庭に植わった金木犀が強く香り出すその季節。
清四郎は悠理を二人きりの旅行へと誘った。
交際して一ヶ月が経つ。
そろそろ次のステップに進みたいと思っていた男は連休を使い、海の見える温泉宿を予約する。
しかし相手はあの悠理。
断られる可能性の高さに緊張は拭えない。
覚悟と共に口に出した誘いを、しかし悠理は迷う事なく頷いて見せた。
彼女らしからぬ、はにかんだ笑顔で。
やって来た宿は謳い文句通り、絶景の海原が部屋から一望出来る。
キラキラと輝く水面は眩しく、そこに落ちる夕日はさぞかし美しいだろう。
隣に立つ恋人は今宵の夕食へすっかり心を奪われているようだが。
「露天風呂が有名みたいですよ。行ってみますか?」
「おぅ!行く行く!」
部屋に用意されてあった浴衣を抱え、二人で階下の大浴場へと向かう。
すれ違う客は殆どがカップル。
自分達もそういう風に見られてるんだろうなと思えば恥ずかしく、悠理は頬を赤く染めた。
「ではごゆっくり。湯から上がったら部屋に戻りますから。」
そう言って、清四郎の広い背中は藍色をした暖簾の向こうへと消えた。
悠理は「女湯」と書かれた緋色の暖簾をくぐり、広々とした脱衣室でいそいそと裸になる。
他に客は見当たらない。
となると、彼女の貸し切り状態だ。
曇りガラスの引き戸を開けると、目に飛び込んでくるはどこまでも続く青い海。
「ひゃーー!いい眺め!」
かけ湯をし、総檜の浴槽にドボンと浸かれば、ぬるりとした泉質は程よい温度で、肌に心地よい。
悠理は真っ直ぐに横たわる水平線を眺めた。
「ほんと、きれい・・・」
ふ・・と、清四郎へ意識を飛ばす。
男湯からも同じ景色を見ているだろうか?
そう考えると甘酸っぱい気持ちが湧き上がる。
悠理が恋心を自覚したきっかけは『嫉妬』だった。
夏休みに六人で訪れた南の島。
いつも通り、皆で遊んで、騒いで、トラブルを起こし、解決した。
そこで美童が一目で気に入るほどの美女と知り合うのだが、残念な事にその女は清四郎に惚れてしまう。
そう、魅録とダイキリ王国のチチの時の様な、妙な距離感が二人に生まれつつあった。
美童はプライドを守るため早々に諦めてしまったがその時、悠理は気付いてしまう。
清四郎に恋などさせたくない、誰にも奪われたくないんだ、と。
そんな独占欲が沸々とこみ上げ、更に直情型の性格が災いして、気づけば談笑する二人の間に割り込んでいた。
目を瞬かせたのは女だけではない。
清四郎も同様に驚きの表情を見せた。
「清四郎!余所見なんかすんな!あたいだけ見てろ!」
何の色気も情緒もない告白。
しかし悠理にとってそれが精一杯の告白だった。
暫く思案げな顔を作っていた清四郎だったが、何かを覚悟したように口を結ぶ。
そしていつものおおらかな動作で悠理の頭をポンポンと撫でると、ようやく穏やかな笑顔を浮かべた。
悠理の機嫌を良くするのも悪くするのも清四郎の采配次第。
もちろん慰めるのも彼の役目だ。
徐々に落ち着いてきた悠理が恥じらい始めた頃、清四郎はこう告げる。
「危なっかしいおまえから、目を離すことなんて出来ませんよ。」と。
脈が無い事を知った女は眉を下げ、残念そうに去って行く。
清四郎と二人になった悠理は、ようやく冷静さを取り戻し、先程の言葉の意味を探ろうとした。
それは、決して慰めるためだけの言葉ではない。
「そ、それって、あたいを好きってこと?」
不安げにそう問えば、清四郎はゆったり笑った。
「ええ。とても、ね。」
悠理は恋など解らない。
目の前にいる男も恋などしないはずだった。
しかしこの日、天命の様に落ちてきた突然の感情を、戸惑いながらも口にする。
「あたい、おまえが好きだ。」
気付いて直ぐに両想い。
悠理の初恋はこうして始まったのだが、よくよく考えてみれば相手のどこに惹かれたのかイマイチぴんと来ない。
あの時はただ、清四郎を取られたくない一心でジタバタしたものの、自分とはまるで正反対の男とこれからどの様な付き合い方をすれば良いのか解らなかった。
そんな不安をよそに、清四郎は上手くリードしてくれる。
ロマンチストとは程遠いくせに、時折囁く愛の言葉は驚くほど甘い。
こんな風に扱われたらひとたまりもないじゃないか!
