麗らかな春の日。
清四郎は悠理を伴い、親戚から譲り受けた軽井沢の別荘へとやってきていた。
二人は大学二年生。
来週からまた講義が始まる。
交際を始めて半年ほど経つが、互いの想いは燃え盛るばかり。
特にあからさまな態度を見せる悠理は、清四郎が好きで好きで仕方ないらしく、まるで本物のペットのようにじゃれついていた。
そんな彼女を可愛がる清四郎もまた、昔の彼とはほど遠い。
今は人並み………否、人並み以上の多少歪んだ愛情を持って、悠理に接している。
端的に言えば、傍迷惑な馬鹿ップル。
仲間たちの呆れた視線をものともせず、日々関係を深めてゆく二人は、今回丸三日間、この別荘で愛欲の限りを尽くす予定であった。
二年になった頃から清四郎の日常は拍車をかけて忙しく、かれこれ一ヶ月にもなるだろうか、悠理に触れていない。
溜まりに溜まったマグマはもはや爆発寸前。
涼しげなポーカーフェイスもそろそろ限界を迎えていた。
しかし────
「せぇしろ…………」
熱を帯びた瞳が、甘い吐息が…………
玄関の扉を閉めた瞬間、清四郎を襲う。
「悠理?」
凭れかかってきた身体はシフォンに覆われていて、春を感じさせるバルーン袖のゆったりとしたブラウスは細身の身体によく似合っていた。
「あたい………もぉ、我慢出来ないよ………」
───腹でも下したのか?
と言わなかった清四郎も、少しは“情緒面”が成長した証。
恋人の懇願するような瞳に自分と同じ焔を見つけ、ゴクッと喉を鳴らす。
「僕も………限界です。」
もはや、昂るものを押し殺す必要はなくなった。
清四郎は悠理の腰を荒々しく引き寄せ、隙間無く抱きしめる。
痛みすら感じるほど強く。
「悠理・・・思う存分、楽しみましょう。」
答えよりも早く重なる唇は熱と共に溶けていき、悠理の肌がぞくっと粟立つ。
抱き合わさった身体から、清四郎の欲情が感じられ、悠理はそっと手を伸ばし彼の分身を確かめた。
慣れた仕草。
幾度となく行ってきた、彼の高ぶりを確かめる手っ取り早い方法だ。
「…………すごいな。」
すっかり硬い芯を持つソレは悠理の手の中でビクンと跳ねた。
「どれだけ待ったと?一日、二日では満足しませんよ。」
「………三日でも足りないくせに?」
挑発するように告げると、
「………良いんですか?しばらく監禁しても。」
清四郎はニヤッと笑った。
慌てて首を振るが、悠理とて時間が許す限り、恋人を貪り尽くしたいと思っている。
何せ忙しい男なのだ。
またいつこうして間が空いてしまうか分からない。
どんどん硬くなるそれを、指で作った輪を使い擦り上げる。
まだ布の上からだというのに、男は気持ちよさそうな吐息を洩らす。
そんな彼の快感が耳へと届く度、悠理自身も愛液を垂らし、甘い記憶に支配されていった。
「せぇしろ…………今日はいっぱい気持ちよくしてあげる。」
ドキッとするような台詞を蕩けるような顔で言われれば、清四郎の表情も崩れるほかない。
甘く掠れた声で、キスを強請る。
「悠理………」
情熱的な恋人は愛らしい舌を出し、まずは唇を、そして太く張りのある首筋を舐め、性感を刺激してゆく。
教えた以上の艶めかしさを纏って、清四郎を煽り始めるのだ。
「せぇしろ………いい匂い………」
鼻先で吸い込む男のフェロモンを、悠理はじっくりと堪能した。
そして、一つ一つ、ボタンを外してゆく。
クリーム色のシャツを開けば引き締まった見事な身体が現れ、胸板の筋肉に両手でさわさわ触れると茶色の突起がゆうるりと勃ち上がる。
男もここが感じると知ったのは最近のこと。
細い指先でコリコリ摘まむと、逞しい腰がもどかしく揺れ、それはもう悠理の欲情を見事に煽ってくれた。
誰よりも美しい身体を持つ男。
彼女がその身を完全に預けることが出来る、唯一の身体だ。
清四郎の肌を滑るように下りた悠理は、自らもブラウスを脱ぎ去ると、レモン色の下着姿で足下に跪いた。
あざといほどの上目遣いで彼を見上げ、舌なめずりを一つ。
そんな視線は秘められた野生を感じさせ、清四郎の喉が期待に鳴る。
