その日の夜は、色々とストレスを抱えたまま帰宅した。
いつもなら、酒を一杯だけ引っかけ、気持ちをリセットしてから玄関をくぐるというのに・・。
そんな気すら起きないほど、疲労を感じていたのだ。
心身共に・・・・。
剣菱邸の24時。
メイド達も全ての仕事を終え、就寝している時間だ。
夜勤の人間を除けばの話しだが・・。
きっと妻もスヤスヤと眠っていることだろう。
そう諦めていた。
いや、むしろそちらの方がいい。
僕の苛立った顔など見せたくはなかったのだから・・。
寝室を素通りし、書斎へと向かう。
今回のトラブルは大事になる直前に何とか回避出来たものの、これから先の不安は尽きない。
パソコンの電源を入れ、今の時点で頭に浮かんでいる対策案を出来うる限りまとめようと思った。
ベランダに続く大きな掃き出し窓からは、冷たいまでの月が覗き込んでいる。
冴え冴えとした光は今の僕にとって頗(すこぶ)るありがたい。
頭の芯までクリアにしてくれるようだ。
トントン
遠慮しがちなノック音。
それが妻だとは思わない。
彼女にノックするなんて芸当、到底出来るはずがないのだから。
だから夜勤のメイドか、せいぜい遅くまで仕事をしている義兄だと思ったのだ。
「どうぞ。」
カチャ
開かれた扉から顔を覗かせたのは、愛しい女。
ちょっと不安そうにしながら、入ろうかどうしようかを迷っている様子だった。
「悠理・・起きてたんですか?」
「せいしろ・・・おかえり。」
扉に隠れたまま、なかなかこっちへやって来ない事を不審に思い、だがもし入ってきたら触れずには居られないだろうと感じていた為、僕は「ただいま。どうした?眠れないのか?」と尋ねるに留めた。
「だって・・おまえ、帰ってきたらいっつも寝室に来るのに・・。だから、どうしたのかな、って・・・」
もじもじと照れながら問うてくる。
これはきっと寂しかったに違いない。
「済みませんね。今日はちょっとトラブルがありまして、仕事を持ち帰ってしまったんですよ。」
「あ・・そなんだ。」
声色から気落ちした様子が窺える。
普段勝ち気な彼女のそんな声は、正直苦手だった。
「そんなところに立ってないで、こっちにおいで。風邪ひくでしょう?」
「う、うん。」
そろり・・と現れた姿に、一瞬眩暈がした。
呼吸するのを忘れるほどに・・・。
「悠理・・その格好は・・・」
「だ、だって・・今日は・・・その・・・スルのかな・・って。でも遅いから・・ダメなのかもって・・」
僕のシャツを一枚だけ羽織った妻は、不安げな表情のまま近付いてくる。
華奢な身体が、さらに細く、そして薄く見えた。
気付けば、僕はネクタイをむしり取り、着ているワイシャツを乱暴に脱ぎ去っていた。
片手でベルトを外し、スラックスから猛りきった分身を取り出す。
近付いてくる悠理をさらうように抱え、ソファに投げ出し押し倒すと、なんの技巧もないキスを浴びせつけた。
それこそ顔中が唾液塗れになるほど・・悠理を舐め尽くす。
「あ・・せぇ・・しろ・・」
「悠理・・・足を開け!」
指を差し込めば、案の定濡れている。
「僕を待っていたんですね・・・こんなになるほど?」
「あ・・だって・・・・最近、おまえ忙しいじゃん・・・」
「それでも3日に一度はしているでしょう?」
「・・・・。」
恥ずかしそうに顔を背けた悠理を再び引き戻し、目を覗き込む。
「足りないんですか?」
「・・・・・・・ウン。」
「いつの間にそんなにも淫乱になったんです?男を誘うような格好をして・・・おまえは・・」
「・・・・清四郎しか誘わないよぉ!」
「当たり前です!他の男にこんな姿を見せたら・・・」
「見せたら・・?」
「相手の命は保証できませんよ?」
想像するだけで腸(はらわた)が煮えくり返る。
「悠理・・・もう・・挿れるぞ?」
「あ・・もう・・・?」
「ああ・・我慢出来ない。」
グッと押し入れた後、更に足を開かせる。
彼女は見た目以上に柔軟な身体を持っていて、僕の要求する無理な体勢をも難なく受け入れてくれるのだ。
「あ・・っ!あ・・すごっ・・・」
「硬いでしょう?もっと奥まで欲しいんじゃないですか?」
「う、うん・・欲しい・・・突いてぇ・・」
