃ………ない。」

「なら、何ですかねぇ?」

二本の指を交差させ、わざとらしく掻き混ぜる清四郎は、いつものとり澄ました表情など保ってはいない。
ギラついた雄の野蛮な顔だ。
造りが整っているため、余計淫らに見える。

「ほら、答えて…………」

「意地悪………」

「そう、意地悪ですよ………僕は。」

「・・・・」

蚊の鳴くような囁きは清四郎の耳元で行われた。
満足げに笑う男を抓り、悠理はそっぽを向くも、直ぐに顎を掴まれ、唇を塞がれる。

「……………っん!」

逃げようとしても無駄だ。
熱い唇に覆われ、吸い付かれ、そして徐々に意識が微睡み始める。
絡み合う舌と同じ様に清四郎の手が繋がれ、悠理はギュッと目を閉じたまま与えられる快楽に身を任せた。

舌を通じて互いの温度が伝わる。
ねっとりとした甘い唾液が悠理の口いっぱいに広がり、それを飲み下す瞬間、清四郎は舌の根元を優しくなぞった。

「んふっ!!」

頭がじんと痺れてしまう。
良すぎる感度を確かめるように、清四郎の舌先は何度も擦り上げた。
ピチャピチャと途切れない水音が響き、身体の奥深くから欲望が擡げ始める。

ここが保健室であることも忘れ、キスに没頭してしまう二人。
腰の痛みも、誰かに見られるという恐怖も、全てが蚊帳の外だ。

「悠理…………」

背筋が粟立つような、とろみある声。

「清四郎………」

悠理もまた耐えきれない、とばかりに目をうっとりさせた。

「………抱きたい。良いですか?」

「…………ダメって言っても、どうせするだろ?」

「………よくおわかりで。」

一糸纏わぬ姿で簡素なマットの上に横たわる。
清潔なリネンの香りと、糊の利いた感触。
非現実的な空間での緊張は、むしろ興奮を助長させるにほかならず───

シャツをはだけた清四郎は、スラックスの中から猛りきったものを取り出し、瞬く間に避妊具を装着した。
彼のポケットには常に用意されているソレ。
悠理のまとわりつくような視線が堪らない。

「ほら、脚を開いて。」

言いなりになるのは正直不本意だが、腹筋に付くほど反り返った屹立が誘うように波立ち、悠理は興奮に喉を鳴らした。

今はそれが欲しくて仕方ない───
熱い唾液を飲み下す。

言われた通りゆっくりと脚を開けば、彼の目がより一層獣じみたものへと変化する。
本質を表す好戦的な視線が、悠理までをも激しく奮い立たせてしまうのだ。

「これで………いいだろ?」

潤いを湛えた其処が、甘い香りを漂わせながら清四郎を誘った。
彼らしからぬ舌なめずりは、もはやこれ以上の焦らしは受け付けないという意味。

「大きい声は………出すなよ。」

言いながらズチュッと音を立て、一気に挿入してくる。

「あっ…………!」

「こら…………」

「だって………おっきい………んだもん………」

はちきれんばかりの肉茎が奥の奥にまで到達し、声が出ないはずはない。
満たされる感覚とその熱量に、涙すら滲んでしまう。

「…………おまえに興奮しているからですよ。」

「………あっ………は……ァ……せぇ……しろ……」

腰を浮かし、より密着度を上げれば、清四郎の腰がゆっくりと円を描き始める。
艶めかしいその動きにクラクラしながらも、渦巻く快感に翻弄されてゆく悠理。
膣奥を捏ね回される感覚は何度味わっても慣れないが、悠理の胎内が清四郎を求めてわななき始めるのだから、今更どうしようもない。