二人はまだ玄関ホールに居る。
桧の床がほんのりと香る五畳ほどの其処は、小さな腰掛け用の椅子が二つ用意されているだけで、とても盛るような場所ではなかった。
それに気付いた清四郎は主寝室へ行こうと促したが、スイッチが入ったままの悠理はウンと言わない。
おもむろにベルトを外し、濃紺のスラックスをやや乱暴に落とせば、濃い色の下着の上からそそり立つ欲望にそっと手のひらを押し当て、撫で擦った。
「おっきぃ…………」
感嘆の声があがる。
それはまるで武器のような硬さを誇示していて、そう簡単に萎えそうもない力強さで悠理を挑発した。
「いつ見ても、やらしい形してんな。」
「やらしい事をするために、存在するわけですから。」
「………ま、そうだけどさ。」
女の目が畏れと期待に揺らめいている。
それを満足そうに眺める清四郎。
彼は口端を持ち上げ、決定的な言葉を告げた。
「ここのところ溜め込んでいましたし、いつもよりずっと硬いはずですよ。」
「───え?自分でもシてないの?」
「………まあ、ね。」
「男って、そんなにも我慢出来たっけ?」
「忙殺されてましたし、割とコントロールは利くほうなんです。それにこうすればより一層興奮するでしょう?………おまえを思う存分啼かせてやりたいと思っていましたから。」
頬摺りする勢いの悠理に、清四郎は妖艶な笑みを見せつける。
正直、一刻も早く押し倒し、こじ開けた身体にいきり立った欲棒を突き入れたかったが、これほどまでに積極的な悠理も珍しく、どうしても魅入ってしまう。
「今日は、あたいが清四郎を啼かせたい。」
心湧き立つ台詞。
興奮を押し殺し、清四郎は穏やかに微笑んだ。
「それはそれは。…………お手並み拝見といきましょう。」
ヒクヒクと蠢く、余裕無き姿を掲げていても、切羽詰まった様子を見せないのがこの男である。
胸の内では溜めに溜めた白い迸りを、彼女の美しい顔に飛ばしたい気持ちでいっぱいだったが、さすがに口には出せない。
悠理は不敵に笑った後、下着の上から唇を這わせた。
シャワーも浴びていない男の欲望へ。
灼熱のそれを布の上から愛おしげに頬摺りすると、唇だけでゆっくりと脱がせにかかる。
驚くほど器用に、そして焦らすように下ろされてゆく下着。
そんな行為はもちろん初めてのことで、清四郎の鼓動が一段と跳ね上がる。
ブルン、弾けるように現れた肉の塊に、悠理の熱い視線が吸い寄せられる。
「ほら、ビンビンだよ。…………こんなの挿れたら、あたい壊れちゃう。」
生暖かい息を吹きかけただけで、透明な水がタラリと悠理の指を汚す。
期待と欲望の先走り。彼の言葉は真実のようだ。
「ねぇ、清四郎………。さすがに一回はイっとかなきゃ………ね?」
それは一般的な男ならほとんどが好きな行為で、もちろん清四郎も然り。
一晩中でも楽しみたい最高の快楽だ。
ピンク色の艶やかな唇が、赤黒い肉杭をじわじわと浸食して行き、奉仕されている、というより、食べられているといった感じにも見える。
一度だけ大きく飲み込まれた後、悠理の舌が裏筋をそっとなぞれば、清四郎は思わず熱い息を吐いた。
「あぁ…………いい………」
内腿がヒクヒクと動き、快感に支配される。
震えるような痺れが脳にまで到達し、うっとりと目を瞑ってしまう。
「ここ、好きだよな。」
「…………たまりませんね。」
「もっと気持ち良くしてやるよ。」
今日の悠理はどうしたことだろう。
あまりにも蠱惑的で、魔性すら感じさせる。
無論その魅力に逆らえるはずもない清四郎は、戸惑いながらも身を任せ、巧みすぎる舌遣いに息を荒げた。
「は……ぁ………あぁ、ゆうり………こんな………」
一心不乱にむしゃぶりつきながらも、悠理の片手は清四郎の太股を絶妙な力加減で撫で続けている。
ぞわぞわと粟立つ感覚は間違いなく快感のそれ。
湧き上がる愉悦に身動きがとれず、そのまま雁字搦めになってゆく。
「ああっ………!」
先端の割れ目に尖った舌を差し入れられた瞬間、腹筋がびくりと震える。
────気持ち良すぎだ!