悠理は自分の恋愛偏差値の低さを自覚している。
これが本当に恋なのかすら、判断出来ない。
けれど、清四郎が他の女に同じ台詞を言っている姿を想像すれば、まるで鉛を飲み込んだように腹の中が重くなる。
だから、きっと、恋なんだろう。
可憐と美童のお墨付きもある。
そして、何よりも恋人としての清四郎はとてつもなく甘くて、そのシロップの様な酒に自分はとことん酔わされてるのだから。
悠理は髪と身体を丁寧に洗い、もう一度露天風呂に浸かった。
今日、ここに持ち込んだ覚悟は今まで経験したことがないほど大きなモノで、こうして何度も身を清めないと挑む勇気が湧いてこない。
年頃の女として性的知識は少ない方だが、耳年増の友人が色々アドバイスしてくれたおかげで、恐怖はほとんど無かった。
何せ相手は清四郎なのだ。
半裸の付き合いなど何度となくしてきている。
今までの開けっ広げな関係は、悠理に少しだけ勇気を与えてくれた。
部屋に戻ると、浴衣姿の清四郎は窓の桟に腰掛け、外の景色を眺めていた。
ずっと前から知っているはずの大きな背中にドキッとする。
――――おっきいよな・・こいつ。
この男に抱かれると考えれば、何故かすべてのパーツが気になり始めた。
まだ少し濡れている黒髪。
火照って赤く色づいた首筋。
袖から見えるたくましい前腕筋。
長い脚は組まれ、浴衣の裾からはきれいな形のふくらはぎがちらりと見える。
さほど体毛は濃くないがそれでもうっすらと覆っているところに男を感じる。
―――――――やばい!緊張する!
先ほどまで呑気に構えて居た自分が愚かに思えた。
微かな怯えが悠理の足をカタカタと震わせる。
しかし、再び勇気を奮い立たせるため、胸の前で着替えの入った袋をギュッと抱き締めた。
「そんなに緊張しなくたっていいでしょう?」
清四郎は窓の外に目を向けたまま、涼しげな声で悠理に話しかける。
「き、緊張なんかしてないやい!」
咄嗟に出た声は上擦っていた。
クッと見透かしたように嗤う男の顔が目に浮かぶ。
しかし、数瞬後。
ゆっくりと振り向いた男は、予想に反した表情をしていた。
微笑みも何もない、いつもの余裕すら感じられない、怖いくらい真剣な面持ち。
―――――誰!?