乱れたシャツを大きく割り開き、悠理の胸に吸い付きながら、要望通り突き上げる。
「あ・・はっ、ああ・・・・・・・!せいしろ・・いいよぉ・・・」
喘ぐ度、じわりじわりと締め付ける胎(はら)。
彼女が持つ美しく妖しい性器は、いつも僕の忍耐を試してくる。
「ゆう・・・り・・・気持ち・・よすぎる・・!」
「あたいも・・あたいも・・・イッちゃう・・もう・・!」
そんな悦びに満ちた台詞を吐きながら、一人さっさと高みに達してしまう悠理は、恍惚とした表情を見せつけ、意識を微睡ませる。
それは男としての自尊心を満足させるが、身体はまだ求めているのだから・・・僕は動きを止めることはない。
「まだだ・・・悠理。僕がイッてない。」
「あ・・・うん・・・ごめん・・・」
しょぼんとしたまま、上目遣いを見せる姿に、再び激しい抽送を繰り返す。
耳に舌を差し込み、興奮を伝えるかのように息を吐き出すと、彼女の中からたっぷりと愛液が漏れ出してくる。
「可愛いですよ。ほら・・音が聞こえるでしょう?」
グチュリグチュリ・・・・
淫らな湿音は互いのボルテージを上げていく。
「せ・・せぇしろぉ・・!」
「ゆう・・り・・!!・・イくぞ・・」
背中から肩を抱き寄せ、最奥を穿つ。
悠理が息を詰めた瞬間、僕は全ての欲望をその中に解き放っていた。
ピチャ・・ピチャ・・
仔猫がミルクを飲むように・・・悠理は汚れた肉茎を舐めている。
それはまだ彼女が満足していない証拠。
ソファに身を預けたままの僕に対し、絨毯敷きの床に膝を立て、優しく、やらしく・・その行為に没頭する。
いまだ裸にもならずシャツ一枚で奉仕する姿は、いつもよりも大胆に感じるが一体どうしたというのだろう。
「何故、僕のシャツを?」
「・・・・ネットで見たんだ。」
「ネット?」
「男って・・こんな格好に弱いんだろ?」
「ほぉ・・・勉強熱心ですな。」
「へへ・・」
純情そうな顔で淫らな行為に耽る妻は、ピンク色の舌を上手に絡ませ、感じる部分を責め立てる。
「あ・・・・上手いですよ・・・」
括れた部分と鈴口を交互に刺激されると、このまま欲を放ってしまいたい気持ちになるが、それは彼女の本意ではないだろう。
満たして欲しい部分はたった一つ。
今も片手で自分の秘所を弄んでいるのだから・・。
「悠理・・脱いで・・・。」
「・・・うん。」
白い肌を滑るシャツは、音を立てず床に落ちた。
「おまえは本当に・・・想像以上の事をしでかす。」
「ん?」
「どんな酒よりも僕を酔わせてしまうんですから・・困ったものです。」
「???」
跨がった悠理はゆっくりと身を沈めていく。
自らの功績を確かめるかのように、舌なめずりをしながら・・。
「は・・ぁ・・・せいしろ・・すごい・・ここまで入ってる・・。」
子宮の上辺りを擦りながら笑う妻は・・いつの間にこんな艶を帯びた目をするようになったのだろう。
結婚した当初は、僕のモノに触れるのも怖がっていたのに・・。
「ねえ・・悠理。」
「何?」
「これからもたまに、こんな出迎えをしてください。」
「え?やっぱ好きなの?」
「今まで気付かなかったんですよ・・・というか、おまえの色んな姿が見たいんです。」
「・・・へへ、いいよ。また調べとく。」
「楽しみにしてますよ。」
nightroom
気を良くした悠理は、激しく上下しながら痴態を晒す。
小さく揺れる胸を自らの手で揉み込み、突起を指先で捏ねる。
『すごいな・・・』
僕の昂ぶりが、知らず知らずの内に彼女の中で膨れあがり、傍観し、身を任せようとしていた自分を嘲るほかない。
細い腰を掴み、動きに合わせて突き上げる。
あまりの快感に喉が渇く。
「あ・・あ・・・せいしろ・・・もっとぉ・・・!」
この甘い声を一生聞き続けたい。
この甘い肌を一生味わい続けたい。
そして、一生・・・彼女の胎内を穿ち続けたい。
妖艶に腰を振る彼女は美しい。
求める強さが伴ってきたのなら、もっと深みを目指してもいいだろうと思う。
「悠理・・・愛してる!」
「あ・・・あたい・・も・・!!」
二人の痴態を見続けることになるだろう月へ、少しだけ同情しながらも、僕は再びその心地良さに嗤った。