清四郎は無意識に悠理の髪をかき混ぜ、咽び声をあげた。
「悠理………そんな風にされたら………もう………!」
彼女の小さな口からジュルジュルと音が立つ。
口に入りきらない竿の部分を細い指で扱かれ、清四郎は擡げる射精感を必死で堪えようとした。
しかし心と体は反比例する。
いつしか清四郎は無我夢中で腰を振り、窄められた口を性器に見立てるような動きを繰り返していた。
あぁ、解き放ちたい。
今すぐに。
喉の奥にきゅぅっと絞られた瞬間、迸る熱い白濁。
自分でも想像がついた。
それがどれほど濃厚なものかを───
悠理の喉を流れ落ちていく多くの子種を想像し、ゾクゾクするほどの背徳感に満たされる。
コク……コク……………
涙目になりながらも必死で飲み干そうとする悠理。
咽せることなく飲み込んだ後、口端から零れ出す残骸に、清四郎は軽く首を横に振った。
あまりにも淫らな姿に目が眩む。
整った顔だからこそ、それは余計に淫靡だった。
清四郎の性器を最後まで吸い上げた悠理は、満足そうに息を吐き、あどけなく笑った。
「おいし………」
万に一つも美味しいわけがない。
けれど悠理は心底旨そうに啜った後、清四郎を見上げ、見せつける。
完全に濡れたその瞳を。
「ね、今日は…………あたいの中にもいっぱい出して?」
心臓を鷲掴みにする台詞は計算してのものなのか?
こんな言葉を聞かされて、発奮しない男はこの世に一人として居ないだろう。
だが、悠理は更に煽るような行為を見せつけてくる。
目を疑うような行為。
なんと下着の上から、自分の秘所を優しくまさぐっていたのだ。
その光景を目にした時、ギリギリまで張りつめていた何かが音を立て、ブツッと千切れた。
頭に血が昇った清四郎は脚に絡んでいたスラックスを最後まで脱ぎ去り、悠理を抱き上げる。
目指すはベッドルームただ一つ。
もう、一刻の猶予もない。
滅多に抱かぬ焦燥を胸に辿り着いた寝室は、二つのダブルベッドが鎮座している。
和モダンな空間に、桧の柔らかな床が心地よい。
更紗のシーツがふかふかのベッドを覆い、ウッドデッキに続く大きな掃き出し窓からは優しい風が運ばれてくる。
三日間、二人の愛の巣となる部屋だ。
「渋い趣味だな…………」
「そうですかね?」
清四郎にとっては此処がどんな場所だろうと、どんなインテリアであろうと関係ない。
先ほどまでの行為に煽られきった体は、直ぐにでも悠理を貫きたくてウズウズしていた。
シーツに横たえられた悠理は、あっという間もなく下着を剥ぎ取られ、生まれたままの姿となる。
春とはいえ、人が生活していない場所は空気が冷たい。
ふるっと肌を震わせば、清四郎は優しい手付きで悠理の腰を撫でた。
「ここにいる間、お互い何も着けずに生活しましょう。」
「へ?」
「アダムとイブのように、ね。」
「??」
脚を大きく持ち上げられ、清四郎の猛り狂った肉杭で穿たれる。
覚悟を決めていたとはいえ、最初の一突きは相当な衝撃だ。
悠理の全身はビクンと跳ね、軽く痙攣を起こした。
「はぁ……ん…………」
「強すぎたか?」
「………だって………いきなりなんだもん。」
「むやみに煽るからですよ………」
清四郎は色っぽい目で悠理を覗きこむと、唇を吸うように何度もキスを重ねた。
徐々に深まる粘膜の絡み合い。清四郎の巧みな舌遣いに目も眩むよう。
「ん………ぁっ………はぁ………もっ……とぉ……」
貫かれたまま激しいキスを求めてくる悠理は、全ての箍を外しきっていた。
清四郎はそんな恋人の痴態に脳が焼ききれるほどの興奮を感じ、求められるがまま、深い口づけで悠理を堕としていった。
・
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彼女が望んだ通り、清四郎は二度目の吐精を熱く熟れた胎内で吐き出した。
そしてそれを掻き出すべく、部屋に隣接されているシャワールームへと向かう。
激しく穿ち過ぎた所為で腰が頼りない悠理を抱え、ガラス張りのそこへ押しつけると、少々強めのシャワーで洗い流す。
