愛と混沌たる欲望(R)

気怠い腰が湿ったシーツに沈み込む。

────今、いったい何時なんだろう。

胃は空腹を感じるのに、心が満たされている所為か、それほど食べたいとは思わない。
小さな穴に絶えず出入りしていたモノが悠理から離れ、今は束の間の休息を得ている。
心地良い微睡みと共に───

男の精力は桁外れだった。
そしてそれに付き合う女もまた、尋常でない体力の持ち主である。

鍛え上げられた腰に散々啼かされた悠理は、それでも清四郎を求め、様々な角度から受け入れ続けた。
柔軟な身体は男にとって好都合で────
一方的な責めに何度も意識が飛びそうになるも、その都度、清四郎の強烈なキスで現実に呼び戻される。
それはさながら、人工呼吸代わり。
啜られる舌と唾液に夢見る暇さえ与えられなかった。

仰向けに寝ころぶ清四郎は、軽く目を瞑り、瞑想しているかのように見える。

完璧なほど美しく割れた腹筋。
規則正しく上下するそれを眺めながら、悠理はまたしても欲情する自分に驚いた。

清四郎の肉体に憧れていると知ったのは、もう随分前のこと。
交際するずっと前だ。
恋も愛も知らなかった幼き悠理は、道場で行われた練習試合の最中、乱れた道着から覗く清四郎の身体に胸が高鳴った。
それはただ単に強さへの憧れだったのかもしれないが、不意に訪れた“男への意識”が、留まっていた精神(こころ)の成長を加速させてしまう。

隆起した筋肉の躍動。
繰り出される技のキレ。
太い首筋に張り付いた汗のきらめき。
激しい脈動すら伝わってくるほどの迫力は、悠理をまんま虜にしてしまった。
そしてその完璧な身体に触れたいと願うようになってしまった。
あまりにも短絡的な落ち方。
恋と呼ぶには少々不純過ぎたのかもしれない。

溺れる切っ掛けがどうであれ、二人は両思いとなり、皆が辿るようなプロセスを一足飛びでぶっ飛ばし、結ばれた。
初めこそ、か弱き乙女の振りをしていた悠理だったが、元々のキャラでない為、二度目からは欲望のままに行動をおこした。
清四郎にとってもそれは歓迎すべきことだったのかもしれない。
自由奔放な性格がこれからのセックスライフを、より楽しめる方向へと導いてくれるのなら、願ってもない変化だ。

一度知った快楽を貪る悠理は美しく、そして目を瞠るほど艶やかだった。
幼さを残した身体が日を追う毎に艶めかしさを増し、曲線を帯びるようになる。
引き締まった腰も、二つの柔らかな膨らみも、女特有の香りを放ち、清四郎を淫らな世界へと誘うのだ。

手加減など必要なかった。
無論、交際を始める前から解っていたこと。
清四郎はありとあらゆる性技を使い、悠理を溺れさせた。

もちろん楽しむためだけではない。
これは一つの枷。
清四郎以外では満足できない身体へと作り変え、未来を縛り付ける──そんな自分勝手な枷だ。

彼女の隣に立つ資格は、唯一自分だけに与えられるもの。
昔も今も、それだけは変わらない。
不遜な男の譲れないプライドをかざし、悠理を捕獲した。
タイミング良く想いが重なり、今こうして互いに溺れた状態でいるが、必要なのはこれからの約束。
刻みつけるのは心だけじゃなく、身体への記憶がモノを言う。

大学入学と同時に交際を始めた二人。
清四郎は瑞々しい身体を直ぐ様自分のものとした。
印を刻み付ける為、割り開いた身体を責めて責めて、責め抜く。
本能に従う少女を快楽に浸すのは簡単だった。

だがそれだけでは再び逃げられてしまうかもしれない。
清四郎は多少狡いと知りつつも、彼女に重圧的な愛を注ぎ込んだ。
それは洗脳に似た何かで、悠理は清四郎の言葉に耳を傾け、従い、そして彼の想いを受け入れた。
嘘偽りはない。
少々重荷なだけ。
過度なセックスと、日々叩き込まれる彼の愛に、悠理は以前よりずっと従順な女へ変貌を遂げていった。

一ヶ月も間を空けたのは多忙の所為だけではない。
彼女を飢えさせるためだ。
毎日のようにまぐわっていた日常が、容易に飢えを与えてしまうこと、清四郎は知っていた。
そしてまた自分にも同じ苦しみを課す。

