欲望(R)

「あっ、あっ…………せぇ……し…ろ…………」

彼女の声は媚薬のように脳を冒す。
腰を持ち上げ、初々しいほどの桃色を舐め啜っていると、これは現実かどうかすら解らなくなってくる。

友人になど戻れない。
互いの想いに気付いたのだから。
となると、前に突き進むしかないわけで、先ほどから僕の身体は、悠理のすべてを飲み込む勢いで猛っている。

誰も止める者はいない。
悠理自身も待ち望んでいる。
これから自分の身に何が起こるのか、
その拙い頭では想像に限界があるだろうが。

「可愛い………もっと声を聞かせてくれ。」

自分でも驚くほど丁寧に、そして貪欲に舐め啜る。
甘い泣き声に煽られ、いち早く繋がりたいという思いは膨らみ続けているが、かといって酷い痛みを与えたいわけではない。
最大限の気遣いをもって、悠理に己を刻みつけたい────そう思っていた。

「あっ………そこ、やだよぉ!」

あれほど快活な彼女だが、その体はあまりにも女だった。
今まで抱いた誰よりも香しく、柔らかい。
布団を被せてくれと騒いだが、僕はそれを拒否し、灯りの下で愛撫を続ける。
舐め尽くし、啜り取る。
彼女の味を舌に記憶させる為に。

「や、もぉ!むりぃ!」

言いながらも、僕の髪を掻き毟る手が徐々に緩んでゆく。
彼女の身体は可哀想なほど快感に弱い。
何となく予想はしていたが、これほどまでに敏感だとは────

痙攣する下半身を押さえ込み、まずは最初にイき方を教え込んだ。
舐めれば舐めるほど甘い蜜が溢れ、シーツを濡らす。
小さな粒を舌だけで捏ね回し、反応が好くなってきたところを吸いつくと、悠理は細い腰を浮かせ、背中を反らせた。

「ひぅぅ……!やだぁ!やだ!」

もはや押し殺すことも出来やしないだろう。
鼓膜を震わせる嬌声はどんどんと僕を追い上げて行く。
たとえ家族に聞かれてもいい。
今更、悠理から離れることは出来ないのだから。

ビクンビクン

達した後の悠理は、放心したまま激しい呼吸を繰り返した。
ミストのような汗が肌を覆い尽くす。
ぞくぞくするほど官能的なその姿。
男を狂わせる何かが香り立つ。
それは悠理だけが持つ───媚薬。

もう、我慢など出来なかった。
身を起こした僕は、サイドテーブルから避妊具を取り出し、スラックスを脱ぎ去る。
痛いほど張りつめた分身が、無様なほど多くの滴りを見せつけていた。

─────興奮しすぎだ。

自嘲する間もなく装着し、悠理に覆い被さる。
不安な目で見上げてきても、止まることは出来ない。
一度絡み合った身体が、引き剥がされることを拒んでいるからだ。

「悠理…………」

尊き友情。
だが二度とそのポジションには戻りたくない。
本当は永遠の友情など求めていなかった。
悠理を僕のものにしたかった。
誰の手にも譲りたくなかったんだ………ずっと昔から。
妙なプライドが邪魔をして、友人のまま隣の席に居座ろうとしていた。
頼られる存在でさえあれば、彼女の心は誰のものにもならないと固く信じながら。

「清四郎……………………好き。」

水滴が落ちるほどの小さな声で、真実は告げられた。
何度聞いても胸を熱くする言葉。
広がる歓喜と安堵感が、僕から素直な気持ちを引き出してくれる。

「僕も…………好きだ。おまえがこの世で一番好きだ。」

大きく広げ持ち上げた脚はカモシカのように細い。
静かに、厳かなほど静かに沈めて行くと、温かな蜜壷は思っていたよりずっとスムーズに受け入れてくれた。
蕩ける感覚に腰が痺れ、満足感に満たされる。

最初はゆっくりと、そして徐々に激しく。
悠理に刻む痛みも快楽も僕自身の手で与えたかった。

「んんっ…………っ………せぇしろ!」

ぎゅっと閉じられた瞼に幾度もキスをする。
涙を吸い取り、穿つ速度をコントロールし、少しでも快楽を与えたいと必死になる。

「悠理、悠理っ…………」

いつもより早い射精感は彼女の泣き顔によってもたらされた。
可愛い泣き顔────もう誰にも見せたくない。

「くっ、………ダメだ。」

一気に走り抜ける快感。
薄い体を抱きしめ、歯を食いしばりながら放出する。
それは、今までの人生で最高の瞬間だった。

その後、避妊具を付け替え、もう一度交わった。
今度は悠理の好い所を見つけ攻めることで、更なる快楽を味わえた。
流石に大きくなりすぎた声を、僕の口で塞ぐ。
初めてとは思えないほど柔軟に、悠理はそれら全てを受け止めてくれた。



時間にして約1時間ほど。
駆け抜けていった快楽以上に、愛しさが倍増し、離れがたい思いが膨らんだ。

濡れた体を抱き寄せ、暖める。
息が整ったばかりの口にまたしても口づけを落としてしまうのは、悠理がいつもよりずっと大人しいからだ。
体力の消耗と精神的な戸惑い。
ピクピクと震える肌がすがりつくように触れてくる。

