彼女の賭け(R)

勉強会━━━

そう称して二人きりになる機会を増やしたのは清四郎の作戦だったのかもしれない。
だが彼とて一気にコトを進めたかったわけでなく、ただ年齢の割には恋に疎い彼女との距離を少しずつ縮めたかっただけなのだ。

しかし………
肝心な事に気付いていなかったのは彼の拙さ故。

まさかこんなにも甘い香りに意識が奪われるだなんて━━━

手を伸ばせば簡単に届く場所に居る、想いを通じ合わせた女の存在。
鍛えられた精神をも凌駕する事態に、彼は鉄壁のポーカーフェイスをぶら下げながらも、日々悩んでいた。

━━━髪の隙間から見える白い首はこんなにも細かっただろうか?
普段は食べる事に特化した飾り気のない唇も、今は甘い花蜜をしたためているかの様にしっとりと濡れて見える。
鉛筆を持つ華奢な指。
くるくると色を変える感情豊かな瞳。
物憂げな影を落とす長い睫毛。
艶やかな頬は可憐に色づいている。

どのパーツも充分過ぎるほど見慣れたものなのに、その全てが自分の為に存在していると思えば、清四郎の胸がどんどんと熱を帯びていく。
そっと吐く息もまた、記憶にないほど熱かった。
悠理の気持ちを知ったのは、魅録の核心的な一言だったが、その前から意識していたのは自分の方だと感じる。
彼女の一挙手一投足に振り回される事をどこか心地良く思い始めた時、その価値を強く認識し、いつまでも側に居たいと望んだ。

それが恋かどうかなど、どうでも良い。
共に歩きたい、
共に生きてみたい。

その欲求だけが彼にとって何よりも大切なものだった。

だが、こうして二人きりになると悠理を‘女’として強く意識してしまい、自分でも驚くほど冷静さを保てない。

あの日、彼女にそっと口付けたのは悠理の努力と勇気に対する称賛。
たったそれだけの意味だったはずなのに・・・・・
今はもう、男としての欲望を滲ませた激しいキスを与えたいという葛藤が清四郎を苛んだ。

━━━きっと驚かせてしまうだろう。
彼女にそういった覚悟があるとは、到底思えないのだから。

「せーしろ、喉乾いた。」

二時間ぶっ通しの勉強は彼女にとっては過酷。
我に返った清四郎は「はいはい」と立ち上がり、台所へ向かおうとした。
その背中に悠理は声をかける。

「あの……さ。」

「何かお菓子も見繕ってきますよ。」

「ち、ちがう!」

叫ばれた清四郎は訝しげに振り向いた。

━━━まさか、さっき食べた夕飯だけでは足りないというのか?
軽く人の五倍もの量を腹におさめているというのに。

そんな呆れ顔を見せると…………悠理は慌てて口を閉じ、戸惑った視線を向けた。

「ち、チューしないの?」

「ちゅー・・・ですか。」

‘ちゅー’という意味がしっかり伝わらなかったのだろう。
清四郎は首を傾げ、鸚鵡返しのように応える。

ちゅー・・・

チュー?

ようやく気付いた時、頬が染まった悠理の顔が視界にクローズアップされた。

「キ、キスのことですか!?」

「それ以外、何があるんだよ!」

「あ、ありませんね。」

「あん時、おまえからチューしてきたくせに………10日も経つのに………何もしてこないってどういうことだよ。」

モジモジしながら責めるような台詞を吐く悠理の可愛さたるや!
清四郎は眩暈を堪えながら、そっと膝を折った。

「してもいいんですか?」

「う、うん。」

「本当に?」

「………いいってば。」

彼女の目が期待を帯びている。
長い睫毛がそっと吐息に揺れる。
そして、その愛らしい唇が待ち遠しさに軽く開いた。

清四郎は自らの鍵を外した。
自制心という名のそれは弾け飛び、更に欲望という名の嵐が全身を覆い尽くす。
それでも最後の踏ん張りを見せ、ゆっくり彼女の頬を包み込むと、まずはその柔らかい感触を確かめるように唇を滑らせた。

「悠理が好きです。」

これ以上なく近い距離でそう囁く。

「あたいも…………清四郎が、好き。」

そんな甘い言葉が告げられれば、もうじっとなどしていられない。
紳士の仮面を剥ぎ取り、清四郎は悠理を床に押し倒した。

━━━違う。ここじゃダメだ。

直ぐ様、それに気づいた為、悠理を抱え、続く隣室のベッドへと運ぶ。
軽い身体がシーツに横たえられた時、何かを感じ取ったのだろう。
悠理は瞳を瞬かせながら、躊躇いがちに口を開いた。

「ち、ちょっと、まさか………する、の?」

彼女も19才。
男女の睦み事くらいは知っている。

「ええ。」

短くそう答えた男は、あっさりとルームウェアを脱ぎ、その見事な裸体を彼女に晒した。

「覚悟してください。今夜は絶対におまえをベッドから出しません。」

カァっと血が沸騰する中、悠理の視線はそれでも清四郎の身体から離れずに居る。

━━す、すごっ!こいつ、こんなにも筋肉あったっけ!?