おかげで剥き出しとなった欲望が清四郎を煽り、驚かせ、興奮させる。
悠理が一歩先の深淵にたどり着いたことは、彼の理想であり、望みが叶った瞬間だった。

飢えた身体に女の悦びを余すことなく教え込む。
悠理は優秀すぎる生徒だ。

 

「せぇしろ…………」

のそっと近付いてきた彼女は、清四郎の腹部に頭を乗せる。
そして通常よりも大きめのそれを、弄ぶかのように摘まみ、うっとりと呟いた。

「まだ…………ダメ?」

いくら清四郎とはいえ、五度も射精すればさすがに休憩を必要とするだろう。
悠理とてそれは分かる。
しかし、彼に責め抜かれた身体は未だジンジンと痺れていて、どうしようもないほど蜜が垂れてくるのだ。

「もう、シたくなったんですか?」

「………うん。あそこ…………キュウキュウするんだ。これ、欲しい………」

悠理は切なげな声で誘うと、彼の雄芯を軽く握り、頬ずりをした。
相当に恥ずかしい行為なのだろうが、今は構ってなどいられない。
幾度にもわたり擦り上げられた胎内を清四郎のもので埋め尽くさないと、身体が満たされないのだ。

どうせなら狂わせて、気絶でもさせてくれたらいいのに………

しかし彼はそれを許さなかった。
夢の中へ旅立とうとする意識を呼び戻し、何度でも快楽の園へ引き摺り込む。
身体に記憶させられたエクスタシーは、悠理を虜にして止まない。
まるで中毒患者のように、求めてしまう。

「なら、おまえが乗って、好きに動けば良い。」

「………あたいが?」

「そう。」

過去何度かそれを試したこともあるが、感じすぎる悠理はいつもくったり倒れ込み、動けなくなってしまった。
清四郎の好きな体位だと知ってはいる。
だけどどうしても上手く出来ないのだ。

「ほら、早く。」

急かされるまま上半身に乗り上げ、胴を跨ぐ。
小さな胸がふるんと揺れ、それら全てが清四郎の目に犯される中、悠理は屹立したソレを濡れそぼった裂け目にあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていった。
瞼が熱い。
彼の鍛えられた腹筋に震える手を置き、最後まで挿入させると、甘美なものが全身を走り抜ける。

「あ、あぁ………!」

みっちり支配された蜜壺は、嬉しそうに蠢いている。

「そう………良い感じだ。」

清四郎の熱い吐息が吐き出されると、悠理もまた感じ入ったような息を洩らした。

「せいしろ………気持ち良い………」

「そろそろ動いてもいいですよ。おまえの好きなようにイけばいい。」

脳が痺れる中、悠理はさらに腰を落とし、奥深くまでそれを埋める。
ゆっくり腰を揺らせば、小さな花火が爆ぜるような快楽が湧き起こってくる。

「あ………ぁ………」

サラサラと流れゆく理性。
発情した身体とはなんと扱いにくいものか。

「いい………すごくいい………も、おかしくなるよぉ………」

言葉にすれば陳腐な台詞を、悠理は何度も呟いた。
それが男の本能を煽るということも知っていて。

「やらしい光景だ………悠理、もっと激しく動いて。」

冷静さを失わない声で、清四郎は要求する。
それが一層、彼女の負けん気を奮い立たせると、彼もまた知っているのだ。

この男が興奮し、発憤し、野獣のような目をするまで、決して崩れ落ちたりしない。

そんな意気込みで臨む悠理は徐々に腰を大きく動かす。
まずは恥骨を擦りつけるよう前後へ。
すると互いの恥毛が触れ合い、ざわつくような刺激が生まれた。
強弱を付け動いていると、張り出したエラの部分が敏感な部分を抉り、弾けるような気持ち良さが立て続けに起こる。
気を抜けば、あっという間に崩れてしまいそうな身体。
悠理は唇を噛み締め、それに耐え抜こうとした。

「ん……ぐっ………」

「こら、そんなに力を入れたら血が出るから止めなさい。」

「だ、だってぇ………」

涙目で睨み付けるも、伸びてきた長い指は変色した唇をなぞり、優しく開かせる。

「いいから………素直に声を出して。どんな風に堕ちても、僕が支えてやるから。」

「………すぐイっちゃってもいいの?」

「構いませんよ。その代わり、今度はおまえが気を失うまで突き上げてやります。」

「………ドスケベ。」

しかし安心した悠理は再び自分の思うように腰を揺らし始めた。
清四郎の力強い屹立は、悠理の熱い蜜に包まれ滑らかに滑り、もはや内壁のどの部分でも感じてしまうようだった。