悠理は知らぬ間に後退っていた。
踵を返して逃げ出そう、脳がそう命令を下す。
が、それを瞬時に読み取った男は、その長い腕で悠理の手首を掴んだ。
「逃げるな!」
「やっ!」
掴まれた手を振りほどこうとしたが、清四郎の力には敵わない。
「優しくする!優しくするから逃げないでくれ!」
懇願する声は耳にしたことがないほど切実だ。
悠理はようやく力を抜くと、恐る恐る清四郎を窺った。
「まさかここまで野生の勘が鋭いとは・・・参りましたよ。」
ふぅと息を吐き出した清四郎は、いつもの表情だ。
「おまえが帰ってくるまでの間、少々イケナイ妄想をしていたのでね。怖がらせてしまったようだ。済みません。」
「イケナイ妄想・・・・?」
小首を傾げる悠理をそっと抱き寄せ、耳元で告げる。
「ええ、ちょっと口には出せないような、淫らなおまえを想像していたんですよ。」
「ば、ばかやろ!」
瞬間、赤らんだ顔で睨み付けるが、清四郎はおどけたように首を竦めるだけだ。
「悠理。」
「な、なんだよ?」
「今すぐ、おまえを抱きたい。」
「えっ!!!」
首筋に指が這う。
清四郎の指は見た目通り、繊細な動きをする。
「ま、まだ、夕飯前・・・だ、ぞ。」
「こんなにも色っぽい姿を前にして、僕が二時間も我慢出来ると思ってるんですか?」
「んっ・・・・!」
擽るように耳朶に触れられ、腰から力が抜け始める。
「色っぽい・・・って、いつもと、一緒じゃ・・・・ん」
「色っぽいですよ。僕に恋をしてからおまえはすっかり女の顔になった。可憐よりも誰よりも色気がある。とても、ね。」
カアッと顔を火照らせた悠理は、少しでも反論しようと試みるが、清四郎の指に翻弄され言葉が出てこない。
「僕の手で、もっと綺麗にしてやる。僕以外、誰も近づけないほど・・・・・」
熱っぽい吐息と共に吐き出された台詞に、悠理はとうとう陥落した。
「あっ・・・・まって・・・・」
いつの間にか、畳に並ぶ座布団の上に押し倒されていた。
浴衣の裾を割り、清四郎の掌が太股をまさぐる。
すべすべとした感触を確かめるように何度も往復するその手。
襲い来る混乱と羞恥に、悠理は激しく首を振った。
「綺麗な肌をしていますね。想像していたよりも柔らかくて、滑らかだ。」
「んっ!やぁ・・・・・・」
「ほら、この内股も・・・僕以外、誰も触れていないんでしょう?」
「あ、あたりまえだろ!」
「ですよね。これからおまえの全てをこの指で確かめます。」
そう言って、清四郎は悠理の秘められた場所を探り始める。
「あっ!あっ!やだぁ!」
「悠理、キスを」
甲高い声を上げるその口を塞ぎながら、悠理の下着の中を余すことなく探って行く。
湯で温められた秘所は蕩けるように柔らかく、途端に激しい昂りを感じた清四郎のキスは激しさを増した。
「んっ、ふっ・・・ぅ!!」
口内を舐め尽くしながら、唾液を流し込み、怯える舌を軽く噛む。
優しくすると宣言したにも関わらず、清四郎の行為には容赦がなかった。
腰から滾る情熱の血潮。
すぐにでも突き入れて、熱い精液をぶちまけたい欲望がもたげる。
‘まさかこんなにも我慢が効かないとは………´
脳の片隅でそう自嘲するが、悠理の甘い声が、匂いが、強固なはずの理性を片っ端から崩壊させていくのだ。
この蕩けるような場所に己の猛り狂ったモノを入れると想像するだけで、呆気なく達することが出来そうだった。
「あ・・せいしろ・・・」
「悠理・・・綺麗ですよ。どこもかも・・・・」
あれほど猿だの野生児だの詰っていたくせに、恋というものは全てを変えてしまう。
悠理は清四郎の変化をいつも戸惑いながら受け入れていた。
「ほんと・・・?あたい、綺麗?」
「以前から言ってるでしょう?おまえほど美しい女はそうそう居ない、と。僕に抱かれてこれからもっと綺麗になるんだ。」
口付けを首筋に滑らせながら、悠理の浴衣を開ける。
ふわりと漂う石けんの香りに眩暈がした。
上気した肌も涙で潤んだ瞳もひどく愛らしい。
その白い肌に小さな赤い痕を、一つ、また一つと付けていく。
絶対に隠せない場所にまで。
「悠理・・・これは僕だけの身体です。絶対に他の男に触れさせては駄目ですよ?」
それほどまでに独占欲の強い男だとは思ってもみなかった悠理。
しかし確認するまでもなく、清四郎以外に許すなど想像も出来ない。