二度目だというのに、恐ろしい量だ。
いくらピルを飲ませているとはいえ、妊娠の恐れを思い描く。
まあ、たとえ子供が出来ても、何ら問題はないのだが、もう少し、あと少しくらいは自由気ままな生活を送りたかった。
「あ……ッ………ちょっと滲みる………」
「久しぶりでしたからね。粘膜が爛れてしまったかな。」
「………おまえのがおっきすぎるからだろ?」
「それが……………好きなくせに?」
背後から手を伸ばし、悪態をつく悠理の胸をやんわりと揉み始めれば、彼女は直ぐにスイッチを切り替え、甘く、か細く喘ぎ始めた。
「悠理の胎内(なか)……凄かった。うねるように僕のモノを締め付けてきて、頭がショートしそうでしたよ。」
「あ………はぁ………ん………だって………ずっと欲しかったんだもん。あたいの指でやってもちっとも気持ちよくなかったし………」
衝撃の告白。
清四郎は思わず、胸を揉む手を止めてしまった。
「ま、まさか………自分で…………?」
「え、あ、……ダメだった?」
この悠理がどんな顔をして自慰に耽ったというのか。
清四郎の常識を超えた事実に、頭がクラクラし始める。
二度も達したはずの性器が一気に漲るほどの妄想が膨らみ、清四郎は悠理の片足を持ち上げると、掻き出したばかりとそこへ即座に押し込んでいった。
「ひぃあぁ!!」
「なんてやらしいんです、おまえは………。何を想像してそんなことをしていた?答えなさい!」
ガラスに押しつけられたままの激しい律動が、胸の形を変えてしまう。
シャワーが降り注ぐ中で、全ての細胞が過敏に反応し、悠理の肌はぞわぞわと粟立ち始めていた。
「あっ………んなの…………せぇしろ……とのことに…………はぁ………決まって…………」
当たり前の事を聞くなと言いたいのに、快楽に服従させられた体は意志に反した言葉を吐く。
おまえしか知らないのに────
おまえがあたいをこんな風にしたくせに。
とうとう両脚を宙に浮かせた状態で、清四郎は悠理を貫く。
力強い腕に持ち上げられた体がガラスに密着し、キュッキュッと擦れた音を立てた。
痛みすら快感に変わる不思議を、その時の悠理は味わい、貪り尽くす。
清四郎と繋がることで、全ての神経は作り替えられたかのように甘く痺れ、より深みへと沈み込んでゆく。
底知れぬ何か。
もはや一人では抜け出せない境地。
清四郎はそんな悠理に気づかぬまま、律動を激しくさせる。
「僕とのセックスを想像してたんですね?」
「あ………当たり前だろ……ちょ……激しすぎるよぉ…………!!も、ダメぇ…………」
「悠理っ!」
呆気なくやってきた三度目の迸りが、美しく反ったその背中へと飛び散る。
浮き出た肩胛骨から流れる白濁も、残念なほどあっさりシャワーで掻き消されてしまう。
そんな悲哀すら感じる光景を見ながらも、息を切らす清四郎の胸は満足感に満たされていた。
「……………ハァ、痺れますね………」
「……………ん。」
「一人で慰めるおまえの姿を想像するだけで………無限に出来そうですよ。」
ズルリと抜いた男根をシャワーで洗い流し、壁に凭れたままの悠理を抱きかかえる。
盤石な腕の中。
悠理が逞しい胸板に頬を寄せると、いつもより激しい鼓動が耳を打ってきた。
剥き出しの興奮が伝わってくる。
「あたいだって…………こんな気持ち良くされたら………ずっと………ヤりたくなっちゃうよ。」
「………望み通りにして差し上げましょう。」
溜まりに溜まった欲求は、もはや濁流のように二人を押し流すほかない。
休暇はまだ始まったばかり。
何者にも邪魔されないために、携帯電話の電源も落とした。
必要なのは、感触の良いシーツだけ。
もしかするとそれすら要らないのかもしれない。
一ヶ月ぶりの逢瀬は、愛欲にまみれたものへとその形を変えてゆく。
体力の限界を知らぬ二人だからこその、濃密な休暇。
未だ、紅の夕日は落ちていなかった。
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