「動く、ぞ………」

熱っぽい声だった。
悠理は痺れる下半身をゆっくりと蠢かす。

「あ………待って………」

と言って聞くような男ではない。
一旦離れた亀頭が再び悠理にめり込んだ時、口から零れ落ちたは歓喜のそれだった。

「ひぁっ………ああっ………っん!」

響く声を塞いだのは清四郎の唇で…………悠理は吐き出す事の出来ない熱を再び飲み込むしかなかった。

お互いを食らい尽くすように重ねるキス。

混ざり合う唾液の淫靡な音が鼓膜を震わせる度、肉襞はきゅうっと締め付ける。
そのあまりにも素直な反応に、清四郎の興奮も高まり、制止させていたはずの声を解放させる。

「は!……ゆう………りっ………」

「あっ、あっ………ん………いいよぉ………」

どんどんと艶っぽくなる喘ぎ声は、彼の理性を奪い尽くす役目を果たし、粘膜の温もりと柔らかさ、そして溢れ出る愛液に包まれる恍惚は、限界を忘れるほど腰を奮わせた。

肉体の悦びは精神を侵す。
悠理が奏でる甘い声の虜となってゆく。

清四郎は容赦なく腰を振り立てた。
花の色をした小さな乳首がプルプルと揺れ、滑らかな肌は汗ばんでゆく。
快楽に耽るその姿は美しい。
清四郎はもはや声を抑えることもせず、ただひたすら恋人の痴態を眺め、そして責め立てた。

「悠理………可愛い………ですよ。」

腰を振る度、ベッドは軋む。
瑞々しい身体が深い快感から逃げようとくねり始めるも、細腰をしっかりと掴んだまま離そうとしない。

「あ………も、…………無理……変になるよぉ!」

「なればいいでしょう?」

無慈悲な恋人の答えを聞き、怒ったように睨み付けてくる目は快楽に濡れていて何の迫力もない。

「ばか………やろ………」

「ふ…………もっと奥まで掻き回してやりますよ。」

「だ、だめ!………ほんと………ダメだから………」

ぐだぐだになりつつある華奢な身体を抱え直し、身を起こした清四郎は、悠理を膝に乗せた形で下から揺さぶり始めた。

「あ、や………やだぁ………こんなの……」

啼き濡れた心地よい嬌声は男を興奮させるだけ。
額に汗を滲ませ、何度も下から突き上げていると、その動きに合わせたかのように悠理もまた揺れ始める。

「ノって………来ましたね………」

「………っはぁ…….ぁ………や、やっ………」

「イッても良いんですよ?」

フルフルと首を振っても、身体は馬鹿正直に頂点を追ったまま。

「いじ……わるぅ!!」

「なにを今更。知ってるでしょう?………僕は意地悪なんです。」

奥を突く度にひくひくと収縮する粘膜がしっとりとペニスに絡みつき、清四郎にも限界が差し迫っていた。

「悠理………ほら………そろそろイかないと、皆に怪しまれますよ?」

「んっ!んっ!!!」

清四郎は含み笑いをしながら、目の前の色付いた突起に舌を這わせると、その薄い唇で思い切り吸い付いた。

「ひゃぁあーーー!!」

あまりの刺激に痙攣する身体。
無理矢理追い上げられた絶頂は想像以上に激しかった。
何度も小さく跳ね、やがてはゆっくりと清四郎にもたれ掛かる。

「っく…………!」

切なげに締まる膣内で射精は行われ、清四郎もまた何度も身震いをし、全てを薄いゴムへと吐き出した。
言葉に出来ない快感は悠理を征服したという理由からかもしれない。
躍動感溢れる身体を、自分だけのものにする充足感。
清四郎は満足そうに息を吐いた。

恍惚とした悠理の目が、余韻を楽しんでいる。
その瞼に何度も口付けると、清四郎は悠理を持ち上げ、後処理を始めた。
ベッドにごろりと横たわる気怠げな肢体は、得も言えぬほど美しい。

「…………良い眺めですな。」

言葉無く見つめてくる恋人は、ふと、腰をさすり目を瞠った。

「あれ?痛くない。」

「おや、治りましたか。」

「………セックスってそんな効果もあんの?」

「………あるのかもしれませんねぇ。」

曖昧な答えに悠理は首を傾げるも、痛みはすっかり治まっている。

「清四郎って……やっぱすごい。」

「…………当然です。」

その後、悠理は見事助っ人をやり遂げ、練習試合に勝利をもたらした。
まことしやかに広まった噂は清四郎が持つ「整体の腕」。
無論、彼女達は内容を知らない。

「会長!私の捻った脚も見てください!」

「私は腕を。」

「ちょっと、私の方が先よ!」

群がる部員達を押し退け、角を生やしたのは、当然悠理だ。

「ばっかやろう!!こいつはあたいだけのもんなんだ!!!」

「ええ~!ずるいです!」

「ちょっとくらい良いじゃありませんか。」

困惑する恋人の腕を掴み、すたこらさっさと逃げる悠理は、もう二度と助っ人はしまいと心に誓ったそうな。

 

おしまい。