「解ってる・・・おまえ以外に触らせない。」
「約束です。」
そう言って、鎖骨辺りに強く吸い付いた清四郎は、とうとう剥き出しの小さな膨らみを手に取った。
「可愛い胸だ。僕好みですよ。」
「・・・ちっちゃいのが好きなの?」
「おまえが望むなら大きくしてあげてもいいんですが・・・僕はこの可憐さが好きですね。」
そんな遣り取りすらくすぐったくて、悠理はポッと頬を染める。
「清四郎が好みだって言うなら・・・それでいい。」
「ええ・・・すごく好きです。ずっと触れていたいくらい・・・・。」
やわやわと揉み込まれた胸から四肢へと微弱な電流が流れていく。
それは感じたことのない心地良さ。
清四郎の大きな掌は温かくて、とても優しく感じる。
しかし、次に指先が乳首に触れた時、悠理はびくんと身体を震わせた。
「あ・・ん!」
「おや・・・いい感度をしてますね。」
弾かれたように零れ出た媚声に清四郎は気を良くする。
真っ赤な顔でかぶりを振る悠理が可愛くて、再び同じ行為を与えた。
「あ・・・・・それ・・・なんか・・・」
「気持ちいいんでしょう?」
「・・・う、うん。」
「悠理、気持ち良い時はしっかり声を出して僕に伝えてください。いいですね?」
あまりにも素直に頷く姿に、清四郎の胸が疼き始める。
本来、ゾッとするほどの欲望を身の内に隠す男にとって、この焦れったさは拷問に近い。
しかし、悠理の初体験に恐怖は必要ない。
生クリームのように甘く、蕩けるような思い出を作ってやりたかった。
指の刺激よりも、唇の方が繊細な力を加えられるだろう。
清四郎は その紅色の突起を、ゆっくりと口に含んだ。
次第に固さを帯び、舌の上を踊り始める。
ちゅるり・・・
わざとらしい音を立てると、悠理は我慢出来ないとばかりに嬌声をあげた。
「あ・・・ああ・・せいしろ・・・・!」
「悠理?」
「ねえ・・・・あたい、なんか出てる・・・?」
脚をもじもじさせながら訴えてくる為、清四郎は視線をゆっくりと下げた。
そして先ほどまで触れていた場所へ下着の上から指を這わせる。
悠理の指摘した通り、そこはもう・・ぐっしょりと濡れていた。
「・・・すごいな・・・こんなに濡れやすいとは。」
器用過ぎる片手で、するりとショーツを剥ぎ取ると、その布をじっくりと見つめる。
「み、見んな!変態!」
羞恥の余り、悠理は奪い取ろうと手を伸ばしたが、清四郎はあろうことかその布を着ている浴衣の袂に入れてしまったではないか。
「記念に下さい。」
「なんの!!?」
「僕たちが結ばれる記念ですよ。」
そう言って薄く笑った男は、ようやく自らの帯を解いた。
ダークグレーのボクサーショーツは、その興奮を誇示するかのように膨れあがっている。
悠理は一瞬だけ目にしたソレに身をぞっと震わせた。
―――――でかい・・・なんだ、アレ!
勃起した男性器など、当然見たことのない悠理。
それが果たして大きいのか小さいのか。
判断基準が無いため解らないが、とても挿入出来るとは思えなかった。
「・・・せ、せいしろ・・・あの・・・無理。」
「え?」
「こ、怖いよ・・」
何を指し示しているのか瞬時に理解したが、今更止めることなど出来ない。
「大丈夫。絶対に痛くしないから。僕を信じなさい。」
「・・・・・でも・・・」
「悠理。約束だ。絶対に痛くしない。」
―――どこに根拠があるのだろう。
しかし悠理はその言葉を信じることにした。
・
・
・
再び愛撫を始めた清四郎は、悠理の全身をくまなく撫で回しながら、舌先でも熱を与えていく。
大きく広げられた脚の付け根から更に顔を下げ、恥毛の感触を味わった後、そっと秘唇に辿り着いた。
指先でじっくりと広げたそこは、先ほどのショーツからも想像出来たように、蜜をたっぷりと溢れかえらせている。
清四郎はスッと息を吸い込むと、躊躇うことなくそこへとむしゃぶりついた。
「ひゃぁ・・・!」
甲高い声が響く。
悠理は前もってこういった愛撫があることを知ってはいたが、まさか最初からこんな目に遭うとは思っても居なかった。
「だ、だめ・・・せいしろ・・・・それ・・・恥ずかしい!!」
しかし清四郎は無言でその行為を続ける。
「あ・・・あ・・・・っ!」
信じられない。
清四郎が、あの清四郎がこんなことするだなんて!!!