「あ、あっ!ここも好きぃ!」

余す所なく擦りつけるその姿。
艶めかしい腰の動きが、より色っぽさを増したように映り、清四郎は思わず奥歯を噛み締めた。

「悠理………こっちがおかしくなりそうだ。」

締め付ける膣内がさざ波のように蠢き、男を手玉に取る恋人の痴態が清四郎に限界を知らせる。

「せいしろ………あたい、も、駄目かも………」

絡み付く愛液の湿った音が空間をより淫靡なものへと変え、ベッドが軋むほどの激しさで動く悠理にどんどん追い詰められていく。

「くそ……!」

清四郎の手が、悠理の揺れる胸を鷲掴んだ。
二本の指を使いピンピンに勃った乳首を捏ね回し、ひときわ大きな嬌声で啼かせる。

「あっ、ああ!!」

トロリと甘い熱を宿すその中に注ぎ込みたく仕方ない。
悠理の悔しそうに崩れる様が見たかったはずなのに、今は一刻の猶予もなく、清四郎は自ら腰を打ち付け始めた。

「ひゃぁ……!ひ、ぁっ……ぁ、だめっ…んん……!」

「もう、出すぞ!」

硬い肉棒の滑らかな動きがマックスにまで達した時、迸る精液が悠理の子宮に勢いよく注がれ、その刺激により彼女は深い絶頂を味わった。

それは初めての経験。
ビクビクと痙攣する身体が清四郎の胸板に崩れ落ちる。
悦楽の頂点に達した悠理はトロンとした表情で、「すごい・・・」と繰り返した。
激しい鼓動が重なり合い、互いの興奮が共鳴する。

────────汗だくの肌がこんなにも気持ち良いなんて。

繋がったままの状態で抱き締められ、悠理は瞼を閉じる。
そして気を失うよう、深い眠りについた。

目覚めの合図は互いの腹の音だったかもしれない。
交差した身体をゆっくり剥がし、悠理はベッドに仰向けとなった。

「腹、減った。も、限界。」

「そうですね。」

清四郎もウトウトしていたらしい。
ぼやけた視界を元通りにするため、何度も目を擦っていた。

「何か作りましょうか。」

「何でもいい。カップ麺でも・・・・」

「了解。」

裸のまま寝室を出て行く恋人の引き締まった尻を眺めながら、悠理は汗の引いた身体にシーツを巻き付けた。

「あたいら、猿かよ。」

一ヶ月。
たった一ヶ月しなかっただけで、欲望に逆らえなくなる。
今も、清四郎の名残りが留まった身体は、くすぐったい疼きに纏わり付かれていた。

清四郎もそうだといい。
自分だけなんて、寂しいじゃんか。

求め、求められて、釣り合う想いに身を焦がす。
そんな恋愛に没頭したかった。
清四郎とだから出来る、濃厚な恋に身を任せたかった。

「・・・にしても、やり過ぎか。」

くしゃくしゃになったシーツは互いの汗と体液に塗れていて、さすがに洗濯しなくてはならないだろう。
悠理は重い腰をさすりながら立ち上がると、一気にシーツを剥ぎ取った。

「交換ですか?」

言われたとおり、スピード料理のカップ麺を二つ、トレーに乗せた清四郎が戻ってくる。

「替えのシーツ、どこ?」

「ああ、確か・・・・」

二人は裸のままシーツを張り替え、その上でカップ麺を啜った。
おおよそ人間的でない格好だと分かっていたが、どうせ食べた後、することは一つだ。

「なぁ。三日で足りそう?」

「睡眠を削れば何とか。」

「いや、そこはちゃんと寝ようよ!」

「では、延長するとしましょうか。」

「ぶっ!」

そんな事を当たり前のように告げる清四郎が、好きで仕方ない。
悠理は物足りない量のカップ麺を平らげた後、彼の身体に抱きついた。

「愛してるよ、清四郎ちゃん!」

「僕の方が愛してますよ。」

結局、痺れを切らした仲間達が別荘の扉を叩いたのは七日目の朝。
にやけ顔の美童以外皆、眉間に深く皺を寄せている。
こうして、慌てて服を探す羽目になった二人は日常へと舞い戻り、清四郎は二度と我慢することはなかったそうな。

「せいしろ・・・・あそこ、ちょっと腫れぼったいかも。」

「う。・・・・・・暫くの間、お預けですかね。」