ナイトスタンドの光に浮かぶ、彫刻のような肢体。
滑らかな肌は石膏で塗り固められたようにも見える。
それでもほんのりと紅潮しているのは、やはり興奮のせいだろうか?

つくづく美しい男だと思う。

想いに気付いてからというもの、悠理は清四郎の全てが欲しいと願っていた。
野梨子に与えられる優しい視線も、溢れんばかりの思い遣りも、そして慈しむ心も、全て自分だけのものにしたい。
そんな我儘な気持ちに、随分と振り回されてきたのだ。
だが今は何よりもこの身体にこそ興味が湧いている。

━━━触れてみていいのかな?

そう思うと同時に細い指先が彼の胸板をなぞっていた。
ビクリと震わせた肌が急激に高い熱を持ち始める。

「熱い…………」

「煽るな、悠理。」

「煽る?煽ったら…………どうなんの?」

「……………後悔しますよ。」

薄いシャツは彼の手で剥ぎ取られ、履いていたショートパンツは下着毎、荒々しく下ろされた。
最後の砦、胸を隠す柔らかな布だけはそっとホックを外され、腕からするりと抜け落ちる。

唾液を飲み下す音は悠理にまで届いただろう。
女の胸など、彼にとって特筆すべきものではない。
普段から露出の激しい可憐が側にいるのだ。
その美しい形状すら容易に想像できるほど。

しかし、しかし……………

ぷるりと揺れる小さな膨らみは余りにも美しく、余りにも頼りなく、がさつな彼女の持ち物とは思えないほど慎ましかった。
薄いピンク色の突起が、緊張のせいか勃ち上がっている。
触れるだけで溶け出しそうな双丘からは何とも言えぬ甘い香りがした。

両腕をそれぞれ広げられ、赤く染まっていく白い肌は、彼女の覚悟にも感じてしまう。

「悠理………おまえは、こんなにも綺麗だったんですね。」

「………い、今さら気付いたのかよ!」

「ええ。今さらです。」

清四郎はもう躊躇わなかった。
柔らかな肌に触れる手は武骨だったけれど、彼女を愛撫し、解すことだけに従事する。
尖る先端をコリコリと捏ねながら、顔の至るところにキスを浴びせ、時折優しく愛を告げる。
思いがけない事態に、彼女は混乱していることだろう。
ギュッと瞑った瞼に愛しさが募る。
細い腕も華奢な腰も、まだ幼さを残す柔らかな太股も、全て清四郎の掌に記憶し、支配されていく。

「あ………ぁ………そ、そこ、ダメ。」

二本の脚の付け根をそろりと撫でれば、悠理はびくんと腰を浮かせた。
その時、重なり合った下腹部にある互いの性器が密着する。
感じる熱はひどく高い。

「ひっ、ひゃぁ!」

「おっと、逃げるな。」

慌てて身体を翻そうとした彼女を清四郎は軽々と引き留めた。
再び対面した二人はまんじりと目を合わせたまま。
清四郎は言葉を繋ぐ代わりに腰を押し付け、薄い茂みをゆっくりと擦り始める。

「あ………ぁ、やっ………!」

興奮した男のシンボルがどんな形を成しているかまでは分からない。
ただその棍棒のような硬さと、火傷するのではと思わせる高い熱に、悠理は身を震わせた。

清四郎は徐々に速さを加える。
強く押し付けることで彼女の敏感な部分を刺激していると分かってはいたが、今さら止めることは出来なかった。
柔らかな感触はまるで羽毛のよう。
心地良い触感に脳が痺れ始める。

「あ………せぇしろ!待って………!あたい、変だってば!」

「僕もおかしくなりそうだ!悠理!」

欲望の先走りが二人の間で潤滑油となり、ぐりりと押し付けた肉茎が何の予兆もなく白濁を飛ばす。
腹を汚し、そこから滴り落ちる淫靡な様子に、瞼の裏が非常灯の様に点滅する。

清四郎は息を吐いた。
深く、長く。
それは少しの恥じらいと多くの後悔。

我慢出来なかったのだ。
彼女の中に埋めたいと思うその前に、悠理を自分の体液で汚したかった。
こんなにも美しく清楚な身体を、雄の本能が泥塗れにしたいと暴走する。
それは清四郎にとって初めての感覚だった。