清四郎の唇があたいのあそこに!?
目が眩むような羞恥が悠理を襲う。
「あ・・・・はっ・・・・も、もう、やぁ・・・!」
ジュルジュル・・と響く濁音は誰のもの?
唾液?それとも・・・・
そんな疑問に答えるかのように、一旦口を離した清四郎は、ふっと息を吹きかけ、笑った。
「濡れやすいんですね・・・すごく敏感な身体だ。」
「びん・・かん?」
「ええ、甘い蜜をたっぷり流してる・・・。解りませんか?」
んなの、解んないよぉ・・・!
恥ずかしくて首を振るだけの悠理を、再び清四郎の口が攻め始める。
「も、もう良いってばぁ・・・!」
「痛くしないで欲しいんでしょう?たっぷり解しておかないと、約束を守れませんよ。」
結局、悠理の意識がとろとろに微睡むまで、その愛撫は続けられ、下腹部の重だるさを感じ始めた頃、清四郎はようやく身を起こした。
再び濃厚なキスから始まり、悠理の身体は大きな掌でくまなくなぞられる。
胸先は痛いほど捏ねられたが、それが快感の一つであるとようやく理解出来、悠理はすっかり身を任せることにした。
身体を中心を割るように長い指が下りていく。
薄い茂みを掻き分け、器用な舌で散々舐られた秘所に到達すると、清四郎はまず一本の指をゆっくり押し込んでいった。
「痛む?」
「・・・・ううん。」
「なら・・・・」
第一関節を埋め込み、軽く回し始める。
「これは?」
「大丈夫・・・だよ?」
違和感こそあるものの、痛みは全くと言って良いほど感じない。
悠理は頬を赤くしながらも、次の刺激を待ち構えていた。
「もう少し、深く入れますよ?」
「ん・・・」
指の半分以上は挿入されたのだろう。
さすがに異物感を感じ、悠理は目を見開く。
「・・・・・痛い?」
「う、ううん。」
清四郎の指は長く美しい。
それはいつも抱いていた感想だ。
―――今、自分のあそこに入っているのか・・・・。
胸がドキドキしてくる。
クチュクチュと音を立てながら執拗に掻き回されていると、頭の芯が痺れるような、このまま何かを吐き出してしまいたいようなもどかしさが擡げてくる。
清四郎は指を折り曲げ、内壁の上をゆっくり擦り始めた。
「あ・・・あ・・・!!」
「悠理?」
「そこ・・・なに?変な感じ・・・するぅ・・・」
「ここ?もう少し強くしますよ。」
ぐりり・・・と押し込まれ、悠理は腰を浮かせる。
「あ・・・ああああ!」
想像もしていなかった気持ち良さが身体の中心を走り抜けた。
「あ・・・せいしろ・・・そこ・・・!」
「良いんですね?」
どんどん大胆になっていく痴態を見逃すまい、と清四郎の双眸はカッと見開いている。
どこがどう感じるのか、全てをその優秀な脳にインプットしながら・・・。
「あ、あ、・・・駄目だ・・なんか来る・・・怖い・・・・」
「怖くない、大丈夫。僕の手を握って。」
差し出された手を悠理は素直に握りしめる。
「あ・・・あ・・・・・あああ・・・・・・!!!」
的確に快感のスポットを擦り続けた清四郎の手はすっかりびしょ濡れで、悠理は絶頂の喘ぎを漏らしながら、更にたっぷりと潮を浴びせかけた。
「・・・・・すごい。初めてなのにこんなにも・・・。」
清四郎は感動していた。
悠理の身体は、想像以上にセックスに向いている。
男にとってこれほど嬉しい事はないのだ。
脱力した悠理の目は天井を彷徨っている。
初めての快感があまりにも衝撃的で、言葉も出ないらしい。