「悠理、辛くありませんか?」

「………わ、わかるもんか。」

「僕は……まだまだいけますけど、さすがに親父が帰ってきそうだ。」

「あたい…………」

熱に冒されたままの目は“まだ帰りたくない”と告げている。
泊めることなど、もちろん簡単だ。
勉強を教える………たったその一言で両親は簡単に納得するだろう。

「………泊まらせたいのはやまやまですが、おまえを抱き潰してしまいそうで、怖いんです。一晩中、繋がって、おまえの隅々まで探って、ありとあらゆる気持ちよさを教えたくなるんですよ。………そんなこと、ちょっと困るでしょう?」

すると悠理は意外なほど穏やかに、首を横に振った。

「あたいも…………………おまえのこと知りたい。一晩じゃ足りないと思うけどさ。離れたくないんだ、今は。」

絡まる足が官能を呼び覚ます。
もう、何を言っても無駄だ。
一旦鎮まった欲望が点火されてしまった。
たとえ家族にバレようとも関係ない。
今、この衝動を堪える方が愚かに決まっている。

「悠理…………」

下の方で丸まっていた布団を被り、悠理をその中へと引きずり込む。
これからこの空間で行われる営みは、更に激しいものとなるだろう。
彼女の声を洩らさない為にも必要なアイテム。

「なんか………子供の頃、思い出すな。」

小さく呟いた感想へ頷く代わりに、荒々しいキスを与える。
何度も味わった唇を、舌を、僕の匂いに変えてゆく。

「っは……ぁ………せ………んっっ!」

簡単に蕩けてゆく体を繋ぎ合わせ、小刻みに震えば、あっという間に訪れる絶頂。

ああ、やばいな。
こんな快感、病みつきになる。
これから先、おまえに誘われたら、ひとたまりもないこと請け合いだ。
パワーバランスを維持したい僕も、もはや白旗を挙げるしかない。
これほどまでに魅力的な女はこの世に二人といないのだから。

「ぁ………あ………せぇしろ…………」

濡れたままの体を腕に閉じこめ、何度も揺さぶり続ける。
もはや何度目かも解らぬエクスタシーが彼女をどんどん崩壊させていく。

「ひぃ………ん……おかしく………なるぅ………」

か弱き叫びを僕の口で塞ぎ、更に奥深くを抉り続けると、悠理の目が大きく見開き、深い絶頂に到達したことが判った。
凄まじいまでの痙攣が僕をも襲う。

それなのに、汗だくの体が休憩を求めようとしない。
震える彼女の肌を舐め啜り、鎮まりゆく炎を消さないよう、何度も何度も追い立てる。

知りたくて仕方ないのだ。
悠理の反応を、悠理が持つ感覚の全てを。

臍の中にまで舌を差し込み、チェックする。
足を持ち上げ、僕を受け入れていた場所の香りを嗅ぐ。

抵抗する気力はゼロ。

結局は布団を剥ぎ、うつ伏せにした後、その美しい背中に何度も唇を這わせ、背骨の数を数える。
尾てい骨の形を知り、小さな臀部の柔らかさを確かめ、それを割り開き、己を沈めていく。

「あっ………はぁん!」

今にも内線が鳴りそうな予感がしていたけれど、何故かそうはならなかった。
急なオペでも入ったらしい。
となると、母も姉も自室に戻り、就寝するはずだ。

悠理の腰を掴み、激しく律動を加える。
枕を噛みながら必死で声を堪えようとする姿のいじらしさに、僕の快楽は膨れ上がった。

欲望が破裂する瞬間、引き抜いた分身から薄いゴムを取り去り、彼女の背中に放出する。
こんな性癖を持ち合わせているつもりはなかったが、どうしてもこの美しい背中を汚したい衝動に駆られたのだ。

「あつ…………何?」

薄い光の中で出来上がった絵画を見つめる。
悠理はとろんとした目で首だけをこちらに曲げた。
どんな名画だって敵わない、生の美しさ。
目に焼き付けた後、僕は彼女の背中を拭いた。

階下が静まりかえる。
どうやら皆、眠りについたようだ。
悠理が夜遅くまで居ることなど、当たり前の日常だったため、誰も咎めたりはしない。
おかげで僕たちは何度も、それこそ何度も、互いの想いを昇華することが出来た。

時計の針が三時を指し、ようやく浴室へと向かう。
バスローブを羽織っただけの二人。
洗い場で、悠理の体を隅々まで洗っていると、「こんなの初めてだ」と擽ったそうに笑った。
当然のように繋がろうと思ったが、ゴムが無いため諦め、結局またベッドの上で絡み合った。

尽きない欲望。
悠理もまた同じように求めてくれている。

明け方、ようやく疲労感が眠気をもたらし、シーツを替えた後、悠理をそこに寝かせた。
僕はソファで充分。
薄いブランケット一つであっという間に夢の中だ。

相思相愛とはこんなにも満足感を与えるものだったのか。

瞼を閉じ、夢現で考える。

そしてすぐさま欲望に直結するほど、自分は悠理を愛していたと解り、今まで無駄にしてきた時間を惜しむ。

─────それでもまあ、関係は始まったのだから、これから取り戻せばいいだけの話ですな。

適度な倦怠感。
押し寄せる幸せな夢。

僕が次に目覚めた時、彼女がどんな表情を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。

去りゆく欲望の代わりに生まれたのは、純粋な愛情。

残像として瞼に残った悠理の啼き顔は、────僕だけの宝物。