「済まない………今、拭きます。」

ベッドサイドから箱を手に取り、多くのティッシュペーパーでそれを拭う。
自分でも驚くほどの迸り。
小刻みに震える悠理が痛々しい。

全てを取り去った後、彼は再び悠理に覆い被さった。
もう一度キスから、そして愛撫から始める。
悠理は呆然としながらもそれを受け入れていたが、先程の感覚が忘れられず、腰をもどかしげに揺らした。

「せぇ……しろ………さっきの、する?」

たった一回のそれがクセになったのだろう。
上目遣いをする悠理に清四郎は笑って見せる。

「もっと気持ち良くしてあげますよ。」

浅き胸の谷間から臍を辿り、彼の蠢く滑らかな舌が秘められた場所に到達すると、大きく広げられた脚の奥からは薄紅色をした秘唇がその幼い姿を現した。
花と見紛うほどの美しさ。
狂い始める僅かな理性。

清四郎は躊躇うことなく、滴る蜜を啜り始めた。

ピチャピチャ……

ズズ…………

それは明らかに目を疑う光景だったが、ろくな抵抗も出来ない悠理は与えられる快楽に呆気なく溺れた。
繰り返し耳を突き抜ける淫靡な音。
そして何も考えられないほどの気持ち良さが、初めてであるはずの彼女を乱れさせる。

「あ……あ、せいしろ…………そんなしつこくしないで……」

「おまえが求めてきたんですよ。ほら、クリトリスがこんなにも膨らんで僕の舌を欲しがってる。」

チュパ……と外された唇からは意地の悪い言葉が吐き出され、悠理は真っ赤な顔で首を振った。

「そ、そこまでしろって言ってない!」

「いいえ、むしろこれからが本番です。」

再び唇で摘まみ上げた花芽を、清四郎はやや強めに吸い込む。

「ひゃああ………………!!!や、やめて……!!」

一瞬で瞼の裏に光が飛び散る。
悠理の身体ががくがくと震え出し、経験したことの無い切ない苦しみに涙した。

しかし清四郎は続けざまに啜り始める。
舌を使い、舐め回しながら、強弱を付けて、彼女の敏感な尖りを責め立てる。

「も、も……やぁ…………ああ、おかしい、あたいおかしくなる…………!!!」

絶頂を覚えた悠理はだらしなく手足を広げる。
ピクピクと痙攣する身体をコントロール出来ないまま、赤く染まった目を潤ませていた。

しかし初心者には苦痛に感じるであろう激しいクンニを、男は止めることなく続ける。
力が抜けた手足はまるで人形の様に扱いやすい。
清四郎は男の本能を剥き出しにしたまま、密かにほくそ笑んだ。

「悠理…美味しいですよ。すごくいい味だ。香りも甘くて…………ああ、もっと味あわせてください。」

ジュルジュルと啜る音があまりにも大きくて、それでもそれこそが強く求められる証だと知れば、悠理の心が俄かに温かくなる。
ぞくぞくと這い上がる快感に、もう抗うことなど出来ない。

このまま快楽の海へどこまでも深く堕ちていきたい。
そう願うのはおかしなことだろうか?

悠理の身体は快感に貪欲で、それを与える男は自らが求め続けた清四郎だ。
高潔で、どこか冷淡で、でも誰よりも自分を楽しませてくれる唯一の男。
どれだけ意地を張っても敵わない、世界最強の男なのだ。

「せぇしろ……も、だめぇ~………………!!」

二度目の絶頂は一度目よりも早く訪れた。
そして休む間もなく、三度目のそれへと導かれる。
清四郎の長く厚い舌が悠理の花弁をこじ開け、中へ中へと押し込まれていく。
激しさを増す攻めからどれだけ必死で逃れようとしても、長い二本の腕がそれを簡単に防いでしまう。

「やめ……も!………ああっ………あ…………!!」

真っ白な世界が目の前に広がっていく中、大きく背中を反らせた悠理はとうとう意識を手放してしまった。




夢ではない。

清四郎は気絶した悠理を抱き締め、再び精を迸らせていた。
彼女の細い太腿に流れ落ちる欲望。
それはあまりにも淫靡な光景で、拭うことを思わず躊躇ってしまう。

もちろん繋がりたいという気持ちは大きい。
しかし、こうして彼女の肌を堪能しながら全ての感覚を鋭くさせていくことも、彼にとっては大切なプロセスなのだ。

「まだまだ先は長いんですよ、悠理。」

目を閉じたままの彼女は、今何を夢見ているのだろう。
そしてその瞼を開いた時、一体どんな表情を見せてくれるのだろう。

屈強な腕に閉じ込められた少女は、未だ無垢な乙女である。
その花を咲かせることが出来る悦びに、清四郎の胸は静かに、熱く、燃え始めていた。