清四郎は指を引き抜くと、それを嬉しそうに舐めしゃぶりながら、その味をしっかりと記憶した。
甘い女の香り・・・・。
浴衣と下着を脱いだ清四郎は、悠理の身体からも同じように剥がした。
互いに一糸纏わぬ裸を見せ合うのは初めてのことだ。
「悠理・・・・綺麗ですよ。」
先ほどよりも情感を込めて、清四郎は呟く。
「せいしろ・・・・も・・・すごくかっこいい。」
震える手を伸ばしながら、清四郎の鍛えられた腹筋を撫でた。
その行為がどれほど男を煽るかなんて、悠理が知る由もない。
清四郎の肉茎はこれ以上無く持ち上がり、その存在を強くアピールしている。
綺麗な歯で噛み千切られた避妊具の袋は放り投げられ、するするとその逞しい棒に被せていく様を、悠理は夢のように見続けた。
「まだ、怖い?」
「ううん・・・でも、優しくして?」
「僕はいつも優しいでしょう?約束は守りますよ。」
弛緩した脚を割り広げ、清四郎は腰をゆらりと進ませる。
もう一度、悠理の濡れた瞳をじっと見つめた後、自らの性器に手を添え、それをぬるぬるとした秘所に擦りつけた。
「はあ・・・・・柔らかい。このままイッてしまいそうだ。」
「やらし・・・せいしろ・・・・」
「本来の僕はやらしいんです。知らなかったんですか?」
「・・・・・ううん、知ってた・・・・気がする。」
「もっと知って下さい。悠理だけには全部教えますから。」
その言葉の恐ろしさが脳に到達しない悠理は、あどけなさを残した顔でコクンと頷いた。
「可愛いな・・・・おまえは。」
溜息と共に、悠理の瞼に強く唇を押し当てた清四郎。
もう、一刻も早く、彼女の胎内を味わいたかった。
濡れた襞を何度も擦った後、慎重に、これ以上無く慎重に、ゆっくりと腰を進めていく。
「ん・・・・!」
「悠理、深呼吸して。」
「すーー・・はぁー」
素直すぎるその行為に胸がぎゅっと絞られるが、清四郎はタイミングを見計らって先を進んだ。
「あっ・・・はいってくる・・・!」
目を大きく瞠り、悠理は清四郎の腕をぎゅっと掴んだ。
「背中に手を回して・・・そう・・・・しっかりと掴まっていて下さい。」
「うん・・・・あ・・・あんなに大きいのがほんとに入るんだよね?あたい、死んじゃわないよね?」
「死にません。絶対に死なせませんよ。」
会話することで緊張がほぐれるのなら、と清四郎は言葉を続ける。
「大丈夫。おまえは頑丈でしょう?はあ・・・・しかし、狭いな・・・。」
「もしかして痛い?」
「いや・・・気持ち良すぎて・・・・・・・」
’本当にすぐ達してしまいそうだ’・・・という本音は飲み込む。
「あ、あたい・・・もう大丈夫そうだから・・・全部・・・好きな様に入れていいよ?」
目尻に涙を溜めているくせに、何を言うんだ・・・。
清四郎は窘めるように悠理の唇を優しく噛んだ。
「あんまりらしくないことを言うな。後悔するぞ。」
「後悔?」
「僕の渾身の我慢を無駄にしないでくれ・・・傷つけたくないんだ。」
その表情があまりにも辛そうで、悠理はぎゅっと唇を結び、それでも何かを覚悟したように告げる。
「大丈夫だって。清四郎があたいを傷つけるなんてあり得ないし!それはもう・・・・充分解ってるから・・・。」
「悠理・・・・」
清四郎は悠理をぎゅっと搔き抱く。
と同時に、我慢の堰を切り、一気に奥深くまで押し入った。
「っつ・・・・・・・!」
「う・・・っ・・・!」
あまりの衝撃に、双方呻き声をあげるだけとなってしまった結合。
悠理は反射的に涙を零し、清四郎はあまりの達成感に深い溜息を吐いた。
「・・・・は、入った?」
数秒後、悠理は恐る恐る尋ねる。
「入りました・・・・・。」
背中に回した手に力を込めれば、清四郎が軽く頭を振ってもう一度呻いた。
「・・・・・気持ちいい。すごく・・・・・動きたい。」
「・・・・・いいよ?動いて・・・」
「痛くないですか?」
「・・・・・・大丈夫だってば。なんかじわじわと熱いけど・・・・」
健気に微笑む悠理を絞め殺すように抱き締めた後、清四郎はゆっくりと抽送を始めた。
たった一往復でもその心地良さに目が眩む。
胎内が絡みつき、そして絞るように煽動するのだ。
『どんな身体をしてるんです!こいつは。』
労りは最初の数往復だけ。
後はがむしゃらに腰を振り、悠理の全てを擦り上げる。
『ああ・・・くそ・・・・気持ちよすぎる。駄目だ、もたない!』
当然、快感を感じるまでには至っていないのだろう。
悠理は喘ぐというよりは浅い呼吸を繰り返しながら、清四郎に必死にしがみついていた。
「悠理・・・可愛い・・・可愛いぞ・・・・!おまえは最高だ。」
飾り気のない言葉と強烈なキスを浴びせた男の律動は、さらに激しさを増す。
珍しいほど必死な様子に、悠理の鼓動もどんどんと加速する。
「せいしろ・・・せいしろ・・・ぉ・・・・もっと言って・・・!」
「ああ・・・・・・悠理、僕だけの・・・・女だ!」
打ち込まれる杭は悠理の奥深くを貫いていたが、不思議と痛みは感じなかった。
ただ、ひたすらに、熱い。
汗に濡れた背中にぎゅっと掴まりながら揺らされる事は、とても心地良かった。
「・・・・悠理・・・・・もう、駄目だ・・・イく・・・・」
切羽詰まったその言葉に、悠理は身を固くする。
清四郎の腰が一番奥深くで止まり、そして小さな呻きと共に白濁した精が勢いよく皮膜に吐き出された。
・
・
・
腰に敷かれていた浴衣には、小さな赤い痕跡が残されている。
それを見た悠理は、なんとも言えぬ感慨に胸を熱くした。
清四郎と繋がった証。
その小さな痕が無性に愛しく感じる。
清四郎は汗ばんだ身体を自らの浴衣で拭き、悠理を抱きかかえると、内風呂へと連れて行く。
そこからは、露天風呂から見た海原がまた違った角度で見え、悠理は嬉しくなった。
「綺麗だよな・・・・」
夕陽はほとんど沈みかけている。
「綺麗ですね。」
オウム返しのような感想を口にした清四郎の頬へチュッとキスすると、悠理は照れくさそうに笑った。
「どうしたんです?」
「清四郎が可愛くて・・・・キスしたくなったんだい。」
言葉に詰まった清四郎は、悠理の気持ちを推し量る。
初体験の後のハイテンションなのか。
それとも僕はそんなにも惚けた顔をしていたのだろうか?
どちらにせよ、腕の中の恋人は満足そうで、決して嫌な思い出になったわけじゃないのだな、と確信した。
「さ、汗を流しましょうか。そろそろ夕飯が並び始めますよ。」
「わーーい!!お魚、お魚!」
「食べ終わったら・・・・・」
「ん?」
湯船に腰掛けた悠理は清四郎を覗き込む。
その黒い瞳は、いまだ情熱の炎が消え去っていない。
「もう一度じっくりと、おまえを抱きたい。」
「・・・・・・・・・・う、うん。」
その後、二人は一度も観光することなく、部屋の中で欲望赴くまま互いを貪った。
初めての温泉旅行。
彼らの愛が深まったことは言うまでもない。